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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
最終話「彼の戦う理由」
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攻略で気を付ける点

「本部長、次の攻略作戦、得られた情報の中で、連中が術式を構えている場所全てに攻撃を仕掛けるという認識で良いのでしょうか?」


「もちろんだ。一刻の猶予もないのが現状だ。とはいえすぐに攻略を行えるような状態ではないのも事実。奴らの拠点、術式が置かれている場所は我々が管理する門から大きく離れている。これらを攻略するにはそれなりの準備が必要だろう」


世界地図が表示され、攻略する場所がそれぞれ表示されるが、確かに人が入り込むような場所ではないような地点ばかりに印がつけられている。


山の中、密林の奥、砂漠のど真ん中、荒野の中心などなど、挙げればきりがないほどに人の住処ではない場所ばかりだ。


「各支部にはそれぞれの移動手段と、攻略要員の確保を急いでもらいたい。必要な人員は高い戦闘能力を有する者、高い対応能力を持つ者、高い判断力、知恵を持つ者などだ。支部の中でそれぞれ選出してもらいたい」


支部にはそれぞれ高い技術や戦闘能力を持つ魔術師は多くいる。そのほとんどが支部長などの地位にいるものと懇意にしている。


正確に言えば、支部長の立場にいるものがそういった存在を囲い込もうとしているというのが正しいだろう。


支部長が自分の配下ともいえる魔術師で、しかも戦闘能力が高いものを反抗できるような状態にしては置かないのだ。


支部長として優秀であればあるほど、そういった人材を手元に置いておく。もちろん能力が高い魔術師は総じて我が強い。


そういった魔術師たちをコントロールできるのは、優秀な人物以外には不可能な芸当だ。支部の長に収まるのは、そういった人を従えることのできる一種のカリスマがなければいけないのである。


「今回、本部はどのような立ち回りをするつもりですか?内部の不穏分子はすべて撤去できたのでしょうか?」


「現在の浄化率は八割ほどだ。先日確保したローラロー、並びにその一味から、本部に潜伏している魔術師たちの情報が得られつつある。とはいえすべてを捕まえることは難しいだろう。よって、今回の作戦において、本部の魔術師は完全に諸君らのバックアップに回る。人的、あるいは金銭的な支援は惜しまない」


本部からの後押しがあるというのは支部としてもありがたかった。支部が用意する移動手段や報酬などもどうしても限界がある。


そういった面で本部の支援が受けられるというのは、一つの支部を預かる支部長としては非常にありがたいことだった。


「本部長、今回の作戦における上限額は?」


「ない。と言いたいが、最低限の限度はある。特に作戦に参加する個人に対する報酬に関しては上限額を決めさせてもらう。それでも通常本部が出す依頼の五倍程度は見積もっている」


普段本部が出す依頼というのは、それだけ難易度が高いため、当然その依頼料もかなり高いものが多い。内容にもよるが通常の支部の依頼のそれよりも二倍から四倍程度は違いが出てくる。


そのさらに五倍程度を見積もっているということもあって、かなり破格の条件だ。本部としても人を集めるための報酬に糸目はつけないということだろう。


「では、移動手段や必要物資の調達などに上限額は?」


「そちらに上限金額を設定すると、万が一不測の事態が生じたときに面倒なことになる。よってそういった支援活動に上限金額は設定しない。各支部の支部長の裁量のもと、うまく調整してもらいたい。後ほど使用したものの内訳は提出してもらうが」


無駄な金を使わせるつもりはないが、しっかりと必要なことに使ったのであればしっかりと支払うつもりというのが今回の本部のスタンスのようだった。


それでも支部長としては今回の作戦における赤字が存在しないということは大きな安心を与えてくれるものでもある。


そんな中、日本支部の支部長がゆっくりと手を挙げた。


「本部長、今回の敵拠点の攻略、どの程度まで行ってもよいのでしょうか?」


問題児を多く抱えた日本支部の支部長のその質問に、本部長も目を細めた。その言葉の意味を測りかねているのである。


「どの程度まで・・・とは、つまりどれほど派手に暴れてもよいのか・・・という解釈でいいのか?」


「はい。私の支部は良くも悪くも派手に暴れるタイプの魔術師がいます。先の攻略作戦では中国支部に多大な迷惑をかけてしまいました。そういった意味でも、あらかじめ被害を想定しておけると助かります」


実際に山脈を大きな渓谷に変えられた中国支部としては日本支部の危惧は何もおかしくはないと断言できた。


自分の支部の管理不行き届きが原因で起きていることとはいえ、あれだけの地形破壊はもみ消すのも相当苦労したのが正直なところだ。


もっとも仮に被害を想定していたところで、日本支部の魔術師たちがそれに沿った行動をとれるかどうかは微妙なところだろう。


「各拠点の場所にもよるが、人の手が入らないとはいえ衛星写真などに定期的に記録が残ってしまう。破壊の内容にもよるが、自然災害に紛れ込ませることができるような行動をとっておくのが良いだろう」


「つまり、自然災害に紛れ込ませることができれば、たいていの破壊行動は問題ない、ということですね?」


「・・・魔術が露呈しない程度のものであれば黙認しよう。ただ、後始末だけはしっかりと行うように。後始末には我々本部も参加できるだろうが、ある程度計画した動きをしないと初動が遅れる。そのあたりの連絡体制を密にとるように」


本部長の指示に多くの支部長がうなずく。


今回の戦いは相手の拠点を潰せばいいだけではない。拠点を攻略した後、しっかりと一般人をだまさなければいけないのだ。


そういう意味ではそちらの方が重要といえるだろう。











支部長たちが会議をしている中、康太はすぐ近くの控室で支部長が出てくるのを待っていた。


今回は本部での会議ということもあって、一応護衛役として康太もやってきているのである。


今回の件に関する情報を最も早く手に入れるために、そして最も早く行動するために、康太は支部長からの護衛の依頼を引き受けていた。


当然、通訳としてアリスも同席しているが、彼女は余計な人間に干渉されるのを好まないのか完全に姿を消している。


彼女を認識できる人間はこの場所には康太以外にいないだろう。


そしてこの控室とでもいうべき場所にはほかの支部の護衛の人間も多くいた。全員が支部長から確固たる信頼を得ており、高い戦闘能力を有していることは察しがついた。


その中の何人かからは小百合に近い空気を放っている者もいる。ここで荒事を起こすようなものがいたら、それは自殺志願者と変わりないということも康太は理解していた。


中には知り合いもいるのか雑談する者もいる。康太は他の支部の知り合いはほとんどいないため、話すことはなかったが、とにかく近くに居る支部長が安全になれるように気を張っていた。


「よぉ、あんたがブライトビーか」


そんな中、康太に話しかけてくる男がいた。アリスの翻訳によって何を言っているのかは理解できるが、元の言語がいったい何なのかは理解できなかった。


康太は最近有名な魔術師の一人だ。日本支部の問題児デブリス・クラリスの二番弟子。しかもその本人も封印指定になりかけ、現在進行形で同じように問題児であり続けている。他の支部の魔術師からも一目置かれているということだろうか。


「そういうあんたは?」


「悪いな。フランス支部のPPだ。短くて覚えやすいだろ?」


「そうだな。いい名前だ」


「そいつはどうも。あんたも支部長の護衛か?」


「あぁ。うちの支部長は心配性でね。俺も興味あったから来たんだよ」


支部長の護衛を引き受けるということは、護衛ができる実力者でもあるということだ。支部長が信頼しているというのもそうだが、守って戦うということができなければいけない。康太の場合は守りながら戦うというのは不向きだが、単純な戦闘能力と信頼という意味でこの場にいる。


「興味ってことは、今度の攻略作戦にも出るのか?」


「一応そのつもり。ちょっといろいろ思うところがあってな」


「まぁ、今回は結構でかい規模の話になるしな。あんたのところの師匠もこれに出るのか?」


「うちの師匠はわからないな。ぶっちゃけあの人どう行動するかわからないし・・・っていうか俺の師匠はやっぱり有名か?」


「もちろん。昔俺もあんたのところの師匠と一緒に戦ったことがある。あれは化け物だ。魔術師じゃない」


かつて小百合と一緒に戦ったことがあるということは、それなり以上に経験を重ねた魔術師であるということだ。


支部長に任命された護衛なだけあって、フランス支部の中でも随一の戦闘能力を持っているということだろうか。


「あんたも相当だって聞いてるぜ、この間本部でいざこざがあったの、あれあんたが原因だろ?」


「あぁ、ちょっと本部に因縁つけられた。危うく封印指定にされるところだったよ」


「そいつはなかなか。今度の攻略、あんたはどこに行くつもりなんだ?」


「どこ・・・っていうと、どの拠点を攻めるのかってことか」


「そうそう、せっかくだから行ったことがない場所に行ってみたいっていうのが正直なところなんだけど・・・あんたはどこに行くとか決めたのか?」


「そもそもどこに相手の拠点があるのかもわかってないからな。ぶっちゃけどこでもって感じだ。まぁ、やるなら相手の本隊がいるところがいいなと思ってるよ」


僅かに漏れる康太の殺気に、PPは苦笑している。かつて小百合と共に戦った時に放たれていたのと同種の殺気に驚いてしまっているのだ。


やはりあの魔術師の弟子なのだなと、そう思う。


「あんたのところは結構攻略やってきたのか?」


「あぁ。こっちも結構やってたぜ。拠点八カ所攻略、敵魔術師捕縛も結構な数になる。これでも結構強いからな」


結構強いなどと軽く言っているが、康太はこのPPという魔術師が結構などというレベルの魔術師ではないのを察していた。


保有魔力は文のそれに匹敵する。そしてその気配といえばいいのか、それが真理や小百合のそれに近い。


軽い口調で話していても、近くの部屋にいる支部長たちへ意識を途切れさせていない。そして何よりそのしぐさと体の動かし方が普通の魔術師のそれとは違う。


「この間の中国支部のあれ見たか?山が谷になっててびっくりした。あんたの師匠えぐいことできるんだな」


「あれは酷かったな。うちの支部長がめっちゃ呆れてたよ。またクラリスがやらかした!って感じ」


「あんたのところの支部長も大変だよな。今や問題児だらけだろ?あんたも含めて」


「否定できないのがつらいところだな・・・なるべく平穏に暮らしたいんだけどな・・・」


「そいつはなかなか難しいな。まぁデブリス・クラリスを師匠にしちゃった時点でもう手遅れだ」


「魔術師の第一歩目から間違えてたのか。それじゃ無理だな」


その第一歩目を確定させたのが支部長であるわけなのだが、そのあたりはもはや今更というべきだろう。


別に恨んでいないし、憎んでもいない。こうして戦う力が得られているのも小百合の弟子になったからこそだ。





康太たちがそんな形で話をしていると、どうやら支部長たちの話が終わったのか、向こう側の部屋で多くの人間が動く気配がする。


それと同時に康太はゆっくりと立ち上がる。


そしてPPもそれを感じ取っていたのか、康太とほぼ同時に立ち上がっていた。


「っと・・・支部長たちの話も終わったみたいだな。またなブライトビー、話せてよかった」


「あぁ、またなPP。うちの師匠がそちらの国に迷惑かけたらその時は本当にごめんなさい」


「いやそこは止めてくれると助かる。うちの支部長も結構胃がやられてきてるんだよ」


「本当に悪いと思ってる。でもうちの師匠は止められないんだ。気まぐれでどこに行くかもわからないし・・・被害が少なくなることを祈っててくれ」


災害みたいなやつだなとその場にいた多くの魔術師がそう思った。そして被害が出なくなることはないのだなとも思っていた。


康太たちが護衛用の待合室から出てくると、それと同時に支部長たちが会議室から出てくる。


それぞれの護衛が即座に自分の支部長のそばに行くのと一緒に、康太もまた日本支部の支部長のもとに歩み寄っていた。


「どうでしたか支部長。今度の攻略は少しは楽になりそうですか?」


「まぁ、金銭面では楽になりそうだよ。本部としても本気で援助するつもりのようだったしね。ただ攻略箇所が多いな」


「やはり大陸にはそれなりの数があるんですか?」


「うん、術式の発動拠点、発動用の魔力供給術式、そしてそれを伝達する術式、複数カ所用意されているみたいだからね・・・戦力もかなり分散させられそうだよ」


かつて朝比奈の作り出した禁術が相手の手に渡っていることは知らされていた。大量の魔力を別の場所に伝達できる魔術。それがあれば魔力の補充と発動を全く別のところで行える。


今回で言えば、龍脈の力を使って魔力に変換し、それを発動点に伝達することで比較的見つかりにくくなるといえる。


「連中も馬鹿じゃないってことですね」


「ここにきて相手が例の禁術をもっていってることがかなり効いてきてるね。いくつかの場所は発動点も判明してるけど、それだけとは思えない」


「一つでも発動させれば未曽有の大災害ですね」


「もみ消しも容易じゃないことを考えると、なかなかにヘヴィなミッションだよ。全支部が攻略に協力するとはいえ・・・戦力の分散が一番きついかな」


「やっぱり、同時攻略じゃないと難しいですか?」


今回の攻略の前提で言えば、魔力の供給、伝達、発動、この三か所の攻略が重要になってくるわけだが、どれか一つでも潰せば少なくとも発動はできなくなるのではないかと康太は考えていた。


だが支部長たちが出した結論はそこまで簡単ではないらしい。


「僕が発動する立場なら、どれか一つ潰されても発動できるようにいくつかの予備を用意しておくよ。供給がつぶされたら自分たちで魔力を注いで、伝達がつぶされても同じく、発動点がつぶされたら予備の術式を用意するって感じでね」


「なるほど。確かにそれはあり得るかもしれません」


「何より、相手の復活する時間が短くなってしまう可能性もあるからね。今回の戦いですべて潰せればいいけど、相手の規模もそれなり以上になってる。わかってるところは全部潰さないと、いろいろと心配なんだ」


「その通りかもしれません。となると・・・やはり攻略はかなり面倒なことになりそうですね」


「うん。確認できている発動点は全部で十七カ所・・・たぶん実際仕込まれてるのはもっと数はあると思う。さらにその発動点に複数の供給と伝達があるとなると・・・」


「攻略点の数は全部で百を超えそうですね」


「そういうこと。相手もその分戦力を分散させられているから、それぞれの攻略が楽になることもあるけどね。規模は把握できているから相手が割ける人員にも限度があるのはわかってるし・・・戦闘要員ではこちらの方が上だ。問題は相手が発動する間もなく、素早く攻略する必要があるってことだね」


「・・・師匠にやらせたら飛行機落として解決させそうですね」


「クラリスは絶対飛行機には乗せさせないよ。飛行機事故の隠蔽っていうか、事故に見せかけるのってすごく難しいんだよ。ブラックボックスの粉砕とかもしなきゃいけないし、周辺の気象情報も改竄しなきゃいけないし・・・いや、今その話は置いておこうか」


かつて小百合が行ったという飛行機の墜落。これを再び起こせば拠点の一つを潰すことはできるかもしれないが、少なくともその分後始末に追われることになるだろう。


拠点を潰すだけならばまだいい。だが康太たちの勝利条件は魔術の存在が一般人に露見しないようにするというものも含まれているのだ。


「相手の戦力も見積もって、こっちも戦力を分散させる必要があるわけですけど、今回俺たちはどこを攻略するんですか?」


「一応、自分の国とは別の国を攻略するっていうのが全体での考えだね。身内にスパイがいないとも限らないし。日本支部の担当は南アメリカの北寄りだよ」


「ジャングルとかがありそうな場所ですかね?」


「アマゾンっていうとそんな感じかな?絶対にでかい破壊を起こせない場所なんだよね・・・クラリスに言い含めておかないと面倒なことになるんだよ・・・いや、言い含めてもたぶん彼女はやるけど」


「やるでしょうね。後始末はお願いします」


「今から気が重いよ。ただクラリスの戦力は貴重だからなぁ・・・」


支部長としても小百合を出せば面倒なことになるのはわかっているのだろうが、それでも出さざるを得ない状況であるのは理解しているようだった。


支部における最高戦力、それを温存するなんてありえないのだ。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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