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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」

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助言を求める

『ねぇみんな、なんで師匠は長く生きるのは無理っていったのかな?』


訓練後、神加は荒れてしまった訓練場を掃除しながら先ほどの小百合とアリスの対話を思い出しながら自らの中にいる精霊たちに話しかけていた。


彼らは神加を常に助けてくれる。そして神加を導いてくれる。それは助言というだけではなく、神加の相談役としても長年神加と連れ添ってきた。


こういった何でもない相談もまた然り。神加にとって最も身近に相談できる相手は人間ではなく精霊たちなのだ。


『師匠殿は、楽しいことを見出すことは難しいといっていた・・・おそらくだが、彼女は生きる理由がそこまでないのだろう』


『生きる・・・理由』


神加にとって考えてなどこなかった生きる理由。小百合はもうそれを見出しているのだろう。


アリスは生きる理由ではなく、死にたくない理由があるのだといった。


小百合の場合は生きるだけの理由はまだあるが、また死にたくない理由がないのだ。


目的を果たしてしまえば、生きる理由を終えてしまえば、小百合は死ぬことを厭わない。そういう性格なのだ。


『っていうかさ、そこまで深く考える必要はないんじゃあねぇの?やることがあるから生きてる。死にたくないから生きる。それだけじゃあねぇの?』


精霊の言葉に神加はその通りなのかもと考えていた。そもそも生きるということについて神加はそこまで深く考えてこなかった。


生まれて、生きているからこそこうして生きている。死ぬのは怖い、だから生きる。それだけの事なのかもしれない。


『彼女の場合、死の苦痛よりも、生きることによる苦痛の方が大きいと判断したのかもしれません。死に対して、彼女はそこまで恐怖を感じているようではありませんでした』


小百合は死に関して恐怖は抱いていないようだった。どちらかというと、生きているときと死ぬとき、どちらの方が苦痛が大きいかという方向で考えているようだった。


死んだときに生じる苦痛はおそらく想像を絶するだろう。だがそれでも、生き続けることによって続く苦痛よりはましだと、小百合はそう考えたのかもしれない。


『ミカはどうなんだ?今から練習すればさ、生き続けられるかもしれないぜぇ?』


『私は・・・』


そう聞かれたとき、神加はふと考える。


周りから何度も才能があるといわれた。そしてその才能に見合うだけの膨大な努力をしてきたと自負しているし、それは周りも認めているところだ。


才能にあふれている兄弟子である真理にも、才能に溺れずによく努力しているといわれるし、アリスにも同じようなことを言われる。


もしかしたら、アリスに今から件の延命の魔術を教われば成人する前に習得することは可能かもしれない。


神加に家族はいない。両親はすでに死んでいるらしく、師匠である小百合に救われ今まで生きてきた。


学費も生活費もすべて小百合が出してくれている。だが小百合はそれらを全く恩に着せようとしない。


むしろそれが当たり前であるかのように、神加に必要なものを与え、必要な技術を与え、訓練を施してきた。


そのことに神加は感謝もしている。赤の他人である自分にここまでしてくれたのだ。まずは小百合に恩を返すのが、生きる理由の一つかもしれない。


だが、それは何百年も生きなくてもできることだ。逆に死にたくない理由を考えてみる。


『私が死んだら、みんなはどうなるの?』


『ミカが生まれる前と同じだ。また自然と溶けあい、自然とともにあるだけ』


『退屈だけどなぁ。けどのんびり過ごせるぜぇ』


『ミカが死んだときは、おそらく多くの精霊たちが悲しむでしょう。ですが、それはあなたの生きる理由にはなり得ませんよ。誰かが死ねば、必ず誰かが悲しむのですから』


生きる理由と、死にたくない理由。どちらも普通の人間にならばそれなりにあるはずだ。中には死にたい理由などもあるのだろう。


だが神加はそれらが今のところかなり薄い。というか考えたことがなかった。


当たり前のように生き、生活できているということ。これがいかに重要で、恵まれているかが多くの者は理解できない。


理解するよりも早く、それらはすでにそこにあるのだから。


『私は・・・アリスみたいに生きられるのかな?』


『それは努力次第としか言えないな。どのような術式を使っているのかもわからない。聞いてみるのが一番だろうが・・・』


『俺はいいと思うぜぇ。神加が長生きすりゃ、それだけ一緒に居られる』


『私は・・・正直に言えばあまり賛成はできませんね。ミカには普通の人として、天寿を全うしてほしいと、そう思います』


精霊たちの中でも意見が割れている。神加を死なせたいなどとは思っていないのはわかるが、長くいたいと思う気持ちは同じなのだろう。


大事に思うからこそ、長く苦痛を味わわせるようなことはしたくない。そういう考えもあるようだった。


『生きるか死ぬかという選択を今するというのは酷な話だ。だが少なくとも、生き続けたいという願いをするなら、他の誰かに相談することも必要だろう』


『俺らだけじゃ意見が偏るからなぁ』


『ミカの身近には相談できる人が多くいるはずです。話をしてみるのもよいでしょう』


『そうだね、そうしてみる』


精霊たちは神加のことを第一に考える。それは神加の命だけではなく、神加の意志、尊厳の意味でも神加を最優先に考える。


神加が人として生きている以上、同じ人の意見を聞くべきだと、精霊たちは助言した。


神加もその通りだと、そう思いながら掃除を続けていた。


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