戦局を動かすのは
近づこうとする敵を土御門の双子とアマネのフォローによって対処できていることで、他の魔術師たちの射撃戦はかなり効率よく攻撃ができていた。
数人が回り込もうとしても、それに対して大勢で一気に対処するため、すぐに相手の戦力を削ることにつながる。
相手がこういった状況でも指揮命令系統を維持できていないのは協会側としては僥倖だった。
ある程度どのように動くのかを決めていても、味方との連携がとれていなければ格好の的でしかない。
相手もそれをわかっていても、正面に陣取って乱戦を防ごうとする土御門二人の近接対応が予想以上にレベルが高く、陣形の内部に入ることができずにいた。
だが当然、この状態が続くはずもなかった。
確かに土御門の二人は小百合との訓練によって高い判断能力と回避能力を身に着けた。それは一般的な魔術師のそれを容易に凌駕できるものだ。
だがそれはあくまでこの二人が万全であるからこそ発揮できていることである。多少処理を落としたとはいえ予知を発動し続け、なおかつ実戦での決して短くない時間の継続戦闘、これらが原因ということもあって、二人のパフォーマンスは比較的低下してしまっている。
あとどれくらいこの状態を維持することができるか。周りの魔術師も二人のこの状態がこのまま続くとは思っていなかった。
いつかは一時的にでも休ませなければ、食い破られる。
だが食い破らせるようなことをするほど、真理は甘くはなかった。
正面から突っ込んだ協会の魔術師たちとは真逆の方角から、真理は武器を片手に突っ込み、相手の中で乱戦を行い始めていた。
正面からだけではなく背後からも敵が現れ、しかも高い近接戦能力を持っている魔術師ということもあって、相手は完全にかき回されてしまっていた。
しかも真理の恐ろしいところは、近接戦だけではなく、射撃戦も得意であるということである。
高い魔術師としての素質を前面に押し出した、所謂ごり押しができるため、康太とは違った意味で戦いにくい。
距離を取ろうとしても、真理の射程範囲に入ってしまっている時点で素質差を利用した戦い方をするため、勝ち目が薄くなる。
そうなれば相手は人数を割いて真理に対応しなければならないが、当然そうなれば正面の本隊への対応が疎かになる。
真理からすれば攪乱ができればいい程度の認識だった。倒しきるつもりは最初からなく、あくまで本隊が動きやすくなるようにすることが最大の目的だった。
真理の戦いの中で、最もいやらしく、もっとも相手が嫌がるのは、真理自身が単体で勝てるだけの実力を有していながら、一人で勝とうとしないことだ。
康太が自分の周りを強い人員で固め、仲間内だけ、あるいは単一の戦力のみで勝とうとすることが多いのに対し、真理は徹底して誰かを勝たせるために動くことが多い。
それは真理が長年、目立たないようにしてきたからであり、手柄を譲ることに加え、援護という形で活動していることで周囲の心証をよくするのが目的でもあった。
勝てるのに勝とうとしないということは、当然それだけ無理をしないということでもあり、安定した成果を出すことができるということでもある。
今の土御門の双子のように、無理をして成果を出そうとしないため、高い集中を維持しなくとも対処できてしまうのだ。
「ジョアが動いてるぞ!当てるなよ!うまく相手を外側から削り取っていく!」
真理が相手陣地中央に斬り込んだことを確認して、相手に向けている射撃攻撃の種類や方角を変えていく。
貫通力の高いものから範囲攻撃や、その方向を正面から両翼へと変えたことで、正面への攻撃はやや薄くなるが両側から確実に相手の戦力を削り取ることができ始めていた。
「アマネ、正面からの敵を防げるか?」
「もうやってるよ!けど、さすがに攻撃されっぱなしだと持たないよ?相手が息切れしてくれればいいけど」
「正面からは俺らも防御に回ります!アマネさんも無理しないでください!」
「私たちも防御はお手伝いできます!近づいてこない状況なら防御は任せてください!」
「僕としては君達にも休んでもらいたいんだけどなぁ・・・っと!」
やってきた攻撃に対してアマネは即座に反応して防御用の障壁を展開する。
今まで難なく受け止めていた攻撃が、急に重くなるのをアマネは感じ取っていた。
相手が手数ではなく、一撃重視の攻撃方法にシフトしたのを感じ取り、アマネは作り出す障壁の種類を変えていた。
「ごめん、やっぱり手伝ってくれるかな?ちょっと強めの障壁を張る。その分面積が減るから、うまくフォローして!」
「了解です!行くぞ!」
「合わせる!」
晴の動きに明が合わせる形で攻撃や障壁の展開を行っていく中、相手の攻撃はどんどん重く、なおかつ強くなっていく。
晴と明は素質面では優秀な魔術師だといえるだろう。だがこういった実戦の場では、どうしても経験がものを言う。
そんな中で経験の少ない二人が、いつも通りの障壁を展開できなくても無理はなかった。
重い攻撃を数発受けただけで、二人が展開した障壁は砕けてしまう。
当然砕けたらすぐに張り直すのだが、相手の攻撃密度の方が上回り、わずかに障壁を抜けて攻撃が後方へと通り始めていた。




