目的の犠牲
魔術師における最大の禁忌は、魔術の存在が一般人に露見すること。これは多くの魔術師にとって共通の認識だ。
多くの被害を出せばその分、一般人は事態の解決と解明のために人員を割いて事に当たるだろう。
そしてそれは、魔術の存在が露見する可能性を高めることにもつながる。そのため、魔術を管理している魔術協会は、魔術師が大きな事件を起こさないように監視、警戒を呼び掛けてきた。
今までそうだったように、これからもそうしていくだろう。
そんな中、大きな事件が起きようとしている。多くの魔術師が活動をし、大きな被害を出しかねない状況にある中、魔術協会は総力を挙げてこの組織を潰そうとしていた。
相手の目的を知り、拠点を破壊し、敵の勢力を削り、相手の最終目的を行うための拠点の位置も把握することができた。
だが、その中で一つ問題が起きていた。
その問題に対して本部は協会全体で事に当たらなければいけないと、各支部の長である支部長を集め、会議を行っていた。
「これが、今回君たちを呼んだ理由だ」
本部長の言葉の後に、各支部長にも見える形でスクリーンに映像が映される。
それは窓などが一切ないことからどこかの地下であることがうかがえる。暗いどこかの地下に続く廊下のような場所が映し出されており、電灯などの設備があるにもかかわらずそれらは点灯しておらず、暗闇が支配している。
壁や床がある程度整備された、屋内であることを印象付ける中、完全な暗闇が支配していることが不気味さを増している。
映像を撮影したものがライトを持っているためか、進行方向を映すことには成功しているが、残念ながら照らされているのは非常に狭い空間だけだ。
だが奥に行くにつれて明るくなっていく。
廊下の一定間隔に点在するように映る光の球体。それが、所謂光属性の魔術であるとほとんどのものが言わずとも理解していた。
そしてゆっくりと奥へ奥へと進む中、廊下が唐突に終わる。
行き止まりがあるわけではない、だが先に進めるようにもなっていない。
足場が唐突になくなっているのだ。そしてなくなっているのは足場だけではない。壁も、天井も、ある一線を越えた先がなくなっているのだ。
そしてその先にあるのは広大な空間だった。
多くの魔術師が光源を作り出し、その全体像を見ることができている。
半径十メートルほどの空間が、球体上に抉り取られているかのようになくなっているのだ。
本来ならあったはずの上層階や、通路、それらを文字通り削り取ったような形で、ぽっかりと球体上の空間ができている。
それが映像として見え、理解できた時、その場にいたほとんどの支部長たちが動揺の声を上げる。
「これは敵の目的となる術式が配置されたと思われる拠点で見つけたものだ。場所はオーストラリアの街中。市街地の一角に立てられた商業施設の地下区画にあったものだ」
かつて康太を始め、多くの魔術師たちが得た情報などから、本部は各拠点の攻略と調査を重ねて行ってきていた。
その中の一つがここだ。明らかに人の手で行うには過ぎた結果がそこにはある。何が起きたのか、それが想像できないほど支部の長を任されている人物たちは疎くはなかった。
「これは、精霊術師が消滅した術式と同じものと受け取っていいんでしょうか?」
「私はそうみている。奴らの目的は、人を神にすることではなく、この星そのものを神にすること。そして先の精霊術師の消滅がその実験段階によるものだとするなら・・・この結果は予想できない話ではない」
星を神にして、思いのままに操り世界を征服する。なんとも陳腐な目的ではあるが、相手は本気だ。
そしてそれをすでに行うレベルにまで実験を進めている。それは魔術協会にとっては大きな脅威といえるだろう。
「本部長、今回のこれは、相手が自発的に行ったことですか?それとも・・・」
「攻略作戦中、自棄になった敵陣営が術式を発動させた結果だ。どのような手法で発動させたのかは知らないが、地下にあったその空間を消滅させた」
攻略を行っていた部隊の不手際、と言ってしまえばそこまでだが、どんな魔術師が攻略を行ったとしても、この結果は十分にあり得たことだ。
支部長たちもそれらを咎めるようなことはできなかった。
問題なのは半径十メートル程度の空間を消滅させられるというその事実だ。彼らが望んだような効果ではなかったのだろうが、その効果は絶大である。
これが町中の、地表部分で起きれば魔術の隠匿はかなり難しくなっただろう。その場所に大規模な地震などの災害を想起させるような現象を発生させる以外に、方法はなかったかもしれない。いや、それでも隠匿できたかわからない。
相手の拠点が地下にあったのは、偏に運がよかったというほかない。
「これが連中の目的だとするなら、連中が起こそうとしていることで、世界中でこれが起きる可能性があるということですね」
「その通りだ。成功にせよ、失敗にせよ、この星そのものに大きなダメージが入ることは間違いない。そしてそれは魔術の露呈につながる大きな問題になる。協会としてはこのようなことを許すことはできない」
本部長の言葉に、多くの支部長が同意する。
今回は相手の発動に不手際があったからか、単純に準備不足によって発動ができなかったか、あるいは暴発したか、それらのどれかの理由で小規模な消滅で済んだ。
だがこれが大規模な、星そのものを変質させようとした結果起きるのであれば、その規模はこの程度では済まされないだろう。
その危険性を、その場にいる全員が正しく理解していた。
日曜日なので二回目投稿
話数をまたぐとこういうことになりますね
これからもお楽しみいただければ幸いです




