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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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まとめと宿題

「さて、では次に方陣術について教えていこう。これはいうなれば魔法陣と呼ばれるものだ。名前くらいは聞いたことはあるだろう?」


「地面とかにこう変な文字とか絵を描くあれですか?」


「そうだ、お前の舌に刻み込んだのも方陣術の一種だ」


自分の舌に付けられたものが方陣術という一種の魔術的な存在だということを知り康太は嫌そうな顔をする。


半ばそんな気はしていたのだがそのことを聞いてようやく思い出したように康太は舌を出す。


「そうだ、これ早く解除してくださいよ。俺が魔術師になるなら問題はないんでしょ?」


「お前はまだ魔術師じゃないだろうが。魔術師を名乗れるようになったらはずしてやる。それと同じ方陣術は基本的に特定の条件を満たすことで発動するものがほとんどだ。そう言ったものを式として文字や絵に記すことで間接的に術を発動することができる」


ここまでで何か質問は?と小百合がさも先ほどのやり取りがなかったかのように振る舞っている中、康太は不満そうにその顔を睨んでいる。


その無言の抵抗が全く意味がないことを悟ると、康太は小さくため息を吐いた後で精霊術と方陣術についての考察を始めた。


精霊術は魔術師としての才能がない人間でも精霊の力を借りることで術を扱うことができるようにするためのものである。ただその反面力を借りている精霊と同じ属性の術しか発動できなくなるらしい。


方陣術は術を間接的に発動するためのものであり、物質などに術に必要な情報などを書き込むことで成り立つ。様々な情報なども恐らくは式として書き込むのだろう。それなりに技術がないとできそうにないというのはうかがえた。


「あの、方陣術っていうのもやっぱり魔力が必要なんですよね?」


「当然だ。あらかじめ式を書き込んでそこに魔力を流し込むことで発動可能状態になる。ただ発動できるのは式に書き込まれた一つの術のみ。そのほかの条件を加えるとその分式が複雑になる欠点があるな」


つまり小百合の説明をまとめると、どのような術をどのような条件で使いたいかをあらかじめ決めて式にし、それを書き込みそこに魔力を注ぎ込むことでようやく発動するのが方陣術という事だ。


あらかじめの事前準備が必要な術という事だろう。しかも条件を色々付け加えることができるとなるとなかなかにテクニックが必要とされるのは容易に想像できた。


「他に質問は?ないなら今説明した三つを大まかにまとめてみろ」


「えと・・・魔術は三つの才能のある人間しか使えない。精霊術は才能がかけてても使えるけど特定の属性しか使えない。方陣術は魔力さえ注げれば大体なんでも使えるけど事前準備と技術が必要・・・ってところですか?」


康太の言葉に大まか正解だと告げて小百合は薄く笑みを浮かべる。どうやら康太は弟子としては優秀な部類だと思われているようだ。


教える側としてもやりやすいのか、彼女はさっさと次の段階に進もうとしていた。


「さて、根本的なことを教えたところで次の段階に進みたいところだが・・・実際魔術を一つ学ぶだけならこれだけ教えておけば十分なんだ。説明はここまでにして実践に入ろうと思う」


実践


つまりは実際に自分で魔術を使ってみようという事だろう。


説明の後にすぐ実際に魔術を使うという行動に移るというのはかなり性急なような気がしたのだが、これが彼女の指導法なのだろうと康太は身を引き締めた。


だがその康太を観察するように眺めている彼女は眉をひそめている。


「・・・いや・・・やっぱり今日はやめておくか。実践するのは明日からにしよう。」


「え?どうしてですか?」


てっきり自分を置いてけぼりにするレベルでどんどん進行していくものだと思っていたために、急に辞めておくという彼女の言動に少しだけ戸惑っていた。


もしかしたら自分が何かまずいことをしたのだろうかと思っていると、小百合は康太の肩に触れる。


未だ体に残っている痺れと痛みが小百合が触れた瞬間に訪れる。触れられた場所からゆっくりと浸透するような痛みと痺れに康太は顔をしかめた。


「今はまだお前の体が治っていない。恐らく明日には取れるだろうが今無理に魔力を練ろうとすると体が壊れかねん」


「そ・・・そうですか・・・」


どうやら康太が思っている以上に今日の検査で体を酷使した様だった。体の中で今までずっと使われていなかった機能を無理やり全力で酷使したのだ。その代償はそれなりに大きいものだったらしい。


そう言う面をしっかり見て確認して察してくれるあたり、小百合はましな師匠なのだろうかと思えてしまう。


「とりあえず今日の所はこれまでにして今日はもう帰って休め。ただ宿題を一つ出しておこう」


「宿題・・・ですか?」


一体どんな宿題を出されるのだろうかと思っていると、康太は突然小百合から五千円札を差し出されていた。


意味も分からずに差し出された五千円札を受け取ると康太は目を白黒させていた。この五千円札に一体何の意味があるのだろうか。


「それで何か適当にプラモデルを買って来い。そして明日ここに来るまでに完成させておけ。接着剤は使うなよ?」


「・・・は?」


つい素っ頓狂な声をあげてしまったが、本当に意味が分からなかったのだ。魔術の修業に何故プラモデルが必要なのか。その疑問を抱えたまま康太は店を放り出されることになる。















痺れと痛みが体を襲う中、康太は痛みと痺れと格闘しながらなんとかプラモを一つ購入し帰宅することができていた。


「ただいま・・・」


「おかえり。あんたずいぶん遅かったわね?どっか寄ってたの?」


先日の事故に巻き込まれたこともあってか母はやや心配そうに聞いてくる。さすがに学校が昼頃に終わるはずなのに夕方に帰ってくるというのは心配するのも無理ないだろう。


「あー・・・ちょっと買い物行ってた。こんなん衝動買いしちゃったよ」


そう言って康太は買ってきたプラモを見せる。一体何を思ってこんなものを買ったのだろうかと母親はかなり不思議そうにしていた。


「あんたそんなの作る趣味あったっけ?」


「いやだから衝動買い・・・まぁ一応作るけどさ・・・」


特に理由もなく買ったのだと言うと母もそれ以上何か言うことはなく、興味もなさそうに台所に引っこんでいった。


とりあえず康太の無事が確認できたから問題ないと思っているのだろう。体の動きがぎこちないことに気付かれなくてよかったと康太は内心ため息をついていた。


痛みと痺れがあることを必死に隠しながら自分の部屋に戻ると、とりあえず康太はベッドに横になる。


横になると少しだけ楽になれる気がするから不思議である。実際は体の痺れは収まらず、痛みは継続したままだ。


この痛みが本当に明日には引くのだろうかと不思議になってしまう。小百合の言葉によれば明日には引いているだろうという事だったが、全身の神経をむしばむかのような痺れと痛みがそう簡単に引くとは思えなかった。


この痺れと痛みは所謂筋肉痛のようなものだという。今まで使ってこなかったものを急に使おうとしたからかなりの負担がかかってそれが痺れと痛みになって襲い掛かってきているらしい。


今までそれなりに運動をしてきた康太だが、この痛みは初めての感覚だった。筋肉とは別の部分が悲鳴を上げている。まるで神経そのものが痛みを覚えているようなそんな感じの痛みだ。


あの釜の中の感覚、妙な感覚だった。


最初は痺れを、その後に痛みを、そして最後にはめまいさえ起こしかけた。


魔術を使うにはそれ相応にリスクが必要である。あれはそのリスクに含まれるものだったのだろう。放っておけば死んでいたという小百合の言葉を信じるのならかなり危険な状態にあったことになる。


あの人に師事して本当に大丈夫だろうかと一抹の不安がよぎるが、とりあえずスタートラインには立ったのだと康太は小さく息をついて宿題とやらを片付けることにした。


とりあえず買ってきたプラモの箱を開けてみる。


プラモデルを作るなんて一体何年ぶりだろうか。小学生の頃に何体か作った覚えがあるが、それ以降は全く作っていない。


しかもあの時に作ったプラモは今どうしているだろうか。部屋を見渡してもそれらしいものはない。


捨ててしまったのだろうかと昔の自分の行動に疑問を持ちながら康太はニッパーを手にプラモを作っていく作業を開始した。


やすりに紙やすり、ニッパー等々それぞれプラモに必要なものを引っ張り出して黙々と作り上げていく。


接着剤は使うなというのが師匠である小百合からの注文だった。一体これにどれほどの意味があるのだろうかと思いながら康太は着々とプラモデルを完成させていく。


部品を外し、取り付けられていた部分の破片を切り落としてやすり、紙やすりの順で削って表面を滑らかにしていく。


この工程もずいぶんと久しぶりだ。小学生の頃の自分は何を作っただろうかとかつての記憶を呼び起こしてみる。


たしかあの時はただ単純に主人公機を作っていた気がする。アニメなどをやっている時に主人公が操る機体がかっこよくてただそれを作って遊びたかっただけという感じだったように思う。


今は一転して量産機を作っている。一点物の特別な機体よりも量産型を改良したような機体の方が格好良く見えてしまうのはやはり少し大人になったからだろうか。


もしかしたらただ単に好みの問題かもしれない。こういう量産型に康太は渋さを感じるのだ。


これを機にまたプラモを作り出してみてもいいかもしれないなと思いながら、康太は箱に描かれた完成図を眺めてみる。


プラモというのは凝りだしたら止まらない魔性の趣味だ。塗装だけではなく自分でパーツを作るなんてこともできてしまう。


無論それらには技術は必要だが完成した時の感動もひとしおというものだろう。

時に説明書や設計図などを見ながら足、腕、胴体、頭と徐々に形にしていき、結局完成させるまでに二時間近くかかってしまった。


塗装も何も全くしていないただの仮組みに近い状態だが一応完成した。


ただパーツ同士をくっつけて形を成しただけ。何とも簡単なものだ。昔はこの工程だけでもかなり苦労した印象があるのだが、簡単にできてしまうあたりやはり少しは大人になったという事だろうか。


やすりなどで削ったために接合面は限りなく自然になっているが、やはり何の工夫もしていないと寂しく見えてしまうものである。


どうせならもう少し凝ったことをしたいよなと思っているところで夕食に呼ばれてしまう。この続きはまたあとで行おう。そう思いながら康太は部屋を後にした。









翌日、康太は朝起きると自分の体の調子を確認していた。


夜中まで襲い掛かっていた痛みやしびれがかなり無くなっているのである。


体を動かすだけでも辛かったのに今は随分ましになっている。これなら軽く運動しても問題はないだろうというレベルまで回復していた。


痺れはすでになく、体の痛みもほんの少しある程度だ。夜の時点から朝に至るまでにこれほど回復するのであれば今日学校が終わるまでにはほぼ完全に回復しているだろう。


それはつまり、今日から本格的に魔術の修行が始まることを意味していた。康太は僅かに気分が高揚しているのを感じていた。


いや気分だけではない、何か体の調子がいいように思えたのだ。体が軽いというか体調の良さを感じているのだ。


力があふれているという言い方をすればいいだろうか、今まで背負っていた重荷を外した時のような奇妙な感覚がある。


これも何かの副作用だろうかと思いながら、康太は昨日完成させたプラモをカバンの中に突っ込み、学校に向かうことにした。


朝食を食べ、顔を洗い歯を磨き、制服に着替えて早々に家を出る。


魔術というものに関わって何かが変わるかとも思ったが、こういう生活自体は全く変わらないようだった。


昨日のあの釜にいれられたときの感覚を思い出しながら康太は自習同然の授業を過ごし、午前中だけで学校が終わると帰り道にファーストフード店で昼食を購入した後小百合のいるあの怪しい店へと向かっていた。


店にたどり着くと昨日と同じ『まさる』と書かれたTシャツを着ているマネキンが迎えてくれる。


このマネキンの名を『まさる』と名づけようと思いながら康太は店の中に入っていった。


「こんにちは!師匠―!来ましたよ!」


店の中に入ると同時に小百合を呼ぶと、彼女は奥からのろのろとやってきた。その手に何やらお椀が乗っているところを見るとどうやら昼食中だったらしい。


「タイミングの悪い奴だな・・・まぁあがれ・・・少し待っていろ」


「あ、じゃあ俺も昼飯にします。途中で買って来たんで」


康太は店の奥に入っていくと買ってきたダブルチーズバーガーセットを口に含み始める。


味や栄養素的には問題があるだろうが、それでも安いのは中学生にとってありがたいことの一つだ。外食するうえでワンコインで食事にありつけるというのは十分以上の利点である


「宿題はやってきただろうな?」


「はい・・・あぁそうだ、これレシートとおつりです」


カバンの中から作ってきたプラモを取り出してちゃぶ台の上に置くついでに康太は財布を漁り始める。


プラモ一つに五千円も使わなかったために釣はしっかりと返すと、小百合はそれを受け取りながら康太が作ってきたプラモを眺め始める。


「なるほど・・・クゥエルか・・・なかなかいい趣味をしているな。安易に主人公機を買わなかったところは褒めてやる」


「どうもです・・・本当は時間があればもっと凝ってみたいところでしたけどね。都市迷彩バージョンとか」


個人で行える改装の中で一番楽でありながら一番難しいのは塗装だ。凝っていけばそれこそ上限などなく、満足できる出来栄えにできるかどうかは本人の腕に左右される。


だが最初に手を加える中でとっかかりやすいのは塗装なのだ、失敗してもやり直せるというところがなおよいのである。


「都市迷彩か・・・私なら配色を変えてエース機にするな。外部追加装甲を付けて肩と足にロケットやミサイルなどを追加しておきたいところだ」


「スタークジェガンみたいな感じですか?あれも格好いいですよね」


「量産型は余計な装備がない分遊び心があるのがいいところだ。バランスをとるのも難しいが、逆にアンバランスに仕上げるのも面白い」


小百合とプラモの話をしていると案外盛り上がる。自分の機体へのこだわりや改造するうえでの注意点。さらには今まで作ってきたプラモの出来栄え等々、なかなか面白い話をすることができた。


どうやら小百合はプラモにはなかなかうるさいらしい。


「でも師匠、何でプラモを作らせたんですか?これも修業の一環ですか?」


「ん・・・まぁそうだな。今度お前に教える魔術を修得するのにこいつが必要なんだ」


プラモデルを箸で指しながらそう言うが、一体このプラモをどのように使うのだろうか。康太は疑問符を飛ばしていた。


もしかしたら人形のように操作するのだろうか。操り人形のように見えない糸か何かで操って自由自在に操る。案外面白そうである。


「私も修業時代はよくプラモを作っては魔術の鍛錬に使っていた。当時はようやくゼータが出たくらいの時代だったからそこまでプラモも出ていなかったが・・・」


良い時代になったものだと言いながら小百合は食べていた昼食を一気に口の中に放り込んでいく。


プラモを使うのは魔術師の中では当たり前なのだろうか。それとも小百合とその師匠が特殊なだけなのだろうか。


どちらにしろ康太が作ってきたこのプラモが重要なカギを握るらしい。


長い歴史を持つかもしれない不可思議の象徴である魔術と比較的浅い歴史を持つ少年たちの通過点であるプラモデル。この二つが関わってくるというのは実に奇妙な関係だ。


時間があるならもう少ししっかり装備を作ってやりたいと思いながら康太は小百合が食器を片付けるのを待っていた。


「さて・・・それじゃあお前に魔術を教える前に、お前には習得してもらわなければならないものがある。なんだかわかるか?」


唐突な小百合の質問に康太は悩み始めてしまう。


今康太が知らないものは教えられる魔術の知識だ。現在魔術の発動に必要な才能の三つはあることが判明している。


後は魔術の術式さえ知ることができれば。


そこまで考えて康太はそう言えばと思い出す。康太はまだ自分の力で魔力を扱うことができないのだ。


「自分で魔力を作って操れるようになることですか?」


「正解だ。やはりそこまでバカではないようだな」


いくら才能があったとしてもその才能を扱うことができないのであれば意味がない。走ることができる車があったとしても、走らせるための燃料と技術がなければ意味がないという事である。


「確認しておくが、体の痛みやしびれはもうないな?」


「はい、朝はまだちょっと残ってましたけど・・・もう全然ないです」


康太が体を軽く動かして確認してみても、体のあちこちから感じていた痛みはもうなくなっている。


康太の回復が早いのかそれともただ単にそう言うものだったのか、小百合の見立て通りの結果だった。


「痛みやしびれがないのであれば問題はない。もうお前の体は魔術を扱うだけの準備ができているという事だ。あとはそれを自分の意志で操れるようになるだけという事だな」


「それはいいんですけど・・・どうするんですか?俺今のところ全然そう言うのできないんですけど・・・」


「当たり前だ。今のお前はいきなり尻尾が生えてきたようなものだ。今まで操ってこなかったものをそう簡単に操れるものか」


はっきりと言われるが確かに当然だと思えてしまう。自分が普段動かしている体でさえしっかりと動かすことができない時だってあるのだ。今まで使ってこなかったものを操ることなど最初はできないのは当たり前である。


だからこそそのために鍛錬するのだ。その方法に関してはいまだ謎としか言いようがないが。


「そのプラモが活躍するのは魔力を自分で練ることができるようになってからだ。それまではそこにでも飾っておけ」


「はい・・・わかりました」


康太は自分が作ってきたプラモを近くの棚の上に飾る。ただ立たせるだけでは寂しいのでちょっとしたポーズも取らせることにした。


必要かどうかはさておき遊び心というのは重要である。


「で、師匠・・・どうやって修業するんです?」


「何のことはない、昨日と同じ手段をとる。お前自身が魔力を練るための感覚を覚えればいいだけだ」


昨日と同じ手段


その言葉に康太は若干眉をひそめていた。昨日と同じというといくつか思い浮かぶが一番衝撃的かつ印象的だったのはあの釜だ。


「ひょっとして・・・またあのでかい鍋・・・じゃない釜ですか?」


「あぁそうだ、だが今回は全身浸かる必要はない。体の一部だけ浸して魔力を練るという感覚を覚えさせる。あとはお前がそれを操作しようとすればいい」


時間はかかるだろうが一番確実だと小百合は言っているが、昨日の記憶はまだ鮮明に残っている。死ぬかもしれないような状況だっただけにさすがにいいイメージはわかないのだ。


あれだけの痛みを覚えたようなものなのだから当然かもしれないが、可能なら何か別の手段を取りたいところである。


「あの、この修業って師匠もやったんですか?」


「あぁ、私がやったものをそのままトレースしている。たぶんだがお前は私と同じようなことをすれば問題ないと思うぞ」


個人差は多少あるだろうがその程度は誤差だと小百合は笑っている。


人の個人的な違いを誤差で済ませるのはどうなのだろうかと康太は項垂れてしまう。


この人の弟子になったのは早計だったかもしれないなと思う中、康太は小百合の後に続いて再び地下に下りていった。


昨日世話になったゲヘルの釜の準備を進め、康太はとりあえず右腕だけを釜の中に入った水につけることにした。


もちろん二月という事もあり釜の中の水は温めてある。さすがに冷水に手を突っ込むのはかなりつらい。


康太が右手を突っ込むと、右腕に妙な感覚が広がっていく。


体内の神経や血管そのものに何か別の生暖かい液体を流し込んでいるかのような妙な圧迫感。そしてそれが徐々に全身に広がっていくような感覚があったのだ。


これがマナを取り入れ、魔力を練るという感覚なのだろうか。


康太は一度釜から手を引き抜くと、数十秒かけてその感覚は無くなっていった。

何度か入れては抜いて、その感覚を頭に刻み込んでいく。だが感覚を覚えてもそれを操作するとなると話は別だ。


どうすれば操れるのだろうか、どうすれば先程のような感覚を再現できるのか。康太はかなり悩んでしまっていた。


何度も何度も腕を突っ込んではその感覚を確かめているのだが、一向にそれを自分の力や意志で操れるような気がしないのである。



評価者人数が10、15、20人突破したので四回分投稿


誤字やブックマークは明日からですね、少々お待ちください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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