支部長の頭痛の種
「というわけで支部長、龍脈に近い場所の建物とか土地を教えてください」
未だ壁が壊されたままの支部長室にやってきて康太は誰の目を気にするわけでもなくそう言い放つ。
当然、書類仕事をしていた支部長は大きなため息をつくことになる。
「相変わらず君は話の流れを無視してそういうこと言うよね。もうちょっとさ、交渉というかさ、段階を踏んでお願いをしようとか思わないのかな?」
「そういうの面倒くさいんで。直球で話をしたほうが支部長的にも楽でしょう?」
「変に理にかなってるから腹立たしいよね。否定できないとこがまたむかつくよね。まぁその通りなんだけどさ!」
支部長は憤慨しながら書類を進める手を止めて椅子に深く腰掛ける。
支部長が使っている机も今までのものとは違う。前のものは小百合の攻撃によって切り刻まれてしまったために新調したのだ。
とはいえ、壁も床もまだ直っていないために痛々しさが残っている。
「えっと、あれかな?察するに、部隊編成のための拠点の話?」
「そうですそうです。さすが支部長話が早い。拠点に門を作るにあたって龍脈の近くじゃないとまずいなってことを思いつきまして。支部長ならそういうの知ってるかなと」
「・・・まぁね、まだ門については全く許可はしてないわけなんだけどね、もう作る段階で話進めようとしてるよね君」
「ダメですか?」
「・・・ダメって言っても作るんでしょ?」
「・・・ははっ」
康太の笑いに支部長は再度大きくため息をついてうなだれる。こうなった康太は言うことを聞かない。
いや、正確には言うことを聞かないであろうアリスを言い訳にして勝手に門を作るつもりだろうと察していた。
康太の部隊にアリスが所属すると決まっている時点で、こういう強硬手段に出てくるというのは支部長も予想できていた。
予想できていただけに対策もしっかりできている。いや、正確に言えば対策というよりは準備ができているというべきだろうか。
「一応本部にも申請を出しておいたよ。君の部隊の拠点の話。正式な門に関してはやっぱり許可は下りなかった。けど、日本支部との道を作るだけなら、条件付きではあるが許可すると返答をもらった」
返答をもらったというよりは、支部長がその返答を何とか向こう側に引き出させたといったほうが正しいだろう。
ただでさえ面倒ごとで忙しい中で本部の人間相手にそれだけの交渉ができるのはさすがというべきだろうか。
「さすが支部長頼りになりますね。で、その条件とは?」
「第一に、門の作成及び管理は日本支部、並びに君の部隊で行うこと。これに関しては問題はないかな。君の周りにいる人間とうちの人間を使えば不可能ではないよね」
「ですね。管理に関しては教会の神父的なポジションの人が必要だと思っていいんですか?」
「まぁ似たようなものさ。第二の条件として、君の部隊、まぁどんな規模になるのかもどんな行動をするのかもわからないけど・・・その門の使用用途を限定すること」
門の使用用途を限定するという聞きなれない言葉に、康太は首をかしげる。そもそも門は移動手段以外に使ったことがない。
使用用途を限定するも何も、移動以外で門を使うという意味が理解できなかった。
「・・・えっと、どういうことです?使用用途の限定って言われても・・・移動以外に使いますかね?」
「いろいろと手段はあるのさ。例えば・・・えーっとあれは何年前だったかな・・・?前支部長の・・・しかもだいぶ前、僕らがまだ修業中だった頃の話だよ。協会の門が転移系の術式であることは知ってるよね?」
支部長の言葉に康太はうなずく。
普段から門を使っている人間からすれば周知の事実だ。門の原理としては転移系統に属している魔術。それも方陣術によって龍脈の力を用いて発動できるようにしている。
長距離にわたる転移の魔術に必要な大魔力を、龍脈の力を用いることによって成り立たせている。
細かな場所の調整などは、門を管理できるだけの実力者たちを育成することによって成り立たせている。
高度な技術であり、維持するのもなかなか難しいが、それでもそれだけの価値がある術式である。
「さて、門の作成と、維持、安定が確立したけれど、逆にそれを利用していろいろとやろうとした人もいたわけだ。しかもそれが本部や支部を巻き込んだ大事件になったわけだよ」
「どういうことです?」
「うん、転移の術式の基本的な理屈は知っているかい?」
「いいえ知りません」
「だよね、うん。簡単に説明しよう。移動先であるAとB、この二点間の距離をゼロにするために用いられる手法はいくつかあるけど、協会の場合は発動する二点にそれぞれ同じ術式を用いて空間の穴を同一化させることで通路にしてるわけ」
「・・・?」
「うん、理解できないよね。つまりこういうこと」
そう言って支部長は適当なメモ用紙を折って一か所に穴をあける。
「つまり、二点の、この穴とこの穴を同じ穴にしてしまえば。片方から入れば片方に出るってこと」
「・・・・・・?」
「どこでもドアを使おうとすると、移動先にもどこでもドアが出現するあの理論!」
「あぁ!」
支部長の半ば自棄になった説明で康太はようやく理解することができた。とはいえ適切な説明ではないためにこの後の説明にどうつなげようかと支部長も困っていたが。




