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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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あの頃を思い出し

「よかったんですか師匠、支部長にあんな無茶言って」


「いいんだ。あいつにはあのくらいでちょうどいい。いちいち気にするだけ時間の無駄だ」


春奈と小百合はどうにも支部長へのあたりが強いなと文は首をかしげる。昔から一緒に行動していた二人が同じように支部長を扱っていることから、ある程度互いを知っている仲だというのは理解しているが、それにしても扱いが雑な気がしなくもない。


「でも春奈さんたちって支部長に対してなんか恨みでもあるんですか?妙に辛辣なことが多いですけど」


「聞きたいか。あいつがやらかしたことは案外多いぞ。そのたびに私とあのバカが尻拭いをさせられた・・・今でこそ少しはまともになったが、あれは基本的に面倒ごとを作り出すタイプの人間だ」


面倒ごとを引き寄せる康太と違い、支部長は面倒ごとを作り出すのだという。


そう言われれば思い当たる節はあるなと康太は遠い目をしてしまう。何せ小百合の弟子に正式に決定されてしまったのは支部長が原因なのだから。


「支部長という立場を使えばもっと賢く、そしてもっと堅実に立ち回ることもできるというのに、あいつはそれをしない。わかっていてやっているのか、わかっていないのか、どちらにせよ性質が悪い」


「でも支部長っていろいろと面倒ごとを押し付けられてるじゃないですか。特に俺の師匠から」


「あれはあのバカが押し付けているんじゃない。あいつが押し付けた結果、あのバカがやりすぎるだけだ。長い付き合いなんだからどうなるかくらい予想がつくものを・・・いつまで経っても学習しない奴だ」


春奈の言葉の節々に感じられる棘に、康太と文は苦笑してしまう。確かに長い付き合いであるらしいが、そのあたりをまだわかっていないのか、いやわかっていて仕方がなくやっているのか。


どちらにせよ春奈の言うように性質が悪い。


「でも面倒ごとを作り出すって、具体的には?昔は結構やんちゃしてたみたいなこと言ってましたけど」


それは倉敷が禁術を教えてもらった時の話だ。昔は支部長もいろいろとやんちゃをしていたらしいことは本人の口からきいている。


具体的な内容は知らないが、少なくとも禁術を一つ作り出す程度には精力的に魔術師としての活動にいそしんでいたらしい。


「あいつは悪い意味で後先を考えるやつだったな。物事の結果を想像して理解して、どれだけの被害が出るかを理解したうえでそれが現実になるかを実験するとか、そういうタイプだ」


後先を考えないならまだわかるのだが、後先を考えるという意味が悪い意味でつかわれるというのは康太と文にとっては少し意外だった。


昔からある程度考えるタイプの人間だったのだろうが、問題は考えてそして予想できたことをそのままやってみるという、好奇心に満ち溢れた魔術師であったらしい。


今の姿からは想像もできないが。


「今もその悪癖は残っているぞ。あのバカに頼めばどうなるか結果を理解して、後始末の準備を万端にしておきながら依頼を出すんだからな。わかっていてやっているとしか思えん行動だ」


「あー・・・確かにそういわれればそんな節があるかもしれません」


支部長は確かに小百合の後始末などをやり続けてきた。それは経験上の話もあるのだろうが、少なくとも小百合に頼まなければそのような結果にはならなかっただろう。


先ほど春奈が言ったように、もっと賢く立ち回ることだってできたはずなのだ。


以前文たちが言及したことがあるが、康太たちだけが魔術師として戦闘能力が高いという状況は支部としてはあまり良いとは言えない。


支部長という立場を利用して何らかの対策を講ずる、例えば技術的な指導をするなど考えることはできたはずなのだ。


あれだけの思考能力を持つ人間がその程度の事を思いつかないとは考えにくい。


となれば結論は一つ。わかっていてもそれを実行していないのだ。そこにどんな意味があるのかは不明ではあるが。


「だからいいんだ。たぶん私があの場であいつに圧力をかけることも、あいつは織り込み済みだろう。わかっていてやられているんだから、いいご身分だ」


「決していい身分とはいいがたいですけど・・・支部長はあれなんですかね?特殊な性癖の持ち主なんですかね?」


「そこは知らん。そういえばあいつの色恋沙汰などは聞いたことがないな・・・学生時代からあいつが誰かのことを好きだとか、あいつが好かれただとかいう話は聞いたことがない」


少なくとも学生時代からの付き合いなのだなと思いながらも支部長の学生時代を想像する。


今でこそ度重なる苦労のせいで皺と白髪が目立つが、若くしたらそれこそ好青年だったに違いない。

問題は先ほど春奈が挙げたような悪癖だが、それもわからなければただの特徴のようなものだ。


思慮深いという意味ではむしろプラスといえるだろう。


「うちの師匠はアマネさんに付きまとわれてますけど・・・春奈さんはそういうのないんですか?」


「一応注意しておくが、年上の女性にそういったデリケートな部分を聞くのは感心しないぞ?しかも私の嫌いな奴を引き合いに出すのは減点だ」


「あ、すいません」


「・・・あいにく私は誰かを好きになったことは・・・あるにはあるが、残念ながらその人は私には目もくれなくてな。まぁ相手にされるような年齢でもなかったからな」


春奈は目を細めて小さくため息をつく。


いったい誰のことを思い出しているのか、康太も文も理解できなかった。


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