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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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圧倒的人選ミス

「何を迷うことがある。飛行機の一つや二つ落としてやればいいだろうに」


「ですよね、やっぱそうなりますよね」


康太は会議が終わった後、こういった攻略作戦が得意な小百合に意見を聞きに来ていた。聞きに来る人選そのものが間違っているように思えるが、そのあたりは仕方がないことだといえるだろう。


「だが落とすなら燃料などをある程度積んでいる状態が好ましい。落ちた後に爆発炎上などすれば、相手への被害も増やせるし、何より物的な証拠を同時に多く消すことができる。ただ一つ懸念するとすれば、それだけ大きな被害を出すとなれば必ず死者が必要だ」


「パイロットとかってことですか」


「そうだ。緊急脱出装置などがあったとしてもそれを運よく発動できるとも限らん。パイロットは死んでおいたほうがいい。もっともその死体を別のところから用意するということでも構わん。あるいは無人機のテストということで飛ばすのも悪くないだろうな」


「なるほど、無人機のテスト中の不具合か何かで飛行機を落としてしまえばってことですか・・・確かにそれなら死者がいなくてもよさそうですね」


「あとはブラックボックスの破壊だな」


「ブラックボックス?」


「飛行機には航空中のデータを詳細に保存している部分がある。データを管理しているその部品を完全に破壊しておけば、何が起きたのかもわからなくなり事実は闇の中だ。そのあたりは上手くやる必要があるな」


「なるほど、気を付ける必要がありますね」


「恐ろしいな、ブレーキ役がいないとここまで話が早くなるのか・・・」


康太と小百合の話を聞いていたアリスは眉をひそめてあきれてしまっていた。とんとん拍子で進む小百合と康太の攻略作戦の話し合い、この場に支部長がいれば即座にため息をついてその案を否定していたところだろう。


だが実際に悪い案ではないのも間違いない。無人機の輸送機などのテストであるという条件で飛行し、そのまま落として積み荷ごと爆発させるということをすればかなり現実的になるはずである。


積み荷が爆発物の類であればなおのこと良いが、そこまで都合よくはいかないだろう。


「無人機に関してはそう簡単に用意できるものでもないですから難しいですけど・・・支部長なら用意できますかね?」


「さぁな、そのあたりは確認してみないことには分らん。だがもう二日しかないんだろう?準備時間は実質一日だ。急な方針転換などはおそらく軍内部でも難しいだろう。となれば」


「あとは隕石か衛星を落とすしかないと」


康太と小百合の視線が同時にアリスの方に向く。「そんなに見つめるでない」とアリスがはにかむが、二人の視線は冷ややかだった。


「実際問題隕石を落としたとして、相手にどれだけのダメージを与えられる?」


「隕石の規模にもよります。相手はある程度の高高度まで索敵を張り巡らせている可能性がありますから、反応されて障壁を展開されることも予想されます」


「障壁の強度にもよるか・・・少なくとも私が知る中で高い強度を持つ障壁なら戦車の一撃程度は防げる。ただ落ちてくる隕石でも威力の減衰は問題なくできるだろう。弱い障壁でも十枚程度張れば威力そのものはかなり減らせる。少なくとも無害レベルにはできるだろう」


「あとは相手が反応してくるかどうかってところですね・・・アリス、どれくらいの大きさの隕石なら落とせる?」


「どの大きさでも大丈夫だとは思うが、はっきり言って威力の調整は上手くできんぞ?ありものを使うからな。どうしても微調整はできなくなる」


「これから叩き潰す連中に微調整などいらんだろう。辺り一帯にクレータを作る勢いで叩きつけてやればそれでいい」


「確かに。そのほうが楽でいいかもしれませんね」


「ダメだ、私ではブレーキ役になれん・・・マリ!マリよ!ちょっと来てくれんかの!」


アリスはさすがにこの流れはまずいと思ったのか、近くで神加に勉強を教えていた真理を呼び出す。

真理は呼ばれたことで少し首をかしげながら康太と小百合とアリスのもとにやってきた。


「どうしましたか?何か問題でも?」


「攻略法について考えていたんです。結論として隕石とか衛星を落とすのが一番効率いいかなって」


「クレーターを作るレベルで落としたほうが楽だろうという結論に達した。こいつにそれを頼んでいるところだ」


「という状況だ。何とか言ってやってくれ」


完全にノンストップな状態になってしまっている康太と小百合、そしてそれを何とかしてほしいと思っているアリスを前に、真理はどうしたものかと悩んでしまっていた。


「確かに隕石落としはいいアイディアだと思いますが、それはアリスさんがいる場所にしか使えないです。ならほかにアリスさんがいなくともできる案を考えておくべきでしょう。一度に四カ所同時に攻撃できるような手段となるとなかなか難しくはありますが・・・いっそのこと相手も困るレベルの豪雨を起こしたほうが良いのでは?すべて押し流してしまえば楽ですよ?」


「なるほど、現実的だな」


「確かに、自然災害に見せかけるわけですね」


「ダメだ、呼んで来る人選を間違えた。フミを呼ぼう」


出撃の準備をしている文を呼ぶべく、アリスは携帯を操り始める。だが返ってきた返事は勝手にやらせておけとの言葉だった。


この三人がそろった時点で文には止められないと理解しているのである。
















作戦決行当日、康太たちは本部に集合する前に支部に集まっていた。作戦決行は本部の時間に合わせて零時より行われる。現在は本部の時間で言うところのまだ昼前後であるためにあと十二時間ほどは時間がある。


とはいえ事前の移動、準備、そして最終確認なども含めてあまり余裕があるとは言えなかった。

康太たちはすでに戦闘態勢に入っていた。


康太はいつも通り赤黒い鎧を纏い、各種装備を身に着けている。その姿は到底魔術師のものとは思えない物々しいものになっている。


それぞれの装備も合わせて重量もかなりのものになっているため、通常の人間であれば動くのも難しいだろう。


ウィルの歩行補助に加え、康太自身も身体能力強化を施しているからこそ満足に動ける状態なのだ。


機動力を売りにしている康太からすれば、この状態はむしろ戦闘能力が下がっているといえるかもしれないが、そのあたりは無理矢理に動けばいいと考えているようだった。


物々しいのは康太だけではない。文もまた珍しく装備を整えてきていた。


最も外見上はほとんど変わりはない。いつも通り外套を纏っているが、その外套の下には康太ほどではないにせよ武器や装備の類を搭載している。重量もそれなりになっているが、彼女が動くことができる最低限の重量に抑えている。


その辺りの調整は万全といったところか。


そして倉敷も装備を整えてある。いつものように波乗り用のボードに加え、波に乗せた状態で攻撃できる装備の類も用意している。


攻撃をメインに考えた装備であるというのは間違いなかった。


そして康太たちだけではなく、小百合や真理もまた装備を整えてきていた。


小百合は今まで何度か見たことがある戦闘態勢。といっても彼女も外見上はいつも通り外套を着こんでいるだけのように見える。


だが準備を最初から見ていた康太たちは知っている。外套の下には二本の刀、そしていくつもの刃物の類を仕込んできている。


完全に攻撃専用の装備だ。康太のように防具と装填を兼ねたようなものではない。

真理もまた装備を整えてあった。


康太は真理の装備をまともに見るのは実に久しぶりだった。おそらくほかのものはほとんど初めて見たのではないかと思えるほどだ。


彼女の使用装備である三節棍に加え、瓶のようなものをいくつか所有している。それがいったいなんであるのか康太も知らなかった。


割れないように専用の容器に入っているため多少の運動も問題ないだろう。腰のベルトに取り付けられたそれがどのような効果を発揮するのか、ほとんどのものは理解できていない。


おそらく理解できているのはこの場では小百合程度のものだろう。


そして春奈もまたしっかりと装備を整えてきていた。といっても彼女の場合は一般的な魔術師の格好といえるものだ。


外套に加え、多少の防具、そして一応ナイフ程度は仕込んである。これ以上は準備する必要がないという標準的かつ理想的な魔術師の格好だった。


支部に集まり、今回の作戦に参加する日本支部の魔術師たちは、康太たちのこの姿を見て明らかに困惑していた。


小百合一派とでもいえるような、武闘派の集団がこれほど戦闘態勢を整えていることは珍しかったからというのも理由の一つ。そして何より、小百合、真理、康太という現在幼く参加できない神加を除いた師と弟子がそろっているというのが何よりも恐ろしかったのである。


一体何をやらかす気なのかと、事情を知らないものからすればこの場から離れようと考えるのも無理のない話だろう。


「あ、いたいた!いやぁ君たちはわかりやすくていいね」


そんな中、軽快な声を出してこちらにやってくる魔術師が一人、いや二人いた。その声を聞いた瞬間小百合が全員に聞こえるように舌打ちをしたために、誰が来たのかをほとんどのものが理解していた。


「アマネさん。お疲れ様です」


「やぁブライトビー。先日はうちの弟子が世話になったようで。いい機会だったからありがたかったよ」


「いえいえ、こちらこそお世話になりました。やっぱり防御に長けた人がいると安心感が違いますよ」


「・・・あんまり役には立てなかったけど・・・」


やってきたのは小百合の天敵アマネ・ツキヤとその弟子ククゥ・ツクヨだった。

どうやらこの二人も今回の作戦に参加するようだった。もっとも、アマネに関しては参加するのは確認できていたが。


「今回はサニーさんたちは?」


「一緒に行動する予定。でもあなたたちとは別動隊。どちらかというと攻略よりもその後始末と、包囲殲滅が私たちの仕事」


「なるほど、索敵範囲が広くて防御能力に長けてればそうなりますか。了解です。仕事を減らせるように頑張りますよ」


「・・・その姿を見てると安心できる」


康太の完全装備を見てさすがに少々引いてもいるが、同時に心強くも思っているようだった。


防御能力に長けたこの二人がいるというのは心の底から安心できる。問題はどの部隊にアマネが配属されるかということである。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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