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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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引率役は

「コータ、これの九巻がないぞ。どこにある?」


「お、ちょうどいいところに来た。アリスからもなんか言ってやってくれよ。こいつら今度の作戦についてきたいって言ってるんだよ」


漫画の続きを探しているらしいアリス。索敵で探せば一発だろうにいちいち聞きに来る辺り面倒くさがりなのか寂しがりなのかよくわからないが、今回ばかりはちょうどよかった。


アリスはこんな見た目と面倒な性格をしているが、一番経験値のある魔術師だ。多少辛口になろうとも正しい評価を下すことができるだろうと康太は考えていた。


「今度の作戦は協会主導の作戦だろう?二人は出向者とはいえ外部の人間だろうに」


「そうなんだよ。でもついてきたいんだと」


康太の説明にアリスは宙に浮いたまま真剣な眼差しを向ける土御門の双子に視線を向けて眉を顰める。


若者が大いなる苦難に立ち向かおうとするのは、年寄としては見ていて嬉しいものだが、同時に大きすぎる問題に立ち向かうのは勇気ではなくただの無謀だ。


その二つの境は非常に曖昧で、本人からはわかりにくい部分が多い。そういう意味もあって第三者であるアリスからの意見が欲しかった。


「なるほど・・・あえて苦境に身を晒すか。自分たちがどのような立場の人間であるかはよく理解しているな?」


「わかってるつもりだ。俺らが怪我をするだけで、協会に迷惑をかけるっていうのも、家に問題を呼び込む可能性があるってこともわかってる。でも・・・それでも」


「だから支部長たちがすごく気を使ってくれているし、先輩たちが鍛えてくれてるってのもわかってる。でも、やっぱりそれでも」


それでも一緒に行きたい。


二人はその言葉を口にすることはなかったが、真剣な眼差しだけはそのままだ。


もはやこれ以上語ることはないということか。まっすぐに見つめた目と、真一文字に結ばれた口からは二人の覚悟が見て取れた。


「さんざんお預けをし続けたつけが回ってきたか?ここまで頑ななこやつらは初めて見るな」


「そうなんだよ・・・確かに危ないところには極力連れて行かなかったけどさ・・・それでもだぞ?」


「だからこそだろう。裏方というのも重要だが、下から延々と支え続けられるほどこの二人の精神は成長しておらんのだ。コータがもっと自発的に危険な内容に連れて行ってやるべきだったな」


アリスの言葉に、康太はそうかもしれないなとため息をつく。連れていけるタイミングはいくらでもあった。康太が危険と判断したのも間違いではないが、どこかのタイミングで連れて行ってやるべきだったのだ。


それも後方ではなく、前線での活躍を期待するべきだったのだ。だがもはやそれを言っても仕方がないだろう。


「今回は一歩間違えば今までの魔術師が積み上げた基盤すら揺るがしかねないような状態だ。手は少しでも多いほうがいい。コータもそれは理解できているな?」


「わかってるよ。俺だってこいつらが協会の人間だったらもっと連れまわしてる」


「問題はそこなのだろう?結局のところこやつらが土御門の人間であることが一番重要なのだ。お前としては連れて行きたいと思っていても・・・な」


「それもある・・・それもあるけど・・・」


康太は目を細めて土御門の双子を見る。まっすぐに見返すその瞳が眩しくて、康太はさらに目を細め、そして狭くなった視界でその光景を思い出していた。


「俺じゃ守り切れる気がしない。この間のやつと同じ程度の実力を持ってるやつがいた場合、万が一の時に守り切れない」


「・・・それが原因か。こやつらを守る対象として見てしまっているのがお前の一番の問題のようだな」


先輩に守られなくなって自分の身は自分で守りますと、強い表情を見せつける土御門の双子を前に、文は康太がなぜ双子を連れて行きたがらないのか、その理由を理解していた。


土御門の双子が文や倉敷レベルで強ければ、康太はその背中を預けるくらいはしていたのかもしれない。

だが双子はまだそこまで強くないのだ。だからこそ誰かが守ってやらなければならない。


その誰か、誰が担うのか。連れていくというのなら康太が責任を取らなければならない。だがそんな余裕が康太にあるとも思えなかった。


誰かが土御門を守る。相手を攻めなければいけないという状況の中で、守護要員を抱えるというのはあまり良いことではないのも事実だ。


だからこそ攻め続け、相手にこちらを攻撃する隙をなくすくらいにしなければいけないのだが、康太にはまだその攻撃力はなく、二人を守り切れるだけの防御能力もない。


「ではこうするのはどうだ?この二人をマリにつければよい」


「姉さんに?」


今までなかった選択肢に康太は目を丸くする。確かに真理のような高い性能を誇る魔術師と土御門の双子が組めばほぼ負けはないだろう。


予知の力によって制圧能力も高くなる。相手にとっては悲鳴を上げたくなるようなチームになるのは間違いない。


「マリならばこの二人の力をうまく利用してよりよく攻略するだろうて。二人とも、異論はあるかの?」


アリスの提案に土御門の二人は首を勢い良く横に振るう。


康太はまだ何かを言い足りないのだろうが、反論できるだけの材料がないのか渋い顔をしている。


文はアリスが言うことであれば仕方がないわねといった様子でため息をついている。話は決まりそうだった。


「土御門のお二人を?」


「そうだ。今度の作戦で、マリにこの二人の引率を頼みたい」


アリスとともに土御門の双子を真理のもとに連れてきた康太たちは事情を簡単ながら説明していた。


土御門の双子を連れていくメリットとデメリット。そしてそのデメリットを解消するためにも真理に頼みたいということだ。


「なるほど、確かに身内の中で一番バランスがとれているのは私ですね。春奈さんも同じようにレベルは高いですが・・・今回はたぶん無理でしょうし」


「師匠と一緒に行動させるって支部長が豪語してましたからね。そういう意味で姉さんに頼みたいんです」


「構いませんよ。私としても知り合いの方が一緒にいてくれるというのはとても心強いです」


心強いなどと真理は言っているが、実際は真理は手助けなど必要はないだろう。どちらかというと土御門の双子にいらない心労をかけないために気遣っているのだ。


「ですが殊勝なことです。このような面倒ごとに自らかかわろうとは・・・」


「魔術師全体の問題になろうとしてるんです。今後の協会との付き合い方を考えていくうえでも必要なことだと思いました」


「私たちが活動しなくても何も変わらないかもしれませんけど、それでも変えられるなにかはあるはずなんです」


「えぇ、素晴らしい考え方です。支部長などなどは私の方からお二人のことについて説得しておきましょう」


真理の説得しておくという言葉の何と心強い事か。いったいどんな話術で支部長を丸め込むのかは不明だが、真理が一緒につくというかなり強力な護衛がいるということで支部長も多少は安堵するかもしれない。


無論不安は不安だろうが。


「ですが驚きました。まさかアリスさんがそのようなことを言ってくるとは。てっきり康太君辺りが言ってくると思っていたのですが」


「こやつは守り切れるか怪しいらしい。何より心情としてはこいつは支部長の側に近い。土御門との関係をなるべく崩さないようにしたいのだ」


「ふむ・・・それは大事なことですが、出向者の意志もしっかりと鑑みないとよい関係は築けませんよ?必要とあれば我々が身を切ってお二人を守らなければ」


「いや、俺たちは守ってもらわなくても・・・」


「そういうわけにはいかないのよ。二人が別組織の人間ってだけで、魔術協会の人間は二人に気を使っちゃうんだから。個人間での問題ならいいのよ?けど組織間の問題になった時、責任を取り切れない可能性だって出てくるんだもの」


個人でどうこうできるレベルの話ならばともかく、組織同士の問題に発展すればかなり面倒な話になる。


そういったことを避けるために事情を知る魔術師たちは土御門からの出向者である双子の二人にかなり気を使って行動していた。


仕方がないこととはいえ、二人からすればあまり気持ちの良いものではなかった。


「ところで、私はお二人の戦闘能力をあまり知らないのですが、具体的にどれくらい戦えるんですか?」


「えっと・・・師匠相手に五分は確実にもつようになってきましたね。調子がいい時に十分行けるか行けないかってところですか」


「ほほう、それはそれは・・・なかなか仕上がってきたという感じですね」


予知の精度も、それに対しての肉体の制御も、魔術による防御も訓練を始めるまでのそれとは一線を画すほどのレベルに上達している。


未だ攻撃面はたどたどしさが残るが、そのあたりは今後の課題として、少なくとも小百合相手にしっかり戦うという行動自体はとれているために訓練の結果はしっかり出ていると思うべきだろう。


「晴は刀を、明は槍を使って、晴が近接と中間の近接より、明が近接と中間の中間よりの戦い方をしますね」


「ふむふむ・・・予知を使う相手との戦闘は何度かしましたが・・・そうですね、であればちょっと手合わせをしてみましょうか」


「「えっ」」


思わぬ申し出に土御門の双子は同時に声を上げる。


無論願ってもないことである。普段康太と戦ってほとんど負け続けている。もちろん小百合にも同じような形だ。


だが康太の兄弟子である真理ならばどの程度戦えるのであろうかと土御門の双子的には気になっていたのだ。


時折アドバイスなどはもらっていても、あまり本気で手合わせをするという機会には恵まれてこなかっただけに、二人は気になっていたのである。


「二人を守るのか、一緒に戦うのか、そのあたりをこれで決めようと思います。一定のレベルに達していれば、守るよりも共闘したほうが戦果を挙げられるでしょう」


そう言いながら真理は近くにあった自分の訓練用の武器を手に取って軽く振り回す。


真理が訓練用の武器を持つのを見るのはすごく久しぶりかもしれないなと、康太はしみじみしていた。


就職活動などもあって真理は多忙だったため、一時期修業場にも来ていなかったのだ。


最近はよく見るようになったが、それも時折抜けてしまう。


訓練として武器を使うというのもかなり珍しかった。おそらく二人がどの程度の実力を持っているのか自分の身をもって体感するつもりなのだろう。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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