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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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会議の続きを

康太たちがしっかりと装備を整え、準備を進めている中、支部と本部も着々と準備を進めていた。


そして本部にて、全世界の各国の支部長を集めた会議が再び行われていた。


そこにいるのは支部長たちと本部長を含めた本部の幹部連、そして各支部長、本部長たちが信頼できると感じた護衛の魔術師たちだった。


その中に当然康太も含まれる。


「では、移動手段の確保については問題ないと」


「十七カ所の攻略に関してはつつがなく。ですが立地の問題で一度に攻め切れるか怪しい場所もあります。その点に関しては報告書をご確認ください」


攻略を行う支部の中で、移動手段やサポートに回っている国などが挙げた報告書を見ながら本部長は小さく唸る。


日本支部が攻略する場所もそれに該当する。相手の防御網によっては一度に攻略することが難しい場所などは他にもあるようだった。


「五カ所は一度には攻め切れない、ということか・・・その場所に関しては?」


「各支部で対策を練っているところです。各支部から報告を・・・まずはフランス支部」


「はい、我々は・・・」


フランス支部、ロシア支部、オーストラリア支部、カナダ支部、日本支部がこの一度に攻められない場所を攻略する支部だった。


場所に応じてそれぞれ攻め方を変えるようである。


フランス支部は平地が続いている平野の箇所であるために地上部分からの高速移動にて急接近する。


ロシア支部は山脈部分にあるため広範囲索敵を連続しながらその箇所めがけて攻勢をかける。その際は崖崩れなどを発生させることで相手を殲滅することを視野に入れているようである。


オーストラリア支部は湖を中心とした場所が攻略地点であるために、湖に至るまでの川を氾濫させることで相手への攻撃とする。


カナダ支部は砂漠地帯を攻略、場合によっては兵器使用も視野に入れて攻略作戦を行うとのことだった。


「では、次は日本支部。南米の森林地帯の攻略について」


「はい、我々日本支部は三か所の供給点を同時に攻略します。そして攻略作戦を行っている間に、うちの最大戦力を出します」


「最大戦力・・・誰のことを言っている?」


「アリシア・メリノス」


支部長の言葉に全支部長たちが動揺を隠せないのかざわめきだす。


当然だろう。アリスは魔術師の中では封印指定なのだ。その彼女を出すということが一体どういうことなのかよくわかっている。


同時に、日本支部の支部長がアリスのことをうまく扱えているという事実に驚いていた。


封印指定の手綱を握ることができている。それは恐ろしい手腕だ。少なくとも人間にできることではないと思っていただけに多くの支部長たちが日本支部の支部長に尊敬と疑いの念を向けている。


「彼女が、力を貸すと?」


「はい。今回の場所に関しては、森林地帯であることに加え、あまり大きな破壊を行うことはできません。そのため、機械的なアプローチではなく、魔術的なアプローチを試みることになります」


「魔術的な・・・と・・・それはいいが・・・ん・・・」


本部長としてはこの場でアリスの名を出してほしくはなかったのか、複雑そうな表情をする。


日本支部の支部長に視線を向けた後、その背後にいる護衛役の康太の方に視線を向け目を細めた。


康太は視線を感じてわずかに視線を動かすが、それでも反応することはしなかった。今康太は支部長の護衛だ。それ以外の考えをするつもりはなかった。


「日本支部から出す戦力、その中で特筆すべき者たちはいるか?」


「ここにいるブライトビーを始め、デブリス・クラリス、ジョア・T・アモン、エアリス・ロゥ、ライリーベル、アマネ・ツキヤ、そしてうちの支部の専属魔術師たちです」


ほとんどうちの身内の人間だなと康太は眉をひそめてしまう。他にもいるのだろうが、支部長があえてその名前を出さなかったのは単純に自分たちの戦力を正確に出すのを嫌がったからだろう。


この場の人間の中に裏切者がいないとも限らないし、何よりこの場所が盗聴されていないとも限らない。

有名どころの名前を出すことで、それ以外の存在を希薄にさせる。支部長らしい手だと康太は目を細めていた。


「ブライトビー、君も出るのか」


本部長からの問いに、康太は答えるべきかどうか迷っていた。支部長がすでに答えたことを、自分で答え直すというのも妙な話だ。


何より、支部長を飛び越えて自分に直接話をする本部長に若干の違和感を覚えるのも事実である。

康太が支部長に視線を向けると、支部長は小さくうなずいて返事をするべきであると示唆する。


「今回の作戦には俺も参加します。それが、何か?」


「・・・いや、君の意志を確認したかっただけだ。封印指定になりかけながらも、それでも協会に貢献してくれるのかどうか・・・」


協会への貢献。その言葉を聞いて康太は眉をひそめた。そんなつもりで戦うのではないと口を開こうとした瞬間、それを遮るかのように強い視線が支部長から突き刺さる。


「彼のおかげで攻略作戦はかなり楽になるでしょう。そして、彼の同盟相手でもあるアリシア・メリノスも協力してくれる。これほど心強いものはありません」


封印指定と、そのなりかけを二人同時にしっかりと手綱を握っている。そのようなそぶりを見せる支部長に多くの支部長たちは感心していると同時に疑念も抱いている。


本当に大丈夫なのかと、疑いも持っているのだ。


「ブライトビー、君から見て、アリシア・メリノスは協力してくれると思うか?」


またも支部長を飛び越えた問いかけに、康太は再び支部長の方に目をやる。先ほどと同じように支部長は小さくうなずき、康太に答えるように促した。


「えぇ、少なくともあいつはやる気ですよ。俺にはそう思えました」


「・・・確証はないのか」


「あいつは飄々としてるので、よくわかりませんが、ちゃんといろいろ考えているようですよ。少なくともあいつは口だけのやつとは違う」


口だけという言葉に本部長はわずかに眉をひそめた。皮肉のつもりか、それともただそのままの意味で言ったのか。


どちらにせよ本部長としては面白くない答えの返し方だったのだろう。


「まぁいい。方法に関してはアリシア・メリノスに一任すると・・・」


「いいえ、こちらも手を打ちます。少なくとも彼女だけに頼んでいては後手に回りかねない。いくつかの手段を講じるつもりです」


「その手段とは?」


「相手の防衛網にもよりますが・・・最悪の場合、航空機による突貫を視野に入れています」


樹林地帯に航空機を突っ込ませるという言葉に支部長の何人かは難色を示していた。特に南米方面に関わりのある支部長は嫌な顔をする。


「もちろんこれは最悪の場合です。なるべく被害は最小限にとどめるつもりではいますが・・・うちには約一名、言っても聞かない問題児がいますので・・・」


問題児という単語に、多くの者が小百合の姿を思い浮かべたことだろう。日本支部だけではなく海外でも問題行動を多々起こしている彼女のことを良く思う人間は少ない。


「なぁ、よその支部のことにあまり口を出したくはないが、その・・・あれを外すわけにはいかないのかな?」


一応弟子がこの場にいるということもあって、他の支部の支部長はだいぶ言葉を選んで発言しているのが読み取れた。


あまり失礼なことを言うと告げ口でもされると思ったのだろう。もっとも康太からすれば同意見だし、もっと小百合の悪口を言ってもいいくらいである。


「彼女の戦闘能力は貴重です。単純な戦闘能力ならここにいるブライトビーをはるかにしのぐ。時間が勝負の今回のような作戦においては彼女を外すことの方が悪手となるでしょう」


「それは確かにそうだが・・・その・・・あまり大きな破壊をしてほしくはないんだ。この間の・・・・中国で起きたあれのようなことはやめてほしい」


山脈地帯に大きくできてしまった渓谷。あれがもし南米でも起きたらそれこそ大事件になってしまう。

隠蔽も簡単ではないだろう。他の支部長たちからすればかなり重要な問題だった。


「封印指定のアリシア・メリノスよりも、むしろ日本支部はそちらの方が問題であるように思えるな。そのあたりはどう考えている?」


「彼女は依頼を完遂しているだけです。多少手荒なのは認めますが、依頼を出さなければ彼女は比較的おとなしく、問題行動は起こしませんよ」


「・・・とのことだが、ブライトビー、君の師匠のことだが・・・普段はどうなのかな?問題行動はないのか?」


もう何度も同じことをするのは嫌だったが、一応康太は支部長の方に視線を向ける。なぜか話が作戦の話から小百合の方に向かってしまっている。軌道修正などをする必要があるのではないかと思いながらも、支部長はこのまま話をさせることを望んでいるらしく、小さくうなずくことで話を進めさせようとしていた。


一体何を考えているのかわからないと康太はため息をつきながら、とりあえず普段の小百合の様子を思い出す。


「うちの師匠は普段はめちゃくちゃだらけてますよ。問題起こすどころか買い物に行くのも面倒くさがる始末です。人間として問題があるといえば問題ですね」


「・・・そういう話を聞きたかったんじゃないんだが・・・」


「ゴミ出しとかを全部俺ら弟子にやらせてるとかいうのも問題だと思いますが」


「いや、私生活の、一般人としての生活ではなく、魔術師としての方で」


「じゃあ普段から俺ら弟子に八つ当たりしてる話でもしましょうか?」


「・・・すまん、この話は置いておこう。話を本筋に戻したほうがよさそうだ」


康太の発言に何か思うところがあったのか、本部長は話を作戦の方に戻そうとしている。


多くの支部長たちが康太に若干同情してしまっている。一番やばいのはアリスでも康太でもなく小百合なのではないかと認識し始めているのだ。


支部長は誰にも見えないように康太にグッジョブと親指を立ててサインを送ってくる。


どうやら先ほどのような康太の発言が聞きたかったようである。話の流れを面倒くさい流れからせめて本筋の方に戻させるためにはこういった無駄な話を挟むほうが効果的だと支部長は理解していたのだろう。


何というか、面倒な話の流れを理解しているというべきだろうか。話の展開を先の先まで読んでいなければできないことだ。


「話を戻そう。では日本支部の攻略について、詳細が決まり次第報告を。特にアリシア・メリノスの手段については確実に把握しておきたい。そのあたりを頼む」


「了解しました。確認しておきます」


「それでは他の確認事項に移る。各所への移動と攻略勢力についてだが・・・」


話題が完全に本筋に戻ったことで会議は進んでいった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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