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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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破壊の権化

均衡が崩れる。


土御門の一人がわずかにでも戦闘から離脱した時点で、相手も、そして味方もこのままでは均衡が崩れ、一気に大勢が傾くと判断した。


フォローしようとするも、攻撃の手をやめれば相手にさらなる攻撃を許すことになる。防御の手をやめれば味方に被害が出る。


明が何とか晴の分をフォローしようとするが、それも難しかった。高い威力の攻撃は少しでも後ろに通せばそれだけ大きな被害になる。


どうにもできない、そう思っていた瞬間、晴に襲い掛かろうとしていた魔術師が大きく横に弾き飛ばされた。


一体何が起きたのか、それを判断するよりも早く、晴たちの目の前にその姿が現れた。


「なかなかどうして、頑張りましたね、二人とも」


「・・・ジョアさん・・・!」


何とか立ち上がろうとする晴を見ながら、真理は仮面の下でほほ笑む。


真理もかなりの激戦を行っていたのだろう。外套はところどころ破け、彼女が愛用している三節棍は破損し、もはやただの棒と成り下がっていた。


「これだけの敵を前にあれだけ立ち回ることができるのであれば十分及第点です。あとは経験を積めば一流の魔術師になれるでしょう」


襲い掛かる高威力の魔術を軽くいなしながら、真理は倒れたままの晴にそう語りかける。


均衡が崩れかけている今、この状況で真理がこの場に加わったのは大きい。


だがそれは同時に、先ほどまで真理が攪乱していた分の勢力がこちらにもやってくることを意味していた。


「ジョア、反対側は」


「だいぶぐちゃぐちゃにしてきましたよ。こちらに勢力が集中するには少し猶予があるかと。今の内に正面を削りきってしまいましょう」


真理は反対側からの奇襲で相手の勢力をかなり削り取っていた。そして何人もの被害をだし、なおかつ距離を強引に作ったことでこちらへの合流も少しだけ引き延ばした。


「とはいえ・・・武器はこの有様ですから・・・あぁちょうどいい。この刀、お借りしてもよろしいですか?」


「え?ジョアさんって、刀も使えるんですか?」


「あまり好きではないんですけどね。私は刃物よりも鈍器の方が好みです」


好きではないという言葉に、晴は少し不安に思うが、真理が握った刀を見てすぐにそれが杞憂であるとわかる。


「まずは正面、相手の集中力を削ぎましょうか」


そう言いながら真理は刀を上段に構え意識を集中し始めた。


「合わせてくださいね」


そうつぶやき、振り下ろされた瞬間、相手陣地めがけて拡大動作の魔術により発生した斬撃が襲い掛かる。


相手も攻撃してくるということは読んでいたのだろう。障壁を展開し防御しようとしていたようだが、真理の斬撃を防ぐことはできず、何人かの魔術師が負傷していた。


斬り裂かれた障壁めがけて、射撃系魔術が集中すると、その奥にいた魔術師たちに命中し相手の戦力をかなり削ることに成功していた。


「んー・・・やっぱりしっくりきませんね、斬るのは」


そう言いながらも、真理は次々と相手が展開している障壁を的確に斬り裂いていく。


障壁までの距離を正確に把握し、そして相手の障壁の弱い部分を的確に斬り裂いている。


康太もよく行っていることだ。相手が発動した障壁の弱い部分を見切って攻撃し、障壁を破壊する。真理はそれを拡大動作によって行っているのである。


真理が壊していく障壁に向かって攻撃が集中し、相手への攻撃が通り始めるころには、晴も復活し攻撃に回っていた。


予知によって真理が壊す障壁を的確に把握し、破壊された瞬間に射撃系魔術を叩き込んでいた。


「いいですよ、なかなかいいです。味方との連携こそが戦いにおいて最も重要なことです。よく覚えておいてくださいね」


「はい!援護射撃は任せてください!」


「前方より攻撃!高い密度でジョアさんを狙っています!着弾まで十秒!」


「了解しました、予知があると反応する手間が省けますね。集中力にだいぶ余裕がありますよ。ありがたいことです」


明の予知した通り、襲い掛かる高い密度の攻撃魔術に対し、真理は複数の魔術を同時に発動し、迎撃できるものは斬撃によって迎撃し、打ち落としきれないものに関しては障壁の魔術を発動することで防ぎきっていた。


そして再び相手の防御を崩すために斬撃を繰り出す。


攻撃も防御も意に介さず刀を振るうその姿を見て、多くの者が小百合を彷彿とさせた。中には真理の姿が小百合と重なって見えることすらあった。


それほどに、今の真理の姿は小百合の戦い方そのものだったのだ。


「このまま斬り崩しましょう。大勢は決しましたね」


無理もないだろう。多くの者は、真理は小百合の弟子にされてしまった可哀そうな少女という印象が強い。


その事実も間違っていないのだが、誰もが忘れている、誰もが意識しないようにしてきたもう一つの事実がある。


それは、真理が可能な限り隠してきた、そして可能な限り意識されないようにしてきたことでもある。


真理は、ジョア・T・アモンは小百合の、デブリス・クラリスの一番弟子であるということだ。
















真理たちの攻略点の大勢が決したころ、小百合達の攻略班は相手陣地を攻めきれずにいた。


その理由は単純明快だ。この作戦に参加した多くの魔術師が、小百合を前に出させないようにしていたからである。


小百合が攻撃に参加すれば間違いなく戦いはすぐに終わるだろう。だがその被害は計り知れない。


相手はすでに防御陣地を作成してしまった。真理たちのところと同じように攻略するのは骨が折れるだろう。


このチームには防御専門のアマネがいない。相手の動きを予知してくれる土御門の双子もいない。


攻撃に特化した性能を有した小百合ならばいるが、被害のことを考えて多くの魔術師が邪魔をしようとしてくる。


チームワークの欠片もないような状態だ。


「いつまでかかっているんだ・・・あの程度の防御に」


「お前はそういうがな、あれはなかなかのものだぞ?通常の障壁ではない。しかも何枚も重ねている。回り込んで包囲するか、奇襲でもしないと突破するのは難しいだろう」


「あの程度破るのにそこまで時間は必要ないだろう。支部の人間の質も落ちたものだな」


小百合の悪態を聞いて多くの魔術師が複雑そうな表情をする。確かに小百合からしてみれば破ることは難しくないような障壁ばかりだろう。


だが一般的な魔術師からすればこの障壁は決して脆弱なものではないのだ。単純な攻撃で破るには時間がかかる。


しかも仮に一枚二枚破壊できたとしてもすぐさま次の障壁が展開されるのだ。あれを破り、内部にまで攻撃を届かせるとなるとかなり高威力の攻撃をぶつけるほかない。


あるいは高密度、かつ高威力の射撃攻撃を長時間ぶつけ続ければ相手の防御の展開能力を超えて突破することもできるだろうが、相手からも当然のように攻撃されているのだ。


防御全てを攻撃に回すくらいの胆力がなければ難しい。


だがそれだけの行動をするのは無茶だ。逆にこちらの戦力を削られる結果になってしまうだろう。


「そもそも、私がここに配属になった段階で被害はあいつも想定済みだろう。私が動かないだけの意味が分からん」


「被害を出すとわかりきっている奴の行動を許すほど他の魔術師たちも馬鹿ではないということだ・・・いい加減おとなしくしていろ。苛立つのはわかるが」


小百合は仮面の上からでもわかるほどに苛立っていた。


その体から漏れ出るかのような殺気と怒気のせいで、味方であるはずの協会の魔術師たちがわずかに動きが悪くなるほどである。


「だが、他の攻略点もこんな感じではないのか?相手はしっかりと陣形を組めるだけの訓練を積んでいるように見える。これだけ防御がしっかりしていると、破るのは骨だぞ」


「バカを言え。私の弟子がそれぞれ向かっているんだぞ。もう終わっている。それにジョアの方には土御門の双子に・・・あいつもいるんだ」


「まぁ、アマネがいれば確かに心強いが・・・ビーの方は」


「そっちの方が間違いなく早い。ビーと一緒にアリスがいる。おそらく奇襲も成功させているだろう。こっちよりも、ジョアの方よりも早く終わっているだろうな」


小百合の想定はほぼ当たっていた。康太たちは奇襲を成功させ、真理たちは土御門の双子とアマネの力を最大限発揮させ制圧を順当に成功している。


むしろ最も早く終わると思われていたこの場が未だ終わっていないということが多くの者の予想を裏切っただろう。


「こういう時にヘタレが多いと困る・・・肝心なところで「やはり手を出さないでくれ」などと、ふざけているにもほどがある」


「いや、だが向こうの言い分も正しい。お前が暴れると本当に地形ごと変わってしまう」


「だがこの状況を見ろ、急いで攻略しなければいけないというのにこの体たら」


最後まで言い終えるよりも早く、小百合の顔のすぐそばを敵魔術師が放った射撃系魔術が通り過ぎる。


小百合と春奈の髪を揺らして通り越したその攻撃が、小百合のセリフをさえぎった形となったが、攻撃が自分のところまで飛んできたという事実に春奈は目を見開いた。


障壁の一部が破られている。


地形的な有利を崩すにはやはり高度な防御か、高い威力での攻略以外にできることがない。


どうにか他の方向からの攻撃を加えて相手の意識をそちらにも向けなければ相手を崩すのは難しいだろう。


そんなことを春奈が考え、何とか別動隊で動かせるものはいないかと考えているそのすぐ横を、小百合が通り過ぎた。


「お、おい待て!」


「もう待たん。十分待った、十分すぎるほどに待った・・・!これ以上待つだけの理由が見当たらん・・・!」


小百合は懐から刀を一本抜いてゆっくりと前に出ていく。攻撃と防御に集中している魔術師たちの横をすり抜け、素早く前に移動するその動きを、だれも止められなかった。


素早く、無駄がなく、美しくさえ見えてしまったその動きを追えたのは春奈だけだった。


だが春奈も追いつくことはできていない。攻撃にさらされそうになっている小百合に防御の魔術を展開している周りの魔術師は、小百合がいったい何をしようとしているのか理解できていなかった。


この中で理解できているのは、おそらく春奈だけだろう。


「お前たちは、邪魔だ」


小百合が刀を上段に構え、そして振り下ろす。その瞬間、小百合の刀が眩く輝きだし、次の瞬間破壊が巻き起こった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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