大国小国
攻略点の近くの国が行えば、立地や命中精度という意味では問題なく攻撃を行うことはできるだろうが、それを事故として対処できるような国は限られてくる。
現時点での国同士の付き合い方などを考えれば決して良い状況であるとはいえない国も多い。
国同士の付き合いというのは基本隣国=仮想敵国なのだ。今回の攻略点はほとんどが人のいない場所ばかり。そのような場所を核で攻撃したとしてもメリットはかなり薄いが、外交的な意味ではかなりのマイナスにつながる。
かといって自国にそのようなことをすれば当然のように責任追及問題に発展するため、魔術の存在の露呈につながる。
他国に責任を押し付け、なおかつあまり調べさせないだけの材料が必要不可欠なのが現状である。
「なんか堂々巡りになってきましたね」
「仕方がないさ。こういう話し合いをした段階でこうなることは予想できていただろう?誰だって自分の国に核を落としたいだなんて思わないさ。よほどの狂人でもない限りね」
「最悪それをやるのが魔術師ですから、そういう意味ではある意味狂人の集まりって感じですかね?」
「否定はできないけど、君がそれを言うかね」
「何言ってるんですが。俺は自分の体を犠牲にするようなことはしませんよ」
「説得力皆無の反応ありがとう・・・とはいえ、このままじゃ話が先に進まないまま今日も会議が終わりそうだなぁ・・・」
この会議の内容が重要であるということは支部長も康太もわかっている。重要だからこそこのように議論が白熱しているのだ。
どのような結果になろうとも、結局のところ魔術を隠匿することに変わりはない。大規模に科学的な破壊をするか、こっそり隠匿するかの二択になる。
もっとも後者が難しいからこそこのような議論になっているわけだが。
小国からすれば、そのようなことをすれば国そのものが消滅しかねないために避けたい。大国からすれば他の大国から攻撃されるだけの理由を作りかねないために避けたい。
どちらも国としての対応は間違っていないために難しいところだ。問題なのは各国の魔術師の視点からしても、国という立場が難しい立場にあるというところである。
国を担っている政治家の意見ならばまだしも、一国民である魔術師がこのようなことを言えるということはそれぞれの国の立場はかなり微妙な状態にあるといっていい。
「いっそのこと、第三者を介入させるのはどうなんですかね?国によらない第三者、というか組織が核兵器を勝手に使ったとか」
「望み薄だね。核兵器っていうのは基本的にかなり厳重に保管されてる。過去開発された小型のものも、相当厳重な管理がされてる。そんなところから持ち出すとなるとそれこそ普通の組織じゃ国の組織には太刀打ちできないよ」
「そのあたりを魔術師が協力すれば?」
「協力した先で、その組織がうまく狙ったところを撃ってくれるだけの保証もないよ。むしろかなり面倒なことになるだけさ。テロリストを世に放つっていうのはそれだけで危険なんだよ。まぁその分僕らの方への調査はかなり減らせるだろうけどね・・・危険な一手だよ。何より賛同する人がいない」
さすがに無法者に核兵器を渡すほどの胆力を持っている者は支部の中にもいないだろう。康太だって可能ならば制御できている所帯で何とかしたいと思っている。
となれば、やはり国の中枢にいる人間が行動を起こさない限り難しいと考えるべきだろう。
「全面核戦争を防ぐには、具体的な方法としてはやはり小国が撃つ方が好ましいのでは?」
「いいや、むしろ小国であれば報復核も撃ちやすい。大国ならば報復核を受ける可能性も低いのでは?」
「ないな、大国であるならなおのこと、報復するべきだと考えるものは多いだろう。問題なのは大国にある発動点に対してどの国が撃つかという問題だ」
小国同士であれば、背後から大国が現れれば多少ましな結果に終わることができるかもしれない。
もちろん大国がバックについての代理戦争に発展する可能性もあるが。
それよりも重要なのは大国にある攻略点をどのように対処するかだ。
大国であるがゆえに、防衛網も敷かれているだろうし、何より報復となった時に周囲への反感や反撃を受けかねない。
「自国の事故という形にするのが大国としては一番手っ取り早いのではないか?輸送中の兵器の事故という形にすれば、被害は最小限にできるだろう」
「それは小国も同じだ。だが多くの国の関係者が納得しないのはわかっているだろう」
「だが他国との戦争の可能性を考えれば、やはり事故という形で完結させたほうがいい。もっともそれが行える国も限られてくるが」
核兵器を輸送ということは、複数の核実験設備を持っていなければ不自然になってしまう。
そういったことができるのは大国だけだ。小国ではどうしてもその行動が目立ち目をつけられてしまうだろう。
「大国の発動点の隠匿は、輸送中に発生した事故・・・という形で決定しようと思う。異論は?」
異論はと言われても、異論はあるだろう。大国に所属している魔術師からすれば異を唱えたいのは当然の考えなのだろうが、これ以上会議を長引かせるのも無駄だし、何よりそのほうが余計な敵を増やさないという意味でもまだましだ。
不承不承ながら、大国に所属している魔術師はそれを承諾した。
無事に解決できればそれでよし。これはあくまで万が一に対する会議だ。それを怠るようなことは避けたほうがいいと全員が理解しているのである。




