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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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二人の成長

もはや相手陣地は目と鼻の先というタイミングで、アリスからの砲撃支援は途絶えていた。


万が一にも味方に当たることを恐れているというのが一つの理由だろう。アリスの腕ならば、この距離だろと精密な射撃、もとい砲撃は可能だろう。間違いなく味方に当てることはないだろうが、アリスは万が一を考えたのだ。そしてもう一つ。そこにいるであろう真理と土御門の双子の動きを考慮したのだ。


土御門の双子は未来を予知することができる。アリスが何も考えずに敵だけを殲滅しようとすれば、当然その着弾点を予知し、味方に教えるだろう。


だが味方に伝えるということは相手にも伝わる可能性があるということだ。自分の攻撃を避けられるというのは、アリスにとってはお世辞でもよい事とは言えなかった。たとえ未来を予知されていたとしても。

だからこそアリスは支援の方法を砲撃から別のものへと切り替えていた。


上空から降り注ぐ雨、その雨の性質が変わり始めていることに、雨を操っていた魔術師と、周囲をしっかりと確認していた魔術師たちは気づいていた。


透明であるはずの雨の色が変化している。僅かに灰色が混ぜられたような、濁った色に変わっているのだ。


その水が服や体を濡らしていくと、徐々にその体が重くなっていく。単なる水ではなく、わずかに鉱石を混ぜた、所謂セメントに近い状態のものを作り出し、それを雨として落としているのだ。


砲撃するよりもずっと手間だ。だが味方と敵が未だはっきりと分かれている状態であれば問題なく相手だけに嫌がらせをすることができる。


服に当たった灰色の雨が徐々に蓄積していき、一定の量がたまると一気に硬質化し、動きを阻害していく。


無論雨が当たっているところは体の一部分であるために全身を固めるということはできないが、すでに衣服の一部と地面の大半は固まってきている。


すぐにこの雨の性質に気付いた一部の魔術師が上空にめがけて薄い障壁を展開するも、正面からそれを確認した協会魔術師たちの射撃系攻撃によって即座に破壊されてしまっていた。


ただでさえ正面からの攻撃を守らなければいけないのに上に意識を向けているだけの余裕はない。


前進を止めようと攻撃しなければいけないというのに、さらに防御に手を回すというのは相手も考えていないようだった。


雨によってぬかるんでいた地面が一気に固まったことによって、半数近いものが足ごと地面に固定されてしまっているようだった。


この状態でこの雨がやみ、乱戦状態に持ち込めばぬかるみなどもなく、固定されることもなく戦えるだろう。


相手だけが確実に嫌がる手法で援護する。さすがはアリスだなと土御門の二人は感心してしまっていた。


「あの雨に当たってはいけません!あれも味方の援護です!」


「泥か・・・?いや別の何かか。急速に固まっているようだな、あれが止んだら一気に斬り込むぞ!乱戦になるかもしれないから注意しろ!」


「雨は後三十秒後に止みます!そのタイミングで攻め込んでください!」


予知によって灰色の雨がいつ止むのかを見計らいながら全員が心の中でカウントダウンし、雨が止んだタイミングで多くの魔術師が跳び上がり一斉に射撃系魔術を叩き込む。


雨に気を取られ、同時に攻撃にも意識を割かれている魔術師たちは、この攻撃に反応しきることができなかった。


相手陣地内に入り込んだことで、地形的な優位はすでになくなった。ここからは魔術師としての地力の勝負になる。


「攻撃を絶やすな!味方にだけは当てるなよ!」


なるべく一方方向からの攻撃だけを心掛け、乱戦にならないように陣形を組んでいるが、相手からすればとにかく乱戦に持ち込みたいと考えているようだった。


陣地を捨ててでも空中に浮遊して多角的な攻撃を仕掛けてきたり、接近戦を試みようと突っ込んでくるものもいた。


相手が突っ込んでくるのを予知した瞬間に、晴と明はそれぞれ刀と槍を装備し、迎撃態勢に移る。


「突っ込んでくる敵は私たちで対処します!皆さんは制圧射撃お願いします!」


「い、いやそれは!誰かフォローを!」


「問題ありません!ただし予知はあんまりできなくなりますんであと頼みます!」


襲い掛かってくる射撃攻撃や近接攻撃を躱しながら、接近しようとしてくる魔術師たちを刀や槍の斬撃、または射撃系攻撃を使って押し戻していく。


予知こそが土御門の、西の魔術の神髄でもある。


だがこの二人に関していえば、それだけではない。


「気付いた?」


「あぁ、すごいな」


二人は改めて実感していた。初めてまともな実戦に、前線に出て初めて分かるその変化に、驚いていた。

相手の攻撃がよく見える。予知を使わずとも、どのように動けば回避できるのかがわかる。万が一に備えて相手の次の動きを予知し、常に先を感じ取りながら動く。そうすることで相手を難なく撃退することができていたのだ。


「あの人に比べると遅すぎるな」


「比べる対象間違ってるんじゃない?」


小百合の攻撃と比べれば、間違いなくこの魔術師たちの攻撃の方が遅い。


小百合の攻撃速度になれてきた二人にとって、通常の魔術師が放つ攻撃などは避けられて当たり前程度の攻撃へと変貌していたのである。


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