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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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真理の評価

「なるほど、康太君が懸念するのもわかりますね。予知と違う行動をとられたときの対応があまりにもお粗末・・・長年予知の魔術に頼ってきたことによる弊害ですか」


「でしょう?予知の通りに行けば動きも悪くないんですけど、その予知から少しでも外れると動揺して動きが悪くなるんですよ」


康太が、そして小百合が以前から気にしていた悪癖といっていいものだった。予知ができる土御門特有といってもいいだろう。


もちろん通常の状態であれば悪い動きとは決して言えない。だがあまりにも予知が外れた時の動きが悪すぎるのだ。


「これで近接をさせるのは少々不安が残りますね。もとより予知は中間における制圧能力と射撃戦の読みの補助程度に考えたほうが良いのでは?」


「師匠もそうさせるつもりなんでしょうけど、とりあえず最低限身を守れるようにするために近接も教えてるみたいです」


「確かに、できないよりはできたほうがいいですか・・・であれば・・・そうですね・・・」


土御門二人の方針を話しているその横では、真理によって振り回された土御門の双子が息を切らした状態で横たわっている。


小百合との訓練のようにダメージを受けたということではない。単純に疲れたのだ。相手の動きを常に予測して、予知して、処理能力を限界近くまで使っていたのだ。その疲労度は通常のそれとは異なる。


「よし、近接にしてももう少し段階を落としていきましょう。いきなり近接対近接ではあまりにもレベルが上がりすぎです」


「そういうもんですか?」


「康太君や私たちと同じレベルで考えてはいけませんよ。毎日のように殴って殴られてを繰り返していけばいやでも覚えますが、彼らはそういうわけにもいかないんです。私たちが体で覚えたことを、常に見せられながら覚えているんですよ?」


予知というのはそれだけで視覚的に情報を処理し続けている。目の前にあるものに加えて予知によってみることができているというのはそれだけで処理を多大に消費してしまう上に、本来見えていないものも見えてしまうという欠点もある。


それは康太たちが体で覚えたことを見て覚えてしまうという可能性もあるのだ。


康太たちが得たような勘とでもいうべきものを、感覚ではなく視覚で見えてしまっている彼らと康太たちではそもそも鍛え方も教え方も変えるべきであるというのが真理の考えであるようだった。


予知に頼らない感性を育てるために、小百合は予知の使用を禁じて訓練もしている。無論それがまったく無意味とは言わない。時間をかければそういった感性を身に着けることもできるようになるだろう。


将来的には予知に加え独特の勘を供えた魔術師になるのは間違いない。


だがすでに現場に行くのが確定していて、なおかつその時間が迫っているということであれば、時間がかかる訓練よりも、即効性のある訓練を行わせたほうがいいと真理は判断したのだ。


「まずは予知の適切な使い方を学んでいきましょう。せっかく未来の情報が得られるというのにそれを遊ばせておくのはもったいないです」


真理のその言葉に反応したのは土御門の二人だった。自分たちの方が予知のことに関しては詳しいのに、なぜ真理にそれがわかるのかという顔だった。


「あの・・・俺らだって予知は使えてますよ?使いこなせてますよ」


「そうです、予知を使うことに関しては結構なレベルに達してるんですよ?」


土御門の反論はもっともだ。真理は別に予知を使えるわけではない。なのになぜ予知を使いこなせていないなどということがわかるのか。


だが真理はため息をついて転がっている二人を立たせると、訓練用の人形に障壁を一枚展開した。


「あの障壁を壊して見せてください、ただし攻撃してよいのは一回だけです」


つまり予知を使ってあの障壁に対して適切な攻撃を繰り出せというだけのことなのだとわかるのだが、二人は障壁を睨みながら唸り始めていた。


おそらくどのような攻撃が通るのかを選択しながら確認しているのだろう。だが数分経っても二人は攻撃を開始していなかった。


「どうしましたか?」


「あの・・・攻撃しても、破れなくて・・・」


「あれ、結構硬いですよね?私たちの手持ちの魔術じゃ・・・」


その言葉に真理は康太の方に目を向けて、その視線を障壁の方に移す。


康太はその意図を察してナイフを一本持つと障壁に近づいて、思いきり突き立てる。


ナイフは障壁を易々と貫通し、その障壁を砕いていった。


「あれは意図的に崩しやすいようにしてあった障壁です。一か所だけ攻撃すれば脆くなるようにしておきました。予知がありながら、それを知ることができなかった。それはあなたたちが予知を使いこなせていないという証拠です」


「いや、それは・・・」


「でも、あれは・・・」


言いたいことはわかる。障壁を破ることができる攻撃を有していなければいくら予知できても意味がない。


だがナイフ一本で壊せたということもあってそこまで高い攻撃力が必要ないということもわかる。


「よいですか。未来とは可能性であり、選択肢です。先ほどお二人が考えた可能性では足りないというのであれば、別の。もしお二人では思いつかないというのであればそれは想像力が足りないのです」


未来は自分の行動によって変えられる。つまり予知の結果も自らの行動によって変えることができるし、その未来を確定させることだってできる。


「未来を予知するのであれば、その未来のありとあらゆる可能性を考慮できてこそ、使いこなせるといえるのです。今のお二人はあまりにもその考えが狭まってしまっています」


まずはそれをなくしましょうと、真理は小さな水の弾を大量に作り出す。それが訓練の始まりであると告げているかのように満面の笑みを浮かべていた。










「真理さんてなかなかにスパルタね」


「普段ならもうちょっと時間をかけてじっくりやるところだろうけど、今回は時間もないし、あくまで意識改革の一環だからな。ちょっと強めの刺激を与えてるってところじゃないか?何よりそれでも師匠よりはマイルドだろ」


「あの人を比較対象にしちゃだめよ」


今回真理がやっているのはあくまで、予知を使う際の可能性や選択肢の拡大化だ。


技術的なものよりも思考的なものを変えるものであるために、ちょっとしたきっかけでもあれば大きく変わる可能性は大きい。


真理は普段与えられないような刺激を与えることで、土御門の双子に今までなかった考え方をさせようとしているのだ。


そういう意味では小百合とは別の方向でスパルタであるといえるだろう。


やっていることは大量の水の球体を襲い掛からせて、二人に武器だけでそれを防がせている状態だ。


ありとあらゆる方角から、ある一定の規則性を持たせながら襲わせている。しっかり考え、しっかり対応すれば問題なく対処できるものなのだが、時折その法則から逸脱した動きをする球もある。


常に規則的でありながら常に例外は存在する。思考を常用のものと例外的なものの二通りに分けるための訓練であるということを康太は理解できていた。


常に相手を常識の中で思考し、次に常識の外から観測し思考する。そうすることによって攻撃でも防御でも、選択肢がかなり広がっていく。


土御門の双子は今まで常識的に考えすぎなのだ。それを変えるために必要な訓練であるのだろう。


「その程度の変化で、あの二人を実戦に連れて行けるようになるの?正直あと半年くらいは待つべきだと思うけど・・・」


「あと半年、あと一年、そんなことをいつまでも言ってたらいつまで経っても実戦になんていけない。未熟でも強引にでも行かせるべきなんだよ。行かせてやるべきなんだ」


「それって経験則?」


「それもあるけど、あいつらのためでもある。あいつら自身がそれを望んでる。何より俺自身もそうするべきだと思ってる。あいつらは、俺が実戦に初めて出た時よりずっと強い。それなら、やらせてやるべきだろ」


「あんたとあの二人じゃ立場が違うってわかってるわよね?」


「もちろんわかってる。けどいつまでも足踏みさせてたって仕方がないだろ。あいつらはあいつらでいろいろ考えてて、あいつらはあいつらでいろいろやりたいんだ。現場でそれを失敗しても、次に活かせればいい」


それは康太自身がそうだったように、間違いを次に、その次に、そうやって改善していくしかない。

だが万が一があっても困る。そういう意味を含めて真理を一緒に行動させたいのだ。


真理がいれば危険な状況も乗り越えることができる。康太はそう信じていた。


自分よりもずっと強く、ずっと賢く、ずっと優秀な兄弟子。真理ならば間違いなくそれができると。


「足踏みね・・・あの二人だっていつまでも同じ位置にはいないでしょ?訓練して、少しずつだけど協会の依頼も受けて進んでるんだから」


「それじゃ物足りないって本人が思ってるからこうなってるんだろ。いい機会だ。たまには叩きのめされるのも悪くないだろ」


「・・・叩きのめされるって思ってるの?」


「たぶんな」


「根拠は?」


「勘」


康太の端的な理由に、文は小さくため息をつく。だがそれも今まで通りだ、今までと同じだ。はっきり言って全く理由になっていないような理由ではあるが、文は康太がそう思うのであればそうなのだろうなと考えていた。決して褒められた理由ではない。決して納得しきれるだけの内容ではない。でも、信じるに値するだけの何かが康太の言葉にはあった。


「戦力の分配を考えなきゃいけないかもね・・・倉敷をあっちに回す?」


「いいや、こっちの戦力が下がりすぎるのはちょっと問題だ。アマネさんを移すべきじゃないかと思う」


「予知と防御の二段構えってことね。真理さんに土御門の双子に、アマネさん、確かに主力メンバーとしては結構いいメンバーだけど・・・少し攻撃面が手薄な気がするわ」


康太、文、倉敷を擁するチームと、小百合と春奈を擁するチーム、この二つに比べると、真理、土御門の双子、アマネを擁するチームは些か攻撃力が劣るように文は感じられていた。


もちろん真理の攻撃力を考えれば決して弱いチームとはいいがたい。だが防御面が充実しているせいか、攻撃とのバランスがとれていないように思えてしまうのである。


「そっか、お前は姉さんが戦ってるところってあんまり見てないんだよな」


「正直言うとね。あの人が戦ってるところっていうと、どうしても小規模なものが多くて・・・それ以外のって見たことがないのよ」


「んー・・・なら心配はいらないぞ。あの人の攻撃力は俺よりも上だ」


「それは、私と倉敷の分を足しても足りないレベル?」


「俺とお前の攻撃力を足して、それよりも少し上だな。あの人の攻撃力は俺とは比べ物にならん」


真理が小百合の一番弟子である以上、高い攻撃力を有しているのは容易に想像できた。だが同じように高い攻撃力を有する康太にこれを言わせるのかと文は目を細めていた。


康太よりも高い素質を持っていて、康太よりも長い間訓練していて、康太よりも才能があって。それだけを見れば当たり前かもしれない。


だがそれでも康太以上の攻撃力というのがどうにも信じられなかったのである。


















「なに?真理の戦闘能力?」


「はい、師匠ならご存知かと思いまして。特に攻撃力面で」


文はアリスと準備を進める合間に、春奈に真理の戦闘能力について聞いていた。


今まで真理との付き合いが長い春奈ならば、真理の戦闘能力について知っているのではないかと思ったのだ。


無論最近は活動を控えていた時期もあったため、最新の情報は知らないかもしれないが、それでも康太に比べれば持っている情報は多いだろう。


「何を言うかと思えば。あの子の単純な戦闘能力は私よりも上だ。支部内でも・・・いや、本部でもあの子に勝てる魔術師はほとんどいないといっていいだろう」


「やっぱりすごいんですね」


「あの子は常識的だが、それでもあのバカの弟子だ。それも、何年も何年も訓練を続けている。その濃度も経験も並の魔術師では比較にすらならない。加えて言えば、あの子は才能にも恵まれた。あのバカはそれが気に食わないらしかったがな」


才能に恵まれた。それは喜ぶべきことなのだろう。才能のある者を育ててみたいと思うのは自然な流れであるように思える。


だが小百合はそうではない。才能のないものを、どうしようもなく扱い難い素質を持ったものをいかに強くするのか。それこそ小百合が求めたものだ。


だからこそ、小百合は康太のことを強く目にかけたのかもしれない。


「攻撃面に関しては、あのバカに多少劣るところもあるかもしれない。だがそれはあくまであの子の常識が邪魔をしている・・・というかあのバカが常識を完全に無視して行動しているのが原因だ。それをしないというだけで、できないというわけではない」


真理は小百合に比べて常識を有している。小百合が迷わず突き進むところを、真理は止まってしまうのだ。


だがそれは考え方の違いというだけで、技術的には真理にだって同じことができるのだ。


「じゃあ、潜在的な戦闘能力・・・攻撃力は小百合さんと同じだと?」


「・・・いいや。潜在的な、できるできないという意味での攻撃力はあのバカよりも上だ。あの子はあのバカが覚えていない魔術も多く所有している。それをしないというだけで、あの子はあのバカを超えつつある」


小百合よりも上。才能、素質、所有魔術という意味ではすでに真理は小百合を超えつつある。単純にそうなっていないのは、幸か不幸か彼女が常識人だったからに他ならない。


彼女は考えられるのだ。考えて、そのうえで被害とそれと比べた時に得られるメリットを考え、後片付けや後始末のことまで考えて、そのうえで結論を出し行動する。


結果的にその手段が平凡なものになるというだけで、わざわざ大きな被害を出すだけの理由がないのだ。

小百合と違うのは、決定的に違うのはその点だけだ。それ以外は真理は小百合の技術のすべてを継承し、なおかつ他の魔術師から自分に足りない魔術を補完して習い、自らを高め続けた。


もう小百合のもとから巣立つのも時間の問題というその状態で、真理が弱いはずがないのである。


「もちろん、あの子はそれを認めないだろうな。今まであれだけひたむきに自らの功績を隠し続けたのだ。いや、自らの凶暴性を隠し続けたというべきか。それをいまさら手放すようなことはしないだろう」


「やっぱり、あの人ってかなり、その・・・やばい人ですよね?」


「やばいという言葉の意味については少々考える必要があるがな。私から見て、あの子はやはりあのバカの弟子だよ。康太君と同じ、いや、それ以上にな」


本人は決して認めないだろう。康太もそうであるように、また真理もそうであるのだ。


どんなに凶暴であろうとも、どんなに強くあろうとも、真理はそれを隠し続ける。何年も何年もそれを続けて来たのだ。


今まで隠し続けていられたそれを、今になって放棄するとは思えない。


「あの子に土御門の双子をつけるというのは、ある意味正解かもしれない。あの子の隠れ蓑としても役に立つだろうし、あの子の才能を存分に振るえる状況を作り出すのにも役立つだろう」


「あの人の才能・・・ですか」


「あのバカの弟子ということもあって、あの子は壊すことに長けている。物体も生物も、どのようなものであっても問題なく壊せるだけの能力を持っているんだ」


「それは・・・そうかもしれません」


康太がそうであるように、小百合がそうであるように、また真理もそうであるのだ。その力を最大限にまで高めるには、やはり状況を変えることができるだけの行動をとる必要がある。


それができるとすれば、未来を見ることのできる土御門の力だ。状況を把握し、未来の情報を先に見ることができれば大きく状況を変えられる。


そこに真理を投入することの意味。もはや相手には絶望しかないように感じられた。


「あの子が出る時点で、戦況は大きく変わる。そこに土御門の双子、さらにはアマネまで投入されるとなれば、盤石というほかないな。私はその布陣を崩せる気がしない」


「そんなにですか」


「攻撃、防御、そして状況の先読み。それがそろっている相手に対してどのように斬り込めと?どちらか片方、攻撃か防御だけでも欠けていれば何とか攻略もできるかもしれないが、両方そろっているとなると手に負えない」


攻撃を真理が担当し、防御をアマネが担当し、その両方の指揮、あるいは状況報告を土御門が行う。

確かに崩しにくい。よほどの戦力差がなければ崩すのは難しいだろう。


真理を投入する。それは小百合を投入するよりも高いレベルの戦闘を引き起こすことになるのだと文は再認識していた。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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