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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」
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ラジコン感覚

支部がそんなことになっているとはつゆ知らず、康太たちは拠点の攻略を続けていた。


地上階の制圧を無事終えた康太たちは、地下に水を注ぎ続けている倉敷とその護衛をしている真理のもとへと駆け付けた。


「お疲れ様です皆さん。怪我はありませんか?」


「こっちは問題なしです。姉さんこそ大丈夫でしたか?」


康太が辺りを見渡すと、魔術師らしき人物が一人倒れているのが見受けられた。外からやってきたのか、それとも地下から突撃してきたのかは不明だが、完全に意識を失ってしまっている。


死んではいないようだが、戦える状態ではなさそうだった。


「なかなかガッツのある方がやってきましたが、大丈夫でしたよ。少なくともこちらに負傷者はいません。ビーは本部の人間らしき人と戦っていたのでしたね」


「えぇ・・・途中ちょっと逃げられてエアリスさんの手を煩わせてしまいましたが」


「ふむ、相手が戦うつもりがない場合、相手より機動力があるか、相手を足止めできるだけの技術がないと相手にいいようにやられてしまう可能性がありますからね。そのあたりは注意が必要です。ビーはそういった技術は教わってきませんでしたからね」


「えぇ、お恥ずかしながら」


相手を拘束する手段がなければ結局のところ相手よりも速く動いて逃げ道をふさぐほかないが、物理的に通路がない場合、あるいは機動力が拮抗していた場合はそうもいかない。


そうなるとどうしても逃げられる可能性は多くなる。


「今度私が覚えている拘束系の魔術をお教えしましょう。無属性の魔術ですがうまく決まればかなり有用ですよ」


「ありがとうございます。お願いしますね」


小百合では拘束系の魔術は覚えられないだろうから、この辺りの術は康太たちが自分で覚えるしかない。

真理も同じように誰かから教わったか、あるいは自分で術式を探して自分で覚えたのだろう。


「話はそのくらいにしなさい。トゥトゥ、水はどの程度入っている?」


「あともう少しで地下全域を水で埋められます。何人かすでに水で追い詰めてますが・・・若干抵抗されてますね」


「・・・本当だ。最後の部屋で籠城してるって感じね。この水量だと長くはもたないでしょうけど」


「建物を壊してもいいっていうんなら、圧力をかけてぶち破ることもできますけど、どうします?」


倉敷の扱っている術には水に圧力を加える魔術もある。それを駆使すれば相手が多少籠城していようとこの水の量を味方につけて一気に押し潰すくらいのことはできそうなものである。


「数は・・・二人ですね。よくこれだけの水を二人だけで防いでいるものです」


「障壁を展開して防いでいるようだな。トゥトゥ、破れるか?」


「かなり圧力をかければ。ただその分他の壁とかにも圧力がかかっちゃうんで、壊れるかもしれませんよ?」


「建物は可能な限り無傷のままにしておきたいな・・・さて、どうする?」


「水の中に入って直接障壁を攻撃しに行きますか?トゥトゥ、私たちが水に入った時に水を避けるくらいはできるわよね?」


「できるけど、その分相手にも空間を与えることになるぞ?」


倉敷が操っている水の中に直接入ってもいいが、相手への攻略の糸口も与えることになってしまうためにあまり良い手段とは言えない。


圧力をかければ建物そのものにもダメージが入るだろう。これだけ水を展開しているのだから今更かもしれないが。


「・・・で、ビーは何やってるわけ?」


「ん?いやいや、攻略のための手段ですよ」


文が視界の隅にとらえた康太は、ウィルの鎧を脱いで自分の装備一式を持たせた状態で待機させていた。

一体何をさせるのかと考えた時、文もその考えを理解する。


「なるほど、ウィルなら息をする必要もないからそのまま行けると・・・装備を持たせてるってことはそういうことよね?」


「そういうこと。障壁だけを攻撃して一気に水で襲い掛からせる。俺の装備なら障壁は壊しても建物にそこまでダメージは与えないしな」


康太の持っている鉄球や杭ならば、障壁を食い破ることくらいは問題なく可能だ。


しかも水の圧力を押しとどめていることから障壁に小さな穴をあける程度でも致命的な効果を発揮するだろう。


文は見取り図をだしながら、どの場所に障壁が展開されているのかを詳細に記載していった。


「ウィル、いいわね?この建物をそのまま降りていって、隅のこの大部屋を拠点にしているわ。正面の扉を守るように障壁が展開されてるから、そこに張り付きなさい」


文の指示にウィルは了解と言わんばかりに腕を作ると親指を立てて見せる。


視覚のないウィルがこの地図を見えているのかどうかはわからないが、少なくともウィル自身はこの説明を理解したようだった。


「念のため俺も途中まで行くか?」


「やめておいたほうがいいでしょ。あんたいくら何でも呼吸がいらないレベルで人間やめたわけじゃないでしょうに」


康太が人間をやめたとはいえ呼吸が必要なくなるレベルではない。半分人間の部分はしっかり残っているために、そのあたりは仕方がないといえるだろう。


「よし、行けウィル!奴らの障壁を破壊せよ!」


康太の出撃命令にウィルは敬礼をしながらゆっくりと水の中へと入っていく。


倉敷はウィルが動きやすいように地下の目的地めがけて水流を作り出し、移動を補助していった。


「なんかこうしてるとウィルってだいぶやばいわよね。勝手に動いて勝手に行動するんだもの」


「武器を渡せば一時的に俺の分身になるしな。伊達に毎日一緒にいないぜ」


康太は胸を張りながらウィルのすごさをアピールしている。ウィルと一緒に訓練をしている康太からすれば、ウィルはもう一人の兄弟弟子のようなものだ。


魔力を分け与えて常に動いているウィルは常にいろいろと考え続けている。その結果いろいろできるようになったわけだ。


そろそろ喋りだしてもおかしくないのではないかとひそかに期待もしている。


「このくらいの距離ならあんたでも索敵できる?」


「ぎりぎりだな。ベル、補助してくれ。ぶっちゃけ結構広いから俺だとカバーしきれない」


「相変わらず索敵範囲少ないな。もうちょっと覚えろよ」


「他にいろいろ覚えたいものがあってね。視線とか感じれば一発でわかるからそのあたりは何とかなる」


「こういう時不便だろうよ」


「こういう時なんてほとんどないよ。たいていウィルと一緒にいればたいていの相手は潰せるからな」


康太の機動力とウィルの防御能力を合わせれば康太の言うように大抵の相手は潰せる。こうやって別行動をとること自体がかなり珍しいのだ。


ましてウィルをラジコンのように移動させて攻撃を行うなどなかなかない。


「あと十メートル、本当にさっきの説明を理解してたのね・・・どうやって知覚してるのかしら・・・?」


「実は色々見えてるのかな?アリスとしてはそういうのどうだ?ウィルの状態ってどんなだかわかるか?」


「あれに関しては知らないほうがいいと思うぞ?お前たちが思っている以上にえげつない代物だ」


「まぁウィルが作られたのって結局人間を材料にしてるからな。そのあたりは仕方ない話か」


ウィルはもともと協会にいた門の管理をしていた神父が作り出した魔術だ。


多くの人間の魂とでもいうべき意志を強制的にインストールしている。ウィルの体そのものがどのような物体でできているのかは不明だが、聞いて楽しい話ではないのは間違いないだろう。


「そういえば、あいつって水の中に入って大丈夫なのか?」


「どういうことだ?」


「あれって半分液体みたいな感じだろ?水に溶けたりしないのか?」


倉敷の疑問に康太は答えることができなかった。ウィルの体を構成しているのがそもそもなんなのかさえ今まで意識してこなかったのだ。


康太はその答えを求めてアリスの方を向く。


「おそらくは問題ないだろう。あれは水に溶けるとかそういった段階の物体ではない。少なくともどのような状態でも問題なく活動できるように構成されている」


「ぶっちゃけどういう物体なんだ?」


「あー・・・あれ自体はそうだな・・・何と言えばいいか・・・鉄とは少し違うし・・・だが水というには・・・その中間とでもいえばいいのか」


アリスもうまく説明できていないということから、ウィルの体はおそらくウィルオリジナルの物体なのだろう。


神父がどのような手法を使い、どのような技術を使いウィルを作り出したのかはさておいて、少なくともウィルの肉体を真似するのは不可能といってもいいだろうことは理解できた。


「お前そんなよくわかってないものを今まで近くに置いてたのかよ。危なくないのか?」


「何言ってんだよ、慣れるとすごく頼りになるぞ。クッションにもなるし、リモコンとかとってくれるし、布団にもなるしリクライニングだって思いのままだぞ」


「頼りになる部分がほとんど家具としての運用ってどうなのよ・・・いやそれはそれで平和なのかもしれないけど」


「なら魔術師的運用の話してやろうか?鎧にもなるし武器にもなるし、いざとなれば相手を拘束できるし空だって飛べるようになるし、その気になれば分身として単独で戦えるんだぞ」


「わかったわかった、俺が悪かったよ。確かにあいつはすごいよ、優秀だよ」


ウィルの利点を挙げればきりがない。軟体魔術として康太の周りでの地位を確立しているウィルはもはやなくてはならない存在なのだ。


「最近はシノもよくウィルと一緒にいますね。よく一緒にお昼寝をしていますよ」


「あー・・・そういえばこの間スライムナイトみたいになってたわね。そのあたりはどうするの?あの子に引き継がせるの?」


「あいつがある程度育って・・・中学か高校くらいに行くようになったら引き継いでやろうかなと思ってるよ。ウィルもあいつのこと気に入ってるみたいだし」


ウィルの上に乗って移動している神加の姿を小百合の店では割と頻繁に見つけることができる。


今はまだ神加が小さいためにそれで移動できているが、これから神加が育てばそれも難しくなってくるだろう。


子供の成長を喜ぶと同時に、ウィルに乗る神加の姿を拝めなくなると思うと少し寂しい気持ちもある康太たちだった。


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