表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
1469/1515

神加の周りの人々

神加の兄、康太は人間ではない。


いや、より正確に言えば人間ではなくなったというべきだろう。


康太には家族がいる。父も母も、姉もいる。彼らは普通の人間だ。魔術師でも何でもないただの人間だ。

康太は魔術師として活動している間に、人間ではなくなった。


多くの人にとって、康太は普通の人間の姿と変わらないように見えるだろう。だが、神加の目には全く違って見えるのだ。


有識者、というか、康太の体の状態を常に観察し続けている人間の言葉で説明すると


『あれは人と人ならざる者の中間のようなものだ。ある意味魔術師としての到達点の一つでもある。だが勘違いするな?あれは自分でなろうとしてなったわけではない。なりたくてなったのでもない。なってしまっただけなのだ』


ということらしい。


なってしまった、その言葉にどれほどの意味が込められているのか、その時神加はまだ理解できていなかった。


今もまだ、完全には理解できていない。だが、神加の中にいる精霊たちは、康太の体の状態をほぼ正確に理解しているようだったのだ。


その時の精霊たちの言葉を借りると


『あれは我々に近い存在だ。だが決して同じではない。存在としての格は、彼の方が上だろう』


『ありゃあやばいな。バカみたいだ。あんな状態のままで維持するなんてできるんだなぁ』


『彼の状態は非常に危険です。ですが安定もしている。不思議な存在です。危険でもあり、安心できる』


精霊たちは口々に、康太の体の状態が明らかにおかしいことを告げていた。神加自身も、康太が近くに居ると、精霊たちが近くに居るような感覚と似たような感覚を覚えることがある。


康太の通り名『四枚羽』も、康太が人ならざる者としての力を発揮したその姿から取られている。


そして、人ではなくなってしまったことを兄である康太に聞いたこともある。


その時の反応がこうだ。


『不便ではないぞ?別に変身しなきゃ普通の人間と変わらないし。むしろ手数が増えたからかなりいい具合。けど電化製品が近くにあるとちょっと気を使うよな。静電気バッチバチだし』


明らかに人間をやめた人間の発言ではない。ちょっと静電気が出やすい体質の人間とほとんど変わりない発言だ。


神加の師匠に聞いたときも


『あれで電気の充電とかができれば多少便利なんだろうが、そういうこともできんからな。使えん奴だ』


とか言う始末だ。自分の弟子が人間をやめているというのに簡易式の発電機程度にしか見ていない。

神加の師匠、小百合は弟子の心配というものをしない。鍛える時も手加減がほとんどないし、完全に気絶させられるまで続く。


師匠として必要な思考回路がほとんど死んでいるのではないかと神加は考えていた。


もう一人の兄弟子である真理に聞いたところ


『確かにあの状態は強いですね。ですが危険でもあります。近くに人がいた場合、あれは間違いなく巻き込みます。コントロールが万全でも、その体に触れてしまっては感電しますからね』


という、結局戦いの方面のことしか考えていないような発言が返ってきた。


真理は比較的まともな人種だ。だがやはりというか当然というべきか、基本的には小百合の弟子であるために思考が戦闘の方向に偏っている。


康太が人をやめた時から、ずっと神加はその姿を見てきた。他の人たちはあまり意識していないが、神加にはその姿が見えてしまっている。


普通に人間として生活している康太に強い違和感を覚えることもある。何せほかの精霊たちと同じように人ではない姿を晒しているのに、普通に生活し、誰もそれを口に出したりしないのだから。


だからこそ、神加は自分にしか見えていないものがあるのだと強く理解することができた。


もし康太がいなければ、見えていないものがほかの人にも見えているのではないかと誤解したかもしれない。


そういう意味では兄弟子である康太が人ではなくなったのは神加にとっても良い効果を及ぼしているといえなくもない。


だが、自分の兄弟子や師匠たちが人ではなくなったことに対してほとんど無頓着で、むしろちょうどいいとさえ思っているのが神加にとっては複雑な気分だった。


大きなため息をついていると、詩織が不思議そうな顔をして神加の顔を覗き込んだ。


「どうしたの?自覚しちゃった?」


「違う。うちの人たちみんな頭がおかしい人たちばっかりだって思っただけ」


「あれ?それって私も含まれてる感じ?」


一応詩織も身内であるために、複雑そうな顔していたが、詩織は比較的まともな人種の一人だ。


奏の弟子の長谷部が常識人ということもあって、詩織も同じように常識はきちんとある。


小百合達の場合は常識がそもそも通用しないというのが一番の問題なのだ。いや、常識を理解していながら無視するというべきか。自分も助言をしてくれる精霊たちがいなければそうなっていたのだろうかと、神加は少しだけ背筋が寒くなるのを感じていた。


「こうしてさ、普通に高校生として過ごしてる分には、神加はすごく可愛いんだけどねぇ」


「何よ、なんか含みのあるいいかたするじゃん」


プールの監視を続けながら、神加は詩織の発言に目を細める。


まるで高校生以外の時は可愛くないといいたいようなものである。


「だって、活動中の神加ってものすごいじゃん。才能の暴力じゃん。神加が負けてるところとか見たことないもん」


「あたしだって負けることくらいあるっての。っていうか勝てないことばっかり」


「それは小百合さんとかお兄さんとかお姉さんとかにでしょ?他の人に」


「・・・まぁ、師匠たち以外には負ける気はしないけどさ・・・」


神加の戦闘能力は、控えめに言ってもかなり高い。何せ幼少時から小百合の訓練を受け続け、持ち前の高い素質や才能に加え、通常の魔術師や精霊術師では扱えないような高い位にいる精霊の後押しもあるのだ。


はっきり言って魔術戦では他の追随を許さない。出力もそうだが、精霊たちのフォローによってかなり繊細な扱いもできている。


「あぁ、いる。私が身内以外で勝てないって思うの」


「へぇ、誰?支部長とか?」


「ううん、アリス」


「あー・・・あれは反則でしょ。今の状態で勝てる人いるの?」


アリス。アリシア・メリノス。神加たちも所属している魔術協会において封印指定という、消滅、消去することを大前提とした制度に登録されている人物。


要するに協会に所属しながら、協会から危険すぎるから殺したいと思われている人物である。


神加はアリスとの付き合いは長い。何せ神加が小百合の家にいる時からずっといるのだ。幼馴染もどきといえる存在である。


子供のころから子供の姿だったアリスと、よく一緒に遊んだりしたものだが、つい最近、といっても神加が中学生の頃の話だが、アリスが実はすごく年上だったということを教えられた。


なんでも数百年は生きている魔術師なのだとか。


理屈は三回ほど説明されてようやく理解できたが、康太と違って人間ではないという気配を全く感じることはなかった。


だからこそ、神加はアリスが普通の人間ではないと気付くことができなかったわけだが。


詩織も神加と同じころにアリスの存在について説明され『とにかくなんかすごい魔術師』という印象を持っていた。


実際間違っていないのだが、アリスに言わせると『その程度の評価で収まってしまう自分がなんか情けない』とのことだった。


「あの人に勝てる人だったら世界中誰でも勝てるよ。じゃああの人は?アマネさん」


「あぁ、師匠が大嫌いな人?あの人は勝つとか勝てないとかの次元にいないしなぁ・・・あの人そもそも戦おうとしないじゃん。一時期あの人に防御習ってたけどさ、あの人の防御は抜ける気がしない」


防御に徹しているアマネは、基本的に攻撃力の高い魔術師にあった時戦うことを避ける傾向にある。


相手の攻撃を防ぎ、反撃することなく撤退する。小百合がどうかは知らないが、神加は逃げようとする相手をわざわざ追いかけるようなことは基本的にしなかった。


逃げるのならばそれで良し、襲い掛かってくるようならばそれで良し。


神加にとってアマネは防御の師匠でもある。小百合が防御関係を全く教えることができなかったために、小百合の情報と引き換えにアマネに防御を習っていたのである。


「神加の防御なんか妙に硬いと思ったら、あの人に習ってたのかぁ・・・よく小百合さんが許可出したね」


「許可なんてとらない、あの人は基本自分が教えられないことはお前らで勝手に補完しろってタイプだから。だから勝手に補完したの。もともと障壁は得意だしね」


幼いころから教わり使ってきた障壁魔術は、神加の得意魔術の一つだ。神加の防御を貫くことができるのはかなり限られる。


高い攻撃力と防御力、それこそが神加の強みである。


「この学校の先輩たちも全く相手にならなかったもんね。仕方ないけど」


「あたしと詩織を一緒に相手するとか、いくら事情を知らない魔術師だって対応がひどすぎるって。あたしたちがおかしいだけで、先輩たちが普通なのかもしれないけどさ」


普通の魔術師は学生時代は師匠の下で修業し、こうした高校などで同世代の魔術師と少しずつ交流を深めていきながら徐々に魔術協会の方で活動を進めていく。


神加も詩織も、師匠である小百合や長谷部の方針によってどんどん外の活動をさせられている。


さらに両師匠の指導方法のおかげか、高い戦闘能力を有しているということもあって外に出ても問題なく活動できてしまっている。


高校生の近い世代の魔術師たちと差が出てしまうのは仕方のない話だろう。


「そういえば支部長から呼び出されてるんだっけ?」


「うん、なんか話があるんだって。何の話かは知らないけど。適当なタイミングで来てほしいって」


「あの人も大変だよね。面倒ごとばっかり引き受けてさ」


「次の支部長は絶対に体壊すね。いろいろとフォローしてくれる人はいるみたいだけど、このままじゃもたないよ」


大きな事件が最近ないとは言っても、小さな衝突は山のように起きている。それを一つ一つ捌いていかなければいけないのだから支部長というのは大変な役職だ。


問題児を山ほど抱えた今の日本支部で、今の支部長の体がどれほどもつのか、神加たちとしては少し心配でもあった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ