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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」

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魔術師としての活動を

その日の夜、神加は支部長に会うべく協会の日本支部を訪れていた。


悩み事をいつまで引きずっていても仕方がない。何より神加は悩んでいるだけではなくやらなければならないこともあるのだ。


今の神加の魔術師としての姿は一見すれば普通のものだ。ウィルを外套として纏い、魔術師としての仮面をつけた一般的なもの。


だからこそ、協会に来てもほとんどのものは神加が来ても気にしない。


だが数名、神加の存在を正しく認知している者はその姿が現れた瞬間に警戒の色を強くする。


『視線が集まっている。今日は妙に多いな』


『相変わらずよく見られてんなぁ。人気者はつらいぜぇ』


『それだけ実力が認められてきたということでしょう。これからが勝負ですよ』


『わかってる。分岐・・・でしょ?』


神加が協会の魔術師として本格的に活動を始めたのは高校に入学してからだ。


小百合の弟子ということもあって、注目度は高いように思える。何度か依頼を受けたが、今のところその依頼はすべて身内からの依頼で、外部から依頼を受けたことはまだない。


今までの依頼の結果としてはそこまで戦闘をせずに解決することができた。だが今回の依頼はそうはいかないのではないかと神加は考えていた。


何せ今回は支部長からの依頼だ。周りの人間が注目しているのが嫌でも理解できてしまう。


とはいえまだ支部長室には向かわない。今神加は詩織と待ち合わせをしているのだ。


「あ、いたいた。ごめん、お待たせ」


「大丈夫、今来たところだから」


オーソドックスな魔術師の装備を付けた女性がやってくる。その声は昼間一緒にいた詩織だ。


六角形をベースにした幾何学模様が入った仮面をつけている。装備自体は少ないが、それは今回のこれがあくまで依頼を受けるためのものだからだろうということがうかがえた。


「アトリ、前の報告書の修正、持ってきた?」


「持ってきた。誤字が多すぎるって師匠に怒られたよ」


詩織の術師名はパッチー・アトリ。パッチーと呼ばれるのが嫌いであるらしく、詩織はアトリと呼ばれるのを好んでいる。


「支部にくるのもちょっとぶりだね。一週間か二週間くらい?」


「修正前の報告書をだしに来た時だから、そのくらいね。相変わらず見られるのはなれないわ」


「シノは人気者だもんね。仕方ないんじゃない?」


「人気者っていうか・・・厄介者の卵って感じなのよね・・・少なくとも期待されてるような感じじゃないのよ」


康太ほどではないが、神加も人の視線には敏感になっていた。特にそれが悪意なのかどうかくらいはわかる。


どの方向から誰が見ているのかとか、そこまでの正確なところはまだわからないが、見られているということと、その人物たちがあまり良くない感情を抱いているということくらいは理解できた。


「見られたところで何をしてくるわけでもないからいいんだけどさ、もうちょっと何とかしてほしいわ・・・悪評を広めた師匠と兄貴が悪いんだろうけど」


「悪評って・・・まぁシノの悪評じゃないからさ。あくまで広がったのは自分たちの悪評なんだから」


「わかってるけどさ、それで師匠の弟子がやばい奴っていう印象がついちゃったんじゃん。姉さんは上手くやってるけど、あたしがうまくやれるかどうかなんて・・・」


神加の兄弟子である真理はその強さと凶暴性をうまく隠しながら魔術協会の中でうまくやっている。


それは就職してからも変わらなかった。


魔術師としての活動はやや減らし、表の世界で活動しながら魔術師としての実績を積み続けている。


あれこそ魔術師の理想像だ。小百合の弟子でありながらそれを成した真理に、神加は尊敬の念を抱かずにはいられなかった。


それに引き換え師匠である小百合やもう一人の兄弟子である康太は基本やりたい放題だった。二言目には『面倒くさい』とか『そっちの方が確実だし早い』などといって適当に破壊しまくる。


小百合の場合は大規模な破壊を、康太の場合はピンポイントに面倒くさい部分を壊していく。


しかも康太の場合、壊すだけに飽き足らず、その場にいた敵魔術師を確実に切り刻み再起不能にするのだ。


そのため、康太の評価、というか評判は小百合の悪評を超えつつある。


小百合が魔術師としての活動を控え始めたこともあって、魔術協会の日本支部における恐怖の的は康太に、ブライトビーに移り変わりつつあるのだ。


「っていうか、同じ身内なのにアトリが全く注目されてないっていうのが腹立つ」


「ふははは、うちの師匠やその師匠も協会の中ではまともなほうだしね」


「アトリの師匠はまだわかるけど、サリーさんも結構やらかしてたって噂だけどね・・・あの人も現役引退して長いから無理ないのかなぁ・・・」


人の噂というものはその時々によって変わっていく。新しい話題ができればそれに引き寄せられるように人の関心というものは移っていくのだ。


今最もホットな話題は、やはり小百合の弟子たちなのだろう。小百合が徐々に活動を減らしていることから、小百合の現役引退がささやかれる中、小百合の弟子三人に注目が集まってしまうのも無理のない話だ。


もっともその注目も良いものではないのは確かだ。むしろ悪いものだといったほうがいいだろう。


小百合や康太と同じように危険な存在か否か、神加はそういった疑惑の目を向けられているのだ。


「失礼します。支部長、入りますよ」


ノックして返事を待ってから神加たちは支部長室に入っていた。


神加が中に入ると、そこにはいつも通り書類と格闘している支部長の姿がある。


仮面越しでも支部長が疲れれているのがわかる。それほどに彼の雰囲気が重くなっているのが神加でも見て取れた。


「やぁ、シノ、アトリ、来てくれてありがとう。すまないね、呼び出してしまって」


「構いませんよ。それで、どうしたんですか?」


支部長の声音はあまり良いものとは言えなかった。単純に体調がよくないからなのか、それとも何か思うところがあるからなのか。


神加としてはただ体調が悪いだけならよいのだがと淡い期待を抱いたのだが、そうもいかないようだった。


「君たちに依頼を頼むことになってね・・・可能なら受けてほしい。いや・・・この言い方は正しくないな」


支部長は小さく悩むと、神加と詩織を強く見ながら大きく息を吸う。


「シノ・ティアモ。パッチー・アトリ、支部長として君たちに命令する。今回の依頼を受けろ」


珍しく強い言葉を使いながら、そしてこれも珍しく支部長が部下である支部の魔術師に命令するという形で依頼を持ってきたことに、神加と詩織は強い違和感を覚えていた。


支部長は命令をあまりしない。基本的にはお願いであり、命令などをするのは本当に仕方がない時だけなのだ。


そして何より、先ほどから支部長が非常に言葉を選んでいるというのが神加でもわかる。


詩織も何かを感じ取っているのだろう、気づかれないように周囲を警戒しているようだった。


「支部長、随分な物言いですね。私たちじゃないといけない理由でも?」


「君たちが適任だと判断したからだよ。君たち以外にはできる人間はいないんだ」


「私たちの都合は無視、ってことです?」


「そうだ。僕の命令に従え」


支部長らしからぬ言葉に、神加と詩織は支部長が操られている可能性も考えたが、それはないようだった。


意識もはっきりしている。何より先ほどから支部長の言葉一つ一つが、普段なら支部長が使わない言葉ばかりだ。


そして妙に命令という言葉を強調している。それがどういうことであるのか、どういう意味を持つのか、神加と詩織は一瞬視線を合わせる。


『みんな、この部屋がどういう状況か調べることはできる?』


『可能だ。支部長がおかしい原因を探るのだな?』


『任せとけって。妙な奴がいたらすぐに報告してやるぜぇ』


『少なくとも普段の様子とは異なりますね。魔術的な要因か、はたまた背後に何かがいるのか・・・』


魔術的な圧力をかけられているのか、それとも権力的な圧力をかけられているのか。おそらくは後者だろうと神加はあたりをつけていた。


支部長はかなりの実力者だ。神加の師匠である小百合からも逃げ切った実績を持ち、今まで問題児ばかりのこの日本支部を運営してきた。


精神力も、そして魔術師としての実力も並の魔術師では対抗することすらできやしない。


となれば、あと考えられるのは魔術師としての立場の問題だ。支部長という立場から、おそらく本部から圧力をかけられている可能性が高い。


そんな依頼を持ってこられて、しかも本部からおそらく神加と詩織を指定されたのだろう。


支部長は普段使わない言葉をふんだんに使うことで、それを二人に勘付かせようとしている可能性が高い。


「・・・命令ってことじゃ仕方がないです。どんな依頼ですか?」


「これを所定の場所まで届けること。時間は三日後の深夜。それまでに準備を整えて行動を開始するんだ」


用意されたのは小さな封筒一つだった。


中にはおそらく一枚の紙が入っているのだろう。そこまで分厚くもなく、特に何か特徴があるわけでもないただの茶封筒だ。


「質問いいですか?この封筒の中身は見てもいいんですか?」


「ダメだ。見てはいけない」


「敵はいますか?」


「いるだろう。間違いなく」


「数は?敵の勢力はどの程度ですか?」


「答えることはできない」


「この封筒が破壊されてもいけないんですね?」


「・・・・・・そうだ、この封筒を届けることが目的だ」


妙に言いよどんだ。先ほどまで矢継ぎ早に、神加と詩織が繰り出す質問にテンポよく答えていたというのにこの返答だけ妙に合間を開けた。


つまりこの返答は嘘だということだろうか。


おそらくこの場を監視されているからこそ言動も制限されてしまっているのだろう。それでもしっかりと神加たちに情報を伝えようとしてくれているあたりさすが支部長というべきだろうか。


他の支部、あるいは本部に圧力をかけられているということと、何故自分たちを指名してきたのかが神加には理解できなかった。


渡された茶封筒。中身を見てはいけないということで索敵もしていないが、本当にただの紙しか入っていない茶封筒のように見える。


こんなものを届けさせる。そしてこの封筒が破壊されてはいけないというのが嘘ということは、この封筒を届けることが本当の目的ではないというのは想像できた。


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