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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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その目を向けた先に

『降下ポイントまであと十分、全員降下準備に入ってくれ』


康太たちが乗る飛行機は目的の場所にたどり着こうとしていた。


出発の時よりも振動が大きく、振動による騒音が多くなっているのは天候が悪いからだろうとほとんどのものが察しはついていた。


「外は嵐みたいだな」


「こちらの接近に気付いて天候を変えたのか、あるいは単純に今日この時に嵐になってしまっただけの話か・・・どちらにせよこちらからすれば想定通りといったところか・・・ベル、準備は万全かの?」


「大丈夫よ。降りながら確認する。トゥトゥ、緊張してない?」


「あぁ平気だ。嵐の中で戦うってのも初めてじゃないしな。というか雨が降っててくれたほうがこっちとしてはやりやすい」


「頼もしいことで・・・こっちからすれば威力減衰するからちょっとやりにくいんだよなぁ・・・電撃も出しにくくなるし」


雨の中で戦い続けるというのは属性によっては不利になることもある。倉敷のように水を媒介にして戦っている者であればむしろ有利に働くが、炎や電撃といった属性を使用する康太からすれば少々この雨と嵐は不利な方向に働きそうだった。


「あの状態になるのは控えたほうがいいかもしれないわね。電撃がどういう方向に飛ぶか分かったもんじゃないわ」


「そうだな。まぁ最低限の発動程度にするさ。あとは相手がどう出てくるかだな」


「広範囲に広がってこっちは展開するわ。それを防ごうとするなら同じように広範囲に展開するか、あるいは防衛網を縮めるかの二択になるわね」


「俺ならどんな敵がいるかもわからないのに広範囲に展開はしたくねえな。戦力集中して守りに入りたいところだけど」


「相手がそれを許容するかはわからんな。相手にとって守るべき牙城こそ、相手のもっとも重要な心臓部の一つだ。あまり敵を近づけたくないという心理が働く可能性は高いの」


相手の出方が今のところ不明である以上、どのように対応されても対応できるようにしておきたいところである。


「障壁を展開される可能性もあるが、そのあたりはどうする?」


「広範囲に展開された障壁程度すぐに破れる。問題は相手が防御一辺倒に回った時だな。時間稼ぎで十分ってなったら時間がない証拠だ」


こちらを倒さずとも、少しの間時間を稼ぎさえすれば問題なく発動ができるような状況になってしまっていた場合、もっとも康太たちにとってはうれしくない状況といえるだろう。


相手が焦っていない状況こそ、こちらが焦る状況でもあるのだ。この状況で相手に精神的な優位性を与えるのはあまり好ましくはない。


「アリス、今のところ現地の状況ってわかるか?まだ距離あるみたいだけど」


「ん・・・集中すればわかるぞ・・・少なくとも障壁の類は展開されてはいない。防衛陣地のようなものもないな」


「そうか。守りに入るか攻めてくるか・・・後者だとありがたいんだけどな」


「攻撃してくる隙に攻められるからな。押し流せば相手の戦力も結構削れる。俺らは一点突破で中央を目指すのか?」


「一応な。アリス、今回は戦闘に参加するってことでいいのか?」


「んー・・・正直迷ってはいるが・・・そうだの。援護射撃くらいはしてやろう。いや、援護砲撃というべきか。相手の拠点に残っている者たちを牽制し続けてやろうではないか。その程度はできる」


アリスの攻撃の射程距離がどの程度なのかはわからないが、少なくともキロ単位で攻撃が届くのは間違いないだろう。


康太たちがたどり着くまでに相手の動きを抑制するという意味でも長距離攻撃ができるものがいるというのは非常にありがたい。


「アリス、まだ使わないわよね?」


「試運転もしたいところだが・・・それはやめておいたほうがいいかもしれんの。少なくともあの魔術はベルにも負担が大きい。本当に必要な場面で使えないなんてことになるのはやめておいたほうがいい」


「温存ね。わかったわ」


「ベルが習った魔術ってそんなにやばいのか?」


「やばいっていうか・・・疲れるわ。私が全力で魔術を放って、それをかなり精密にコントロールしなきゃいけないからね。アリスがこういうのを当たり前にやってるっていうのは私からすれば頭おかしいんじゃないのって感じよ」


「失敬な。お前も私程度の年齢になれば指先一つでそういった魔術を使えるようになる。要は経験と努力の差だ」


文がアリスほどに長生きをすれば、確かに使えるようになるのかもしれない。文は天才というにふさわしい魔術師だ。それはアリスも認めるところである。


同じ年齢、同じ年月を魔術に注ぎ込めばきっと文は自分と同じところに立てるとアリスは確信しているようだった。


『減圧完了、降下一分前。各員準備はできているな。これよりハッチを解放する』


そう言ってゆっくりと後方のハッチが開放される。僅かに空気が外に流れる中、全員がそれを見た。


外の景色はやはりというべきか、嵐だった。重苦しい雲が強い風と雨、そして雷を発生させている。


「よくこんな状況で飛べてるな」


「魔術で多少は防御しているんだろう。だがまぁ、それもこれが限界といったところか」


すでに振動も騒音もかなりのものになっている。これ以上嵐の中心に進むのは無謀と言わざるを得ない。


『降下十秒前。幸運を祈る』


カウントがゼロになるのと同時に全員が飛行機から降下していく。その場所へ向けて。


風が周囲の音を奪い、雷が光を放つ中、真っ先に動いたのはアリスだった。


周りの魔術師たちが落下しながら風に流される中、アリスは姿勢を正しく制御しながら一点のみを見つめ、その方向に煌々と輝く光の弾を射出する。


それが目印のような役割を示していると、その光を見ているほとんどのものが理解していた。だがそれだけで終わるアリスではない。その光は康太たちの方角からは一定量の光量しかないものの、地表部分からはまるで直接太陽をその場に顕現させたかのような圧倒的な光を生み出していた。


熱量こそないものの、それのおかげで上空の康太たちの姿は完全に隠れてしまう。目視では捕捉不可能。そのため索敵による捕捉が求められるが、康太たちは未だ上空にいるためにその場所を確認することもできない。


相手の位置もわからない、そして位置だけは把握され、なおかつこれから攻撃を受けることがほぼ確定的。


そういった状況で相手がとる手段は限られていた。


相手がとったのは上空への射撃系攻撃の乱射と、自らの陣営を構築し防御を固めること。


地表部分は地面の形を変えることで塹壕と防壁を、上空へは幾枚もの障壁と射撃系攻撃で牽制を行っていた。


「ビー、ベル、トゥトゥ、道は作ってやったぞ。あとはお前たちの出番だ」


康太たちの耳に届くアリスの言葉に、三人はそれぞれ動き出していた。


まず先行したのは康太だ。周りの魔術師たちが未だ姿勢制御に追われている中、康太はまっすぐに、噴出の魔術を使ってアリスの放った光めがけて加速する。


障壁が目に入ると同時に、ウィルの鎧をわずかに変化させ巨大な槍へと変えると障壁の弱い部分を見極めて容易く砕いて突破して見せた。


そして康太が動いたのと同時に術式を発動していたのは倉敷だ。空中に存在する大量の水分を一点に集中、自らも大量の水を顕現させそれらを一気に操っていく。


康太がぶち抜いた障壁の穴めがけて、大量の水を龍の如く襲い掛からせていく。


康太の開けた穴を通って大量の水が降り注ぎ、障壁と防壁の内側に大量の水が流れ込んでいく。


そして倉敷に合わせるように文は準備していた術式を発動させる。


上空に存在する雷雲を利用し、自らが作り出せる最大限の威力の電撃を作り出すと、倉敷の水が敵陣地に襲い掛かると同時に地表に向けて放った。


倉敷の水を伝って襲い掛かる電撃を多くの者がその身に受けていた。雷雲によって増幅された強烈な電撃を受け、多くの者が意識を失い、水の中に沈んでいく。


とっさに水を回避した魔術師たちは、上空から敵がやってきているということに気付き、即座に迎撃態勢を整えようとするが、すでに遅かった。


康太は障壁の内側にすでに侵入しているのだ。


康太の放つ炸裂鉄球と蓄熱と熱量転化の魔術のコンボによって、上空の障壁はほぼ完璧に破壊されていく。


外からではなく内側から破壊されたとほとんどのものは理解できなかっただろう。そしてようやく姿勢制御を終え、多くの魔術師が砕かれた障壁を超えて術式が記された場所へと降下しながら攻撃を開始していく。


もちろん倉敷の水と文の電撃を回避した魔術師たちは反撃に出る。射撃系魔術を駆使して襲い掛かる魔術師たちを打ち落とそうとし、障壁を再度展開しようと集中する。


そして、全員の意識が上に向いているところで、すでに地表にたどり着いていた康太が襲い掛かった。


高所から襲い掛かる魔術師を捕捉しようと、地表部分の索敵を疎かにしていたからか、あるいは味方と敵の区別が明確にできていないからか、康太に気付いた魔術師はかなり限られていた。


そしてそんな察しのいい魔術師から順に、康太の攻撃によって沈んでいく。


一体何が起きたのか、そういった魔術師は理解すらできなかっただろう。


何かがいる。


索敵によってそれを理解し、その場を向いた瞬間目に入ったのは、赤黒い何かだった。


触手のようなものを生やし、炎を噴出する刃のような何かを持っているそれが人間であると認識できたものは、察しの良いものの中でもさらにごく少数だ。


襲い掛かってくるその姿は人間のそれではない。ほとんどのものはこの場に化け物が現れたと認識したことだろう。


そんな康太の攻撃はほとんど一撃で魔術師たちの意識を刈り取っていた。


康太の方に意識を向けられない魔術師たちを横目に見ながら、康太は自分に視線を向ける魔術師へと襲い掛かっていた。


認識すると同時にどうしても人間はそれを確認しようと目を向けてしまう。


その動作こそ致命的だった。


視線を感じ取ることが出来る康太にとって、誰かに認識され、なおかつ目視されるということは相手の位置を察知出来るということに等しい。


一人、また一人と減るたびに康太の存在に気付く魔術師が増えてくる。


協会の魔術師たちが地表へ何人も降り立ってくると、およそほとんどのものが康太の存在に気付き、一度は視線を向けていた。


「よし、いっちょ目立つか」


康太はそういうとやや上空へと移動し全員の視線に収まるような形になると同時に神化状態へと変化する。


強力な光が周囲に降り注ぐ中、多くの者がその姿を目に焼き付けた。


頭部から二枚、背中から二枚の羽が生えたように見えるその姿。四枚羽。日本支部の魔術師の多くが見たその姿は、まさに人ならざる者の姿だった。


そして康太に気を取られている間に、多くの支部の魔術師の攻撃が命中し、一人、また一人と脱落していく。


強い光と存在感を見せつけることで囮としても役に立てるのだなと、康太は笑いながら再び地面へと着地し、攻撃を開始する。


そのころには文も倉敷も地表で合流し、文字通り殲滅が始まっていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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