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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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半分の仮面を持つ彼は

「ラッキーだったね。これで連中の心配はなしかな?」


「まさか兄貴の部隊がここに派遣されてたとはね・・・これで師匠のところに誰かを向かわせるっていうのもかなり濃厚になってきたけど・・・」


「少なくともあの布陣ならある程度の状況は切り抜けられるでしょ。私たちは私たちで切り抜けることを考えなきゃ」


「でもそれだとおかしいのよ。支部長は兄貴たちの部隊がいる状態で戦闘を想定してたのよ?どれだけの部隊が相手になるか・・・」


「支部長が部隊の出撃先を知らなかったとしたら?それなら別におかしなことではないと思うけど・・・」


「そもそも、私と兄貴は同じ場所に行かせないほうがいいと思うのよ。それをわざわざやらせたっていうのは・・・少し筋が通らないというか・・・なんかおかしいというか・・・」


神加の考えが間違っているとは詩織も思わなかった。だが神加が心配しすぎているように感じるのもまた事実だった。


少なくとも現状、味方のふりをした敵を振り払うことができたのだから、その点は良い方向に話が転がっていると思いたかった。


「っていうかしまった・・・トールさんにもうちょっと依頼について聞けばよかったかもね。さすがにあれだけじゃ情報足りな過ぎるでしょ」


「そのあたりは大丈夫だと思うわよ?この先・・・目的地の少し手前に知ってる人がまだいるし」


「索敵?」


「ううん、気配。あの人の気配はわかりやすいから」


そう言って神加と詩織が先に進み続けていると、数分してその姿が見えてきていた。


そこには二人ほど、地面に倒れ伏している人物がいる。そしてそのすぐ近く、地面から顔を出している岩に腰かけている一人の人物が神加たちの目に映った。


半分だけの仮面が、彼が魔術師ではないことを証明している。そしてその仮面と、半分だけ覗くその顔を神加は知っていた。


精霊術師。トゥトゥエル・バーツ。神加の兄弟子である康太の友人にして相棒である精霊術師だ。


その戦闘能力は高く、一端の魔術師などでは相手にもならないほどである。


「お久しぶりですトゥトゥさん。今大丈夫ですか?」


「シノ・・・それにアトリか。よく来たな。あいにく歓迎はできないぞ?」


そう言いながらトゥトゥと呼ばれた精霊術師は近くに転がっている二人の魔術師を引きずって、この辺りに二人がいることが出来る程度の空間を作り出していた。


「その二人は?」


「部隊の索敵網を掻い潜って接近してきたやつらだ。安心しろ、うちの馬鹿どもには索敵の精度を上げるように言っておいた」


その二人は神加と詩織についてきていた二人だった。どうやら目的地に先回りしようとしていたのだろう。あいにくとトゥトゥに倒されてしまったようだが。


おそらく戦闘をしたのだろうが、周囲には戦闘痕らしきものは一切ない。トゥトゥの体にも汚れらしい汚れは全くついていなかった。


戦闘にもならずに一蹴したというところだろうか。康太の右腕のポジションを十年以上維持し続けている実績は伊達ではない。


「で、お前たち何しに来たんだ?トールからの報告じゃ要領を得なかったんだが」


「はい、実は私たち支部長から依頼を受けていまして・・・これを所定の場所に届けるようにと」


「・・・封筒みたいだな・・・中身は見てもいいのか?」


「いいえ、中身は見るなと言われています」


「届けるということは・・・受取人がいるということか?」


「資料にはそのようなことは書いていませんでした。所定の場所に所定の時間に届けるようにとしか・・・」


「なんだそりゃ。随分と情報が欠如しているように思えるぞ」


「はい、与えられた情報はこれだけで・・・」


「・・・支部長の依頼にしてはずいぶんと不親切だな・・・いやまて・・・?」


現段階で知っている情報の断片を聞いたところでトゥトゥは口元に手を当てて何やら考えだす。


一体何を考えているのかは神加たちには分らない。だがそれがあまり良いことではないということは神加も詩織も感じ取れていた。


「質問するぞ。お前たちはこの依頼をいつ受けた?」


「三日前です」


「依頼を受けたのは支部長からだな。その時の支部長の様子はどうだった?」


「いつもとは違う様子でした。少なくとも普通の対応やセリフではなかったです。『命令』されて私たちはこの依頼を受けました」


命令という言葉にトゥトゥは眉を顰める。支部長の人柄を神加たち以上に知っている彼からすれば、その単語は違和感しか残らないものだった。


「次に、お前たちが頼まれたのはその封筒を所定の時間と場所に届けること。所定の場所は・・・この先だな?」


「地図上はそうなっています・・・この辺りですね」


そう言って神加はトゥトゥに資料を見せる。その場所を見てトゥトゥは眉間にしわを寄せ、わずかに舌打ちする。


「最後だ。この依頼は、お前たちだけが受けたものか?」


「・・・いいえ。そこに転がっている二人と、あと四人がいました。支部長の言葉から察するに私たちの味方ではないという判断をしています」


神加の回答を聞いて、トゥトゥは大きくため息をつく。何かあきらめたような様子で、非常に不機嫌なようだった。神加は鳥肌が立つのを感じながら、トゥトゥがいったい何を考えているのか探ろうとしていた。


「あの・・・どうしたんですか?」


明らかに怒っているような様子のトゥトゥに、神加は恐る恐る話しかける。彼が怒っているところを見たことがないわけではない。だが目の前にいる彼はそれ以上に、過去のそれ以上に怒っているように見えた


「今回の依頼、おかしいと思わなかったか?」


「思いました。明らかに支部長がなんか圧力かけられているような気がしたので、あたしたちをおびき出すのが目的で、師匠たちを攻撃するのが目的かと思ったんですけど・・・」


「そのためにいろんな人に声かけてクラリスさんの店の防備は固めてあります。ジョアさんや土御門の双子のお二人にお願いしてるので」


「・・・あー・・・うん、そっちか。なるほど、そっちの可能性も確かにないわけではないか・・・うん。それはよく考えて行動したな」


どうやらトゥトゥは神加たちが思いついたそれとは別の可能性を考えていたようだった。


だが神加たちの想定も間違っているとはいいがたいために神加たちが先のことを考え行動していたことを素直に評価してくれていた。


「あの・・・トゥトゥさんは今の状況を見てどういう危険があると思うんですか?そいつらが私たちの監視か・・・あるいは敵であると私たちは思ってたんですけど」


「その点に関しては間違っていない。だが、たぶんだが、目的が違う・・・いや・・・そうか・・・だからこそか・・・」


トゥトゥは何かを考えだし、小さくうなずくと軽く準備運動を始めていた。


それがいったい何を意味しているのか、神加と詩織は理解している。だからこそ周囲の警戒を始めていた。


「敵ですか?」


「索敵には何も引っかかってないですけど・・・」


二人は周囲を索敵するが、それらしき魔術師の存在は確認できない。トゥトゥが戦闘を行おうとしているという所作を素早く感じ取った二人のとっさの判断力を、トゥトゥは見事であると感じたが、今のこの状況に関してはあまり良い事とは言えなかった。


「シノ、アトリ、お前たちはこのまま帰れ」


「え・・・?でも依頼をこなさないと支部長が・・・」


「いつものビーのわがままってことにしておけば角は立たないだろ。お前たちは引き返せ」


「そういうわけにはいきませんよ。私たちが戦闘不能になったっていうならともかく、ただで帰ったら支部長が何をされるか・・・」


本部、ないしほかの何かから圧力をかけられている以上、どうしようもなかったという大義名分が必要になる。


神加たちがやられることが前提であるために、その可能性は限りなく低いが、トゥトゥがこれほどまでに警戒する相手となるとそれも危ういと神加たちは考えていた。


「・・・そうか・・・それもそうだな・・・なら、仕方ないな」


唐突に放たれたトゥトゥからの殺気に、神加と詩織は即座に反応した。緊急回避とでもいえるほどに強引な加速と回避を行った瞬間、先ほどまで二人がいた場所に大量の水が襲い掛かっていた。


「トゥトゥさん!?何を!?」


「どうしたんですか!?」


自分たちがトゥトゥに攻撃されたということを理解できても納得できなかった二人はトゥトゥに問いかける。


ほぼ完全に不意を打ったと思ったのに躱されたという事実に、トゥトゥは少しがっかりしているようだったが、それでも仕方がないとも思っているようだった。


「さすがにお前たち相手に不意打ちは無理か・・・仕方がないな・・・お前たちをここから先に進ませるわけにはいかない。悪いが、ここでやられてもらうぞ」


周囲に大量の水を顕現し、ここから先は通さないというのを物理的に示すトゥトゥに、二人は唖然としてしまっていた。


「なんで!そんな!」


「もう喋るな。お前たちは何も知らなくていい」

問いさえも遮って、トゥトゥは二人めがけて大量の水を襲い掛からせる。その速度は並ではない。神加と詩織が全力で回避行動をとっても避けきれるかどうかはわからない。


トゥトゥは精霊術師だ。一つの属性の術しか使うことはできない。彼の場合は水の属性だ。


攻撃力がそこまで高くなく、防御性能もそこまで高くないその属性で、彼が協会内で康太の右腕としてあり続けているということが一体どういうことなのか、神加にだってわかっていた。


いや、神加だからこそ分かっていた。


「トゥトゥさん!やめてください!あなたと戦いたくない!」


「俺もだよシノ。けどな、だからこそお前らを進ませるわけにはいかないんだ」


神加は即座に炎を発現させ、襲い掛かろうとする水に放ち蒸発させていく。周囲に水蒸気が満ちていくが、トゥトゥはそれさえも操って神加たちの行動範囲を狭めていた。


炎ではトゥトゥの攻撃や優位性を崩すことはできないと判断した神加は水属性の魔術を発動する。


水のある場所で有利に行動できるという相手の優位性を少しでも削ぐべく、水を少しでも自分の支配下に置こうとしているのだ。


神加は多くの属性魔術を扱うことができる。当然水属性もその例外ではない。だが、神加ではトゥトゥに水属性では勝てない理由がある。


「違うぞシノ、そうじゃない。教えたはずだ。水を操るときは流れを作れ、流れを理解して、掴んで、自分のものにしろと」


神加はたくさんの術式を使える。その中で、神加に水属性の扱い方を教えたのは他でもない、トゥトゥだった。


つまり、トゥトゥは神加の水属性の師匠なのである。


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