神加の友人
『いた、いた』
『おとこのひと、おとこのひと』
『みずがあるところ、みずのばしょ』
『やなにおいのするとこ、やなとこ』
精霊たちの言葉を聞いて、神加はどこのことを言っているのか、そしてそれが誰なのかを把握しようとしていた。
発動者は男性。この三鳥高校には神加以外にも魔術師はいる。その中で男性というと数はまだ絞れない。
だがその中で水の周りにいるとなると数はかなり限られる。
そして精霊たちのいう、水の場所であり嫌なにおいのするところ。これはプールが該当する。
精霊たちにとって好みの場所は自然に近い場所だ。もちろん例外もあるが、たいていの精霊、特に水の精霊は特定のにおいを嫌う。
この学校に住む精霊たちが嫌うにおいで水の場所というと、プール以外に該当する場所はなかった。
「ありがとう、場所がわかって助かった。手伝ってくれたみんなにもお礼を言っておいて」
『わかったー』
『ちから、なれ、よかった』
『また、ねー』
『またよん、でね』
精霊たちが散っていく中で、神加は校舎を移動していき、プールが見える場所にたどり着くとプールの場所を見る。
確かに一人、いや二人いる。二人とも男だ。おそらくあの二人のどちらか、あるいは両方が人よけの魔術を発動しているのだろう。
魔術師として会話するときはあのように人の寄り付かない場所、そして人よけの結界の魔術を張るのがセオリーではある。
そして、もし三鳥高校の魔術師が何か魔術を使ったら、それ以外の魔術師はそれを監視する。
三鳥高校の魔術師同盟。何年も続く一種の伝統だ。互いが互いを見張り牽制することで魔術的な問題を発生させないようにするというものである。
協会における魔術師の監視の規模を小さくしたようなものだ。高校生ではまだ大きな活動をしている者は少ないためその練習のためにこのような同盟を作っているといってもいいだろう。
とはいえ神加にとってはもはや今更といってもいいようなものだ。だがこの三鳥高校の同盟に神加も参加している。それ故に、やるべきことはやらなければならない。
神加は携帯に耳を当て話を聞くふりをしながらプールの近くに立っている二人の魔術師めがけて強めの殺気を放つ。
殺気を身に受けた魔術師二人は、その瞬間に索敵を発動したのか、神加の方に視線を向けていた。
神加のようなものが強い殺気を放てば、その対象はある程度気付くことができる。ほとんど素人同然の人間でも神加の殺気には気づけてしまうのだ。
人によっては寒気や震えといった形で現れるために、体調が悪いのではないかと勘違いするかもしれないが、あの魔術師二人はしっかりと気づくことができたようだった。
「神加、もういたんだ。相変わらず早いね」
「ん、まぁね。あれだけ露骨に発動されればわかるよ」
視線を外すことなく携帯を耳から離し、神加は小さくため息をつく。
やってきたのは朝一緒に通っていた同級生の魔術師だった。彼女も魔術の発動を感じ取ってやってきたのである。
「でも詩織も早かったじゃん。ほとんど誤差なしだよ?」
詩織と呼ばれたこの少女、本名は菊地詩織。神加と同級生で、小学校の中学年ごろから一緒に訓練を始めた、所謂幼馴染というやつである。
「ふふふ、私だって日々成長してるからね。って言っても感じ取れるようになったのはつい最近なんだけどね。師匠のスパルタ訓練のおかげだよ」
「あの人ってそんなにスパルタなんだ」
「そりゃもう!びっくりするくらいだよ?」
詩織の師匠は長谷部英輔、丁寧な口調と物腰が印象的な人物で警察に勤めている。
高い情報収集能力を有しており、あまり戦っているところを見たことはない。だが高い戦闘能力を有しているのは神加も想像はできた。
なにせ長谷部は草野奏の、神加の師匠である小百合の兄弟子の弟子なのだ。戦い方を仕込まれていないはずがないのである。
「でもそんな風には見えないけどなぁ・・・すっごい優しいっていうか丁寧な人じゃん」
「いやいや、丁寧に締め上げていくの。徐々に徐々に逃げ道をなくしていく感じなんだよ。そりゃね、そりゃ神加の師匠に比べれば優しいかもしれないけどなぁ」
神加の師匠が小百合であるということを詩織は知っている。詩織もある意味一種の身内のようなものだ。
互いに訓練をしているし、神加と詩織が一緒に活動し、訓練するようになってからは長谷部も時間があるときに店に足を運んできている。
出会う機会は増えたが、それでもやはり丁寧な人という印象は残っていた。
詩織の言うようなスパルタというイメージはわいてこなかった。
「うちの師匠は別格だからね。未だに協会の中でも怖がってる人いるみたいだし」
「今はどっちかっていうとお兄さんの方が怖がられてるんじゃない?あの部隊、なんて言ったっけ?お兄さんが隊長やってる」
「正式名称は忘れた。けどみんな『粛清部隊』って言ってる。印象最悪。もうちょっと穏やかな行動ができないのって思う」
神加は不機嫌そうに頬を膨らませながらまったくもうとあきれている。どうしてもっとうまくやらないのかと、そしてどうしてそうまでするのか、わからなかったのである。




