その後の
協会が敵拠点や術式の発動点を攻略してから一週間が経過したころ、支部長や春奈の予想通り今回敵対していた組織から降伏の申し入れがあった。
協会側からの提示も、同じように予想通りの全勢力の把握。そして万が一その漏れがあった場合、魔術師としてだけではなく、人としても活動できないようにするというものだった。
さらには二年の魔術師としての活動停止。そしてその期間、本部の人間による監視が行われるという内容だった。
当然、それを断れば完全に滅ぼされるとわかっている相手は拒否することはなかった。協会側としても、相手の勢力が正確に把握できるという機会と、相手がさらなる尻尾を出せば堂々と殺害行為を行うことができるだけの大義名分を得たことで大々的に行動を開始した。
本部だけではなく支部も巻き込んで、得られた情報に加え、降伏した魔術師たちからさらに情報を搾り取り、可能な限り探索を行った。
だが幸か不幸か、相手は本気で降伏をするつもりだったようで、新たに得られた情報はほとんどなかった。
つまり降伏した人間を囮にして本隊が地下に潜むといったことはなかったのである。ここまでしたことにより、協会は敵側の降伏を受け入れた。二年間の魔術師としての活動禁止期間に万が一、魔術師としての活動が見られた場合、即座にその人物を処断するという内容を加え、完全に相手の動きを阻止しようとした。
監視する魔術師も本部の中で特に信頼のおける者たちを選抜した。本部だけで足りない場合は、支部からも何人か選出されている。
こちらも信頼のおける魔術師だけだ。降伏後の対応としては、少々生ぬるいように思えたかもしれないが、今はこれでいいと本部も支部も考えているようである。
それよりも、本部と支部が目を向けているのは相手の方陣術の方である。
星を神へと変化させるための術式。これに連なる術式は、正式に封印指定として登録されることとなった。
予想される被害だけで魔術の露呈が確実となるような術式を放置しているほど本部は寛容ではなかった。
現地にあった術式、そしてそれらを記述した書物、そして作成に携わった者の記憶に至るまですべて消去作業が行われていった。
これが術式における封印指定の処理なのだと、封印指定に対する処理を知らなかった者たちは大きく驚いていた。
敵の存在が判明し、その所在地やどのような人物であるかの調査がすべて終わったのは、敵魔術師組織が降伏してから、約一か月後のことだった。
本部と支部を巻き込んだ調査部隊によって、各人物の背後関係まですべて洗い出し、帳簿にまとめることができた。
各支部の支部長を始め、現地に近い魔術師たちの聞き込みだけではなく、協会全体の問題として立ち回ったからこそ、これだけ早く終わったと思うべきだろう。
もっとも、それでもかなり時間を要してしまったのは間違いない。
すでにあと少しで今年が終わるのではないかと思えるほどまで時は進んでしまっている。
魔術協会が本格的に動いてから、数カ月、初めてそれに近い魔術師に遭遇してから約一年程度で、今回の一連の騒動は表向き解決したことになる。
だが当然、今回の件で大きな軋轢を生んだのも事実だ。
支部からの本部への不信感は未だ高い。これから本部がどのように対応していくかによって、魔術協会の組織体制は大きく変わるだろう。
本部長、並びに副本部長もそのあたりを理解しているからか、各支部への強権を振るうこともかなり控えているようだった。
そしてそれは日本支部にいる康太やアリスなど、本部が目をつけている面倒ごとの種に対しても同じだった。
特に今回康太とアリスの功績はかなり高い。この二人に対して何らかの圧力をかけることは、他支部からもいらぬ横やりを産む可能性があると危惧したのである。
片や封印指定、片や封印指定もどきという二人だが、少なくとも本部からの余計な発言や言いがかりに近いものがなくなっただけましだと考えていた。
魔術協会がこれほど巨大な敵組織と戦ったのはかなり久しぶりのようで、今回のことの顛末は魔術協会の歴史の中に刻まれることとなった。
封印指定の設定に伴い、それらのことの顛末をしっかりと記載し、二度と同じことが起きないようにすることが目的のようである。
それらの記述は本部だけではなく、写本となって各支部にも置かれることとなる。そして、各支部にも、構成員の背後確認という目的で調査をするべきではないのかという声も上がるほどだった。
今回確かに本部の人間の中にスパイを出したが、各支部に所属していたものが主要の構成員だったのは間違いないのだ。
そのため、支部内でも各個人に対する背後確認を行う支部は増えた。
魔術師としての活動内容を主に報告させるようになったといえば聞こえはいいだろう。もっとも何をやっているのか詳細まで報告する義務はない。
何をやっていて、何をやろうとしているのか、誰と行動し、どこで活動しているのか。
そういった魔術師としての行動方針をまとめ、定期的に報告するようにさせた支部が多い。
中には一人一人確認しながら、全員が余計な行動をしていないと証明させるような徹底ぶりを見せる支部もあった。
日本支部はどちらかというと前者に当たる。
大まかでも構わないため、どのような行動をとっているのかを報告させる。その中で怪しい魔術師たちを個別に確認していくという方法をとったのだ。
魔術協会の内側から発生した敵であるために、今後の協会側の体制の変化が問われる結果となったのは間違いない。




