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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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来襲

とはいえ相手は本部の魔術師。いつもの敵のようにとにかく戦闘不能にすればいいというわけでもない。

何せ相手を必要以上に傷つけてしまえば本部の魔術師の中に余計な敵を作ってしまう。


相手をある程度の負傷で押さえながら無力化しなければいけない。普段通り相手の手足を斬り落とすなどの手段はあまり使えないのである。


「待て、待ってくれブライトビー!あいつらに手を出さないでくれ!」


「手を出されておきながら反撃はするなと?随分と本部の魔術師は平和ボケしてるんだ・・・な!」


康太は噴出の魔術を発動し、もう一人攻撃してきた魔術師めがけて襲い掛かる。


相手はとっさに射撃系魔術を放ち康太を近づけさせまいと牽制するも、威力もそこまでないような魔術ではほとんど意味をなさなかった。


ここが本部ということもあって相手も強い魔術を使えないのだろう。それならば回避能力と突破力のある康太に分があるのはうなずける話だった。


そして攻撃によって止めるのが不可能だと判断したのか、魔術師は障壁を作り出して康太を包み込み、動きを制限しようとしてくる。


身を守るための障壁を攻撃のために利用する。なんとも嫌な使い方だなと思いながらも、康太は噴出の魔術によって加速させた双剣笹船を障壁に突き立て、軽々と破壊する。


「そこまでにしてくれ!頼む!」


障壁でも止められないということが分かったからか、康太の体が不意に宙に浮く。


先ほどから説得を試みている魔術師が発動したもののようだった。


康太の体を包むように念動力の魔術が発動されているということを即座に判断した康太は噴出の魔術の出力を最大限まで高め、同時に再現の魔術を発動し空中に疑似的な足場を作り出す。そして肉体強化の魔術を施し空中を跳躍して念動力の力から半ば強引に逃れると再び魔術師めがけて襲い掛かる。


障壁も無意味、念動力の拘束も突破されたということもあって、さすがにこれ以上は看過できないと感じたのか、康太を止めようと魔術師たちが一斉に康太を止めるために魔術を放った。


炎による射撃が康太めがけて襲い掛かると同時に、康太の体に強い圧力がかかる。重力による拘束であると康太が判断すると同時に康太の足元の地面が凍り付いていることに気付く。


その足ごと凍らせて動きを封じ込めようとしているのだとわかると、康太は噴出の魔術によって自らの足から炎を噴出させながら自分の体を中心にして旋風の魔術を放つ。


康太の足から放たれる炎を旋風の魔術が巻き込んでいき、康太の周囲の地面の氷を一気に融かしていった。


そして康太に襲い掛かる炎の射撃魔術も旋風の魔術によって巻き込まれ、康太に届くことはなかった。


攻撃を防ぐことはできたが未だに康太の体には強い重力がかかり続けている。拘束魔術としてはかなり使えるなと、的外れなことを考えながらも康太は自分に重力の魔術をかけている魔術師を確認すると一気に加速して襲い掛かる。


高い重力によって動きが鈍っているはずだが、康太の動きを相手は捉え切れていなかった。


他の魔術師も何とか康太の動きを止めようと試行錯誤するが、それらをすべて康太は回避していってしまう。


重力を発生させている魔術師めがけて襲い掛かる中、康太めがけて氷の刃が襲い掛かる。


双剣笹船によってそれらを弾いていくが、その隙に康太の体にかかっている多大な重力が一瞬にして方向を変え、横方向へと変化した。


壁に向かって落下していくという奇妙な状況に、康太は一瞬戸惑いながらも普段空中で移動し続けている康太にとってはそこまでの効果はなかった。


これが普通の人間であったなら、混乱して数瞬反応を遅らせることができたのだろうが、康太にそのようなものはない。


康太が壁に着地すると同時に、レンガ造りの壁が一斉にその形を変えていき康太の体を拘束しようと掴みかかる。


土属性の魔術であると判断しながら、康太は双剣笹船を操りながら拡大動作の魔術を発動し壁を切り刻んでいく。


あまり壊すと支部長に後で文句が行くだろうなと思いながら、切り刻まれた壁だったものを掴むと、噴出の魔術を利用しながら魔術師たちめがけて投擲する。


通常の投擲ではありえないほどの速度に達した瓦礫に、魔術師たちは怯みながらも的確に防御し、再び反撃の態勢を整えようとする。


そんな魔術師の一人めがけて、康太は勢いよく蹴りかかる。全身を加速させ、体ごとぶつかるようなドロップキックを体に受け、魔術師は大きく弾き飛ばされるも即座に態勢を整えて見せた。


そしてそれ以上攻撃は許さないというかのように、再び康太の体を重力がとらえる。今度は天井方面めがけて落下する康太の体。そして重力によってうまく空中機動ができない康太めがけて氷の塊が襲い掛かる。


康太は即座に噴出の魔術を発動し、氷の塊を押し返しながら一気に融かしていった。


康太に攻撃は届かなかったものの、康太の動きをうまく制限しながら着実に消耗させている。


三対一、しかも康太が威力が高すぎる攻撃を控えているとはいえしっかりと戦うことができている。


さすがは本部の魔術師、そして副本部長直轄の人間だなと、康太は内心舌打ちをしていた。


これだけ腕のいい魔術師がそろっていればたいていのことはできてしまうだろう。

とはいえ康太は負けるつもりはなかった。


一つ一つの手段は攻略できる攻撃でしかない。あとは少しずつ相手を削っていけばいいだけの話だ。


あまり長くこの状態を続けていたくはないなと、康太は体から黒い瘴気を噴出させていく。
















副本部長のもとにその一報が届くまで時間はかからなかった。


「ブライトビーが?」


「はい。副本部長に会いに来たと・・・副本部長に何かを届けに来たようですが」


「私に?一体何を?」


「そこまでは・・・副本部長にしか見せられないものであるということですが・・・」


「今はどうしている?」


「四人がかりで足止めをしているようですがあまり芳しくありません・・・ですがすでに増援も向かわせてあります」


副本部長のもとに届けられたブライトビーの来訪、そしてこちらが先に手をだし、ブライトビーを進ませないように食い止めているという事実に副本部長は額に手を当てて大きくため息をついてしまっていた。

ブライトビーがやってきたことはそこまで問題ではない。問題なのは先にこちらの陣営の人間が手をだし、戦闘が行われているという点である。


ブライトビーがどのような人物であるかはある程度でしか把握できていなかったが、副本部長の印象からしてやられて黙っているような性格ではない。


間違いなく殲滅されるだろう。問題はどの程度の負傷で済むかという話である。


ブライトビーと会いたくなかったのはいくつか理由があるが、せっかく敵対宣言をしたというのに頻繁に会っていては裏で通じている、ないしあの敵対宣言がただの演技であるととられる可能性があったためである。


ブライトビーと副本部長が敵対行動をとることによって協会内でもいくつか動きがあった。それを逆手にとってうまく情報収集をしようと思っていたのだ。


だがここにきてブライトビーの来襲。戦闘が行われることで副本部長との敵対関係をアピールできるのは良いのだが、あまりにも負傷者が多くなりすぎるとそれはそれで問題になる。


今残っているのは副本部長の手駒の中でも比較的何でもできるタイプの魔術師たちばかりだ。


雑務を押し付けているというと聞こえが悪いが、戦闘も情報収集も隠匿作業も索敵もある程度何でもこなすことができるために重宝している魔術師たちばかりである。


特化した実力がない代わりに、どんなことでもある程度の結果を残せることから汎用性が高い魔術師といえるだろう。


問題はその魔術師たちがブライトビーに太刀打ちできるかという話である。


「四人がかりで旗色は悪く、今は?」


「まだ情報が上がってきていないために不明ですが、増援を送れば制圧することはできなくとも追い返すことくらいはできるのではないかと」


「・・・だといいがな・・・」


「副本部長、あえて通してしまってもよいのではないでしょうか?」


「それも考えた・・・あれがいったい私に何を届けようとしているのかは知らないが・・・ろくなものではないだろう・・・さすがに爆弾の類ではないと思いたいが」


副本部長も必死に考えているのだが、ブライトビーがいったい何を持ってこようとしているのか見当もつかないというのが正直なところだった。


副本部長にしか見せられないという内容から、機密性が高いのか、あるいは単純に副本部長に会う口実として使っているのかがよくわからない。


副本部長もブライトビーとの付き合いがそこまで長いわけではないが、それでも爆弾を届けるようなことをするような人間ではないことくらいは理解している。


そして身内の弱みを握るようなタイプではないのもわかっている。持ってくるとしても一体何なのか本当にわからないというのが正直なところだった。


「余計な負傷者を出すよりは・・・いっそのこと通してしまったほうが安全か・・・戦力をここに集中すればこの場から追い出すくらいのことはできるだろう・・・」


副本部長もブライトビーの戦力を正確には把握できていないが、少なくとも自分の手持ちの戦力をこの場に集中させれば、いかに戦闘能力の高いブライトビーが相手でも倒す事はできなくとも追い出すことくらいはできると判断していた。


戦力を分散させ、小出しにして相手の実力を測るような段階ではない。すでに相手の実力はわかっている、そして相手の目的もある程度把握できているのだから、ここは戦力を一点集中して対処するべきだと判断していた。


「よし、仕方がない。今出ている連中を呼びもどせ。可能な限り負傷者を治療して戦力として再利用したい」


「わかりました。ブライトビーに案内役をつけますか?」


「その必要はないだろう。あれはこの部屋を知っている。何も言わずとも私のもとにたどり着く。問題はもってきたものに対してだな・・・防御が得意な者も何人か呼んでおく必要がありそうだな・・・万が一があった時が怖い」


副本部長がそんなことを考えていると、扉が三回ノックされる。


いったい誰だと疑問符を飛ばしていると、返事を聞くよりも早くその扉が開く。


「どうも失礼しますよっと」


そこから現れたのはブライトビーその人だった。先ほどまで足止めをしていて、しかも増援も差し向けたという報告を聞いたばかりだというのに、もうこの場所にたどり着いたのかと副本部長は目を丸くしている。


鎧姿のブライトビーからは触手のようなものが数本伸びており、その触手に巻き付けられ拘束されている魔術師が数人いた。


「いやぁまいったまいった・・・こいつらに絡まれましてね・・・部下の教育はしっかりしておいたほうがいいですよ?」


そう言いながらブライトビーは気絶している魔術師たちを乱暴に部屋に転がす。


もはや手遅れかと、副本部長はブライトビーがやってきてしまった事実にもはやあきらめの境地に達していた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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