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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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戦う目的

先程のような定点的な攻撃ではなく、康太がどこに居ようと簡単に捕捉できるような大量な弾幕にも似た攻撃だ。


一つ一つの炎の球の大きさは大体ピンポン玉と同じくらい。威力的には低いのだろうがその数が多すぎた。


周囲を一気に明るくするかのような、人が通れるだけの隙間もない程に埋め尽くされた炎の球体。


しかもただ止まっているだけならばよかったが相手の魔術師を中心に動き続けている。これではただ止まっているだけではまず直撃してしまうのは避けられそうもなかった。


康太は槍を振り回して炎の球を振り払う。すると炎の球は槍が触れた瞬間に一瞬小さく爆発しすぐに消滅してしまった。


その現象を見て康太はこの魔術が攻撃の為ではなく索敵のために行われているのであるという事を理解した。


殺傷能力は非常に低いが、一定範囲に高い密度で配置できる炎の球体。文の使う電撃の魔術のように高い攻撃力を有さない代わりに索敵に特化したタイプの魔術だ。


しかもただの索敵魔術ではなく炎としての特性も一応少しではあるが持ち合わせている。強引に突破しようとすれば体のどこかしらにやけどを負う可能性もある。


決定打が打てる魔術とは言えないが相手に確実に嫌がらせができる上に索敵もこなせる。いやらしくも有用な魔術だと言えるだろう。


康太はそれを理解すると同時に纏っていた外套を槍に巻き付けると周囲の炎の球体を一掃していく。


槍や外套に触れた瞬間炎の球体は一瞬小さく爆発するとその場から消えていった。


康太は外套に炎がともることもいとわずに思い切り槍を振り回し周囲の炎の球体を移動しながら消し続け、数メートル移動しつつ相手を逐一観察していた。


そして相手が僅かに動きを見せると同時に急停止し、後方、つまり先ほどまで自分がいた方向に跳躍する。


その瞬間、先程まで康太が移動しようとしていた方向に唐突に強力な炎が湧き上がる。


最初に康太に使ってきた定点発火の魔術だ。今周囲に展開している炎の球体を作り出す魔術はあくまで索敵用のものであり攻撃が主目的ではない。


康太の姿が捉えにくくなってからこの魔術を使ってきたという事はつまり大まかでもいいから位置を把握して、その位置に強力な炎を叩き込むという作戦に出たのだ。


単純だがやりにくい。なにせ康太はこの魔術に対して対抗できる手段がほとんどないのだ。


唯一できる事と言えば先程のように進行方向を予測させて相手が魔術を発動しそうになった瞬間に方向転換するというわかりやすいものだ。


なにせ相手が大量に光源を作り出してくれているために木陰から相手の位置は把握できている。位置さえ把握できれば魔術発動の予感を感じ取るくらいは康太だってできる。


小百合との殺し合いに近い訓練の末に身に着けた攻撃を読み取る力だ。目視できる距離にいるのであれば相手が魔術を使ってこちらを攻撃するという瞬間を予測することはできる。


もっとも自分が攻撃される以外の魔術はさすがにまだ感知することなどできないが。


康太が範囲魔術、特に兄弟子の真理のように水の魔術でも覚えていたら周囲にある炎の球体を一掃してしまうのだが、生憎と康太にはそんなことはできない。


だからこそ地味な対応をするしかないのだが、康太だってこのままやられっぱなしでいられるほど悠長な性格はしていない。


なにせ今回の康太の役割はあくまで足止め。倒す必要など最初からないのだ。


例え康太が勝てなくても自分の兄弟子や師匠がこちらに向かおうとしている。この場に目標を留める事こそ康太のやるべきことなのである。


康太は自分のベルトにセットしてあった装備の一つを取り出すと、それを目標の魔術師の方向へと向ける。


その装備は先端に鉄球がついており、鉄球と細いワイヤーが繋がっているものだった。そのワイヤーの先にはもう一つ鉄球がつけられている。ワイヤーというものが地味に高かったためにワイヤーの長さは二十メートル程しかないがそれでも十分すぎる。


数珠を作った時と同じようにワイヤーを通したその鉄球は康太の蓄積の魔術により既に物理エネルギーが加算されている。


康太は炎の球体を消しながら魔術師めがけてその鉄球に込められた物理エネルギーを解放した。


蓄積された物理エネルギーは蓄積の魔術が解除されると同時に一度に鉄球に襲い掛かり、高速で敵の魔術師へと向かっていく。


康太がもっていたワイヤーが引っ張られていく中、康太はもう一度鉄球の蓄積を解除した。


先程は進行方向に対しての蓄積の解放、次は横方向への蓄積の解放である。


今射出された鉄球は全部で六方向の物理エネルギーが蓄積されている。一つの方向だけではなく、複数の方向に対して対応できるようにした結果がこの六面蓄積法だ。


もっとも球体であるためどの方向に向いているかわからないという意味ではほぼ無差別攻撃と変わらない。しかも扱いが難しいためまだ一度に数個作るのが限界だ。


だが途中で変化を加えられるというのが重要なのだ。特に今回のようにワイヤーを括りつけている場合なら。


康太が射出した鉄球は僅かにそれ、魔術師に命中さえしなかったもののその途中で発動した方向転換によって球体は急激に方向をかえ、近くにあった木へと巻き付いていった。


攻撃をしたのは見えたようだが、一体どんな攻撃をしたのかが分からない。そして細い何かが宙に浮いているのを確認した魔術師は脅威度は低いと思ったのか、康太への攻撃を優先してきた。


当然こうしている間も炎の球体による索敵と炎の定点発火攻撃は続いている。苦労しながらも避け、しっかり巻き付いていることを確認するとワイヤーを手繰り、すぐにもう片方の鉄球を魔術師めがけて投げた。


そして蓄積の魔術を再び使い、鉄球に込められている物理エネルギーを解放すると鉄球は斜め下方向へと直進し地面に向かっていく。


運が悪い。もしこれでしっかり方向があっていれば相手に直撃させることができたかもしれない。


だが康太は地面に直撃したのを確認すると、先程解放した蓄積エネルギーの方向を確認してから再び物理エネルギーを解除する。すると今度はめり込んでいた地面から撃ちあがるように魔術師めがけて襲い掛かる。いや、正確には魔術師に当てることが目的ではない。魔術師に対してワイヤーを巻き付けることが目的なのだ。


康太の思惑通り、鉄球は魔術師には直撃しなかった。だが魔術師の横を通り過ぎることでその体にワイヤーを巻き付ける事には成功していた。


一回二回程度巻き付いているのであればすぐに外れただろうが、高速で巻き付いたワイヤーは何重にもその体に巻き付き完全に拘束してしまう。


結果は上々。だがまだ油断できないのは康太も理解していた。


なにせ先ほどから康太は延々と発火攻撃にさらされ続けているのだ。


位置はほとんどばれている。球体を消し続けているおかげで索敵範囲が狭まっているため大まかな位置しか把握できていないだろうがそれでも巨大な炎を出されるとその体は強い熱気を感じていた。


もしかしたら火傷くらいはしているかもしれないが、幸い康太はまだそこまで強い痛みを感じていなかった。


ワイヤーにより動きを封じられた魔術師は僅かに動揺しているようだった。


康太としてはその足を封じたいところだったが、思うようにはいかないものだ。その胴体に巻き付いたワイヤーは相手の胴と片腕を巻き込む程度で終わっている。あれでは動きを阻害する程度の効果しか持たないだろう。

だがそれでいいのだ。


康太は相手の動揺を見逃さず、もう一つの装備を投擲する。


以前の魔術師戦でも使った鉄球入りのお手玉である。高く放り投げられたそれを見て相手もこちらが畳みかけてきているという事を理解したのか自らの周囲から炎を発現させ、お手玉めがけてその炎を走らせた。


鉄球を包んでいた布は簡単に燃え尽きその中身を露出させたがすでに遅い。無数の鉄球は魔術師の頭上にもうばら撒かれてしまっている。


康太はすでに退避行動に移っていた。


相手にお手玉を投げた瞬間に少しでも距離を取ろうと、そして木陰に隠れようと移動していた。いや正確には移動しながら投げていた。


木陰に隠れると同時にお手玉の中に入っている鉄球の物理エネルギーを解放すると周囲に無差別に鉄球が高速で飛散していく。


前後上下左右お構いなしに襲い掛かる鉄球。若干その方向にばらつきがあるもののおおよそまんべんなく攻撃できている。康太が隠れている木にもしっかりと鉄球はめり込んでいた。


これで少しでもダメージを受けていてくれればいいのだがと、康太は考えていた。いや願っていた。そしてそれがかなわないことだろうという事も内心すでに理解していたのである。


なにせ相手はどんな手段を使ったのかは知らないが小百合を振り切った相手だ。小百合が自分の車を極力かばっていたという事があったとしても、小百合を出し抜くだけの実力を持った魔術師が自分の魔術程度で軽傷以上のダメージを負うとも思えなかったのである。


せめて足にダメージが入ってくれれば。そんな気持ちで使ったお手玉だが、康太の予想は悪い形で的中することになる。


康太が目にしたのは、周囲に点在する炎の球体の光を乱反射する膜のようなもの。それが液体であると気づくのに時間はかからなかった。そしてその膜の中に僅かにではあるが魔術師の姿が見えていた。


身を屈め、その膜で身を守ったという事が康太にでも理解できる。


液体の抵抗は空気抵抗の一万倍近く。銃弾のように直進することに長けた形状をした物体でさえ数メートルもしないうちにその速度を緩め停止してしまう。


ましてや康太のお手玉の中に入っているのはただの鉄球だ。その速度は簡単に弱められてしまいほとんどダメージを与えられなかっただろう。


中には運よくあの液体の膜を貫通し直撃した鉄球もあるだろうが、少し痛みを与えた程度だろう。そんな痛みでは意味がないのだ。


先程ワイヤーで結んだ鉄球のように六方向全てに物理エネルギーの蓄積ができていれば追い打ちをかけられたかもしれない。だが未熟な自分ではまだ蓄積の魔術を完璧に扱いきれていないのだ。


ここにきて練度の低さが露呈した。これで自分の技術が文と同レベルであれば今の攻防で仕留められたかもしれなかったというのに。


だが今の一連の動作は相手に『防御』させた。先程までは攻撃一辺倒だった相手の魔術師にその警戒度をあげさせたというべきだ。


それは康太にとってはすでに大金星に近い。小百合の追跡を振り切る相手に対して多少なりとも自分の魔術が通用したという事でもあるのだから。


逆に言えば今の自分ではこれ以上の戦果は望めないという事は康太もすでに理解している。


本来なら、勝つつもりで行くのであればここで相手が防御したのを見越して追い打ちをかけるべきだ。


相手は今液体の膜の中。こちらの姿も視認しにくくなっているはず。さらに言えば康太が距離をとったことで一時的に姿を見失っているだろう。


ここでもう一発お手玉を投げてみるのも手かもしれない。あの膜がただ単にそこにあるだけならもう一発お手玉を今度は真上から投げ、膜を通り過ぎた瞬間に蓄積を解くところだが、そこまで単純な魔術ではないだろう。


むしろ今相手の魔術の種類が増えたことで康太の警戒レベルはかなり上がった。炎だけではなく水の属性まで扱える魔術師だ。欲をかけばやられるのは自分の方である。


何より先程から相手の魔術師は攻撃を警戒しているのか液体の膜を展開したまま動かない。


相手が警戒して動かないのであればこの状況は康太にとっては好都合だった。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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