支援は彼方から
アマネたちの予想は的中し、前進を始めたとたんに相手からの攻撃は一層激しくなっていた。
こちらを近づけまいとしているのがありありとわかる。貫通力の高い攻撃や、射撃系攻撃の密度が一気に増した。
そのため前進は本当にゆっくりなものだったが、確実に相手にプレッシャーを与えることに成功していた。
このままいけばいずれかは到着することができるだろう。もっともこのまま進んでいたところで恐ろしく時間がかかってしまうために現実的ではない。
真理がどのような動きをするのか、それを考えていた時、土御門の双子が反応して何かの未来を見たことを知らしめていた。
「これって・・・」
「あぁそうだ、あの人が動くぞ」
二人がつぶやいてから数秒後、その言葉を証明するかのように相手の拠点の真上に巨大な火柱が発生する。
上空高くに発生した火柱は直接相手陣地に被害を与えてはいないものの、唐突に現れた直上の炎の柱に相手の多くの魔術師が意識をそちらに向けていた。
「意識を逸らせる作戦か、これを機に一気に攻め込めるかもしれないな。攻撃準備!」
正面だけに意識を向けていた魔術師たちが、今度は上空に意識を向け始めていた。
前だけではなく上からも攻撃があるのではないかと考え、上方向にも意識と防御の人員を割かなければいけなくなる。
正面だけに集中した状態でほぼ拮抗状態が続いていたのに、上空にも意識を割けば当然均衡は保てない。いずれ崩壊するだろう。
相手の意識を複数の箇所に向けることで確実に勝利する手を作る。確かに良い手だ。だが晴と明が予知した未来はそれだけではなかった。
「十五秒後弾着!それを機に攻撃してください!」
「弾着・・・?いったいどういう・・・?」
「来ます!攻撃態勢!」
晴と明の叫びの意味を理解はできていなかったが、多くの魔術師がそのタイミングを見計らい、攻撃ができるだけの態勢を整えていた。
晴と明がカウントダウンし、それがゼロになった瞬間、相手陣地めがけて光る巨大な弾丸が降り注いだ。
強烈な衝撃を伴って直撃したそれが、どこかから飛んできた攻撃の類であると多くの者が理解していた。
「あの攻撃は一体・・・ジョアのものか?」
「いいえ、あれは・・・もっと遠くからきたものです!」
「攻撃続きます!弾着まであと十秒!」
遠くから来たもの。その言葉にあの攻撃を放ったのがいったい誰なのかを多くの者が理解していた。
砲撃くらいはしてやろうというその言葉を多くの者が覚えていたのだ。
アリシア・メリノス。今は離れた場所にいる彼女がこの場所を狙撃、ならぬ砲撃したのだと理解し、多くの者が好機であると感じていた。
先ほどの真理が作り出した火柱が相手の意識を逸らすためのものではなく、アリスへの着弾点の指示だったのである。
真理も何の打ち合わせもなくやったために成功するかは五分五分だったが、アリスはしっかりとその意図を理解し攻撃してくれた。
「相手は崩れています!正面と右側の障壁薄いです!攻撃態勢!」
「よし!相手が立て直す前に畳みかけるぞ!一斉攻撃!」
相手の障壁が弱まっているのを見計らって一斉に攻撃が襲い掛かる。土御門の予知を信じて正面と右側の障壁に射撃を集中した結果、多くの障壁が砕け、相手陣地への被害を拡大化させる。
相手は正面だけではなく、断続的に降り注ぐアリスの砲撃も防ぐために防御の要員を割かなければならなくなり、こちらの攻撃を防ぎきれなくなっていた。
アリスの砲撃自体も、そう簡単に防ぐことができるものではない。一発受け止めるごとに障壁は粉砕され、陣営内部にもその衝撃を伝えていた。
「相手が立て直すまであと一分程度!ここが正念場です!」
「ここが勝負どころだ!一気に攻め落とす!前進しながら攻撃!障壁が破れたところから陣地内への攻撃も行え!相手の数を少しでも減らす!」
こちらの射撃によって障壁が砕け、修復されるよりも早く内部に向けて攻撃を仕掛けていく。拠点攻略のための乱戦に持ち込むよりも早く、相手の頭数を少しでも減らしておきたかった。
乱戦状態になればアリスの砲撃は当てにできない。ここは少しでも相手が混乱しているうちに相手の戦力を削り、乱戦状態における優位性を確保しておかなければならなかった。
何より乱戦になれば土御門の二人の活躍の場はなくなるだろう。個人の戦闘能力ではこの二人はまだまだ未熟だ。
アマネの防御もある一定の範囲内でしか期待はできない。単純な戦闘能力が重要視される中で、個人の実力と仲間の間での連携が求められる中では正直そこまでの効力を発揮するとは思えなかった。
こちらの攻撃が相手の陣地内に届き、アリスの攻撃がさらに内部に直撃し、相手の魔術師は確実にその数を減らしていた。
戦闘不能になるものが多くなり、さらに防御は薄くなっていく。防御が薄くなれば当然攻撃も通りやすくなるという好循環をもたらす中、協会の魔術師たちは確実に前進していた。




