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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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抜け道

「じゃあ、今回私たちに来た依頼が、この封筒を届けることが目的ではなく、私たちをおびき寄せることが目的であるというのが大本命ってことでいいよね?」


「そうね。あたしたちをその場所に連れていくだけのメリットがどこにあるのかはまだわからないけど・・・」


神加たちを所定の場所におびき寄せ、その間に何かを成そうとしているのであれば一番あり得るのは小百合のいるこの店への襲撃だ。


小百合がこの場で全力の戦闘を行った時どのようなことが予想されるかは不明だ。だが仮にもこの場所は神加の家でもある。この場所が戦場になるようなことは想像したくなかった。


「この店を襲撃することが目的、あるいは小百合さんを排除するのが目的・・・この二つだった場合、私たちをおびき寄せるメリットと支部長に対して圧力をかけることによって生じるデメリット、天秤としてはどっちに傾くかな」


「あたし的には支部長に圧力をかけるデメリットの方が大きいと思うけど、人って利益だけで動くわけじゃないから・・・恨みつらみを抱えてたら損得無視で襲い掛かってくることだって十分にあり得るわよ」


人間というものは常に理性的に、損得勘定のみで動くわけではない。時に感情に流され、時に気まぐれに行動し、損得とはかけ離れたところで活動することがある。


神加と詩織はなるべく客観的に物事を見ようとしているが、それでも限度というものがある。どうしても主観的に物事を考えてしまうし、どうしても自分の価値観によって物事を決めてしまうことがある。


客観的な損得勘定は、主観的な価値観によって覆される可能性が高い。そのため、どうしても相手の思惑に対して最適解を見出すことは難しい。


「一応姉さんにお願いしておくわ。この時間と日時にこの店にいてもらえるように」


「戦力単純に二倍、しかも索敵も入る。私だったら間違いなくこの店を標的にはしたくないね」


「念のための処置だけど・・・もう一人くらいほしいわね・・・詩織の方で伝手はない?」


小百合と真理がいれば戦力面では申し分ないと思えるのだが、それでも神加は不安だった。


この場所が戦いに巻き込まれ、帰るべき家がなくなってしまう。そして何より恐れているのは、家族がいなくなることだ。


神加にとって、小百合は育ての親だ。


不愛想で、雑で、口が悪くて、手癖も足癖も悪く、何より生活習慣などは最悪だ。何度口喧嘩になったかもわからないし、何度出て行ってやろうかと考えたかわからないほどだ。


だがそれでも、小百合が自分を育ててくれたのだ。小百合がいるからこそ今の神加がいるのだ。


その感謝を忘れたことはないし、その感謝を忘れるつもりもない。


小百合が傷つく可能性があるというのなら、それを守ろうとするのは当然だろう。


もっとも、小百合の場合守ろうとしなくても敵くらいは簡単に撃滅するだろうが、それはそれ、これはこれなのだ。


「んー・・・私の師匠に頼むのもいいけど・・・正直あてにはできないよ?普通に忙しそうにしてるし、何よりうちの師匠がいたとして真理さんや小百合さんとちゃんと協力できるかどうか・・・」


詩織の師匠である長谷部は小百合の兄弟子である奏の弟子だ。交流こそあるものの、手合わせなどをしたことがあるわけではない。


少なくとも神加が物心ついてから小百合や真理と長谷部が手合わせなどをしたことはないのだ。


そんな状態で、手の内も実力もわからない状態で戦いが満足に行えるとも思えなかった。


「ってか、そもそもこの場所を戦いの場にしちゃだめなんじゃない?ここ一応町中だよ?もし何かあったら間違いなく大変なことになるよ」


「確かに。相手の数がかなり多くて一般人へのカバーストーリーとかもできてるってなると・・・ただ戦うだけじゃダメか・・・・」


相手が一般人への対策もしていた場合、単なる戦力だけでは別の方向からの攻撃、一般人としての逮捕という可能性だってあり得る。


そういったことをさせないためにも、こちらも情報系の人物を押さえておく必要がありそうだった。


「かもしれないね。でも戦力が必要なのも事実だよ?このままだと全面戦争待ったなしって結果にもなり得るけど・・・やっぱり戦闘だけじゃなくてどうにか情報的なこともまとめられる人が必要になると思う。しかも、これは憶測だけど、内部の人間ばっかりに頼むと、本部からの妨害があるかもしれないよね」


「確かに・・・となると、別の誰かの手を借りるしか・・・」


そう考えた時に神加は一つ思いつく。とはいえこの手を使うのはあまり褒められたことではないかもわからない。


そもそもその人物は完全な部外者だ。はっきり言ってしまえば他人だ。交流はあっても、そこまでする義理はないに等しい。


何よりそれを了承してくれるかどうかもわからない。だが頼んでみる価値はあるのだ。


なりふり構ってはいられないというのが実情だ。取れる手段は何でもとる。神加の中には一種の決意が秘められていた。


「さすがに怒られるかもしれないけど、仕方ない」


「何々?いい案でも浮かんだ?」


「うん、かなりずるい手。ぶっちゃけ抜け道みたいなものだけど、うちの一族だけ使える手段がしっかりある」



そう言って神加は携帯を取り出して電話をかける。


その相手先には、神加が子供のころから知っている頼りにできる大人の名前が記載されていた。


ディスプレイに表示された土御門晴という名前とコール音が携帯から放たれる中、それを見た詩織は苦笑してしまう。


そこまでするのかと、確かにずるい手だなと理解しながら。


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