不穏なアンケート
「はぁ?正気ですか?俺はごめんですよ。ていうか、うちであいつを相手にしたい奴なんているわけないじゃないですか」
男は仮面の奥の顔を思いきり引きつらせながら大げさな動作で否定する。それが本心からの言葉であるということがはっきりとわかる。
声音も、そしてその表現からも、心の底から嫌がっているということがわかる
「待ってくれ、なぜあの人を敵に回す?気が触れたとしか思えない。貴方は本気で言っているのか?」
また別の男はそれを問うものが正常な精神状態であるかどうかを疑った。それも無理のない話なのかもわからない。
少なくとも知り得る中で、誰一人としてそれを良しとする者はいないのだ。
「私は嫌。やるっていうならそちらから人員を出せばいいじゃないですか。第一、それをやって私の命が助かるっていう保証はないでしょう?」
また別の女は自らの命の心配をした。自らの命が助かる保証がないのであれば、それを行うことはできないといった。
確かにその保証をすることはできなかった。過去の例からしても、そして対象の性格からしても、それが確実に保証されるという確証はない。
「あんたたちがなぜそこまで頑なにあれを相手にしようとするのかがわからないね。多少荒事が多いのは認めるが、実績だけ見れば、あれはむしろうちら側の人間だろうに。なぜ無理に敵対しようとする?」
と、あるものはそもそもその行為自体を疑った。荒事が多いという事実を認めたうえで、そのうえでその人物がむしろ味方の存在であると認識している。
それをわざわざ敵対するだけの理由が見当たらないのも事実だった。だからこそその行為自体がわからなかったのだ。
そして、その反応はそれを聞いたほとんどのものが示したものだった。多くの者がそもそも敵に回すことそのものを忌避した。
当然といえば当然かもしれない。だがそれでも、それをするだけの理由と意味がある。それを大きな声で言えないことが、今回の問いに対する全員の反応の理由でもあった。
そこで、質問を変えることにした。
「誰なら相手をできるか?本部の人間は無理なんですか?実力的には一番高いと思ってるんですけど?」
最初の男は本部のものこそが適していると考えた。本部には優秀な人材が多くそろっている。
それらが相手にならなければどこの誰でも相手にならないと考えているようだった。
「いやいや、少しは考えてくれ。あの人に敵うものなんているわけないだろう。あの人が戦うところを見たことがあるか?一瞬だぞ?何が起きたかもわからないんだぞ?」
二人目の男はそんな者はいないと断言する。一緒に戦った経験があるからか、その戦い方を間近で見ていたからか、その確信はかなり強い。
だからこそどのような相手も、相手にならないのだと断言できる。
「私の知ってる中ではいないですね。他の支部の強い人とかには聞きました?それでも相手ができるかどうかは微妙ですけど」
その女性は他の支部ならばという考えを出した。だがそれでも確実という表現は使えないようだった。
本部だけではなく、支部にも当然強いものはいる。むしろ支部の一部は突出した実力者を抱え込んでいる。
そういった人材に声をかけるのはやぶさかではないが、間違いなくほかの支部から余計な横やりが入るだろう。
対象は他の支部にもかなり恩を売っている。もちろんその分の被害を出すこともあるが、それは問題なく目を瞑れるレベルなのだ。
「本当に徹底的に敵に回したいんだな・・・何を考えているのか・・・少なくとも、俺の周りにはそんなことができるやつはいない。俺を含めてな。ただ確実に言えるのは、普通に活動している魔術師ではあれには敵わない。それはあんたたちもよくわかっていることでしょうに」
最後の男性は普通の魔術師では少なくとも相手になることはないと断言した。
それは彼の考えか、あるいは経験からか。どちらにせよこのまま普通の魔術師を探しているだけでは目的の人物は見つからないと考えているようだった。
だがそれでもそれをするだけの価値と理由がある。
それは事実だ。それゆえに簡単にあきらめることはできなかった。いや、あきらめるという選択肢そのものが存在しないのだ。
それをやらなければ、未来において取り返しのつかない結果になりかねない。
「だがまぁ・・・それでもなお相手にするだけの人材を探すとすれば、心当たりがないわけでもない」
最後の男性は、その事情をある程度察したのか、ため息交じりにそのことを口にする。
といってもあまり気乗りはしていないようだった。
「一応言っておくが、確実ということは言えないし、何より、これがばれた時、普通に敵に回す以上にあれを怒らせることになるということは理解しておいてくれ。それでもやるだけの意味があるんだろう?」
彼の言葉は本当にいやそうだった。
だがそれでもやる意味が、価値が、理由がある。それゆえに引くことはできなかった。
「そうかい、ならもう何も言わないよ。何がそこまで駆り立てるのかは知らないけど、うまくはいかないと思うがな」
そう言いながらその人物はそれを口にした。それが多大なリスクを擁していることは、すぐに理解できる方法だった。
今日から番外編がスタートです。
これからもお楽しみいただければ幸いです




