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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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本気の姿は

晴の子供の話もそこそこに、神加たちは本題に入ることにしていた。


「じゃあ二人はこれから現場に向かうんだね?」


「えぇ、支部長のところで軽く話をして、それからなので・・・まぁあと一時間後くらいが依頼のスタートなのではないかと思います」


神加たちが移動をスタートしてからが問題になるのか、あるいは神加たちが戦闘を開始してからがスタートになるのかはわからないが、どこかのタイミングで何かが起きるのは間違いない。


あくまで神加たちの想定の話であって、今回の依頼主である何者かがどのような考えを持っているのかは不明ではあるが。


「話を聞く限り怪しいのは確かに本部だな。何を企んでるのかは知らないけど・・・」


「文先輩は検査入院中だし・・・康太先輩は?」


「今は仕事だそうです。一昨日辺りから依頼で出ていまして・・・」


「完全にかぶせてきてるな。真理さんがいてくれたのは不幸中の幸いか」


「私は影が薄いですからね」


影が薄いという言葉に土御門の二人は何を言っているんだこの人はという顔をしているが、真理はまったく気にした様子がなかった。


晴も明も真理が戦闘しているところを見たことがあるため、真理がどういう存在かは理解できている。


そんな彼女が影が薄いなどといえるはずがないのだ。むしろ濃すぎて認識できていないレベルなのである。


「まぁとにかく、ここの防衛は任せてくれ。小百合さんは絶対守って・・・まぁ守らなくても大丈夫だろうけど」


「師匠よりもこの店の方を守ってほしいんです。師匠は何とかなるでしょうけど、店に火とかを放たれたらさすがに・・・」


「確かに。お店の中だけじゃなくて地下まで調べられかねないもんね。わかった、何とかしてみるよ」


「お前らもう少し私を守ろうとしてくれてもいいんだが?私だってもういい歳なんだぞ?」


複雑な表情をしている小百合を全員が一瞬だけ見て苦笑する。


何を言っているんですかという表情を全員がしたところで、小百合は不貞腐れて煎餅をかみ砕いた。


「そういえばアリスさんは?あの人はいないのか?」


「アリスは今も兄貴についていってる。一人で勝手な行動をとらないように監視するんだって」


「へぇ・・・あと戦力になる人っていうと・・・じゃあ倉敷さんも?」


「兄貴と一緒。っていうかあの人は兄貴の部隊のナンバーツーだし。勝手に抜けたりはできないと思う」


「部隊ごと依頼で出てるってことか・・・なおのこと本部が何を考えてるのかわからないな・・・っていうか日本支部の支部長が良くそれを許可したな。絶対なんかあるってわかってるだろうに」


「圧力をかけられては仕方ありませんよ。支部長が支部長でなくなってしまったら日本支部はかなりまずいことになります。それは避けねばなりません」


今の支部があるのは今の支部長がいてこそ。そんなことはほとんどの魔術師が理解していることだ。


だからこそそれを盾にすれば多くの者が言うことを聞くかもしれない。特に日本支部に関してはその傾向が強い。


「康太先輩はそのこと知ってるのか?こういう面倒なことになってるってこと」


「・・・」


「それが、神加のやつが話したくないって・・・ぼんやりとしか伝えてないんですよね」


「晴、そのあたりはこの辺で。とにかく、康太先輩がいないんじゃこの場の人間で何とかするしかないわ。あとは神加ちゃんと詩織ちゃんが無事に戻ってくればいいだけよ」


明の言葉に神加と詩織は大きくうなずく。


いくらこの場所の防備を固めようと、最終的に自分たちが依頼を完遂することができなければ意味がないのだ。


封筒一つを届けるだけの依頼だ。この依頼が破棄された時どうなるか、わかったものではない。


「でも師匠曰く、私たちに手の余る敵がいそうな気配がしてるっぽいんですよね・・・」


「それ本当ですか?」


「あくまで勘だがな。こいつらでは多分勝てない」


神加と詩織の戦闘能力は晴と明も知っている。そんな二人でも勝てない魔術師となると想像できなかった。


敵は組織ぐるみかもしれないということを考えると、なおのこと神加たちをこのままいかせるのは愚策ではないかと思ってしまう。


「なら神加さん、ここは支部長に会いに行ったあとで少し条件を追加してはどうでしょう?」


「追加?」


「えぇ。逃げたり、依頼にやる気がないのならともかく、依頼に全力で取り組んだのであれば、ペナルティをなしにしてもらうとか」


「それは・・・通るんですかね?」


「支部長の命令で受けさせられた依頼です。多少の無理を言わなければ損をするだけですよ?裏での手回しは私も手を貸しますから」


本来、依頼を受けたのであれば完遂しなければ何らかの罰や悪評価をつけられることがあるが、真理は今回の依頼を受けさせられた背景を利用してそのあたりをうやむやにしようとしているらしい。


昔からそうやって自分の評価を操作してきたのではないかと、神加は少し苦笑してしまっていた。















完全装備の神加と詩織は日本支部を訪れていた。


神加の鎧姿に、一瞬多くの魔術師が目を見開くが、それが神加であるということに気付いてからは徐々に安堵の息を吐くものが増えている。


無理もないだろう、ほんの数年前まで神加の兄弟子である康太が似たような姿で支部内を闊歩していたのだ。


デブリス・クラリスの正統後継者と呼ばれ、最悪の再来とまで言われる理不尽の象徴。そんな人物が現れれば緊張の色を強くしてしまうのも仕方がないというものだ。


ましてや神加の鎧は康太の鎧と同じウィルがかたどっている。細部こそ違えど、色も形もほとんどが似通っており、一瞬見間違えてしまうのも仕方のない話である。


神加がこの格好をしているのは戦闘を行うときのみ。そしてまだ神加はそこまで高い評価も、恐ろしい噂も存在していないためにまじめに依頼をこなす魔術師程度にしか見られていない。


そういう意味で安堵の息を吐かれるというのはまだよい傾向だと思いたかった。


「その格好をするとさすがにいつも以上に目立つね」


「仕方がないわ。前例を作ったバカ兄貴が悪い噂ばっかり作るんだもの。もうちょっと自重してほしかったけど・・・」


「たぶんそれは十年近く遅いよね。仕方ないよ、あの人は自重とかそういうことは無視するから」


「だから支部長から頭を抱えられるのよ・・・兄貴は師匠と違って事情とか全部分かった上で面倒な方向にもっていくんだから・・・それでも事情とか全部無視してやる師匠よりはましだけど」


「五十歩百歩だよねぇ・・・まぁ気持ちはわからないでもないけどね」


詩織も神加たちほどではないにせよ戦いの術を知っているし、戦うことによって多くの手間を省略できることを知っている。


そのため、比較的康太や小百合の考えは理解できていた。もちろん神加も同じだ。いや詩織以上によく理解している。


戦いや破壊によって本来やらなければいけないことを省略できるということを。そしてその省略した事柄と、後始末の面倒さの天秤がどちらに傾くのかも。


そういう意味では小百合は後先も何も考えないために支部長は頭を抱え、康太は後先を考えたうえで絶妙なポイントとバランスで面倒を収束させるため支部長は別の意味で頭を抱えるのだ。


だが二人も悪い意味で優秀であるために、いざという時に非常に頼りになるのも事実。康太に至っては支部長の常用の切札になりつつある。何かがあれば康太の方に話がいき、比較的頻繁に康太たちの部隊は出動しているのだ。


「にしたってやりすぎなのよ。この鎧を始めて着たとき支部の人間にすごい驚かれたんだから。まぁ、デザインを変えなかった私も悪いと思うけどさ」


「・・・もう変えてもいいんじゃない?別にそのデザインにこだわってるわけでもないんでしょ?」


「それは・・・」


神加は自分が身に着けている鎧のデザインを変えるか否かというところで迷っているようだった。


本来であれば自分専用の鎧のデザインにしたいと思ってもいいはずなのだが、神加は康太の鎧とほとんど同じデザインのものを使い続けていた。


その理由を詩織は何となく察していたが、それ以上追及することはしなかった。不器用な部分は自分で何とか解消するしかないのだと、詩織なりに気を使っているのである。


「まぁ何でもいいよ。今の状態でも十分強いし・・・っていうか今のシノに勝てる人ってそうそういないよ。保証する」


これから誰かと戦うからこそこういうことを言っているのだろう。複雑な気分がなくなっていき、神加はゆっくりと深呼吸をしていた。


「勝つよ、誰が相手でも。絶対」


この鎧を着ている以上、自分に敗北は許されない。神加は自分自身にそう言い聞かせるようにつぶやく。その声を聞いて詩織は神加の背を軽く叩く。


支部長室にやってきたとき、神加と詩織は中に何人もの人がいることに気付く。


「五人くらい?」


「七人じゃない?さすがに索敵使わないと気配はわかりにくいわ」


支部長室に入る前にノックをすると、そこには支部長を除き六人の人間がいた。どちらも外れてしまったかと内心落胆する中、支部長は神加と詩織が来たのを確認して大きくため息をついた。


「やぁ二人とも。準備は万端のようだね」


「えぇ、戦闘の準備だけはしっかりしてきました。そういうお話でしたから」


「誰が来てもやっつけますよ。それで・・・そちらの人たちが・・・」


「あぁ、今日君たちに・・・同行してもらう魔術師だよ」


協力とあえて言わなかったのは支部長なりの最後の警告だろう。この魔術師たちは決して味方ではないのだと印象付けているのか、それとも何か別の意図があるのか。


どちらにせよ、この魔術師たちは絶対に信用してはいけないのだと理解する。


「初めまして。俺はスロウ・キハム。今回の依頼に協力させてもらうよ。後ろのはチームメイトだ」


並んでいる仲間たちを見ながら、スロウと名乗った魔術師はおそらく仮面の下で笑みを浮かべながら手を差し伸べてくる。


ここで握手をしないのはさすがに失礼に当たるだろうかと神加が考え手を差し出そうとすると、そこに割って入るように詩織がその手を強く握って勢いよく上下に振り始める。


「初めましてよろしくお願いしますご一緒できて光栄です!」


知っている人物に対する反応ではない。これは相手に主導権を握らせないように全力で前に出たというような印象だった。


そして自分に接触させないようにしているのだと神加は悟る。この魔術師たちの目的は、おそらく自分にあるのだと、神加は直感的に理解していた。


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