室内攻防
建物の前に到着すると同時に、文たちは鍵開けの魔術を使って中に突入していた。
「建物奥、二番目の部屋に魔術師一、二階に魔術師三、地下階層に魔術師四!」
即座に索敵を行った文が建物の中の状況を伝える。魔術師が地下階層に集中しているというのは文たちにとって好都合でもあったが、同時に一階の制圧を急ぐ必要が出てきた。
地下の魔術師たちが一斉に地上に上がってくる前に倉敷に地下階層を攻略してもらわなければならない。
一階にいる魔術師を即座に攻略し、上の階と断絶させた状態で地下階層へ水を流し込まないといけない。
目指すべきは地下への階段だ。そこさえ攻略できてしまえばあとは上層階への突入だけとなる。
そうなったら康太に突入を頼むだけだ。
「一般人は二階か?」
「主に二階です。そこに数人の魔術師がついています。治療を行っていると思われます」
「気付かれた!こっちに来ます!皆さん準備を!」
真理の言葉と同時に、一階にいた魔術師が扉を開けて文たちを見つけると同時に攻撃態勢に入る。
だがそれよりも早く反応したのは警戒を続けていた春奈だった。相手が攻撃をしようとした瞬間にはすでに魔術師めがけて強力な重力の魔術を放ちその体を地面に押し付ける。
声を出すよりも早くその顔を水で包み窒息させようとする。
だがさすがにこのままで終わるわけにはいかないと判断したのか、自分の顔を覆っている水を衝撃波の魔術で弾き飛ばす。
当然自分の顔にもダメージが入るが、少なくとも呼吸はできるようになっていた。
そして重力によって身動きが取れないながらも、何とか攻撃しようと魔術を放ってくる。
襲い掛かる魔術を文が障壁の魔術で防御し、即座に砂鉄を周囲に振りまくとそれを通じて魔術師に電撃を浴びせていく。
体中濡れてしまっていたこともあり、魔術師は電撃を防ぐこともできずに体を痺れさせてしまっていた。
未だ意識を失っていない魔術師に対して、春奈は再びその顔を水で覆い、体の中へ水を侵入させていき強制的に意識を喪失させる。
えげつないコンボだなと倉敷は眉を顰める。そして文たちが地下階層の入り口となる階段にたどり着いた段階で、倉敷は意識を集中して大量の水を作り出して地下へと流し込んでいった。
「トゥトゥ、どれくらいで制圧できる?」
「さぁな。地下全部埋めるってなるとちょっと時間かかるぞ?何より相手だって多少なりとも抵抗するだろ」
「抵抗できない程度に押し潰しなさい。私たちは警戒してる。上の魔術師が下に降りてくる可能性もあるから、私たちはそっちを警戒してるわ」
上にいる三人の魔術師がどのタイミングで降りてくるかはわからない。先ほどの戦闘ではほとんど音は出さなかったが、上の人間が一人でも索敵の魔術を発動させればそこまでだ。
運よく一階部分で大規模な戦闘が起きなかったおかげで状況は良い方向に進んでいるが、それもおそらくここまでだろう。
「ジョア、お前にはトゥトゥの援護を頼みたい。私とベルで上層階を攻略していく」
「了解しました。ビーはその段階で投入しますか?」
「あぁ。たぶんだが、そろそろ余計な連中もやってくるはずだ」
春奈がそういうと、文がわずかに顔をしかめて視線と意識を外の方に向けた。
索敵に引っかかったのは数人の魔術師だ。おそらく本部の人間であろうと思えるほどに高い魔力を保有しているのが文には感じ取れた。
「ご名答です。あと数分・・・早ければ一分弱で到着しそうですね」
「時間はないな。行くぞベル。ジョア、トゥトゥ、ここは任せた!」
「了解です、お気を付けて」
倉敷を真理に任せ、文と春奈は二階へと駆け上がっていく。二階部分の構造も二人の頭の中に入っているが、一応位置を確認するために索敵を発動していく。
大広間のようなところに数人の一般人が横になり、それを魔術師一人が確認しているようだった。
残りの二人はまた別の部屋にいる。全員が一緒に行動していないのは少し面倒くさかった。
何かしらの毒を受けたのか、あるいは単なる食中毒か、判断できないからこそ調べているのだろう。
「アリス、ビーに合図を送れ」
「ふむ、良いのか?」
「上から落ちてくるまであと数十秒はかかるだろう?今出たほうが混乱させやすい」
康太は上空で待機している。そこから落下するとなるとどうしても時間がかかるだろう。
それを換算しての指示にアリスは納得して康太への合図を送った。
「一般人の方から先に片づける。意識があるものは即座に意識を奪え。見るような余裕を与えるなよ?」
「わかってます。合わせますので先にどうぞ」
「いうようになったな。ではいくぞ!」
春奈の動きに合わせるような形で文は動き出す。康太に比べれば春奈はまだまだ合わせやすい類の人間だろう。
扉を開いて大広間に突入すると同時に、文たちは攻撃を仕掛けた。
大広間にいた魔術師は一瞬何が起きたのか、何がやってきたのか理解できなかっただろう。だが緊急事態だということはわかったのか、大きく叫んだ。ここからが面倒だなと文たちは眉を顰め攻撃を開始する。




