ガチへこみ
「なんかないんですか?他の人にもこれは負けないっていう、特技というか強みというか」
「いやあるよそりゃ・・・えっと・・・あー・・・」
支部長は必死に自分にしかないような、他の人にはまねできないようなことを出そうとするのだが、どういうわけか思い出すことができなかった。
いや、正確にはいくつか思い当たりはするのだ。普通の魔術師よりも優れている点はいくつも思い当たる。
だがそのどれもが、他の魔術師の方が優れていることが多い。
例えば攻撃などで言えば小百合が、防御で言えばアマネがという風に、自分の持つ技術の中で平均的な魔術師たちよりも秀でているものが多いのは事実なのだが、そのどれもが一番ではないのだ。
トップクラスではあるものの、トップではないのだ。
誰にも負けないという何かが思い当たらない。どうしてもそのあたりの誰にも負けないという技能が思いつかなかった。
「支部長・・・」
「いや待って!あるんだよ!?何かあるよ!ほら!えっと・・・!」
「いいんですよ支部長。聞いた俺が間違ってました・・・すいません」
「謝らないで!泣きたくなってくるから!っていうかそういう君はあるの!?他の誰にも負けないっていう何か!?」
「俺ですか?そうですね・・・攻撃力や回避は師匠や姉さんに劣りますし・・・機動力とかでしょうか。それなら師匠や姉さんにも負けません」
康太の地上や空中での機動力は目を見張るものがある。一瞬でも見失えば次にどこにいるのかを見つけることはできないといってもいいほどだ。
康太ほどの速さで動ける魔術師はそういないだろう。長距離短距離での違いはあるだろうが、確かに康太の機動力は魔術協会の中でも随一といってもいいほどのものだ。
魔術師になって一年半程度の康太でもしっかりと強みがあるというのに、自分にはないのかと支部長はかなりショックを受けてしまっていた。
無論総合力で見れば康太よりも支部長の方が優れている。
攻撃、防御、索敵、機動力、援護、素質、処理能力、保有魔術、そのほとんどが康太よりも上だ。
全体的にバランスよくまとまっており、しかもそのバランスはかなり高レベルでまとまっている。
隙のない優秀なパラメーターといえるだろう。この実力を見て支部長のことを侮るようなものはいない。
支部長は間違いなく優秀な魔術師だ。本部に行っても間違いなく通用する。それどころか本部の大抵の魔術師でも相手にはならないだろう。それだけの実力を有しているのだ。
だが如何せん、各部門に特化した魔術師が身近にいるせいもあって、これだけは自分の独壇場であるという部門が見当たらないのである。
「・・・面倒ごとの事後処理とか・・・どうだろう?」
「それ魔術師としてどうなんでしょうか・・・?魔術師の実力として含めちゃっていいんですか?」
「だよねぇ・・・えぇ・・・ちょっとまって・・・魔術師になってかなり経つのに誇れる分野の一つもないの僕」
今まで面倒ごとに巻き込まれ続けていただろう支部長が、自分の実力によって多くのことを解決してきたことは容易に想像できる。
身の回りにいる優秀な人材を扱いながら、うまくコントロールしながら面倒ごとをうまく解決してきた。
それは多くの者が認めている。だがそれは支部長の人としての性質であって魔術師としての性質ではない。
そういう意味では支部長は一人の人として多大な評価を受けているが、魔術師としての評価が微妙ということになる。
もちろん魔術師としても優秀なことに違いはないのだが、周りにいる強烈な人種と見比べた時に多少見劣りしてしまうのも事実だ。
「まぁまぁ支部長、アリスと比べたら全人類同じようなものですよ。比べる対象をおかしくしすぎてるんですよ」
「そのおかしい対象の中に君の師匠も混じってるんだけど、それはいいの?」
「あんなのおかしい人種筆頭じゃないですか。支部長はもうちょっと堂々としてていいんですよ。支部長じゃないと今の支部はまとめられないんですから」
「そうか・・・そうかな・・・?」
「そのおかしい対象の中に私も含まれてしまっているようなんだが?」
「だってアリスはアリスだろ?しょうがないじゃん」
「なんだその私の存在自体がおかしいような言い分は」
「違うのか?」
「・・・違わんが・・・はっきり言われると多少腹が立つな」
アリスも自分の状態が一般人と比べておかしい状態であるというのは十分に理解しているらしい。
無論、だからと言っておかしい呼ばわりというのもあまり良い気はしないようだった。実際おかしいのだから否定もできないために認めるしかないのが悔しいところであるようだったが。
「ね、支部長は今のままでも十分すごいんですよ。だからそんなに落ち込まないでくださいって。ね?」
「うん・・・うん、頑張るよ」
支部長がだいぶ落ち込んでしまっているが、多少は持ち直したのか声に張りが出てきている。この話題はここまでにしたほうがいいなと康太は少しだけ反省していた。




