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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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欠陥を抱えてなお

本部に戻ってきた康太は、即座に副本部長のもとに足を運んでいた。


「幹部連中はこれで片が付いたということか。さすがに仕事が早いな」


副本部長は報告書を眺めながら感嘆の息をついている。康太の仕事の早さと徹底ぶりにそれ以上の言葉が出ないようだった。


「情報があればこんなもんでしょう。あとは相手が想像以上に油断してたっていうのもある。降伏したんだからこれ以上攻撃されることはないだろうって思ってたんでしょうね」


康太の半ば投げやりな反応に、副本部長は目を細めながら興味なさそうに自分を見つめる康太に目を向けた。


一体何を考えているのか、副本部長には理解できなかった。感動もなく達成感もなく、ただ作業的にこのようなことを繰り返しているように見える。


だがその根底には間違いなく康太の欲望が含まれている。怒りと憎しみによって生まれた欲望だ。

酷く歪み、本来ならば必要な欲望ではない。


「それで、君はこれで満足か?」


そんなことを聞くつもりはなかったのだ、副本部長は聞かずにはいられなかった。未だ未成年の彼がこのようなことをさも当然のように行える。そこに至るまでの感情の変化、そしてたどってきた道筋。それを副本部長は多く知っている。だが完全には知らない。


そこにある何かが今満たされているのかどうか、満たされたのかどうか。


「満足?そんなわけないだろ。まだ連中を倒してない。まだ連中は残ってる。そうだろ?」


「・・・確かに、その通りだ。まだ残っている。無事に生き延びた者もいれば、負傷を負ったものもいるが・・・」


「そいつらも全部だ。あの組織に所属していた連中は全員潰す。異論は言わせないぞ。あんたはそういう約束をしたんだ」


副本部長と康太が結んだ約束は、簡単に言ってしまえば件の組織の構成員を再起不能にすることだった。


康太は実行に移す代わりに、これが本部の意志ではなく、康太自身の意志であることを強調する。


副本部長は康太に実行してもらう代わりに、各構成員の情報をすべて康太に渡していた。


協会と例の組織がしっかりとした約束によって停戦している以上、本部側から手を出すことはできない。そんなことをすれば、今後仮に敵対する組織が出てきたとして、間違いなく相手は降伏などしなくなる。


降伏した後で潰されるのであれば、最後まで戦おうとするだろう。


外聞のためもあるが、そんな中で康太のような我が強く、勝手に動くような魔術師がいると本部としても助かる。


件の組織に恨みを持つ康太が、本部の意向を無視し勝手に動き、組織の構成員すべてを殲滅していく。それが副本部長の用意したストーリーだった。


実際その通りに進み、その通りにうまく話が通っている。


康太は勝手に、本部の意向など気にせずに、得た情報を頼りに構成員を確実につぶしている。時間はかかる。だが情報があるために潰していくのはそこまで苦ではなかった。


先に康太が言ったように、相手が思っていた以上に油断していたというのもある。不意打ちも与えやすいうえに、戦おうとするものはごく少数だった。


「そうか・・・ところでいったいいつまで続けるつもりだ?」


「決まってる。あいつらがすべて滅びるまで。何年だって、何十年だって続けますよ。あいつらはそれだけのことをした」


仮面の奥底で光る康太の瞳は強い憎しみと怒りに包まれていた。仮に相手が命乞いをしたところで康太は止めるつもりはなかった。今までも止めなかった。


何度でも、いつまでも、康太は相手が全員いなくなるまで、これを続けるつもりだった。


「そうか・・・それは・・・」


何と不憫なと言いかけて、副本部長は口をつぐむ。不憫といったのは、康太に粛清されるであろう魔術師たちがではない。目の前にいる、十七歳の少年に対してだった。


この年齢で、すでに怒りに身を任せた。そして自らの激情に逆らうこともなく乗りこなしているように見える。


これほどまでの感情を、これほどまでの強い怒りを完全に制御できている。これほどまでに成長するためにいったいどれほどのものを犠牲にしてきたのか。


人としてあまりにも多くの欠陥を抱えている康太を見ながら、副本部長は小さくため息をついた。


「ではブライトビー、君の幸運を祈っている」


「思ってもないようなことを言いますね。それでは」


そう言って康太は踵を返して副本部長の部屋から出ていこうとする。


扉を開けた向こう側には文と倉敷、そしてアリスの姿があった。


「悪い、待たせた」


「いいわよ。で、また行くの?」


「あぁ、次はスイスだ」


「うっへ、今度はヨーロッパか。遠いな」


「あそこはなかなか良い場所だぞ。帰りに観光でもしていくか?」


扉が閉まるまでの間、副本部長にはそのような声が聞こえていた。ただの少年少女の会話にしか聞こえない、そんな会話に、副本部長は顔をしかめることしかできなかった。


人として大きすぎる欠陥を抱えた魔術師、その周りにいる存在が、あの危うい存在を支えているのだという事実と、それがなくなった時にどうなってしまうのか、それを想像したのである。


「観光っていったってたいてい夜じゃんか。そんなところで行く場所あるのかよ」


「ふふふ、そのあたりは私に任せるがよい。スイスには何度か行ったことがある。住んだこともあるぞ?」


「やっぱりさすがねアリスは。ビーも行くでしょ?」


「・・・あぁ、そうだな」


怒りに身を任せ、思いのままに振る舞う康太と、こうして気心の知れた相手と話す康太。どちらも本物の康太だ。


あまりにも違いすぎる変化に戸惑うこともあるだろうが、彼らは気にしなかった。


門の前に立ち、全員が一息ついた後で、康太は門の向こう側を見る。


「よし、行くぞ」


ブライトビー。魔術師として欠陥を抱えた少年は前へと進む。


これからどれほどの存在が彼の前に立ちふさがろうとも、彼の方針が変わることはない。

自分を不快にさせた者を討ち滅ぼす。


単純明快にして、理不尽なその行動は多くの者を震え上がらせることになる。

どれほどの時間が経とうとも、その方針が変わることはなかった。


八篠康太。人として欠陥を抱えた少年は前へと進む。


どのようなことがあろうとも彼が変わることはない。自分がやりたいことを、やりたいように。それが彼の生き方であり、教わり、学んだことである。


魔術師として、人として、そして、半神として。彼はこれからも生き続ける。

その欠陥こそが、自らの一部であると理解しながら。


メインストーリーはこれにて完結です。


四年近くかかってしまいましたが、これにて完結


明日から番外編を投稿しようと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[一言] メインが終結とのことなので感想。 面白いけど長い?かもしれない(笑) あと、そうかもしれないみたいな消極的否定のセリフが全編に。 説明が多く、途中、セリフ以外飛ばして読んだ部分有り。 まぁ、…
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