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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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足止めのために

「ワォ・・・マジかよ・・・あれでほぼ無傷とかどうなってんだ・・・」


車から脱出した人物は道を見た後ですぐに移動を開始しようとする。周囲が暗くなっていることもあり近くの森林地帯に足を運び少しでも追手から逃れようとしているのがわかる動きだ。


あのまま行かせれば本当に逃げられてしまうだろう。もちろん康太もそのまま逃がすつもりは毛頭なかった。


「目標健在。片腕を負傷した様ですけど逃走に問題なし。今から足止め開始します」


康太は仮面と外套を身に着けると槍を構えてその後を追い始める。


相手は体力の事も考え小走りで移動しているのに対してこちらは全力疾走、すぐに追いつけるだけの距離だったために追いつくだけなら問題はないだろう。


問題はどれだけ自分が足止めできるかという点である。


『ビー、後十五・・・いえあと十分でそちらに向かいます。可能な限り足止めをしてください!』


「十分ですね・・・了解しました。何とかもたせます」


十分、という事はあと数キロの地点まで真理はやってきているという事だ。


康太が移動した距離を追ってくるような形で真理がやってくることを考えるとあながちおかしくない時間だ。


あと十分間自分があの魔術師を足止めすることができれば康太たちの勝利はほぼ確定すると見ていいだろう。


康太は自分の現在位置のデータを転送しながら魔術師の前に躍り出ていた。


康太はようやくこの時相手の顔をしっかりと目にしていた。


平凡な顔つきだった。年の頃は四十代くらいだろうか、白髪が多く見た目よりも老けている印象を受ける。


スーツ姿のその人物はこちらを確認すると眉を顰めながら康太の全身を観察していた。


日もかなり落ち、公道から離れた雑木林の一角はすでに暗闇に染まりつつある。この中で二十メートルも離れれば相手を見つけることも困難になるかもしれない、それほどの暗闇だ。


そして携帯を操り、十分のタイマーをセットすると懐の中に入れる。


「・・・君は誰かな?一体誰の回し者だ?」


「答える義務はない。あんたはここで少し待っていてもらいたいな」


「・・・あの女の関係者か・・・」


あの女というのが小百合のことを指しているのは康太でもすぐに理解できた。だがこの男が小百合がデブリス・クラリスであることを知っているかどうかは未だ未知数である。


前に小百合と真理が話し合っていたように、ただ朝比奈と話していたからという理由で小百合に攻撃を仕掛けた可能性だってあるのだ。


それを考えると余計な情報は出さない方がいいだろう。相手もそれを理解しているからこそ言葉数を少なくしているのだ。


康太は槍の矛先を向け魔術師と対峙する。


自分よりも圧倒的に格上であろう魔術師。どのような行動をとってもすぐに対応できるように康太は構えていた。


今自分がするべきはあくまで足止め。倒す必要などない。可能ならこのまま睨み合っていてくれれば助かったのだが、そう簡単に事が運ぶほど相手も悠長ではないようだった。


相手が一瞬腕を動かしたのを康太は見逃さなかった。何かが来ると判断した瞬間に康太は横に跳躍して木を盾にしながら移動を始める。


次の瞬間、康太のいた場所が燃え上がる。暗闇の中にオレンジの光がともることで周囲が一瞬光に包まれたように見えていた。


炎を飛ばすのではなく特定の区間を燃やす魔術であることを康太は見抜いていた。


炎が発火点に到達するまで全く見えなかったのである。康太の分解のようにある場所に対してのみ発動するタイプの魔術だ。


嫌な魔術を使うなと康太は眉をひそめていた。炎の魔術は康太の苦手とするところだった。


才能的には炎の魔術を扱えるだけのポテンシャルを持つ康太ではあったが、相手が炎の魔術を使ってきたときの対処という意味では炎の魔術を苦手としていた。


何故なら康太の使える魔術は良くも悪くも物理的なものばかりだ。それに対して炎は現象、防ぎようがないのである。


まだ電撃のようにある一定法則を持っているのであれば対処のしようがあったが、相手が炎の魔術を扱うとなるとどう対処したらいいのかわからなくなってしまう。


だが対処しようがないからと言って足止めができないわけではない。


康太は木の陰から蔭へと移動しながら的を絞らせないようにしていた。一方向だけではなく前後左右にフェイントを織り交ぜながら一定以上の距離を保ち行動する。今行っている回避行動兼牽制が今康太にできる最善手だった。


先程の炎の魔術は基本的に発動位置がはっきりと決まっている。正確には相手が発動しようと思ったところが燃えあがると見て間違いない。


康太自身が扱う分解の魔術も基本的に自らが発動する場所と対象を決定している。


その為正確な位置情報を認識するか、目視できていない限り目標位置の設定ができないのだ。


実際康太も見えている位置の分解しかしたことはない。相手が康太と同じほど未熟であるとは思わないが、自分と向かい合っている状態で、なおかつ康太が動き続けている状態で正確に康太の動きを読んで狙い撃ちするという芸当は難しいだろう。


実際康太の考えは当たっていた。先程の炎の魔術では今の動きをしている康太は捉えられない。対峙している魔術師の考えと康太の読みはほぼ一致している。ただ一点を除いて。


次の瞬間、魔術師の周囲に炎の球が大量に顕現し魔術師を中心に円軌道を描きながら周りにある木を燃やさないように動き始めた。


そう、一つの魔術で倒せないなら別の魔術を使えばいい。康太にはできない魔術師としてある意味当たり前の考え方を彼は実行していた。


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