後始末の方法
「会議めんどくせぇ・・・!なんであんなに長いのさ・・・!」
会議が終わった後、康太は支部の支部長室に戻ってソファに座りうなだれていた。
会議に主導的に参加していた支部長は苦笑しながら康太をねぎらっている。
康太のように会議というものに慣れていない人種にとっては一種の拷問に近い時間だった。
支部長のようになれている人種からすれば、あのような会議はよくあるために比較的問題はなかったが、魔術師でなければただの高校生でしかない康太にとってあの時間は苦痛以外のなにものでもない。
しかもただ意見を聞くだけしかできないのだ。たまに話を振られることもあるが基本的には聞いているだけ。
校長の話よりも眠くなるが、仕事で護衛を引き受けている以上寝るわけにもいかないという果てしなく苦痛な時間だったのは言うまでもない。
「まぁまぁ、それも攻勢の準備が整うまでの辛抱さ。攻撃に入ってしまえばあとは勢いと破れかぶれで何とかなるものだよ」
「そういうもんですかね・・・実際どうなんですか?万が一魔術が発動されちゃって、一般人にもやばいって気づかれたら」
「場所にもよるかなぁ・・・もし見つかりにくいような土地・・・特に上空から、航空や衛星なんかの撮影だとわかりにくいような地形だったら全力で誤魔化すかな。でも今回僕らが攻略するみたいに消滅したら一発でわかるような場所はもうどうしようもないよね。その場合はあきらめる」
「あきらめるって・・・それでいいんですか?」
「仕方ないよ。他国に核を落とすことになるのは申し訳ないけど、魔術が露見するわけにはいかないからね。その場所に核を落としてごまかす」
どうやら支部長としては魔術の露呈をさせるよりは核を落としたほうが手っ取り早いと考えているのだろう。
なんとも極端な考えかもしれないが、それをするだけの理由があるのだから仕方がないと考えるのが魔術師だ。
「アリスはどう思う?核を落とすくらいなら隕石落としたほうが安全じゃないか?」
会議中はずっと姿を消していたアリスも支部の中ではいつも通り姿を現している。アリスは核を落とすということに関しては良くも悪くも思っていないようで、特に興味もなさそうに宙に浮いている。
「私としては正直隕石を落とすよりも核を落としたほうが被害は少なく済むと考えているんだがの」
「そうか?核を落としたら大変なことになるだろ?」
「そうは言うがな、隕石だって落ちたら大変なことになるのだぞ?それに、隕石の威力調整はかなり難しい。小規模でいいのであれば適当なものを見繕うこともできるかもしれないが、あいにくそう手ごろなサイズがあるとも思えんしな」
隕石の威力、というか落下の威力は当然質量と速度によって求められる。
大気圏突入でも燃え尽きないほどの質量を持った隕石が地球に落ちてきたとき、その威力を調整するのは至難の業だ。
単純に減速すればいいだけではなく、大きさによっては減速そのものが不可能の可能性もある。
そういう意味ではある一定の効果しか及ぼさない核兵器の方が安全に多大な破壊をもたらすことができるということでもある。
「ていうか、さも当然のように核を落とすって言ってますけど、そういうのの発射スイッチ的なものを掌握してるってことですか?」
「そのあたりは本部と一部の幹部しか知らないけどね。万が一の対策としての隠れ蓑扱いでそういう準備も進めてあるよ。軍とかの施設やら装備が流用できるのはその応用みたいなものさ」
今までの活動で何度か一般人のそれとは違う装備などを扱ってきたことはある。特に航空機などは軍用のものもあったくらいだ。
そういった装備などをどのように用意しているのか疑問ではあったが、おそらく本部や支部の一部の人間の極秘としてそういった人脈に対して強い催眠か何かをかけているのだろう。
そしてそういった力を持ちながらもそれを戦争に利用しようとしないのが魔術師の考え方だ。
あくまで魔術のために。国の利益だとかそういったものよりも魔術のことを優先するのが魔術師だ。
なおのこと、魔術のことが一般人に知れたら大変なことになるだろうなということが想像できる。
「でも核を落としたくらいでばれませんかね?被害状況とか全然違いますよ?」
「一番の目的は核を落としたっていう事実に視線を誘導させるためだね。どこの国が撃ったんだとか、報復をするのかどうかとか、あとは世論的な問題とか、とにかく一般人の目を見せたくない部分からそらすのが目的さ。被害の大小はあんまり考えなくてもいいかな」
「一応聞きますけど、今までそういう風に核を落としたことは?」
「ないね。日本に落ちたあれはあくまで戦争の結果落としたってことで魔術師は関与していないよ。ただ爆撃は何度かやったことがあるなぁ・・・他の国の自然愛護団体やら世界遺産の保全団体からものすごく叩かれてたのを思い出すよ。あとは別の武装集団がやったってことにしたとかそういうのはやったなぁ」
一体どこを爆撃したのかは聞かないほうがいいだろう。何となく想像できてしまった上に、強烈に師匠である小百合の顔が浮かんでくる。
きっと小百合がやらかした後の後始末でそうなったんだろうなと想像しながら、康太は苦笑いするしかなかった。




