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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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他愛ない会話

「そいつらがどうやら無作法をしたらしい。謝罪しよう」


「必要ないって。互いに仕事だっていうのは理解している。そうするしかない立場だっていうのは十分承知していますともさ」


床に転がされた魔術師たちがうめいているのを確認しながら、副本部長は彼らが必要以上の負傷をしていないことを把握して内心安堵の息を吐く。


攻撃をされたようだが、どうやらそこまで重傷というわけではないらしい。強い衝撃を加えられたことによる脳震盪を起こしているようだった。


「それで・・・何をしにここに?部下から聞いたが、何か届け物があるとか?」


「そうそう、その話をしたかったんだ。ほい」


康太はそう言いながら自分の鎧の中から少し大きな封筒を取り出して副本部長の机の上に置く。


副本部長がわずかに警戒しながらそれに触り、その形や手触りと重さなどからそれが紙の束、何かの書類であるということを察する。


「これは?」


「ローラローが逃げ込んだと思われる場所の情報だ」


その言葉に副本部長は仮面の奥にある目を見開き、目の前にいる魔術師を凝視する。


一体何を考えているのか、いったいどういうつもりなのか、頭の中で巡り続ける疑問を一度よそに追いやり、大きく深呼吸して小さくため息をつく。


「自分が何を言っているのかわかっているのか?私は君と敵対し、君よりも早くローラロー、並びにその仲間を捕まえようとしているんだぞ?そんな相手に目標の情報を教えるとは・・・正気を失っているとしか思えないが・・・?」


「あんただって俺と敵対することをわざわざ俺に伝えただろ?隠しておいたほうが絶対に有利なのに。違うか?」


「それは・・・私なりに理由があったからだ。君の性格を考え、このほうが後々の利益になると」


「なら俺にも俺なりの理由があっただけの話だ。あんたが俺の性格を知ってることを踏まえて、こうしたほうが後々のためになると思っただけの話だろ?」


意趣返しのつもりか、自身のそれを真似た言葉に副本部長は頭を抱えてしまう。


この人物のことをいちいちまともに考えていても仕方がないということを副本部長は察していた。


何せこの人物は割と適当な思考回路をしている。その場その場で意見が変わり、状況に応じてやることが変わる。


極端に言えば昨日と今日では考えることもやることも真逆になっている可能性があるのだ。


その時の気分によって行動を変えているためにいちいち裏を読むということを考えること自体が下策なのである。


「・・・わかった・・・これは受け取っておこう・・・だが言っておくが信用はしないぞ?これがどのような情報であるにせよ、警戒はする」


「どうぞお好きなように。少なくともあんたが素直に受け取るとは思っていないって。第一俺らは敵同士だぞ?相手から渡された情報を真に受けるバカがどこにいる」


「・・・敵のところに正面から会いに来て情報を受け渡そうとするバカなら目の前にいるんだがな」


先ほどの仕返しも含めて、言葉を真似た意趣返しをすると、目の前の魔術師はそれもそうだなと快活に笑ってみせる。


とはいえ仮面があるためにその表情を見ることはできなかったが。


「まぁとりあえず好きにしてくれ。こっちはこっちで勝手に動くから。あんたもあんたで勝手に動けばいいだけの話だろ?」


「・・・そうさせてもらおう。君を封印指定にしたほうがいいという私の考えは間違っていなかったというわけだ」


「間違いだったと思わせてやるよ。ところで、あんたのところの兵力はこれで全部なのか?」


「あいにくと出払っていてね。君にばかり構っていられないんだ」


副本部長はあえて嘘を言うことはなかった。戦闘職の人間がこの場にいればまた結果は変わっていただろう。


少なくとも実力が拮抗している手駒さえいれば、このように簡単に突破されるような醜態をさらすようなことはなかったはずだ。


「そりゃ残念。俺を止めたいならもう少し強い奴を用意しておくべきだな」


「安心しろ、それなりの人物に声をかけている。君と対峙するのが楽しみだよ」


「ほほう。そりゃ楽しみだ。倒されないようにしないとな。あんたのところの戦力だと結構いい腕してそうだ」


少なくとも複数人相手でしっかりと動きをある程度止められてしまっていたのだ。あれ以上の人数が来ていたらどうなっていたかはわからない。


もっとも攻撃手段が限定されていたからこその話なのだが。


「時にブライトビー・・・アリシア・メリノスの姿が見えないが・・・君の言葉を今理解できているのは・・・君の力か?」


「さぁな」


その言葉を最後に、ブライトビーは部屋から出て行った。


この部屋に残されたのは倒されてしまった複数人の魔術師と、放り投げられた書類の入った封筒。


相変わらず面倒ごとばかり起こしてくれるなと、副本部長はわずかに怒りを覚えながらも、この片づけをせざるを得なかった。


何せ本部で戦闘を行ってしまったのだ。このもみ消しは容易ではない。


他の幹部たちからの糾弾もあるだろう。厄介な問題を残してくれたなと、机の上に置かれた書類に目を通し始めた。


「うまくいったかの?」


「そうだな、割とうまくいったと思うぞ」


副本部長の部屋から出てきた康太は、誰もいないはずの虚空に返事をする。


少し離れたところに移動したところで、康太の横から唐突にアリスの姿が現れる。


先ほどまで魔術を使って姿を消していたのだ。ずっと康太とともにいたことは誰も気づけていなかっただろう。


「突撃隣の晩御飯代わりの情報だったからな。相手からしたら無視はできないだろ」


「それを無視できたらさすがは副本部長と褒めてやるところなんだがの。そこまでの胆力はないだろう。あ奴はビーの性格を知っている。故に無視できん」


康太の性格を知っている者であれば、康太が情報操作などの行動を極端に苦手としていることくらいはすぐにわかるだろう。


だが今回は康太だけが考えたのではなく、春奈や文、アリスといった情報や状況判断に長けたものが考えたものだ。


康太はただ単にその通りに動いたに過ぎない。


「あとは行動するだけだな。アリス的には今回どれくらいで攻略できると思う?」


「やはり一般人がいるというのがネックだな。どうしても一般人の対応に追われて二手三手と行動は遅くなってしまう。向こうからすれば捨て駒兼肉の盾だな」


肉の盾という表現に康太はそういういい方もあるのかといやそうな顔をする。実際肉の盾として一般人を使われると非常に面倒くさいことになる。


何せ康太たちはなるべく一般人を殺したくはないのだ。記憶などを処理するにしてもやはり限度があるため、ある程度事前準備をしていないとただ単に一般人への隠匿作業だけで終わる可能性も高い。


「なんかこう、敵全体に眠りの状態異常を与える魔術とかないのか?あれば楽なのに」


「ゲームではないんだ、そう簡単にはいかん。そもそもそういった対策を向こうがしてこないとも限らんだろうに。マホカンタを使われると面倒だぞ?」


「そこはいてつくはどうでどうにかするよ。冗談はさておき。実際たくさんの人を眠らせる魔術ってないのか?」


「たくさんでなければ眠らせることは容易だぞ?人間が抱えている睡眠欲を刺激する・・・というかまぁ眠気をマックスにさせるだけだ。意識の混濁や喪失と違って時間はかかるが、自然な形で相手を無力化できる」


「複数人には無理か?」


「一人一人調整が必要だからの。人間の感覚というのは同じように見えて皆違う。そういったことと同じで、その人物によってどの程度のものなのか、どのようなものなのかはやってみないことには分からんのだ」


「結局調整して一人ずつか・・・それじゃ時間かかりすぎるよな」


「そう、それならまだ飲料水に毒を仕込んだほうがましだ。もっともその飲料水を提供している会社はご愁傷さまとしか言いようがないがの」


「それに関しては必要経費だ。仕方のない犠牲だ」


「いったい何人の人間が路頭に迷うのかわからんが・・・まぁいい。ビー、今回の相手はただ倒すだけか?」


「一応な」


「副本部長の手先もか?」


「たぶんな。別に副本部長の部下に関しては競争してるってだけだし、俺がいちいち倒すまでもないだろ。倒す必要がないっていうか理由がないし」


「相手にとってはそうではないということを理解しているか?相手にとってはビーは倒すべき敵になっているかもしれんのだぞ?」


「その時はその時だ。全力で攻撃されたらその時は頑張って反撃するよ」


戦う理由がなくとも、康太に攻撃を仕掛けてきたのならそれは十分に戦う理由になり得るものだ。


正当防衛に該当するかどうかは微妙なところだが、少なくとも康太自身が戦いを止めるつもりはなかった。


「なぁ、さっき渡したあの情報って正確なのか?」


「部分的に正確だ。人員の配置と構成だけはいじってある。それ以外はすべてマウ・フォウの提供してきた情報をもとに作った。なかなかの大作だぞ?」


「あの人の情報をもとにしてるなら大丈夫かな。今回の作戦かなり有利に進められるかな?」


「どうだろうな。相手だって抵抗してくる。資金源の一つにもなっていたようだし、一種の隠れ家にもなっているようだ。そういうところには面倒な連中が集まりやすい。気を抜くでないぞ?」


「わかってるって。これ以上痛い目を見るのはごめんだ」


康太からすれば徐々に戦う理由がなくなりつつあるために、今回の件が終わったら一度休みを取ろうかとも考えていた。


長くとると体の感覚が狂うために、ほんの少しの間ではあるが。


「なぁアリス、今度ベルと旅行に行こうと思ってるんだけどさ、どこがいいかな?」


「どこでもよいのではないか?お前たちがしっぽりできるところならどこでもよかろう」


「もうちょっと相談に乗ってくれてもいいんじゃないですかね?」


「なら熱海にでも行ってこい。温泉に入ってのんびりして、美味いものでも食べてくるがいい。少なくともベルなら嫌がらんぞ?初体験もそこで済ませてしまえばよかろう」


「アリスさん俺思春期なんで」


「いい加減思春期を終わらせろ。人間の感性を引きずっているとこれから辛いぞ?」


人間の感性というものがどのようなものかはわからなかったが、アリスの言葉は妙に説得力があった。

そういうもんかなと康太は考えながら本部を後にする。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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