成長に必要なもの
「ていうか、お前人の心配するだけの余裕は出てきたんだな。前は自分のことで手一杯だったっていうのに」
「その原因のお前が言うか。もうちょっとやそっとのことじゃ驚かねえよ・・・主にお前のせいで」
「そこは俺のおかげというべきではないかねトゥトゥ君?」
「絶対にお前のおかげとか言いたくねぇわ。言うとしてもエアリスさんのおかげだわ」
倉敷のような精霊術師がここまでの実力と自信を持つことができるようになったきっかけは間違いなく康太だ。
だが倉敷からすれば康太のおかげとは口が裂けても言いたくなかった。言うとしても康太のせいという表現を使いたかった。
振り回され続けたのが原因とはいえ、魔術師を相手にしても怯まなくなったというのはかなり大きい。
今まで何度も康太たちに連れまわされたのが原因とはいえ、訓練と実戦の繰り返しにより装備も実力も初期の頃とは比べ物にならないほどに充実している。
「まぁ、師匠の訓練っていうか指導は、主に術式をうまく使うためのものだものね。そういう訓練とそれを実用的に使うための戦闘訓練と実戦を繰り返していれば、確かに強くなるわよ」
それは文自身が体験したことでもあった。
春奈のところで訓練した十年近くよりも、康太と会ってからの一年ちょっとの時間の方が自分の力が増していくのを感じていたのだ。
春奈のところでは術式をうまく扱うことしかしてこなかった。応用や緻密なコントロールを主にやっていたために、実戦での実用的な使い方に関してはあまり学んでこなかった。
康太と一緒に行動することで、実用的な使い方と戦闘における試行錯誤を繰り返したことによって文もまた実力をつけ続けている。
「二人はエアリスさんにちゃんと指導してもらってるじゃん?俺もたまに指導してもらってるけどさ、そんなにしっかり教えてくれるのか?」
「少なくともあんたのところの師匠よりはずっとしっかり教えてくれるわよ。術式の扱い方に関しての話だけどね」
「お前のとこの師匠教えるっていうか戦うことしかしてないだろ。指導の仕方がそもそも違う」
小百合は春奈とは全く違う指導方法をしている。春奈が術式の扱い方に重点を置いているのに対して、小百合はとにかく戦闘における立ち回りや使い方に重点を置いている。
最低限の使い方と、意識をほかのところに向けていても問題なく魔術を扱えるようにしてからはとにかく実戦に近い形で体を動かしながらの魔術発動を行わせ、同時に実用的な魔術の扱い方を覚えさせていく。
そのため魔術の扱い方は春奈が教えるそれのような応用や緻密なそれではなく、大雑把でも実戦で使える、完全に実用的な扱い方になってしまっているのだ。
そのため、というべきかどうかは適切ではないが、康太の扱う再現の魔術、これも場合によっては全く違う使い方ができる。
康太は拳やナイフや槍の投擲、疑似的な足場などといった使い方をしているが、使い方によっては複数の道具を一度に扱ったり、複数の違う動きを同時に行うための魔術となり得る。
無論自分の手の届く範囲などに限定されるし、発動条件も限られるが、何も魔術の使用方法というのは戦闘に限った話ではないのだ。
小百合の弟子となってしまった弊害とでもいえばよいのか、魔術というものを戦闘のための手段としか見られていない。
魔術というのは本来戦いだけではなくもっと別の部分にも使える技術なのだ。康太はそれを根本的な部分で理解できていない。
春奈はそういった部分も少しずつ確実に、その人物の根底に教え込むようにしっかりと指導するために時間がかかる。だがしっかりとした魔術師の常識と感性を培うことができる。
小百合はそういったことをすべて無視しているため、魔術師としての常識も感性も、魔術の扱い方も何もかも戦うということだけに費やしてしまう。
そうすることで康太のような欠陥の多い魔術師が出来上がってしまうのだ。
真理などは子供のころから多くの魔術師に指導され、なおかつ多くの魔術師と接してきたために比較的魔術師の常識というものを身に着けやすい環境にあった。
だが康太はある程度常識が形成された状態で小百合に会ってしまったために、小百合という魔術師が魔術師の原点になってしまったのだ。
間違いではないかもしれないが、決定的にどこかずれた感覚になってしまっているのである。
そういう意味では春奈の指導方法は非常に的確だ。幼い時には常識と魔術の扱い方を。卒業間近になった段階で小百合のように実戦的な魔術師のもとで実戦と戦闘訓練を積ませて戦闘能力と実戦に対する耐性と自信をつけさせる。
おそらく一人の魔術師を一人前にするにあたり、最適解といえるのではないかと思えるレベルの指導手順だ。
小百合では決して真似できない方法である。
「ジョアさんは結構いろいろできるのにね。あの人はまた年季が違うから仕方がないか」
「姉さんと俺を一緒にするなよな。ただでさえあの人才能の塊なんだからさ」
「そういえばジョアさんって今土御門の二人と一緒にいたよな?大丈夫かねあっちは」
「それこそ師匠たち以上に大丈夫だろ。姉さんに加えて予知ができる二人がついてれば問題が起きることの方が難しいって」
「こっちのチームにアマネさんっていなかったわよね?ってことはジョアさんのところか師匠たちのところにいるってことよね?」
「さてどっちにいるやら・・・アマネさんがいた場合、師匠の方は地獄だな」
攻撃、防御の両方が最高レベルに達することになるが、実際どうなるかは康太たちはわかっていなかった。




