精霊たちの声
「三・・・二・・・一・・・着地」
神加のカウントダウンとともに、二人は目的地から一キロほど離れた場所に着地していた。
「いったん魔力を抜くわ。探し出されるのも厄介だし」
「了解。どれくらい離してた?」
「索敵外から離れて二分あるかないかってところ。時間的にあと三十秒程度で到着すると思う。最短でもね」
神加と詩織は自らの体内にある魔力をすべて抜き、一般人と変わらない状態へと変化させる。
素質的に優れている者であれば問題なくこういった隠密行動をとることができるのは有利だ。
少なくともこの状態であれば魔術師に見つかる可能性は限りなく低くなる。
周りは月の光以外は何もない。遮蔽物こそ少ないものの、広大な範囲を探そうと思ったら索敵の魔術を発動しなければいけない。魔術師の証明でもある魔力がなければ、魔術師からの索敵からは見つかりにくくなるだろう。
「位置的に目的地は?」
「あっちね。相手が探している間に接近するか・・・あるいはいると思われる敵に先に接触させて囮にするか・・・」
「向こうからすれば目的地がわかってるからそっちで待てばいいんだもんね。敵がいるなら・・・間違いなく接触すると思うけど・・・」
「問題はその敵が、あの人たちと裏でつながっていた場合。敵が敵として接触しないで雑談とか始めるかもしれないわよ?」
「それはそれで好都合じゃない?雑談してるところに遭遇すれば『あれー?その人たちお友達なんですかー?』みたいな感じで戦闘を省けるかもよ?」
「そんなにうまく行くかな・・・?まぁいいわ。とりあえず・・っ!」
神加は気配を感じ取ったのか、直上を向く。目的地の方角へと移動している存在を確認したのだ。どうやら追いついてきたらしい。
「通った?」
「うん、索敵がないから全員かどうかはわからないけど、今通ってたわね。もう少し様子を見る?」
「んー・・・いっそのことこのまま目的地に行っちゃう?相手がいる方向と逆方向から進めばぶつかるのも遅くなりそうじゃない?」
「確かに・・・ちょっと待ってね、今ちょっと現場の状態確認するから・・・みんな、力を貸して」
そう言って神加はゆっくりと手を広げて周囲の精霊たちを呼び出し始める。
詩織の目には見えないが、周辺の精霊たちが一斉に集まってくる。
高い密度で精霊たちが集まっているせいか、さすがの詩織も何かを感じ取ったのか落ち着かない様子だった。
「みんな、ここから少し行ったところ、あの山のふもと辺り、今魔術師たちはいるかしら?魔力を持った人たちなんだけど」
精霊たちは普段この辺りに住んでいる。平時と違うことがあれば気付くはずだ。
精霊たちの知能はそこまで高くはないとはいえ、現状魔力を持った人間がどれほどいるのかを知ることができればかなり役には立つだろう。
『いる、いるよ』
『たくさん、たくさんいるよ』
『ばらばらになって、うろうろしてるよ』
『のんびりしてたりもするよ』
『いっぱいいるよ』
精霊たちの言葉に神加は目を細める。精霊たちは具体的に何人だとか教えてくれることはない。
だが各方々にいると思われる精霊たちがそれぞれたくさんいるという表現を使っているということから、かなりの人数がいると考えていいだろう。
それらすべてが自分たちの敵なのかどうかは不明だが、少なくとも簡単に切り抜けられるというわけでもなさそうだった。
「ありがとう。もしかしたらまた力を借りるかもしれないわ。その時はお願いね」
『まかせて』
『がんばる、がんばるよ』
『いつでも、よんでね』
精霊たちがいなくなるのを確認してから神加は大きく息をつく。
「相変わらず精霊と話ができるってすごいよね。索敵要らずだ」
「そうでもないわよ。精霊たちはそこまで賢くないから、具体的なことはわからないもの。ただ、現地にはたくさんの魔術師がいるって教えてくれたわ。もしそれが敵なら・・・戦闘は避けられないうえに、かなり大変なことになるかも」
「たくさん・・・具体的な数は・・・」
「言ったでしょ?具体的なことはわからないって。でも、いろんなところにいるはずの精霊たちが全員『たくさん』とか『いっぱい』とかの言葉を使ってたから、かなり数は多いと思うわ」
「うへぇ・・・まじかぁ・・・まじですかぁ・・・・気づかれるよりも早くズビャっと飛んで突貫して即行逃げるとかじゃダメかなぁ・・・?」
「低空飛行で万が一相手から阻害を受けたら一瞬でミンチになるわね」
「ですよねー」
超高速で移動して届け物をして即座に離脱という案は悪くはないのだが、高速移動をしている際に相手から進行方向を少しでも変えられてしまえば障害物に激突する可能性も非常に高い。
リスクが大きすぎる選択は神加としても、詩織としてもしたくはなかった。




