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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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現地確認

康太たちが準備を終え、現地に集合したのは翌日の昼頃だった。


すでに仕込みを終え、康太たちは取り合えず現地の視察と周辺の状況を実際に目で見て確認したかったのである。


「なんていうか、何もないな」


「普通に家があるってだけね。ちょっと向こうに行くと商店街みたいなのがあるんだっけ?」


海外の街並みを日本のそれと同列に扱うのはいろいろと間違っていると思うが、それでも康太たちからすれば広大な土地に堂々と建てられた一軒家が立ち並ぶ光景はなかなか珍しいものである。


所狭しと家を並べた日本とは大きな違いがそこにはある。


「でもこんだけ広いといろいろ不便じゃないか?回覧板とか出すのもちょっと歩かなきゃいけないだろ」


「海外にそもそも回覧板ってあるの・・・?」


回覧板という文化が日本特有であるのかどうかも知らない学生である康太たちからすれば、この光景には違和感しか覚えられなかった。


「三人とも、あまり視線を動かすな。不審がられるぞ」


三人の引率のような形でこちらで活動していた春奈が視線をきょろきょろと動かす三人に指摘する。

そのたたずまいはさながら教師のようである。


「すいません。海外の住宅街ってちゃんと見ることあまりなかったもんで」


「今までほとんど通りすぎてたもんね・・・実際に歩くのは初めてかしらね?」


「まぁ見るものなんてほとんどないけどな」


住宅街に見るものなどあるはずもなく、康太たちは目的地を中心にして周囲を回るようにして周辺の地形を探っていた。


「アリス、変装は完璧なのか?」


「任せろ。私にかかれば造作もない。四人ともばっちり白人に見えているぞ?美醜にはこだわっていないがな」


今康太たちはアリスの変装によって外国人の白人の姿を模している。一応住宅街を通るということもあって学生に近い服装にしているため比較的周囲には溶け込むことができている。


よほど不審な行動をとらない限りは他人の目には触れないだろう。


「白人って言っても俺らからは何も変わってないんだけど、そのあたりどうなんだ?」


「実際に触られない限りはばれん。そのあたりは警戒しておけ。魔力抜きも忘れるな?」


「わかってるって。ばっちり空っぽだよ。すごく不安だけどな」


「仕方ないでしょ。向こうにばれるわけにはいかないんだから」


今康太たちはアリスを除いて全員魔力を完全にゼロにしている状態である。


一応周囲に魔術師がいることも想定して一般人に扮して行動しているのだ。


アリスはそもそも索敵を妨害できるためにそのあたりをあまり気にしていない。それが良いことなのかどうかはさておいて。


「康太君、この辺りの地形をどう見る?」


「・・・やや平地が多くて建物もそこまで高くない。遮蔽物になりそうなものも少ない。これだと正面からの戦闘は不利ですね。相手が待ち構えていたら大勢での攻略を念頭に入れないときつそうです」


「では、普通にやらなければ?」


「上空から一気に攻略するのは悪くないと思います。あとは相手の索敵網がどういう形で働いているかによると思います。正面から囮が相手を引きつけている間に襲撃するのがいいかと」


「ん・・・文はどう思う?」


「康太にほぼ同意見です。ただそれでも正面からの人員にもある程度やりようはあります。倉敷は温存する形で、私と師匠で切り開けば後々動きやすくなるでしょう」


康太と違い、文と春奈は恵まれた素質をしている。そんな二人が同時に攻略を開始すれば息切れを起こすことなく攻め続けることができるだろう。


相手も高い素質と技術を有していないと間違いなく突破される。


とはいえこちらは康太が突入するまでの時間稼ぎをすればいいのだ。一般人が動けなくなっている段階でどの程度相手の注意を引き付けることができるかというのが重要になってくるだろう。


問題はこの周辺の家屋だ。大きな音を出せば当然周辺の住民は気づくだろう。そういった部分でも気を使わなければいけないのは厄介だ。


「俺を温存っていうけど、そこまで必要か?」


「あんたには地下を水没させてもらわなきゃいけないんだから、魔力は温存しておいて損はないわ。いちいち相手と戦うよりはずっと楽でしょ?」


「そりゃそうだけど・・・なんか残念な感じがする」


「正々堂々戦うだけの理由があればそうするけどね。私たちがこれからやるのは襲撃よ?そもそも不意を打つんだから正々堂々も何もないじゃない」


ぐうの音も出ない正論に倉敷はおっしゃる通りですとしか言えなくなってしまっていた。


個人の性格にもよるのだが、正々堂々と競い合うことを望むものもいれば、とにかく効率的に物事を進めようとする者もいる。


文の場合は状況によりけりだが、それでもやはり効率的に物事を進めたいと思っているタイプの人間だ。


実際文がいればたいていのことは上手くいくだろう。今回はそれに加えて春奈まで同行しているのだ。

少なくとも現時点でこの布陣では負ける気はしなかった。


「で、本部の人間がやってきたらどうする?」


「どうするって言われてもなぁ・・・正直どうにかするっていう考えしか浮かばないんですよね・・・」


春奈の懸念ももっともだが、康太としては本部の人間が現場にやってきたときは本当にどうにかするしかないと思っていた。


戦闘能力が高いものを相手にした場合厄介なことになるかもしれないが、現状の戦力で負けるとは思えない。


問題なのは相手の邪魔によって康太たちの行動を大きく制限された場合だ。


戦いになるのは仕方がないが、ローラローを拿捕するのを邪魔された場合厄介なことになる。


三つ巴の戦いの場合、敵の敵が味方とは限らないのが厄介なところである。


「聞きたいんですけど、本部の人間の戦闘職の人間はどの程度強いんですか?俺今まで本部の連中とはあまり戦ったことがなくて・・・」


康太が今まで本部所属で戦ったことがある人間は限られる。その中に戦闘職の人間はいなかったと康太は考えていた。


つい先日戦った数人の魔術師はある程度戦えたが、戦闘能力という意味では少し劣る。もう少しレベルの高い魔術師たちが控えているだろうと康太は予想していた。


春奈は小百合に付き合っていろんな魔術師と戦ったことがあるだろう。その意見を聞きたいところだった。


「実体験でかまわないのなら・・・私が本部の人間と戦ったことがあるのはもう何年も前の話になる。ちょうど真理が中学に上がったころだっただろうか?」


「懐かしい話ですね。随分と昔の話です」


真理は当時を懐かしそうに微笑みながら当時のことを思い出しているようだった。


中学の頃の真理がどのような感じだったのか気にはなるが、今は春奈の意見を聞いたほうがいいだろう。


「そのころ私はあのバカとは一緒に行動していなかったが、その後始末を良く依頼されていてな。その関係で他の支部や本部の人間と何度か戦ったことがある。その時の経験で言えば、本部の戦闘職の人間はそれなりに強い」


「・・・具体的には?」


「具体的に・・・か・・・どういえばいいか。少なくとも素質面、そして技術面では高いものを有している。文と同程度の素質と技術を持った魔術師だと思ってくれていい」


選りすぐりの実力者だけを集めているとはいえ、文と同程度の素質を持っているということはかなり優秀な魔術師だ。


本気で相手をされたらそれなり以上に厄介な相手であるのは容易に想像できてしまう。


「そして戦闘経験もそれなりに豊富だ。本部の人間は戦闘回数こそそれほど多くないが、戦闘職の人間なら訓練として互いに試合程度は行っている。経験としては十分すぎるほどだな」


「なるほど・・・訓練しまくった実戦不足の優秀な魔術師ですか」


康太は出会ったばかりの頃の文を想像したが、文は対人の訓練は行っていなかったことを考えるとそれよりは格段に手ごわいだろう。


康太からすればどの程度強いかよりもどのような行動に出るかといったほうが重要ではある。だが相手の実力によって誰に相手をしてもらうかも考えなければならない。


「場合によっては文や倉敷に足止めをしてもらう可能性もあるけど・・・そのあたり大丈夫か?」


「私は構わないけど倉敷はフリーにしておきたいわね。一度地下を水没させちゃえば大丈夫かもしれないけど」


「俺としては本部の人間を相手にするのはごめん被りたいんだけど。普通の魔術師相手で手一杯になるぞ?」


地下階層の攻略は倉敷が要になるために、文の言うように倉敷は可能ならばフリーにしておきたいのが正直なところだ。


実際にそれができるかどうかはさておいて。


「万が一の場合は俺か姉さんか春奈さんが止めることになるな・・・姉さんと春奈さんはそれでもいいですか?」


「私は問題ありませんよ。足止め程度であれば可能だと思います」


「私も構わない。状況に応じて対処は変えよう。とはいえ真理がいれば問題はないと思うが・・・」


「いえいえ、私なんてまだまだですよ」


真理はそういって謙虚な反応を見せているが、この中で戦闘能力が最も高い可能性があるのが真理なのだ。


春奈ももちろん強いだろう。だが真理のそれは異質である可能性が高い。


小百合の一番弟子であるのは伊達ではないのだ。


「なら本部の魔術師は俺か姉さん、春奈さんの誰かがメインで当たって、それ以外はローラローの拿捕に向かうって感じで」


「コータよ、私は何をするのだ?」


「アリスさんは隠匿翻訳その他雑務をお願いします」


「・・・一番つまらない奴ではないか」


康太の言葉にアリスは不貞腐れているが、実際そこまで手を貸さないようなことを言ってしまっただけに配置的には仕方がないということもわかっている。


とはいえのけ者にされているようで少し気分が悪いのだろう。

相変わらず面倒くさい奴だなと、康太はわずかにため息をついてしまっていた。


「この後どうします?地形はある程度わかりましたけど」


「他の宗教団体の保有している場所に行こう。今回の私たちの行動を本部が監視していないとも限らない。というか私ならまず康太君を監視する。私たちのこの行動がただの視察と思われているならまだいい。他の拠点の場所も同じように回って目的地の目線を逸らす」


もし康太たちに現時点でも監視などがついていた場合、こういった現場調査も把握されてしまっているだろう。


康太たちがこの場所だけを視察すれば、相手はこの場所こそが重要な場所であると思ってしまうかもしれない。


そうなれば偽の情報を渡した意味がなくなってしまう。


「では副本部長に渡した場所はどのタイミングで行きますか?」


「最後だな。こういう時、重要な拠点は最初か最後に回るのがセオリーだ。この場所に最初に来た時点である程度目をつけられてしまったかもしれないが」


「二番目くらいに見るべきでしたかね?」


「時間的余裕があればそれでもよかったがな・・・まず確実に見ることができる時間に見たい場所を見ておいたほうがいい。相手に気付かれていたとしてもな」


今のところ康太は誰かの視線を感じるということはなかった。誰かに見られているということも、意識を向けられているということもなさそうである。


康太の場合視線しか感じとれないために、索敵が発動されていた場合それを感知することはできないのだ。


「アリス、今監視はどうなんだ?ついてきてる?」


「今のところついてきてはいない。だが門を使っている時点である程度の場所は向こうは把握しているだろうよ」


「なるほど・・・わざわざ監視なんてつけなくても向こうはこっちのことをある程度把握できるわけか・・・」


本部からすれば危険を冒して康太たちに監視をつける必要性はない。康太たちが門を使えばそれを調べてどこにつながったのかを確認すればいいだけなのだから。


目的地である宗教団体の拠点が決まった場所にある以上、門の行き先だけで康太たちの目的地を特定することは難しくない。


「ならなおさら別々の場所に行くべきだな。向こうの目を多少なりとも誤魔化しておく必要がある」


「了解です。時差があるからなんか感覚がマヒしてきますね」


「それは仕方がないな。海外で活動するときの基本事項だ。仮眠なりをとってうまく調整するほかない。康太君たちはまだ海外の活動はあまりなかったんだったか?」


「えぇ、何回か大規模作戦の時に参加したくらいですね。海外に行きたいって気持ちもあんまりないですし・・・正直街を歩くのは避けたいくらいで・・・」


「なぜだ?異国情緒あふれる風景などに触れるのは楽しくないか?」


「いえ・・・その・・・迷子になるので」


初めて、というか満足に行動できる状態で行った初めての海外で道に迷った康太からすれば、海外の街並みは日本のそれと違って見えてしまうのだ。


まるで迷路のように見えて、目的地にたどり着ける気がしないのである。空を飛ぶことができれば道など無視していけるかもしれないが、人の目がある日中ではそれはできないのである。


「私と最初にあったのも迷子になっている時だったからの。下手にこいつを迷わせるとまた妙なものと関係を持つぞ?」


「自分で自分のことを妙なものっていうのどうなの?」


「私ほど珍妙なものはこの世にないだろう?オンリーワンの最高齢美少女だ」


自分で言っていては世話ないなと思いながら、文はとりあえずアリスの言葉に同意する。


康太は面倒ごとを引き寄せるタイプの人間だ。もし仮にこの町で迷わせて、偶然散歩していたローラローなどと出会った日には目も当てられない。


実際そういうことをやらかしそうだからこそ、文は康太を一人では絶対に行動させまいと意気込んでいた。


「俺が歩くだけでなんでそんな面倒ごとを引き寄せるんだよ。犬も歩けばじゃないんだからさ」


「適当に散歩して迷子になって封印指定と接触したあんたが言うかね」


「あの場合は私から接触しに行った節があるがな。まぁその程度は誤差だ。お前は知らないところを一人で歩かないほうがいい」


「ひどい言われようだ・・・」


酷い言われようといいながらも康太は自分がそういう体質であるということを何となく理解している。


思えば魔術師になった切っ掛けもそうだった。康太が何の気なしにとった行動でそののちの人生そのものが変わってしまうなどどうして思えただろうか。


康太がなんとなくした行動は大きくその結果を変える。それこそ本人の望む望まぬにかかわらず。


「姉さんも俺みたいに面倒ごとを引き寄せてたんですか?」


「どうでしょうか。私の場合は面倒ごとにならないように一所懸命根回しをしていましたからね。まだその余裕がありましたし、何よりまだ子供でしたから」


子供でそんな根回しができるだけ優秀なのだろうが、どうやら真理は康太のように面倒ごとを極端に引き寄せるような体質ではないらしい。


小百合のように度々面倒を起こす人間の近くにいたため、感覚がマヒしているのかもしれないが。


「おしゃべりもここまでだ。そろそろ行くぞ」


春奈の指示に従って、康太たちは最初の現地調査を切り上げ、次の場所へと移動を開始する。


後はこの行動に本部の人間が引っ掛かってくれればいいのだがと、全員が祈っていた。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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