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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」
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信頼しているからこそ

「大変よ、私たちがいなかった間に支部が襲撃されたんだって!」


「マジか!やっぱりか!」


「え?やっぱりって・・・?」


「そうですか・・・師匠・・・とうとうやってしまいましたか・・・!」


「え?」


「あのバカが・・・なぜそんな愚かなことを・・・!被害は・・・被害はどれくらい出ている?」


「えっと・・・とりあえず支部の施設がいくつか・・・っていうか支部長室が損壊してて、一部専属魔術師たちが意識混濁、あとは今事実確認を行っていると」


「ということは正面から斬り込んだな・・・死者がいなかったのは幸いか・・・まて、だがそれにしてはエントランスに至るまでの道には被害がなかったように見えたが・・・?」


文の報告に康太と真理はもはや小百合の襲撃であると考え、春奈は小百合の襲撃にしては被害が少ないということに少し疑問を抱いていた。


もし小百合が本気で襲撃を仕掛けてきていたら、エントランスからここに至るまでの間にもっと大きな破壊痕があってもおかしくはない。


だが、康太たちは支部長室の前にやってくるまでその異常に気づけなかった。魔術師たちが慌てていること以外は何も変わっていなかったのだ。


「あの、三人とも一体何を・・・」


「あれだよ、これをやったのがビーたちの師匠だと思ってんだよ。俺もそうじゃないかと思ってるけど」


「クラリスならばやってもおかしくはないからの」


状況を理解できていない文に、未だ冷静さを保てている倉敷とアリスが補足説明をする。


その説明によってようやく三人がどのような思考に至ったのかを理解した文は大きくため息をついて首を横に振る。


「違う違う!今回の襲撃の犯人はクラリスさんじゃないのよ!」


「でもこれ明らかに師匠の攻撃だろ!ほかにこんなことできる人がいたらびっくりだわ!」


「なにより、私たちが師匠の攻撃痕を見間違えるはずがないでしょう。ベルさん、かばってくれるのはうれしいですが、これだけ物的証拠が挙がってしまっていては・・・もはや・・・かばいようが・・・!」


本来ならば最後まで無実であることを主張し続けなければいけないはずの弟子二人が真っ先に師匠の有罪を確定付けているこの事実。


小百合が見たらきっと二人に拳骨を落とすだろうなと思いながらため息をついてしまう。


「いやまぁ、これに関してはクラリスさんがやったことらしいけど・・・」


「ほら見ろ、やっぱり師匠がやったんじゃないか。どうしますか姉さん、俺が封印指定にならなくてよくなったっていうのに・・・別の意味で協会からにらまれることになりますよこれ」


「前々からにらまれてはいましたが・・・師匠が協会を敵に回すとなると・・・身の振り方を考えなければいけませんね・・・どうしたものでしょうか・・・」


康太と真理が真面目に今後の自分たちのことについて考え始めている中、何とか二人の誤解を解こうと、文はどう説明すればよいだろうかと悩みながら口を開く。


「いやだから、犯人はクラリスさんじゃなくて」


「じゃあの血痕は誰のものなんだよ。誰がやったんだよ」


「あれも・・・クラリスさんがやったらしいけど」


「やっぱ師匠じゃん!師匠が犯人じゃん!」


「あぁもう!だから違うのよ!確かに部屋斬り壊したのもクラリスさんだし、あの血痕もクラリスさんが原因だけど犯人はクラリスさんじゃないのよ!」


「何その『毎日暴力振るってくるけどあの人は悪くないの』みたいな言い方!悪い男にはまるダメ女みたいだぞ!」


「最悪な例えしないでくれる!?誰がダメ女か!」


一見矛盾しているような発言だが、実は何も矛盾はしていない。だがそのことを理解するには康太たちには情報が少なすぎているのだ。


先入観というのもあって、康太と真理はすでに小百合が犯人であると確信してしまっている。


弟子でありながら真っ先に師匠を疑うあたり、師弟関係に難があるといわれるかもしれないが、小百合相手ではもはや仕方がないというべきだろうか。


「とりあえず落ち着け二人とも・・・いや三人とも。ベル、先ほど聞いたときにいったい何があったのか、事実だけを述べよ。そうしないとこの二人がいつまで経っても誤解したままになってしまう」


「あんたからも説明してよアリス、ていうかあんた事情把握してるの?」


「把握できておらんからなおのこと説明をしろと言っているのだ。何が起きたのか、何があったのか、今どうなっているのかを正確に、事実だけを述べるのだ。憶測などはいらん。とにかく事実だけを述べよ」


事実だけを述べるという点を強調し、アリスは説明を求めた。確かに康太と真理の考えは仮定と憶測を含みまくったものだ。


その憶測が妙に信憑性があるのが問題なのである。


目の前にある現状証拠だけを見てすべてを理解してしまっているあたり師弟間における信頼関係が欠如してしまっている、いやむしろ信頼関係があるからこそのこの考えなのだろうが、そんなことを言っていても仕方がないだろう。


「えっと・・じゃあ順を追って説明するわ。聞いてきた魔術師の話だから、もしかしたら憶測も入ってるかもしれないけど、そのあたりは許してよね」


「構わん。ビー、ジョア、まずはベルの話を聞こうではないか。クラリスを犯人にするのはそれからでも遅くはない」


アリスの言葉にとりあえず康太と真理は一度冷静に文の話を聞こうと耳を傾けた。










「つまり、洗脳が得意な魔術師が入り込んできてたところに、ちょうどよくうちの師匠がやってきたと」


「そして危うく殺されかけていた支部長を、少々強引な方法ながら助けたと・・・にわかには信じられませんが・・・」


文が聞いてきた内容を確実な事実のみを伝えているというのに二人はまだ小百合が犯人なのではないかと疑っているようだった。


外部から敵が来ることよりも小百合が暴れる方が確率が高いというのもどうなのだろうかと文は呆れてしまうが、春奈は納得したようで小さくうなずきながら部屋の中を見る。


「なるほど、確かにあいつならそれくらいのことはできるだろうな」


「そりゃできるかもしれませんけど・・・っていうかベル、そうなると支部長は今どこにいるんだ?やっぱ師匠が敵と一緒に斬っちゃった感じか?」


「どんだけクラリスさんを加害者にしたいのよ。今支部長は方々を駆け回って被害状況の確認をしてるらしいわ。だいぶいろいろとかき回されたらしいわね」


文はそう言いながら支部内を索敵していく。その中で支部長らしき人物がいる場所も確認できていた。


一見すると支部の中はそこまで荒らされていないように見えるが、部分的に物色された痕跡があるのも確認できた。


後はどこの何がひどく荒らされているのかを確認する作業になる。こればかりは記録と照らし合わせる以外に方法がない。


「んじゃ支部長のところに行くか。忙しいところ悪いけど報告だけはしないとな」


「こっちよ。わかってると思うけど、あんまり突拍子ないこと言って支部長に負荷をかけすぎないようにしてよね?」


「わかってるって。とりあえず報告だけにしておくよ。少なくともいい報告ができるんだから気にすることもないと思うけどな」


康太が封印指定にならなくなったというのは素直にいい報告のはずだ。


もっとも封印指定にされかけている時点で支部長には多大な迷惑をかけていることに違いはないのだが。


康太たちが歩いていると、大量の資料を片手に支部の魔術師と歩き回っている支部長を見つける。


どうやら本当に面倒なことになっているのだなと少し可哀そうに思いながらも康太はとりあえず支部長に話しかけることにした。


「支部長、お疲れ様です」


「あぁお疲れさ・・・ブライトビー!?」


先ほどから同じようにお疲れさまと声をかけられ続けていたからか、つい反射的にお疲れさまと言いかけたが、康太の仮面を見たとたんに支部長は明らかに動揺した様子で二、三歩たじろぐ。


「大丈夫ですか?なんか支部が襲撃されたって聞いたんですけど?」


「え?あぁ・・・危ないところをクラリスに助けてもらってね・・・」


「本当にですか?うちの師匠が襲撃を仕掛けてきたんじゃないんですか?」


「えぇ・・・なんでクラリスが支部に仕掛けてくるのさ。いやまぁ、彼女だとありえなくはないんだけどさ」


まさか支部長も弟子が師匠の犯行を疑っているとは思わなかったのか、少しあきれた様子で否定する。


だが支部長自身も小百合が突拍子もなく支部を攻撃するという可能性を否定しきれないのか複雑そうである。


「いいんですよ支部長。師匠に脅されているからといって無理に師匠をかばわなくたっていいんです。長い付き合いですから何とかしたいのはわかりますが、師匠がやらかすのは今回が初めてではありませんから」


「いやいや、本当にクラリスに助けてもらったんだって」


「師匠が支部長を助けるわけないじゃないですか。脅されているなら力になりますよ。師匠を倒す事はできなくても守るくらいならできますから」


「なんで君らそう頑ななの?もうちょっと自分の師匠を信じようよ」


「信じている結果これなんですよ」


「あの人ならそれくらいやるという信頼があってこそのこの態度ですよ」


「ごめん、正論過ぎて反論できないけど、今回に関しては脅されてるわけでも洗脳されてるわけでもないから。本当にクラリスに助けてもらったから」


支部長の言葉を受けても康太と真理はまだ疑っている。本人から助けられたという証言をもらっても、二人は小百合が支部長を助けたという事実が信じられなかったのである。


というか、小百合のことを常に疑っているといってもいいだろう。性格面でも実力面でも危険性が高すぎるから常に警戒を強いられているというべきか。


被害者である支部長が助けてもらったといっていても脅されて仕方なくそういう風に言わされていると思えてしまうのだから性質が悪い。


「僕としては、クラリスのことよりも・・・その・・・ブライトビー、君に謝らなければいけないことがあって・・・」


「俺に?なんです?」


「ん・・・口で言うよりも見たほうが早そうだね・・・ついてきてくれるかい?」


どうにも歯切れの悪い支部長の言葉に康太は首をかしげながらとりあえずついていくことにする。


一体どこに連れていかれるのかと考えていると、その先は件の幸彦を殺した魔術師が収容されている場所だった。


康太によって四肢を斬り落とされ、目も耳も鼻もすべて使えなくされている状態で、しかも精神破壊となる苦痛同調をかけられ半ば廃人のような状態でただ生かされている状態の魔術師がいる場所である。


だがその部屋には、首を乱暴に斬り落とされ、殺された魔術師の死体があるだけだった。



土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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