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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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事情はさらに

「支部長からか、ブッキングしたか・・・?こっちは本部からの依頼でここにいるんだ。ちょっと待ってろ、班長呼んでやるから」


本部の依頼と班長という言葉に神加は反応した。


現段階でこの場所に本部の依頼を受けた者がいるとなると少々面倒な状況になっているかもしれない。


さらに言えば班長というような存在がいるということは間違いなく組織的な魔術師たちが集まっていることになる。


班長と呼ばれるような存在がやってきた場合、ここから立ち去ることも難しくなる可能性がある。

そうなった場合とるべきなのは早々にこの場から立ち去ること、あるいは早々に強行突破することだ。


「どうするシノ?突破する?」


詩織も神加と同様のことを考えたのだろう。神加にしか聞こえないような小さな声で話しかける。だが神加は首を横に振る。


「ダメ、あの魔術師に見つかった時点で、他の魔術師にもおそらく気付かれてる。ここで強行突破しようとすれば確実に包囲される」


「でもこのまま待ってても包囲されるだけじゃない?」


「中途半端に突破すれば警戒されながら包囲されるかもね。けど完全に包囲された後なら・・・」


そう言いながら神加は手を強く握ってから勢いよく開く。そしてその意味を理解したのか、詩織は小さくうなずいて神加のやや後ろに待機した。


完全に包囲され、周りに敵だけという状況を作ってしまえば、あとは本気で暴れれば相手を吹き飛ばせる。


その混乱に乗じて詩織を突破させる。暴れている方に意識が向けば、詩織に対する注意が薄くなるのではと考えたのである。


とはいえ、この状況でそれができるかは怪しい。目の前にいる魔術師だってそれなりに経験を積んでいることが神加には分った。


この人物がただの下っ端だとすると、その上の魔術師はそれ以上の実力者たちである可能性が非常に高い。


戦うにしても逃げるにしても、決断は早いほうがよさそうだと、神加は覚悟を決め始めていた。


「待たせたな。今班長が来てくれる・・・っと、やっぱ早いなあの人。来たぞ、あの人が班長だ」


空中を高速で移動してくる一人の魔術師を見て、神加は眉を顰める。どこかで見たことがあったからだ。


大きな体に見たことのある仮面。それが神加の知り合いであるということに気付くのに時間はかからなかった。


「どうした、侵入者か・・・?ん・・・?お前は・・・シノか?」


「やっぱり、トールさん」


そこにいたのは神加の知り合いの魔術師だった。術師名はトール・オール。康太の部隊に所属している魔術師の一人だ。


彼の場合、康太が高校生の頃からの付き合いであるために神加とも何度か面識があった。


「ってことはそっちのはアトリか。お前らなんでこんなところにいるんだ?」


「それはこっちのセリフで・・・」


そこまで行ったところで、神加は思い当たることがいくつかある。康太の部隊は数日前から確か任務に出ていたはず。それがこの場所なのではないかと。


そしてまさか康太たちの部隊まで導入しているとは思わなかったため、今までの前提条件がそもそも間違っていたのではないかとさえ思ってしまっていた。


「アトリ、どう思う?」


「・・・シノとビーさんをこの場所にくぎ付けにすることでクラリスさんたちを攻撃するっていうなら・・・まぁこの状況でも間違いないけど・・・ここに私たちを集結させるのは危険だよね?私なら別々のところに配置する」


「だよね・・・ってことは・・・ここに私たちを置くことが目的だったとすると・・・実はこれってかなりやばいものなのかな・・・?」


そう言いながら神加は自分がもっている封筒に目をやる。


ただの茶封筒と、中に入っている紙がいったい何を意味しているのかまでは分からないが、康太の部隊は間違いなく目的地の防衛を行っているとみて間違いない。


そしてこの封筒を神加たちに届けさせた。それがどのような意味を持っているのか、神加たちも正直測りかねているが、少なくとも今まで考えていた自分たちの考えがどこかずれていたのではないかと考えるには十分すぎる状況の変化だった。


「支部長に脅しをかけてまで届けさせるものって一体・・・しかもそれなら本部が直接命令を出せばいいのに、なんで支部長経由で?」


「そもそも、依頼をこなさせるのならあたしたちじゃなくてよかったんじゃないの?だんだん混乱してきたわ・・・」


神加と詩織が考え込んでいる中、トールはどこかに連絡し、ここにきているのが神加と詩織であるということを報告しているようだった。


少なくとも外敵ではないということを知らしめることができただけ十分というところだろう。


だが情報はまだ足りない。この場で、あるいはもっと奥に進んで情報を手に入れなければいけないのだ。


「とりあえず、お前ら何しに来たんだ?支部長の依頼できてるって聞いたぞ」


「えっと・・・私たちも今情報がなくて。とりあえず届け物なんです。ここから先の・・・地図で言うとこの辺りに」


「・・・あー・・・この辺りは俺らが守ってるところと同じだな」


「兄貴もそこに?」


「あぁ、うちの隊長は最終防衛ラインだ。この場所で誰も来ないようにしてる」


「ひょっとしてこれ・・・兄貴への届け物なのかな・・・?」


神加が預けられたものをトールは確認しようとするが、さすがに自分がそのようなことをしたら康太に何をされるかわからないなと手を止める。


「とりあえず奥に進んで、隊長に会ったらどうだ?副隊長も近くに居るから、なんかあったら力になってくれるかもしれないぞ?」


「行ってもいいんですか?この辺りを守ってるんじゃ・・・」


「まぁ誰も通すなって言われてるけどな・・・お前らなら大丈夫だろ。他に仲間は?」


他に仲間がいるか否か。その答えは決まっている。


「いいえ。他に仲間はいません。私たちの後をつけてきたやつが六人ほどいますが・・・」


「六人ね、わかった。そいつらは追い返しておこう。ベスタ!全員に伝えろ!周辺に最低でも六人、外部からの侵入者が来る可能性が高い!絶対に通すな!」


「了解です!」


先ほど対応した魔術師はベスタというらしい。トールの言葉に姿勢正しい敬礼をしてから周囲に連絡を取り始めていた。


「いやぁ、身内にこういうところの指揮官がいるのは助かるね。使える人材が一気に増えたよ」


「兄貴は指揮官って感じしないけどね・・・指揮するってタイプじゃないでしょ。そうですよね?」


「まぁな・・・あの人はとりあえず面倒なことは全部ぶん投げて、勝手に暴れてくるって感じだし・・・でもそれだけでもかなり戦果を挙げてくるから何とも言い難いんだよなぁ・・・まだベルさんがいた時はうまく回ってたんだけど」


「今はあんまりうまく回っていないんですか?」


「回ってないことはない。けど二人がかりのストッパーが一人になっちゃったからな。そういう意味では負担が大きい」


ストッパーが誰のことを指すのか神加と詩織は何となくわかってしまっていた。文が妊娠により前線を退いてから、康太を止められるだけの実力を持っているのは部隊の中では一人しかいないのだろう。


単純に負担は倍増し、責任はさらに増したことになる。


「トールさんはどうなんですか?兄貴のストッパーにはなれないんですか?」


「無理無理、あの人は俺なんかじゃ止められない。あの人を止めようと思ったら最低でも俺があと三人は必要だな」


四人がかりではないと止められないというのもなかなか恐ろしい話だが、それでも四人いれば康太を止められると考えているあたり、トールの実力の高さがうかがえる。


通常の魔術師が四人集まったところで康太は止められない。伊達に部隊の班長を務めているわけではなさそうだった。


「今回皆さんはどれくらい動員されてるんですか?」


「今のところ五班編成で動いてる。各所に配置してるからわかりにくいかもだけどな」


康太の部隊の編制人数としては割と多いほうだといえるだろう。康太の部隊は全部で十班分の戦闘要員がいる。


一班おおよそ四人から六人の編成だ。


つまりこの地域に二十から三十人の魔術師がいることになる。しかもそれらが組織的に行動しているのだ。


全面戦闘を仕掛ければ間違いなく負ける。


単純な烏合の衆であれば神加も負けるつもりはないが、各班それぞれが連携し、高い戦闘能力と組織としての力を前面に押し出してくるのだ。


はっきり言ってそのあたりにいる魔術師では勝ち目がない。


「一応私たちの後をついてきた魔術師は本部から回された可能性が高いんです。二人はアトリの速度にぎりぎりまでついてきていました」


「なるほど・・・それなりの実力者か。了解、警戒しよう。叩きのめしていいんだろ?」


「構いませんが、一応生かしておいてください。支部長と本部の間に余計な溝を作るのは避けたいので」


「あの人いっつも面倒ごと引き入れてるよな・・・そろそろはげるんじゃないのか?」


「それは否定できませんが・・・ちょっと痩せてきてますよね」


「確かに。なんか昔見た時よりも体の線が細くなってるんですよね」


支部長の体調を心配しながらも、神加たちは康太のいるであろう方向に意識を向けていた。


「一応聞いておくけどよ、届け物ってのは何なんだ?」


「これです。中身は私も知りません。調べることもするなと支部長から言われてます」


「封筒・・・?ただの封筒だな・・・中には・・・紙が一枚。ん・・・」


トールは何やら考えるが、今この状態で考えても仕方がないだろうと判断し、とりあえず思考をよそに追いやっているようだった。


「とにかく隊長のところに行くなら早めに行け。追ってきてる連中は俺らが蹴散らしておいてやるから」


「ありがとうございます。頼りになりますね!」


「ありがとうございます。格好いいですね!」


「褒めても何も出ないぞ。ほれ、さっさと行け」


女子高生に褒められて、さっさと行くように促す中で、トールのやる気はわずかに上がっていた。


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