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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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不安しかないチームメイト

「あと各班の班長にこれを渡しておく。本部や支部と通話できる通信機だ。これも衛星通信を使っているから密林でも使えるよ。状況報告の時に使ってくれ。こちらへの連絡用に一つ、各班の相互間への連絡で一つ渡しておくよ。近くに配置されている班とチャンネルを合わせておいてほしいな」


そう言って取り出した無線機をそれぞれ確認し、近くで活動することになる班はそれぞれ周波数を合わせていた。


運搬班や包囲などに関わる班の人間は各位置に配置される班の周波数をそれぞれ確認し、記録していく。


これでどの班からどのような連絡があったのかを確認することができるようになる。統一のチャンネルを確認すればそれぞれの情報を相互に確認できる。これは時間の勝負になる今回の作戦においては非常に重要なことだった。


「これも本部からの出資で用意したものだから破損なんかは気にしなくていいよ。もちろん壊さないに越したことはないけれど、戦闘班の人間はそういうことは気にしてたら仕事ができないからね」


そう言いながら支部長は小百合の方に視線を向けた後で康太の方にも視線を向ける。


康太のような戦い方をする人間に精密機器を持たせる時点でいろいろと間違っているのだ。


そのため多少なりとも安定した場所にいる人間がこれを持つべきだろう。班長かどうかではなくそちらの方が重要な点になりそうだった。


「支部長、この機材は防水か?」


「一応ね。けどあまりにも水に長時間沈めすぎるとさすがに壊れるかもしれないから、雨に濡れる程度にしてくれるといいかもしれない」


「了解。あまり無茶はしないようにしよう」


最近の機械では防水加工も珍しくはないが、それでも長時間水に浸し続ければどのような結果を及ぼすのかは想像に難くない。


防水加工をしていても精密機械であることに変わりはないのだ。ちょっとした隙間から水が入って回路まで浸水してしまえば当然機械は使えなくなる。


ほとんどの魔術師は無線機や位置座標を確認できる機械の操作法を確認しながらあぁでもないこうでもないと話し合っていた。


それぞれが地図とにらめっこし、他の班の人間ともコミュニケーションをとっている。


「ところで支部長、今回の戦闘、日本支部は四つの場所を攻略するわけだが、その・・・一番槍は誰が?」


一番槍、それは各点における最初に斬り込む役割を担っているものだ。戦闘班の間ではそう言った話し合いはされなかった。何せ各自が各自の考えのもと行動したほうがいいと、それぞれが考えていたからである。


だがこうして小百合や康太、真理などがいる状況を鑑みて、一番槍をだれがやるべきなのか決めておかないと味方にも被害が出ると考えたのだろう。


その考えは正しい。なにせ万が一小百合が暴走すれば間違いなく身内にも被害が出ることになる。


それを危惧することができるのは危機意識がしっかりしている証拠だ。日本支部にいる魔術師たちはそういった危険に常に晒されているためにそういった部分が鋭敏になっているのかもしれない。


「んー・・・そうだねぇ・・・相手の発動点に関してはアリシア・メリノスに突入方法を一任してるからそのあたりを確認しておくけど、他の各点における一番槍に関しては特に考えなくてもいいと思ってるよ」


「だが、それでは危険では?その・・・味方同士の攻撃で負傷者が出る可能性が」


「そういう場合のための無線機さ。互いに情報を交換してだれが一番にたどり着けるかとかそういうのを確認しながら行動してほしいんだよ。何せここで一番槍を決めたところで、その班が現地に到着できるまでただ待ってるなんて無駄すぎるでしょう?」


現地への移動方法は班ごとに違う。もちろん同じ班もあるがすべての班が同じ移動手段をとることはできないのだ。


そういった場合、どうしても班の到着時間に誤差が出てくることがある。日本支部の人間からすれば、なるべく小百合よりも先に戦闘を行いたくないというのがあるのだろう。広範囲にわたる高威力の攻撃をその身に受ける可能性があるのだから。


だが支部長の言い分も間違っているわけではない。一分一秒を争う状況下でそういったことを気にしているような状況ではないのは重々承知している。


自分の身の安全は大事だが、それと同じくらい世界の危機も重要なのだ。魔術の露呈を避けるためにもやはり泣き言は言っていられない。


「もちろん君たちの危惧もわかるよ。よし分かった。クラリス、いいかな?」


「なんだ」


「もし君が広範囲にわたる攻撃をするときは一言無線で周辺の人間に伝えてくれないかな?これから攻撃するぞ的な感じで」


「なんで私がそんなことを」


「だって君基本的に自分で考えた時に即行動するじゃないか。他の人間にそういうのを感知しろっていうのが無理なんだよ。だから頼むよ。可哀そうな人間を増やさないためにも一応一言言っておいてくれないかな?」


支部長の言葉は至極真っ当だ。何も反論の余地などないように思えるが、それでも小百合はものすごく嫌そうにしていた。


仮面越しでもわかるその不機嫌そうなオーラに康太と真理は緊張を強めていた。


「なら、私が代行しよう。こいつの動きは多少はわかる」


「エアリス、頼めるかい?やっぱり君と一緒にしてよかった」


「・・・ものすごく不本意ではあるがな・・・こいつの無茶はいつものことだ」


「お前の方が無茶苦茶をしていたくせによく言う・・・」


「私は常識の範囲内でやっている。お前と一緒にするな」


小百合と春奈がにらみ合う中、康太と文が二人を引きはがす。こんなところで争う状況でもないというのにこの二人はいつも通りだった。


「あの師匠、大丈夫なんですか?現地に移動してるときにエアリスさんと喧嘩しないでくださいよ?」


「それは向こうの態度次第だ。私は売られた喧嘩は買うぞ」


「いつも喧嘩売ってるの師匠じゃないですか。毎回毎回挑発して。エアリスさんに申し訳ないです」


「お前らはいったい誰の味方だ」


「師匠以外の味方です」


「師匠よりはエアリスさんの味方ですね」


「この馬鹿弟子どもが・・・!」


康太と真理の発言に小百合は怒りを覚えているようだが、同時にもはやあきらめの境地に達しているようだった。


いつも通りと言えなくもない師弟の会話に、文は苦笑し、春奈は普通に笑っていた。


「ざまぁないな。人望がないと弟子にすらそのような態度を取られるんだ。これを機にもう少しいろいろと改めたらどうだ?」


「黙れ。お前のように人にいい顔をするようなやつに言われたくはない。性根は腐りきっているくせに猫かぶりだけは昔からうまいな」


「性根から外聞まですべて腐りきっているよりはずっとましだ。せめて弟子には味方をしてもらわなければいけないというのに情けない」


「余計なお世話だ。お前の弟子もそれなりに世話をしてやっているというのにその言い草はなんだ。自分の師としての未熟さを露呈しているようなものだぞ」


「こちらはこちらの育成プランというものがあるんだ。私はお前を利用させてもらっているだけの話だ。利用されるのは嫌いか?いつもいいように動かされているくせに」


「こっちが動いてやっているだけだ。勝手にしてもいいというのならばいつでも勝手にしてやるぞ」


今回一緒に動くということになっているからか、いつも以上に口数が多い小百合と春奈の間に割って入るようにして康太と文が二人を引き離す。


「ちょっとビー、これ大丈夫なの?行きの飛行機でもうかなり激しい乱闘が起きそうな感じなんだけど」


「ちょっとまずいかな。師匠、エアリスさん、もうお二人ともいい大人なんですからもうちょっと我慢しててくださいよ。口喧嘩で殺気振りまかないでください。周りの人達ドン引きですよ」


仲が悪いというのは知っていたし、今までも顔を合わせればそのたびに口喧嘩をしている二人だ。こうなることは半ば予想できていたとはいえ、このままでは間違いなく現地に到着する前に本格的な喧嘩に発展する。


ただの殴り合いの喧嘩ならまだいいが、この二人が魔術まで使用し始めたら間違いなく飛行機は墜落するだろう。


こんな状態で二人きりにするのは危険すぎる。


「というか師匠、なんでクラリスさんをそんなに毛嫌いするんですか。昔からの仲なんでしょう?」


「お前には解るまいよ。この我儘女と一緒にいるとどういう目に遭うのか。いったい何度命の危機に瀕したかわからん」


「師匠も、エアリスさんを威嚇するのやめてください。顔合わせただけでなんでそんなに喧嘩するんですか」


「こいつと同じ空間にいるのも虫唾が走る。第一、なんで私とこいつが一緒に行動しなければいけないんだ」


小百合の疑問はもっともなのだが、それがおそらくは支部長なりの嫌がらせの結果だということは何となく康太も察しがついていた。


とはいえ、小百合と春奈が一緒に行動しているときは小百合の攻撃力が最大になるという話を以前聞いたことがある。


そういう意味では小百合たちがいる班が最も高い攻撃力を保有することにもなる。


投入する場所を調査した結果、小百合たちをその場所に送り込むことにしたのか、それとも小百合たちを一緒に行かせるということを決めてから今回の場所に送り込むようにしたのか、どちらなのかは康太には分らないことだったが。


「支部長からも何とか言ってくださいよ。このままじゃ飛行機墜落待ったなしですよ」


康太が支部長に助け舟を求めると、支部長は困ったような声をだしながら二人のもとに歩み寄ってくる。


「あー・・・二人とも、さっきブライトビーも言ってたけど、大人げないよ。もう二人とも学生の頃とは違うんだから、もう少し譲り合いというか協力し合うというかさ・・・ね?」


「あ?」


「お前がそれを言うか。よりにもよってお前がそれを言うか」


仮面の下で青筋を浮かべている小百合に、明らかに不機嫌そうになっている春奈を前に、支部長は完全に委縮してしまっている。


片方ならばまだしも、この二人の魔術師を同時に敵に回すようなことは支部長もしたくないらしい。


これからこの二人に攻略される相手が不憫でならない。もっともそれも仕方のない話ではあるのだが。


「あははは・・・ねぇ、ブライトビーとライリーベル、どっちかこの二人についていってくれないかな?」


「いやです」


「無理です」


「そんな即答しなくたっていいじゃない・・・他にこの二人を止められそうな人なんていないんだよ・・・」


「僕はどうだい?クラリスならばっちり止められるよ?」


「死ね」


「うわ、これまた即答」


唐突に手を挙げたアマネも一蹴され、支部長は頭を抱えてしまっていた。この中で小百合と春奈の喧嘩を止められるのはそれぞれの弟子程度なのだ。他の魔術師にその役を担えというほうが無理な話である。


「あぁもう・・・お願いだから他の魔術師たちを巻き込まないでよ?一応チームで動いてるってこと、わかってる?」


「もちろんわかっている。ちゃんと囮として有用に使ってやるから安心しろ」


「最悪だよね、チームメイト囮扱いとかもう最悪だよね。もうちょっと歯に衣着せるとかオブラートに包むとかないわけ?」


「じゃあ私のために肉壁になれ」


「もう君に団体行動を期待するのはやめにするよ。もう君は大抵一人で行動してたほうが被害が少ないよ」


そう言ってから一人で行動させるときっと大変なことになるだろうなと支部長は思いとどまるが、とりあえず今回の作戦では無事に現地についてくれることがまず第一の目標となる。


それができないとそもそも作戦が始まらないのだ。


「エアリス、うまいこと君が誘導して安全に現地につけるようにしてくれないかな?君以外に対抗手段がないんだよ」


「善処はしよう。私だって今回の目的に対して取り組む意欲はあるんだ。どこかの誰かが暴走でもしない限りは安全な空路を約束しよう」


春奈の言葉にいったい誰の事だろうなと小百合は素知らぬ様子で堂々と無視している。この胆力がいったいどこから生まれてくるのか不思議でしょうがなかった。


「さて、二人の問題は置いておいて・・・アリシア・メリノス。いいかな?」


「なんだ?胃に穴が開くようなニュースはまだないぞ」


「それに関してはないほうが嬉しいなぁ。そうじゃなくて、相手の発動点を攻略するときの対策をそろそろ教えてくれないかな?一応こっちでもいくつか案は用意してあるけど、君の意見をみんなにも教えてきたいんだよ」


「ん・・・触れ回るようなことでもないと思うが・・・そうだな。簡単に言えば術式による長距離攻撃だ。私が以前使ったことがあるものをベルにも教えた。私とベルで攻撃をしながら現地へたどり着くのが私の案だ」


「長距離って・・・どの程度の距離だい?今回の場所って数キロどころの騒ぎじゃないんだけど」


「その点に関しては安心しろ。事前準備は必要だが、その点も問題なく解決できる。大船に乗ったつもりで任せておけばいい」


封印指定であり、最高の魔術師であるアリスがこういうのだ。支部長としてはこれ以上追及することができなかった。


何よりアリスが本格的に参戦してくれるというのが大きい。下手な追及をしてアリスの気が変わられても困ると支部長は判断していた。


「わかった、その件に関してはアリシア・メリノスに任せるよ。何かあったらすぐに連絡してほしい。いいね?」


「わかった。何か変更などがあればすぐに連絡しよう。もっとも私の予定通りのことになると思うがな」


「そうだといいけどね・・・では各員、装備の点検と動作確認は済んだね?これから君たちは世界の命運をかけた戦いに行こうとしている。残念ながら僕は参加できないが、君たちの無事と作戦の成功を祈っているよ」


支部長の締めの言葉に、多くの魔術師が小さくうなずくことで返した。


雄たけびを上げるようなものは魔術師の中にはいない。今回のこれが良い内容だったらよかったのだが、あいにく内容的には敵対する組織の殲滅と同じだ。やっていることは人殺しになるかもしれないために気分が高揚している魔術師などあまりいないのである。


それぞれの班が最終確認をしている中、支部長は康太たちのもとにやってきていた。


「クラリス、重ねて言うけど、くれぐれも飛行機を落とさないでくれよ?」


「それは私の気分次第だ」


「エアリス、クラリスをうまく止めてくれよ?君だけが頼りだ」


「善処はしよう。だが限度というものがあるのは理解してくれ」


小百合と春奈の対照的ではあるがどちらも否定的な内容に支部長は大きくため息をついてしまう。


ため息をつきたくなるのも納得だ。こんな部下を持ってしまったのはこの支部の長になった段階で決定してしまっているために、常に胃痛と一緒に暮らすこととなっているのだから。


「ブライトビー、君たちも無理しないように。以前のようなことがあって、また体を維持できるとも限らないからね。今回のはどうやら規模が違うみたいだから」


「もし今度さらに神に近づいたらその時はたぶん人間の形を保っていられないと思いますよ。なのでその時はあきらめます」


「あきらめないで。勝手にいなくなるとかやめてよね。必ず戻りますので、安心していてください」


「うん、君たちは安心できるなぁ・・・別の意味で不安ではあるけれど。アリシア・メリノス、君も頼むね」


「うむ、任されよう。まぁ一緒に行動する連中のお守りくらいはしてやろう。年長者の務めというやつだ」


最高齢のアリスからすれば今回参加する魔術師など赤子同然だろう。お守りというのはなかなか適切かもわからない。


「ジョア、土御門の二人を頼むね。万が一なんかがないように」


「わかっていますよ。多少鍛えましたので、少しはましにはなったかと」


「そうだといいけど・・・」


そう言いながら意気込んでいる土御門の二人に視線を向けながら支部長はため息をつく。


今回の戦いに結局参加してしまうことになったこの二人を、支部長は強く心配していた。


この心配が的中しなければいいのだがと、そう思いながら再び大きなため息をついた。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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