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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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思惑と疑念

相手の使う魔術は今のところ四つ確認できた。


まず一定範囲を燃やす定点発火。そして索敵兼嫌がらせの火焔球体。そして自らの周囲から炎を走らせる魔術に今展開している液体の防壁。


炎の魔術単体でも厄介だったというのにここにきて水の魔術が使えることがわかってしまった。


康太にとっては正直どちらも苦手としている魔術だ。なにせ今覚えている魔術では対応しきれないものなのだから。


康太は基本的に現象系の魔術に苦手意識を持っていた。真理がその魔術を扱っていたからというのもあるが、自分に対応できないというのがはっきりとわかってしまうからである。


例えば水を大量に顕現して康太の周りに集めるだけで康太はほぼ何もできずに敗北するだろう。


なにせ殴っても蹴っても水を破壊することはできないのだから。


もちろん逃げることはできるがそれにだって限度がある。今回の場合で言えば相手の足止めが目的なのだからヒット&アウェイを狙うのが一番いいのだろうが、それをさせてくれるとも思えない。


周囲にある炎の球体のせいでどうしても機動力が削がれる。多少強引に突っ込めば突破できるかもしれないがそれだと相手に位置を確実に捕捉される。そうなれば相手の思うつぼだ。


火と水。一見すれば対極にあるように思える二つの属性だ。火よりも水の方が優位に見えることもあるかもしれない。


だが魔術的な属性は必ずしも水が火に勝つというものではなく、火と水が対極に位置しているというものではない。


魔術における属性はあくまで特定の魔術をより効率的に行うために属性の要素を取り入れたものだ。中には火の属性と似通った水属性の魔術もある。


今康太が相手している魔術師がどの程度の魔術師なのかは知らないが二つの属性を実戦レベルで扱える時点で自分よりもずっと高位の魔術師であることは確定した。だからこそ康太は警戒のレベルを跳ね上げたのだ。


自分より低位の魔術師など数えられる程度しかいないために最初から格上であることを想定して戦っていたとはいえ、今まで以上に慎重に行動するつもりだった。


周囲の炎の球体はまだ動いている。だが先ほどまでの攻防で多少その数を減らし正確な索敵はできていないようだった。康太のことを見失っている可能性もあるために康太は一度魔術師から距離を取ることにした。


相手は康太がいつまで経っても攻めてこないことから自分が水の防壁を解除した瞬間に攻撃を仕掛けてくると読んでいた。その為水の防壁を解除せずにそのまま何とか対応しようと思案を重ねていた。


康太の慎重な立ち回りが相手に深読みさせ、結果的には康太にとってありがたい展開になったのは言うまでもない。


だが今康太が得ているアドバンテージははっきり言ってないに等しかった。


その証拠に康太が先程仕込んだその体へのワイヤーを使った捕縛もすぐに解かれてしまう。当然と言えば当然だ。魔術的な要素によって接着されているならまだしもただ何重にも巻き付いているだけなのだ。頑張れば子供だってほどける。


相手はまだ魔術を隠し持っているはずだ。恐らく水の防壁は緊急対処として行ったものだろうが、それ以外の魔術はほんの小手調べ程度のものでしかないはず。


対して康太は自らがもっている三つの魔術の内すでに一つを見せてしまっている。


それだけで対処できるかどうかはさておき、分解と再現の魔術は可能な限り隠しておきたい。


もっともそれが通じる相手ではないのはわかっていた。


何よりこの状況では分解の魔術ははっきり言って意味をなさない。相手が着ている服を分解すれば嫌がらせ程度にはなるかもしれないがそれ以上の効果は得られないだろう。


そして再現の魔術はここぞという時以外は使いたくない。


なにせあれは使えば十中八九見破られるようなタイプの魔術であるからだ。


小百合に言わせるともっとばれないように工夫して使えばいいのだという事だったが、康太はまだそのあたりの応用が非常に不得手だった。


魔術を良くも悪くも愚直に使う。その為康太がどのような魔術を使っているのかが分かりやすいのだ。


それなりに経験を積んだ魔術師であれば先程までの康太の使った攻撃が一体なんであるかをほぼ正確に把握することができるだろう。


事実今相対している魔術師も先程までの康太の攻撃が何らかの方法で物体に力を加えているものであるというのを察していた。


そしてそれが事前準備の類が必要なものであるという事も、正確に、そして思うように操るということができないという類のものであるという事も。


だがだからこそ、ある程度経験を積んだ魔術師であるからこそ康太のその愚直な魔術の使い方がまるで自分を誘っているように見えたのだ。


康太の未熟さ極まるその動きが、演技のそれであるかのような錯覚を覚えているのである。


そして康太がまだ一つの魔術しかまともに見せていないというのも理由の一つだ。一つの魔術を囮、あるいは最初から見せるつもりで使う魔術師は多い。


その魔術を攻略した隙を狙うものもまた然りだ。


康太の攻撃手段は今のところ物理的な手段のみ。水の防御魔術を使えば完封とまではいかずともある程度防ぐことは容易だ。しかも康太は先程までほぼ逃げの態勢だった。苦し紛れに行った攻撃が防御を誘発させただけである。


だがだからこそ、相手にしてみれば優位すぎる状況だからこそ余計に康太への疑念が尽きないのだ。


自分を油断させてその隙を突こうとしている。今の康太の動きが相手にとってはそう言う風に見えているのである。


相手が勝手に迷ってくれれば迷ってくれるほど康太にとってはありがたい。なにせそれだけ時間を稼ぐことができるのだから。


魔術の連発は可能な限り避けたいが状況によってはそうも言っていられない。今康太がするべきはあくまで足止め。時間制限いっぱいまで相手をこの場に留めればいいのだ。自分の魔力が尽きようと相手をここに押しとどめることができれば最高の結果と言えるだろう。


可能ならずっとこうして待っていてくれたらと思うのだが、相手だっていつまでもあのように水の防壁の内側に引きこもっているわけにはいかないことくらいはわかっている。


なにせこの場で戦っているのが一人だとはいえ援軍が来ないとも限らないのだ。


先程までカーチェイスをしていた小百合がこの場に来ないとも限らない。向こうからすれば少しでも早くこの場から離脱したいだろう。


近くにいる康太が何をするかわからないというのは相手にとっても不気味ではあるがいつまでもこの状況を維持していては自分が不利になっていくばかり。


一種の賭けに出てでもこの状況を打破しなければならないと水の防壁の中にいる魔術師は考えていた。


そして康太も大まかながらその考えを読んでいた。と言っても康太が理解できたのは相手としてはこちらの様子を窺いながらも早急にこの場から逃げたいだろうという事だけだ。相手がなぜ自分に対してこれほどの警戒を見せているのか、そしてなぜこの状況から動かないのか、そこまでは理解できていない。


だがそれでも相手がこのままでいるはずがないというのはわかっていた。


次の瞬間、様子を窺っていた康太はその変化に気付けた。いやその場に他の誰かがいたらだれでもその変化を目にすることができただろう。


水の防壁の周辺に炎が顕現し始めているのである。それは防壁を囲むようにさらに膜を作り、その膜から七つほどの鞭のようにしなる炎が作り出されていた。


その形状から、あれが攻撃に使うものであるというのは容易に想像できた。何故なら炎の鞭は勢い良く振り回され周囲に熱気を振りまいていたからである。


あれに当たったら先程までのような軽傷では済まされないだろうなという事を考えながら康太は眉をひそめていた。


先程までの索敵による警戒や小手調べの攻撃とはわけが違う。明らかに攻撃に特化した魔術であるのは見ていてもすぐにわかる。


康太は魔術の準備をしながら周囲の確認をしていた。


あの場に動かない状態であの魔術を発動したという事はこちらの攻撃に脅威を感じながらも早々に決着をつけたいという心の表れだろう。


相手にだって予定があるのだ、これ以上長引かせるのは相手の本意ではないというのは康太も理解していた。


だがだからと言ってはいそうですかというわけにはいかない。相手が本気で康太を潰しに来ているのであれば康太だって今まで以上に警戒し、なおかつこの場で足止めするつもりでいた。


相手はその場を動かずに防御と攻撃を同時にこなしている。あれが以前のような氷の塊だったらどれだけよかったことかと康太はため息をつく。


氷の物理的な防御であればまだ蓄積の魔術を使って破壊できる。だがあの場には炎と水のそれぞれの膜ができている。


炎は康太の肉体的接触を拒み、水は飛び道具による物理的な攻撃を阻む。


弱点も多くどちらも完璧とは言い難いが康太にとってはかなりの難関だった。少なくとも今持っている魔術であれを攻略しようと思うとかなり苦労するのは目に見えているだろう。


だがやらないわけにはいかない。相手が引きこもっているからと言ってこちらまで引きこもっていては相手に移動させるだけの余裕を作ってしまう。


相手が次の段階に進んだのであれば康太もそれ相応の対応をしなければならない。


相手にまだ康太が脅威であると思わせながら、あの状態に対して対応するのが今できる康太のベストだ。


無論康太だって何もしていなかったわけではない。もし相手が動いてもいいようにある程度準備は進めていたのである。


そしてその仕上げはもう少しかかるだろう。


康太は魔術を使って空中を跳びまわりながらわざと周囲に展開している火球を消しながらその周囲を縦横無尽に駆けていった。


康太が火球を消すたびに、炎の鞭が康太めがけて襲い掛かるがそのあたりは定点発火に似ている。精密な索敵ができないためにかなり大雑把な攻撃になってしまっていた。


そして鞭の動きもかなり遅かった。恐らくかなりの範囲をカバーする代わりにその攻撃速度を犠牲にしているのだろう。


攻撃精度とその速度の低さ。この二つは康太にとってはありがたかった。


そして自分の動きをしっかりと火球を壊すことで追わせる中、康太は先程まで用意していた仕掛けに加えてもう一つ、あることをする。


それは単純でありながら多少面倒なものだった。特に今まで康太はそんなことはやったことがないためにできるとも思っていなかった。


だがやるしかない。今あの場にある攻防一体の状態を打ち破るために自分ができる攻撃はこれくらいなのだ。


康太は一通りの準備を終えると大きく息を吸い込む。


これが失敗したら師匠にどやされるだろうなと思いながら康太は槍を構えてゆっくりと近くにある木の枝に着地していた。


そして木の枝を剪定するかのように切り落とし、地面に落としていく。


足場にした木だけではなく周囲の木々も同じように移動してからその枝葉を落していく。


その行動に一体何の意味があるのか、魔術師は図りかねていた。


山火事でも狙っているのだろうかと思いやや火力を変化させたが康太の目的は山火事などではない。


そのことに気付くのはもう少し後の事である。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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