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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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成長?

「えっと・・・で、昔起きた事件はね、この移動に無理に介入するって内容だったのさ」


「介入?」


「そう。二つの間をつなげるべき術式であるはずなのに。その二つの間に割り込むような形で術が発動されて、半ば誘拐みたいなこともできたわけ」


そう言って支部長は先ほど折って穴をあけたメモ用紙の間に、もう一つ穴をあけたメモ用紙を滑り込ませる。


「えっと・・・つまりAからBに行きたかったのに、どっかの誰かが介入して無理矢理Cに行くように行き先を変えちゃったっていうことですか」


「そういうこと。それだけならよかったのさ。でもそのせいでね、大変なことが一度起きたんだよ本部で」


「どんなことが起きたんです?」


「んん、どこかに行こうとしたときに、いきなり水の底に門を繋げてね。本部が水浸しになったことがあるんだよ」


水浸しになったという表現を用いているが、なかなかにえげつない手段である。どのような手法を用いたにせよ、門を作成できるだけの人物が本部に対して攻勢を仕掛けたととられても仕方がない状況である。


「水の底に門を作ったってことですか・・・それはそれですごいですね」


「うん、結局その時の犯人はちゃんと捕まったんだけどね、それ以来門に関しては新規作成が結構厳しくなったよ。今回のこの限定的な門の作成もだいぶ難色を示されたね」


「ありがとうございます。ところで、その門ってどこに作られてたんですか?」


「どっかの湖の底だって聞いたよ。けど開いたのは本当に数秒だったからね。それでもかなりの量の水や泥が流れ込んだらしい」


湖の底に門を作れば、当然水と一緒に湖底の砂や泥といった物体も門の中に流れ込んでくることになる。


例え少量とはいえ、数秒間それが流れ込み続けたのだ。後片付けをするのは大変な労力を必要としただろうことは想像に難くない。


「まぁそういうことがあったってこと。今回の話で言えば、この門を支部以外につなげることは厳禁って感じだね。攻撃手段に使うのもご法度」


「まぁそれは問題ないです。そこまでしようとは思わないので」


「じゃあ次ね。第三の条件。これが最後だ。この門に関しての維持権限は日本支部の支部長が有すること」


日本支部支部長が門の維持権限を持つ。これに関しては康太としても異論はない。むしろ継続するための権限を支部長以外の誰がもつというのかという疑問が出てくるほどだ。


「これも大丈夫そうですね。支部長なら俺らの部隊を大事にしてくれますよね?」


「いやまぁ、僕はね。君たちの実力を信じたいところだし?まぁまだ部隊として編成もされてないから微妙なところだけどさ・・・でも次の支部長はわからないよ?君たちの危険性を正しく理解して、これ利用はできないなってあきらめて君たちを切り捨てる可能性だってあるんだから」


「あー・・・それは残念ですね。とても残念ですね」


「・・・お願いだから支部を襲撃とかはしないでよね?」


「そんなことはしませんよ。襲撃なんてしませんって。せいぜい説得するくらいですよ」


康太たちの場合だと説得(物理)になりそうであることを支部長は察していた。だからこそこういう話はしたくなかったのにと支部長は思いながらも、この第三の条件が非常に重要であるということを理解していた。


これはつまり康太たちに首輪をつけていられるかどうかという判断材料だ。日本支部の支部長が代替わりしても、問題なく康太たちの部隊が制御できるのであればそれで良し。もしできなかった時に行える最終安全装置のようなものだ。


部隊の動きやすさを封じるだけでかなり変わるし、何よりその条件を出してきたのが本部であるために本部も事態を把握しやすい。


本部にしては堅実かつ慎重な手段で支部の動向を探ってきているなと支部長は少しだけ変化した本部のやり方にわずかに違和感を覚えていた。


本部も変わろうとしているのか、ただ単に康太への対応の仕方を迷っているのか、どちらにせよ康太の思い通りになっているのは支部長としては複雑な気分だった。


小百合は別の意味で面倒くさいのだ。小百合は基本的に面倒くさがりだから、たいていのことは全部周りに任せて突っ走る。


康太はある程度周りの調整をしてから条件を出してくる。これがなかなか面倒くさい。変に条件が付いているせいで逆に面倒くさい。


嫌な魔術師に成長しちゃったなぁと支部長が強く後悔している中、康太は喜々として支部長に話しかけてくる。


「というわけで支部長、条件すべてクリアってことで、龍脈近くの建物を教えてください。ありますよね?」


「・・・あること前提で話してるよね・・・この間言ってたマウ・フォウの事務所も兼ねるって話だよね?」


「えぇ、マウ・フォウさん曰く、日本の本州にあれば別に文句はないそうです」


「あぁ、彼は基本的にどこでも活動できる人だからね・・・いやまったく・・・まぁ・・・うん、探しておくよ。君の期待に応えられるかはわからないけど」


「応えられると信じていますよ!」


「これは一種のあれだよね、圧力をかけてきてるんだよね?本当に君嫌な魔術師になっちゃったよね。クラリスとは別の意味で頭が痛いよ」


支部長の心底いやそうな声に康太は苦笑してしまう。小百合と比べられるのは不本意ではあるが、少なくとも魔術師として少しは交渉事ができるようになってきているということでもある。


複雑ではあるが、成長の証として取れなくもないため、康太はとりあえず喜んでいた。


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