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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」

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強者の風格

「気をつけろよ二人とも。姉さんは強いぞ」


康太に言われるまでもなく、土御門の双子は真理が強いということは理解していた。


康太の兄弟子、小百合の一番弟子。この二つの肩書だけでも十分に強者の風格を纏うには十分すぎる。


さらに言えば、真理はもうすぐ小百合から免許皆伝、所謂卒業を言い渡されても不思議ではない状態にいるのだ。


そんな状態の人間が弱いはずがない。弱いことなどあり得なかった。


「何を言っているんですか康太君、私なんてまだまだですよ」


何よりも恐ろしいのは、真理は一切の油断をしないというところだろうか。自分が何かしらで劣るということを理解しているからなのか、そう思い込んでいるからなのか、彼女はありとあらゆる相手に対して全力を尽くし、見くびるということをしない。


試すことはあっても、温存するということはない。


試行錯誤はあっても、そこに無駄は一切ない。


康太のように強くなることを半ば強いられたタイプと同じだが、その攻撃に対しての性質とその鍛錬の度合いはけた違いだ。


何せ康太の何倍も、何十倍もの時間を訓練に費やしてきたのだ。文字通り経験が違う。


康太にさえ勝てない土御門の双子では相手にもならないというのが正直なところだろう。才能だけを見れば、真理のそれは師である小百合を超えているのだ。才能に恵まれ、小百合のように特定の条件の魔術しか覚えられないということもない。


そんな彼女が戦闘能力を身に着け、どのようなことでもできるようになれば、文字通り万能と称するほかにない。


「さぁどちらが先にお相手をしてくれますか?こういうのは地味に久しぶりで少しワクワクしますね」


そう言いながら真理は軽々と棒状の訓練武器を操っている。軽く振り回すその素振りでも一つ一つの所作が鋭く、また軽快だ。


康太が扱うそれとは違う、小百合のそれともまた違う。完全に異質な技術といえるだろう。


「俺から行きます。よろしくお願いします!」


晴は木刀を正眼に構えてゆっくりと腰を落とす。


どのような角度から襲い掛かられても問題ないように、晴は予知の魔術を最大限活用できるように集中を高めていた。


小百合との訓練でも有効な防御方法、それはとにかく集中を切らさずに相手の動きを読み続けることだ。

物理的な攻撃である以上目に見える。目に見えるのであれば反応し防御することも可能。


ただ土御門の双子はまだ自分の目だけで見て判断して防御ということはできない。それには圧倒的に経験と技術が足りない。


それを予知の魔術によって補うのが、双子の戦い方だ。


「緊張しているようですね、まずはゆっくりならしていきましょうか。ほら、力を抜いてください」


真理は優しい声でそうつぶやく。武器を軽く晴の持つ木刀に当て、軽い音を響かせると、同じように何度かリズムよく木刀を叩いていく。


「どうしました?動けませんか?」


攻撃ではない、だがすでに訓練は始まっている。それに気づいたのか、予知の中に攻撃が含まれていないことに訝しみながら、晴は真理がもつ棒状の武器に自らの木刀を当てて軽快な音を鳴らしていく。


乾いた音が地下に響く中、徐々にそのスピードは早くなっていく。


「いいですね、少しずつ体をあっためていきましょう。下手に勢い良く叩くと怪我をしてしまいますからね。ゆっくりとご自分の体調を把握しながら、ゆっくりとギアを上げていくのが良いでしょう」


真理のアドバイスを意識しながら、晴は襲い掛かる真理の攻撃が、未だ攻撃ではないということを理解していた。


この攻撃はすべて晴の木刀を目的として振るわれている。何十回もぶつかった武器同士だが、一度も互いの体を攻撃しようとしていないのだ。


どんな未来を見ても武器同士がぶつかるところしか見えない晴はどういうことだろうかと疑問符を浮かべている。


「集中を切らしてはいけませんよ。常に自分の戦闘スタイルを意識し続けてください。警戒を切らさず、しっかりと打ち合い続けてください。これが真剣同士の戦いであるように意識してください」


そうは言うが、周囲に響く軽い打撃音と、自分の武器しか狙われないという状況に警戒を維持し続けろいうのは難しい。


もちろん何かがおかしいというのも理解していても、普段の小百合や康太の訓練に比べると、その危険性は段違いだ。


一瞬、ほんの一瞬、晴が警戒を解いて再三にわたり襲い掛かる真理の武器めがけて木刀を振るおうとした瞬間、目の前にいた真理の動きがぶれる。


今度は武器同士がぶつかる音はしなかった。その代わりに晴の腹部に深々と真理の攻撃がめり込んでいた。


「・・・ぐぁ・・・!」


「言ったはずです。警戒してください。すでに訓練は始まっているともいいました。慢心こそが自らを殺すものであると覚えておいてください」


予知の魔術を発動していながら、晴は完全に今の真理の攻撃を読み逃した。一体どういうことなのか明は理解できていなかった。


少なくとも予知の魔術を解除していたわけではない。だというのに読むことができなかった。

その事実は何よりも晴に強い衝撃を与えていた。


「あのバカ、姉さん相手に油断しやがったな」


「油断?」


「あいつらの予知はどうしたって、ある一定の時間の未来しか見えてない。瞬間瞬間の時点の未来しか見えてないから、少しでも予知をすることを止めれば、予知した瞬間と行動までの間って言えばいいかな?その隙間に姉さんは割り込んでくるぞ」


康太が普段やっているような手数と行動を急に変えることによって相手の予知を崩すということとやっていること自体は同じだ。


相手が予知をした後で、後出しの形で自分の行動を確定させる。それをやることで相手の予知を覆す。


真理は何でもなくやって見せたが、相手の呼吸や警戒、魔術の発動などを感じ取って行動を変えなければいけないためにそう簡単にできることではない。


「ほら、どうしましたか?足が止まっていますよ」


「くそ・・・!」


再び武器同士のぶつかり合いになって、晴はいったい何が起きたのかを正確に理解できていないのか、常に予知を発動して未来を確認しているようだったが真理はそれを見て少し行動を変えていた。


「なるほど、その予知は先まで見るようには設定していないのですね」


「え?なんで・・・っ!?」


「そういうことですよ」


未来を予知したのだろう、明らかに晴の動きが変わったが、真理の攻撃がそれを許さない。一つ一つの攻撃が晴の行動を阻害していき、未来を徐々に確定させていく。


晴は何とか逃れようとしているが、真理の多彩な攻撃と鋭い一撃から逃げることができていない。


「一手一手攻撃を読むのは悪いことではありません。そのほうが精度自体は良くなるでしょうし、予知の頻度を考えればそのほうが良いというのもわかります。ですが、次、その次と行動や攻撃が繋がっていた時、それだけでは回避は難しくなります」


真理の言葉を証明するかのように、晴は徐々に体勢を崩していく。そして真理の体が一瞬ぶれたかと思うと晴は足払いをかけられ地面に転がされていた。


そして倒れ込んだ晴の腹部に真理の持つ武器がそっと突き立てられる。


「攻撃も防御もそれ一つで終わってはいけません。常に次を繋げることを考えてください。ですが予知による攻撃の予測は見事ですよ」


「は、はい」


晴はいったい何が起きたのかを理解できていなかった。


いや、何をされたのかは理解できているのだ。だがなぜこうなったのかを理解できてないのだ。


「康太、あれってどうやったの?」


「単純だ。相手が動こうとするのを常に止めてるだけ。相手が逃げようとするのを毎回攻撃でふさいで自分の思う通りに動かしたんだよ。連続して攻撃して、相手の動きを封じる。予知でその結果が見えても、連続攻撃を正しく止めないと予知の通りになる。予知対策の一つだな。格ゲーとかでいうところのコンボみたいなもんだ」


小百合や康太がやるように、相手の予知に割り込むような形で攻撃を変更するのとは異なり、この手法ではまるで詰将棋のように相手の動きを制限していく。


いくら予知があっても防ぐことに変わりはなく、躱すことに変わりはない。真理はそれを利用して相手の動きを想う通りに誘導し、相手の未来を収束させていったのだ。


もちろん晴もそれから逃れるように動こうとしたが、それを真理が許すはずもない。自分がやられるという未来をただ再現するしかできなかったといえるだろう。


小百合のように突発的で鋭い一撃があったわけでもない。康太のように強引な手数と機動力でごり押したわけでもない。ただ静かに、一つ一つの手段を確実にとった結果こうなった。いうなれば手順を踏んだ技術的な戦闘だ。


「あれをやろうとしてあんたでもできる?」


「無理だな。俺だと面倒くさくなってどうしても力技に頼る。あの人の場合それをしたくないからあぁしてるんだろ」


小百合のように鋭く、なおかつ重い一撃を的確に入れるようなことを真理はしない。康太のように力技に頼るようなこともしない。


真理はとにかく攻撃一つ一つが丁寧だ。牽制、誘導、崩し、そして本命。どの攻撃も一つ一つを見ればまだまだ威力を上げられるように思う。


もっとも訓練だからかなり手を抜いているのだろうが、それにしても丁寧過ぎた。


それを感じていたからこそ晴は油断した。そして今こうして転がされている。何が起きたのかもわからずに。


「ちょっと晴、油断しすぎじゃないの?」


「違うって!お前もやってみりゃわかる!」


「負け惜しみ。真理さん、次私お願いします」


「えぇ、構いませんよ。明さんは槍でしたね」


「はい!お願いします」


晴よりは攻撃のリーチが長い槍を構えて明はゆっくりと真理と向き合う。


その構えを見て真理は薄く微笑んで康太の方を一瞬見た。明に槍を教えたのは康太と小百合だ。

その構えが小百合と康太のそれに似ていることに気付いたのだろう。


誰かに技術を教えて、それがまた誰かに伝わり、そうして技術が繋がれていく。


それこそが指導であり教育だ。康太に教えたことは間違いなく誰かに繋がっていっている。そのことが真理はうれしかった。


「それでは行きましょう。すぐにやられてはいけませんよ?」


真理の言葉に、明は身構えるが、その数分後には晴と同じような目に遭ってしまっていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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