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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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預けられたもの

「晴さんと明さんは大丈夫、手伝ってくれるって」


「よしよし、これで戦力はかなり増えたね。で、さっき電話で話してたみたいだけど、お兄さんには話はしないの?」


詩織にまで言われて神加は複雑な気分なのか、視線を逸らせながら口をとがらせる。


「別に、兄貴に言う必要ないでしょ」


「・・・ったくさぁ、状況わかってるでしょ?思春期引きずって変なことになったら大変だってわかってる?」


「・・・」


理屈はわかっている。理解もしている。納得だってできている。だがそれでも神加は康太に話をするのは嫌だった。


気が進まないとか、そういう話でもない。嫌なのだ。康太にこんな話をするのは嫌なのである。


「わかった・・・私から言っておく。話しちゃっていいでしょ?」


「・・・別にいいけど」


「・・・はいはい、ぼかして伝えるよ。三日後にこの店にいてもらうようにとか、そんな感じでいいでしょ?」


「・・・うん」


神加の態度に詩織は小さくため息をつきながら携帯を取り出して康太へ連絡を取り始めていた。


「もしもし康太さんですか?詩織です。今お電話大丈夫でしょうか?実はちょっと頼みたいことがありまして」


詩織が話し始めている中、神加は椅子に座って大きく深呼吸をしていた。


意地というようなたいそうなものではない。嫌いというわけではないし、むしろ逆の感情を神加は抱えている。


だからこそ話したくないのだということも理解している。頭で理解していても、心で納得できていても、それでもどうしようもないことがある。


神加はその辺りをわかっていた。だからこそ康太には話せない。少なくとも自分の口からは。


「え?そうですか・・・わかりました、それじゃ仕方ないですね。大丈夫です、こっちの手は足りてます。すいません、ありがとうございます。失礼します」


「なんだって?」


通話が終わった瞬間に神加は詩織に問いかける。気になるならば自分から話をすればいいのにと詩織は呆れるが、とりあえずは話を先に進めることにした。


「康太さん、っていうか康太さんの部隊は依頼が入ってるんだって。明日から五日くらい。よくよく考えたらさ、私たちを動かしてる時点で康太さんたちも動かしてるよね」


相手の狙いが小百合やこの店であるのなら、小百合の弟子であり、協会内でも高い武力を保有する康太を動かすのは至極当然の成り行きだろう。


康太が力になれないのは神加たちとしてはかなりの痛手ではあるが、それでも十分すぎる戦力は集まっている。


「真理さんが動かされていないのは不幸中の幸いだね。あの人の隠蔽工作が役に立ったって感じかな?」


「姉さんは協会内では穏健派ってことになってるからね。そういう意味ではこういう時はすごく助かる」


「逆に言えば、今回のこれを起こしてる人は真理さんの素性を知らない人・・・現場に出ない、ないし日本の情報にそこまで明るくないってところかな?」


真理が特に何の制約も受けていないということは、相手の目的にもよるが徹底して小百合の周りの人物を少なくしようとしているのではなく、周りの戦力を削ろうとしている可能性が高い。


康太が呼び出されている時点で戦力面を削りに来ているのは間違いない。とはいえただの偶然の可能性も捨てきれないが。


「とにかく、康太さんの協力が得られない以上、戦力的にはかなり痛いよ?真理さんと晴さんや明さんがいてくれるからそこまででもないけど・・・」


「師匠も最近は衰えたって言ってるからなぁ・・・もうちょっと戦力が欲しいところだけど」


「あの人の衰えたってあてにならないよね?この間私普通に負けたんだけど」


「私たちに善戦される程度じゃダメだってことでしょ?昔は瞬殺だったって感じ?兄貴を鍛えてた時が一番のってた時だって言ってたけど」


「その時に生まれなくてよかったぁ・・・もしそうだったら間違いなく私死んでたよね。訓練で死ぬとかシャレにならないよ」


「・・・そうね・・・ほんと、そうだわ」


その時に生まれなくてよかったと、神加は心の底から言うことはできなかった。


だが今はそんなことを言っている時ではない。そんなことを考えている時ではないと、神加は自分の心の奥にその気持ちを押し込めていた。


「戦力的には不安だけど、あとはあたしたちが切り抜けるしかないわね。戦闘準備、詩織はあと二日でどれくらいいけるの?」


「いつでも行けるようにしてあるよ。装備の整頓と補充は師匠に嫌って程言われてるからそのあたりは問題なし。神加は?」


「私も最低限の装備はいつも常備してるから平気。ウィルがいればたいていは切り抜けられるから装備の消耗も少ないし・・・あとはどれくらい戦えるか・・・」


神加も詩織も継続戦闘能力は高い。だが装備に頼った戦い方をすれば当然最高戦力を維持できる時間は限られる。


そういった配分をどのようにするのか、神加は少しだけ考えていた。せめて相手の実力と数がわかればそのあたりを把握できるのだがと、悩みもしていた。




支部長の依頼の当日、神加と詩織は互いに装備を整えて準備を終えていた。


神加の完全武装は刀を一本、分解型の槍を一本、ウィルを外套に変化させ各部に装甲にも似た装備を取り付けてある。


戦闘時はウィルを鎧に変化させて戦う。そのため一時期戦闘中に康太と間違えられたこともある。


鎧を着た状態で戦う魔術師など今まで康太しかいなかったために、二人目のブライトビーなどと騒がれたものである。


対して詩織装備は一見すればそこまで変化はないように見えるが、実は多種多様な武器を外套の下に隠している。


彼女の場合は神加たちのように刀や槍のような主武器を持つのではなく、複数の武器を併用して使う戦い方を好む。


奏が多種多様な武器を使えたことから、長谷部は多くの武器の取り扱いとそれを併用しての戦い方を教わってきた。それが詩織にも受け継がれているのである。


「今日はどうするの?戦闘準備万全状態で行く?」


支部に向かう際、普段の魔術師装束のままで行くか、あるいは完全装備の状態で行くか。それによって相手に与えるイメージはかなり変わるだろう。


その後に移動を含んでいるとしても、相手に与える印象が変わるために格好を変えていくのは十分に意味がある。


「うん、相手に圧力かける意味でも鎧着た状態で行こうと思う。少しは威圧されてくれればいいけど・・・そうはいかないんだろうなぁ」


そう言いながら神加はウィルを鎧の状態に変化させる。


その姿はかつてのブライトビーを彷彿とさせる。だがところどころ体のラインが細く、なおかつ身長が低いことがわかる。その分だけ必要な体積が少なくなっており、少なくなった分だけ装飾を増やしてあった。


ウィルと神加の連携はほぼ完璧レベルに近い。何せ神加が小学校に上がる前から店では一緒にいるのだ。


康太からウィルを受け継いで以来、ウィルとずっと一緒に魔術師として活動してきた。多用しすぎると小百合に怒られるため、神加は鎧としての用途以外でウィルを使ったことはなかった。


「姉さんや晴さんたちが店に来たら出発するわ。そろそろって言ってたけど」


近くで仕事をしている真理は比較的こちらに来やすいが、京都が拠点である土御門の双子は門を使わなければかなり面倒な移動をしなければならない。こちらに簡単に来るためには協会の門を使わなければいけないだろう。


協会がそういった部分まで監視網を敷いているかどうかはわからないが、これだけの戦力を集めれば相手もこの店に手を出しにくくなるだろうというのが神加の考えだった。


この場所は戦場にはさせたくない。させない。


可能ならばウィルも置いていきたいが、ウィルがいなければ神加の戦闘能力はかなり落ちてしまう。


仮にも依頼の中で戦闘があるというのに自分の戦闘能力を落とすというのは明らかに愚行だ。


「依頼か」


鎧の状態を確認していると、いつの間にやってきたのか小百合が神加たちのもとへとやってくる。


あらかじめ依頼であることは話していた。だがどんな依頼であるのかは話していない。


とはいえ、少なくとも戦闘準備を万全にしているところを見ているのだ。多少なりとも何かを感じていても不思議はない。


「はい。今日はちょっと派手に戦闘があるかもなので、ばっちり準備しました」


「そうか・・・詩織もか」


「はい、私も一緒です。神加はしっかり守りますから安心してください」


「それあたしのセリフ。詩織に守られるほど弱くないし」


「はいはい、毎回そう言ってフォローされてるじゃん」


詩織の言葉に反論できないのか、神加は口をとがらせながら不貞腐れてしまう。実際詩織は多芸であるためか、非常にフォローが上手いのだ。


対して神加は基本的に戦闘のことしか叩き込まれてこなかった。いろんな人に習って索敵や情報収集、隠匿なども人並みにこなせるようになってはいるがあくまで人並みだ。


神加が戦闘特化に対して詩織はどのような場面でも人並み以上にこなすことができる万能タイプ。奏の血脈は優秀な人材が多いということだろう。


「神加、今回の相手はわかっているのか?」


「いいえ、情報が伏せられています。支部長からも教えてもらえませんでした」


「・・・あいつが『わからない』のではなく『教えられない』と?」


「はい、そうです」


支部長は間違いなく、神加たちがどんな相手と戦うのかを理解していた風だった。だがそれを教えようとはしなかった。その所に小百合は引っかかったのだろう。ため息をついて自分の装備が置いてある場所を少し探してあるものを取り出した。


「持っていけ。お前なら使えるだろう」


神加に渡したのは小百合が普段あまり使わない二本目の刀だった。常用の一本目と違い、小さな傷や歪みもなく、ほぼ新品同然の状態であった。


普段から手入れもしているのだろう、使用に何の支障もない完璧な状態といえるだろう。


「いいんですか?」


「おそらく今回の敵は強敵だ。お前らの手に余る。刀一本で何が変わるということもないだろうが、持っていけ」


「・・・確証は?」


「勘だ」


その言葉以上に信じられる確証を神加は知らなかった。何の情報を与えなくても、小百合は何かを感じ取る。


未来予知にも近いそれを神加は信じ、小百合の二本目の刀を受け取ることにした。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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