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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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長く続く会議

再び会議が始まると、その内容はさらに具体的なものへと変わっていた。先ほど挙げられた攻略難易度が高い箇所以外の攻略方法、動員する人員とその種類。隠匿の方法など事細かに報告させている。


もちろん少々変更をかける必要がある場合は、さらに適切な方法や手段に変更するように議論を繰り広げた。


当然その分時間がかかる。会議というのはこうやって時間を浪費していくのだなと、支部長の護衛役である康太は欠伸を噛み殺しながら退屈な時間をひたすらに耐えていた。


全ての攻略地点の会議が終わるまでかかった時間は数時間に及ぶ。時折休憩をはさんでいても、その時間はとにかく長い。むしろ数時間で終わったことを喜ぶべきだろうか。


「では次の議題に移ろう・・・万が一の際、相手に術式を発動されたときの最終手段についてだ」


全ての攻略地点の議題が終われば次の議題。会議が終わるときは来るのだろうかと軽く気が遠くなりながらも、この議題は魔術協会にとって非常に重要であることは康太も理解できていた。


「つい先日起きた消滅の規模、発動点の位置からして、大規模な事件になる可能性が高いのが数カ所ある。これらへの対処をどのようにするか、各地攻略支部だけではなく、すべての支部の意見を聞いておきたい」


映像にあったように、地下空間がぽっかりと空いたようにえぐり取られた光景が康太の脳裏に思い浮かぶ。


確かにあれが平地などで起きればそれこそクレーターかミステリーサークルか何かではないかと騒がれかねない。これがまだ地下や山脈地帯であれば大規模な破壊などを起こせばある程度誤魔化すことができるかもしれないが、今まで何もなかった平地、森などに起きれば天変地異という言葉では済まされない。


映像で見た限り綺麗に球体に切り取られてしまっているのだ。あのような自然災害が起きるとは思えない。


一般人目線からしても魔術師目線からしても違和感が強すぎるのだ。


「やはり何かしらの破壊工作をするしかないのでは?火災などでは少々弱いが、地割れ、爆撃、そういった行動を起こさないとこれは隠しきれないだろう」


「だが規模にもよる。前回のように地下で収まるような十メートル程度の規模であれば問題はないが、万が一、数百メートル規模に及んだ時それではカバーしきれないだろう?」


「発動させなければ最高だが・・・万が一のことを考えると頭が痛いな・・・山岳地帯であれば地震とそれによって生じた山崩れなどをカバーストーリーとして作れば問題はないだろうが・・・」


「平地、森林地帯となると難しい。砂漠地帯はどうだ?」


「砂漠であれば地形を変えるのはそう難しくはない。森林地帯も時間をかければ元のように変えるのは不可能ではないだろう。問題はその規模と、それだけの時間をどのように稼ぐかだ」


かつてアリスがやったように、地形そのものを変える魔術、主に土属性の魔術だが、それを使えば多少の問題は解決できる。


クレーターのように地面がえぐれていても、魔術を使って地面そのものの形を変えて整地してしまえば問題はない。


木々なども土と一緒に根ごと移動してしまえば移動は可能だ。多少木と木の間の感覚が広がり、変化を与えるかもしれないが多少の変化であれば誤魔化すことは不可能ではない。


だがそれは規模が小さかった場合の話だ。


もし先ほど別の支部の支部長が言ったように、数百メートル規模になった場合、その地形変化は容易ではない。


「今回の攻略場所で街中がないのが不幸中の幸いですね。万が一一般人への被害が出た場合、誤魔化すのは難しくなる」


「とはいえ、地形操作となると時間がかかるぞ。数十メートル規模ならば違和感をなくすのに半日、かかっても一日もあれば可能だが、数百メートル規模となると・・・」


相手が地球そのものを人外化しようとしているのだから、その規模はかなり大きなものになっているだろう。


破れかぶれになって不完全な状態で発動したとしても、その規模はキロ単位に及ぶ可能性が高い。


そうなると協会の魔術師を総動員してもそれをごまかすことは難しくなる。


何せ地形そのものが変わってしまうのだから。大規模になればなるほどその補修作業は難しくなる。


「巨大な爆発を起こすにせよ、その分大きな話になってくる。よもや核を使うわけにもいかないしな・・・」


「一か所・・・場合によっては数カ所核を落とせと?それこそおかしな話になってくる。魔術を隠匿するために戦争の火種を作るのはさすがに承服しかねるぞ」


「特にその国の人間からすればたまったものではないだろう。巨大な破壊にせよもっと自然な形にしないといけない」


「隕石でも落ちたように見せかけるか?だがそういったものはさらに科学的な調査が進むだろう。調査が進むにつれ気付くものは気付く」


「気付かないようにするには・・・やはり隠匿するための作業しかないか・・・となればどうする?場所によっては別のものに目を向けられる可能性はあるぞ?海の近くであれば津波を起こして地面そのものを隠してしまえばいい」


「雪などでも同じことができるな。季節的に難しいかもしれないが」


何とか地表部分を覆い隠すことができるのであればそういった隠匿に時間がかかっても多少はごまかせる。


長期にわたる補修作業を行う場合、やはり必要になってくるのはそれをごまかすための隠匿工作になる。全支部長と本部幹部連は頭を抱えてしまっていた。


「仮に、これが発動して・・・多大な被害を及ぼした場合・・・魔術の存在が露呈する可能性も出てくる。その後のことも視野に入れるべきか?」


それは魔術協会の存在の根幹を揺るがす問題だった。魔術は一般に広まるべきではない。それは単純に魔術の存在そのものが非常に危険だからだ。


一部の人間だけで制御してきたものを、全世界の人間で共有した場合どのような不具合が生じるかわからないからこそ今まで魔術は秘匿されてきた。


それが明るみに出ないようにするための会議で、その発言は全員の考えを一つにするには十分すぎた。


「それを言ってしまえば元も子もない。それをさせないようにするための会議だろう」


「そうだ。確かに難題ではあるが、まだその話をする段階ではないように思うぞ」


「核を落とすか、魔術を露呈させるか・・・究極の二択だが・・・どちらがよりましなのか・・・判断しかねるな」


所謂究極の二択として、発動点に核を落とすか、魔術が露呈することを許すかという選択においてどちらがよりましなのか。一見すれば考慮するにも値しない選択肢のように思えるが、魔術師としての観点から知れば十分あり得る行為なだけにだれも笑えなかった。


「実際に、魔力の供給が途絶えても相手が発動しようとすれば発動するのであれば、その場にいる魔術師たちだけを殺してしまえば発動はしない。自動発動などの術式が組んであれば話は別だが・・・」


「一斉に発動するというのは十分に考えられるが、それまでに何とかすればいいだけの話だろう。何よりそれだけ緻密で、なおかつ巨大なものを自動化するとなれば術式は膨大な量の情報を処理しなければいけない。そのようなものを扱えるのであればもっと別の方法を思いつくのでは?」


「確かに・・・だが仮に全術式を同時に発動するとすれば、やはり時刻を決定しておくのが当然だろう。タイムリミットがいつに設定されているのかは不明だが・・・」


「こうしている時間も惜しいか・・・とはいえ準備ができないことには下手に攻め込んでも相手に発動させるだけの隙を産むだけ・・・」


「私は爆撃という案は十分考慮に値すると思う。もちろん核を撃つという考えには至らないが、少なくともその場にいる魔術師を殺しつくすには適切であると思うぞ」


爆撃。人類が開発した殺傷手段の中でもかなり近代に生まれた方法だ。高高度を飛行する航空機から爆弾を投下して一帯を焼き尽くすという方法で、これの利点は制空権さえ取れてしまえば安全に敵勢力を攻撃できるという点にある。


問題は、それだけの兵器を用意できるだけの人員がここにいるかどうかということでもあるが、魔術協会の幹部面々はその辺りは問題にもしていないようだった。


魔術を隠匿するために他国や自国の爆撃も厭わない。魔術師は正義ではないという言葉は何度も聞いてきたし、康太自身納得していることでもあるが、こうして実際につきつけられている現実を見ると悪の組織にいるような印象しか抱けなかった。


「殺すという一点に限るのであれば、何も爆撃にこだわることもない。静かに事を起こせれば一番いいが」


殺すという手段を考えた時、多くの者がかつて万を超える被害を出したある封印指定のことを頭に浮かべた。


そして日本支部の支部長のやや後ろに控えている康太の方に視線を送るものも何人かいた。


だが同時に、あの封印指定は一般人に対しては多大な効果を出したが、魔術師に対してはさしたる効果を及ぼさないということを思い出したのか、小さく首を横に振る。


「静かに、かつ相手が反応するよりも早く殺しつくし、なおかつ物理的な被害を最小限に抑える方法か・・・なかなかに無理難題だ。大多数の攻略と同時にこの考えも推し進めたいところだな」


部隊を編成しての攻略作戦と同時に、暗殺にも似た行動を起こすことができればかなり心強い。


一つだけではなく二つ、三つと手段を考えておいて損はないのだ。もちろん問題は山積みであるためにいくつも議題があるためこのことばかり考えているわけにもいかないのだが。


「この議題は宿題だな。相手が万が一術式を発動する前に、術式だけを破壊することができればいいのだが・・・」


「日本支部の例の魔術師は破壊に精通していると聞いたが、こういった術式に関してはどうなのだろうか?」


その話題が振られたことで全員の視線が日本支部長と康太に向けられる。康太に話すように促した支部長を見て康太は小さくため息をつく。


「師匠が使う術式破壊は確かに有用ですが、術式に直接触れる必要があります。そして、方陣術に関してはいくつか破壊方法がありますが、師匠は物理的な破壊が一番楽だといっていました」


「物理的な・・・か・・・暴発する可能性が一番高い方法じゃないか・・・それでどの程度術式を安全に破壊できるんだ?」


「師匠なら九割がた安全に壊せます。俺はまだ未熟なので物理破壊なら六割ですかね」


未熟でも半分以上の確率で安全に壊せるという事実にその場の支部長たちは少し感心していた。破壊に精通するその技術があれば何とかなるのだろうかと思いながらも、それが一朝一夕ではいかないということも理解している。


「術式の破壊に関しては現実的ではないといわざるを得ないな。やはり術者への攻撃が一番効果的か・・・」


「人体への攻撃なら、フランス支部の魔術師が得意ではないか?そのあたりの意見を聞きたいものだ」


人体への攻撃。支部長の話ではパピヨン一族は毒や薬物などに精通し、人体への攻撃に特化した戦いを行えるのだという。


その弟子であるPPにも意見を聞きたいという魔術師がいるのか、視線がフランス支部支部長とその後ろで控えるPPのもとに集まる。


「正直なことを言えば、相手が待ち構えているんじゃかなり方法は限定されますよ。嵐を発生させているのであれば気体は効果が薄いですし、雨が降っているのであれば液体の効果は半減します。相手の対応によってこちらも用意するものを変える必要がありますね」


PPのもっともな意見に多くの支部長がそれもそうだと唸る。実際問題どこまで相手が対応してくるかによって対策は大きく変わってくるのだ。


毒というのは既存の物質に依存してしまうため、そのあたりが非常にシビアなのである。


「人体だけにダメージを与えるということを考えるなら、やはり毒だけに限定しないほうがいいでしょう。何より毒は即効性のものを使えば自分たちにも危険が及ぶ可能性が高いですから」


相手に異変を気づかせずに攻略するとなれば、当然即座に効果を及ぼすものが好ましいが、あまりにも早く効果を及ぼしすぎるものだと味方にもその影響が出かねない。


毒物を使うというのは適切な行為かもしれないが最適な行為とは言えないというのがPPの考えであるようだった。


「相手を即座に気絶させる・・・しかも広範囲に展開しているであろう連中に対してほぼ同時に行えることが好ましいとなると・・・」


「現実的にそれができないのであれば次の策を講じるべきだろう。相手に攻撃だと悟らせないことが重要なのではないか?」


「攻撃だと悟られないようにするにはどうすればいいのかという話になるな。となれば自然災害などが例として挙げられるが・・・」


「地震などを起こせば、地面に直接刻まれている術式を破壊することは比較的難しくはないだろう。だが物理的な破壊を実行して術が暴発を起こせば・・・」


「だが、遠隔から攻撃できてなおかつ相手に気付かれないように術式を破壊できる手段は少ないぞ?大きな地震と地割れ程度だ」


「だが、相手だってそのあたりを警戒しているのではないか?私ならそういった行動をとられないように足元を固めるぞ」


あぁでもない、こうでもないと議論を進める支部長たちを見て康太はわずかにため息をついてしまっていた。


確かにこういったことを話すことは必要だとは思う。だが可能性の話ばかりを議論していても仕方がないように思えてしまうのだ。


もちろんこの議論がすべて不要とは言わない。いくつかの可能性を考慮したうえでそれらに対する方策を取捨選択していくのは上の務めだ。


だがそういったことに興味がない康太からすればこの時間はとても退屈で無駄な時間のように思えてしまう。


小百合ではないが、とりあえず敵がいる現地に突っ込んで叩き潰せばいいではないかと思えてしまうのだ。


こんな風に雑な思考をしてしまっている時点で、思考がかなり小百合寄りになってしまっているなと康太は内心苦笑してしまう。


会話がとめどなく行われている中、康太は本部の中で参加している副本部長の方に目を向ける。


彼も同じように他の支部長たちと一緒に議論を交わしている。支部の長たちとしっかりと言葉を交わしているのはいいのだが、どうにも積極的に意見を出しているようには見えない。


本部としての立場か、あるいは本部の立場が以前と違い、やや弱い状態にあるからこそ自重しているのか。


どちらにせよ、康太に堂々と敵対宣言してきた副本部長らしくない反応だなと、康太は内心首をかしげていた。


「とにかく、攻勢をかけるならば一瞬で勝負をつけなければいけない。詳細な場所さえ特定できればあとは手段はどうとでもできる」


「それは同意だが、場所を特定するためにも人員を送らなければいけない。相手だって警備や巡回くらいしているだろう。それをかいくぐるとなれば一筋縄ではいかないぞ」


「こうしていつまでも手をこまねいていられるわけではない。部隊の編成と移動手段が確定したら打って出なければいけないんだ。少しでも不安要素は消しておきたいだろう」


攻勢の準備ができ次第、各支部は各攻略拠点を攻撃する。その前に可能な限り準備を進め、万が一の時に備えるようにするのが支部長たちの務めだ。


もちろん他の魔術師たちもやることはやっている。だがいつまでもこうして話をできるわけではないというのは全員が理解していた。


「では、一度切り上げて攻略のタイミングと、手順のすり合わせからタイムスケジュールの調整に入る。次回の会議までに何か考えを皆で考えておくように」


考えておくようになどといってもこの場で浮かばなかったことが自分たちの支部に戻ったところで思い浮かぶとも思えない。


もっとも、各支部にいる攻略作戦に参加する人間に何か聞けば、何かしらのアイディアが浮かぶ可能性があるのも事実だ。


それらを考慮すれば一度持ち帰らせるのも悪くはないかもしれない。


「今回は世界各地に攻略地点が散らばっているため、時計をイギリス基準に合わせる。本部からの号令を受けて活動するように。時差がある部分はかなりつらいと思うが、各員体調などの調整はしておいてくれ」


どの場所に集中しているということもなく、言葉通り世界中に発動点が存在するために今回ばかりはどうしようもないというのが正直なところだった。


本部に合わせるということもこの場ではだれも文句を言う者はいない。


もっとも、別にどこの時間に合わせようと面倒なことには変わりないのだ。自分たちの国で活動できるものなどほとんどいないのだから。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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