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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」

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変えたくない方針

「・・・なるほど・・・アリスの長期間生きるための術式と、生きる理由・・・そして死にたくない理由と死ぬ理由か・・・」


奏は神加の話を聞いて神加が何を悩んでいるのかを理解していた。


そしてなぜ神加がそのことについて悩んでいるのかもわかっていた。だからこそ答えを自分が出していいものかどうか、答えに迷っていた。


だが大人として、最低限言えることだけは言わなければならない。間違っているかもしれないし、神加は納得してくれないかもしれないが、それでも必要なことだ。


「私としては、小百合が長く生きていたくないという考えを持っていることの方が少しショックだが・・・神加、お前はどう思う?」


「どう・・・と言われても・・・それがわからなくて・・・今まで考えたこともなかったから」


生きる理由がわからない。なんとも悲しいことではあるが、実際神加はそういったことを考えたことがなかった。


そもそも生きることに理由が必要なのかどうかもわからなかったのだ。考えても、死ぬ理由は見当たらなくても、生きる理由が見当たらない。


死にたくない理由はある。苦しいからとか、痛いからとか、そういったネガティブな部分での一種の逃避のようなものだ。


生きる理由はその逆。ポジティブな部分でのものだ。そういったものを神加は考えてこなかった。


「なら考えてみなさい。生きる理由というのは人それぞれだ。私も小百合も生きる理由は異なるし、アリスも全く違う答えを出すだろう。それは自分の中にしか答えはない」


「・・・参考までに、奏さんの生きる理由って何ですか?」


「私か?私はいろいろあるぞ。生きる理由というか、半ば働く理由になっているが・・・私はこの会社を大きくしたい。もっともっと大きくして、有名にしたい。あとあれだ、私の身内だ。それらが健全でいられるように、私は尽くしたい」


何と真っ当な理由だろうかと、神加は目を丸くしていた。小百合やアリスなどとは全く違う、まさに理想的な大人の回答だろう。


だがこの回答は神加が望むものであり、望むものではなかった。


そしてそれを察しているのか、奏は小さくため息をついて微妙な顔をしている神加を見ながら笑う。


「だが神加はこういった普通の回答は求めていないだろう?あくまで、長期間生きる上での生きる理由と死ぬ理由の天秤の傾きについて知りたいようだからな」


「えと・・・その・・・すいません」


「構わない。私も長期間生きることを考えなかったわけではない」


「そうなんですか?奏さんはそういうことは考えない人だと思ってました・・・」


「アリスの存在を知らなければ、私も本気でそういったことを考えようとは思わなかったさ。だがあいつの存在があって、私はそういうことを少し考えたことがある」


康太がアリスを連れてきて、そしてアリスと割と頻繁に酒を飲むようになってから、彼女は具体的にそういったことを考えるようになっていた。


アリスの心情や背景などを理解したうえで、そして魔術師としての自分の立場を考え、奏はそれは不可能だと、そう判断した。


「私が長時間生きたいと思った理由は、この会社のことが大きい」


「会社ですか」


「そうだ。またしても働く理由になってしまいがちだがな、私がこの会社を立ち上げたのはそもそも、身内の手助けをしたかったというのが大きい」


「いつもお世話になってます」


康太ほどではないが、神加も奏の会社には非常に世話になっている。数多くの支援や依頼をもらっているし、何よりいろいろ小百合では教えられないことを教えてもらってきた。


そういう意味ではこの会社も、奏も、なくてはならない存在だ。


「そして、私が生きる理由は、この会社の方針を曲げないためだ」


「方針を・・・?」


「そうだ。会社というのは・・・いや、組織というのは常に変化を求められる。時代の流れ、技術の変化、人の移り変わり、そういったものによって組織というのは常に変わっていく。否応なしにな」


それは当たり前のことでありながら、外部からは認識しにくいものだ。


一つのレッテルとして、例えば一つの会社に対してのイメージというものはある程度固定されるが、それでもそれが何十年も同じとは限らない。


何十年も同じことを続けるというのは並大抵のことではない。人は変化を求め、同時に変わらないことも求める。


だが会社というのはそういった理想だけで運営できるわけではない。会社は利益があってこそ動くことができる。


そのため、需要がなければそれらを維持し続けることは難しい。需要がなければ人だってやってこないし、需要がなければそもそも存在する意味がない。


変わっていく世の中の中で、いかに需要を確保するか、需要を得られるように努力するか。そのあたりはもはや企業努力という話だけでは済まない。情報戦略や、流行り廃りといった世情にもかかわってくるだろう。


「私の会社は、先ほども言ったが、私の身内を支援しやすくするための手段として作り上げた。あらゆる方面、あらゆる知識や技術を集約することで、ありとあらゆる状況に対応できるようにしたものだ。私の身内にはそれなりに便宜を図れるように、私自身が作り上げたものだ。私はその方針を変えたくない」


会社の経営方針ではなく、会社の存在意義とでもいうべきか、そのあたりを変えたくないと奏は言った。それをするためには、おそらく今後つく社長も同じように魔術師でなければ難しいと、神加もわかっていた。


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