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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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マスコット

「あれれー?とか言えばいいのか?眠る役は誰がやるのだ?」


「そういう冗談は後にして。まじめに考えるとどうするのよ」


「でも実際アリスの外見で探偵事務所にいるとか怪しい匂いしかしないよな・・・変な店か・・・探偵にあこがれる少女か・・・探偵に無賃でこき使われる哀れな少女か」


アリスほどの外見の少女が探偵事務所にいるなどというのは正直普通の状況ではない。それにもかかわらずアリスがずっとその探偵事務所にいるとなれば嫌な噂の一つや二つ経っても不思議ではなかった。


気付いたらマウ・フォウが外人のロリを事務所に連れ込んだなどという噂ができている可能性もある。それはあまりにも不憫だ。


「なんだか労働基準監督署が騒ぎそうな状況ね。でも本当にどうするのよ?お客さんが来るたびに毎回姿変えてるつもり?」


「さすがにそれは面倒くさいな・・・それに別の噂が立ちそうだ」


「聞きました奥さん?あそこの探偵さん、行くたびに違う女性を事務所に寝泊まりさせているんですって」


「いやぁねぇ・・・そこまで若いようには見えなかったけど・・・って何やらすのよ。でも実際そんな感じになっちゃうかもしれないわよね・・・アリス、あんたどうするのよ」


「どうするのと言われてもな・・・いや待て、そもそも私の探偵事務所ということにすればいいのではないか?私がオーナー、お前たちが部下って感じで」


アリスの提案に康太と文は「えー・・・」と不満そうな声を漏らす。確かにアリスがオーナーでもそれはそれで通りそうなものだが、実際問題面倒くさいことになるのは間違いないだろう。


「アリス、お前今日本で活動できるだけの書類とか用意してあるのか?」


「もちろんだ。というか前にも言わなかったか?書類上私は英系日本人ということになっているぞ」


「そのあたりは無駄に完璧なのよね・・・どういう感じの人間になってるの?」


「両親が日本で生まれ、そのまま同じような経緯の人物同士と出会い結婚。血筋は完璧に英国人だが日本語しか喋れないという設定だ。偽装した書類ではあるがすでに大学も卒業していることになっているぞ」


「マジかよ、こんななりして俺らより高学歴なのか」


「そもそもこんななりして私たちよりずっと年上だしね。今更よ」


いつの間にそんな書類をそろえたのかと気になるのだが、そのあたりはアリスは何百年も生きているのだ。



多少そういったコネがあったとしても不思議はないし、何よりその程度のことができても不思議はないと思えてしまう。


技術と知識の集大成のような存在なのだ。どんな不思議を行っていてもおかしくないのがアリスである。


「でもさすがにオーナーはやりすぎだろ?無駄に目立つし、お前が今後ずっと生きていくうえで必ず面倒にぶち当たるぞ。本部が黙ってるとは思えん」


「今更だな。なら名義を変えて私の偽名にするだけの話だ」


「偽名ねえ・・・例えばどんな?」



「そうだの・・・アリーシャ・メリでどうだ?それらしいだろう?」


「本名がアリシアだからまぁ変ではないけどね。っていうか今更だけどあんたのアリシア・メリノスって本名なの?」


「本当に今更だの・・・一応本名だぞ。たまにスペルを忘れそうになるがな」


「スペルって英語の綴り?自分の名前なんだから忘れるなよ」


「いやいや、言語がいったいどれだけ変化してきたと思っているのだ。私が生まれた頃の英語と今の英語では全く違うのだぞ?お前たちだって昔の日本語を読むことは難しいだろうが」


そう言われると確かにと康太と文はうなずく。古語という言葉ができる程度には言語は大きく変化している。


アリスのように何百年も生きている人間からすれば、人の変化と言語の変化、技術の変化などは目まぐるしく感じるのだろう。


それがよいか悪いかはさておいて。


「というか話がそれてるわよ。アリスをどうするかって話だったでしょ?」


「ふむ・・・それならば、これはどうだ?」


そう言ってアリスは一瞬輝くとその姿を変える。


そこにいたのは四足歩行する大型犬だった。


魔術によって姿を変えることの応用。まさか動物にもなれるとは思っていなかったと康太たちは素直に驚いていた。


「すごいな、そんなこともできるのかよ」


「ふふん、これでマスコットキャラの座は私のものだ」


「すごいわね、毛まで本物みたい・・・どうやってるのこれ?」


「普通に障壁を極小サイズにまで変化させて柔らかくしているだけの話だ。慣れれば面白いぞ?慣れるまで大変だがな」


犬の姿なのに流暢にしゃべるその光景は強い違和感を与えるが、それ以上にアリスの変装はクオリティが高かった。


近くで見ている神加も驚いているようである。そのそばにいる真理も同様だった。


「すごいね!アリスワンちゃんにもなれるんだ!」


「ふふん、ミカよ、お前も努力すればこの程度はできるようになるぞ?」


「本当に!?」


「こら、神加を人ならざる道に引きずり込むのはやめろ」


「私が人外のような言い草ではないか。失礼な奴だ」


康太こそが人ならざる者なのだが、それは言わぬが花だろうと文と真理はあえて口にすることはなかった。


「で、話を戻すけど・・・」


「アリスの立場の話か?俺的にはマスコット案も悪くないと思うぞ?こいつ普段ほとんどだらだらしてるだけだし、割とばれないんじゃないかな」


「もっと戻して。攻略作戦の話よ」


あぁそっちの話ねと康太はアリスの話から真面目な話に戻ることにする。もちろんアリスの話も真面目な話だったのだが、こちらの方が重要度は高い。


「今回求められてるのはローラローとその仲間の捕縛。殺しちゃダメって言われてるからそのあたりは注意ね」


「わかってるって。俺まだ一度も人殺したことないから大丈夫だろ」


「ものすごく発言が物騒だけどまぁいいわ。攻略作戦を実行するうえで重要なことがいくつかあるのよ。音をあまり出すのも厳禁。夜にやるってことと、場所が海外ってこともあってやばくなったら相手は銃を使ってくるかもしれないわ。あんたに銃はあんまり効かないでしょうけど、使わせないように気を付けて」


「おうよ、バラバラにしてやるぜ」


分解の魔術を覚えている康太にとって拳銃などをバラバラにすることくらいは造作もない。パーツごとがよほど強固に接着されていない限りは消費魔力も少なく済む。その程度では康太の行動を阻むことはできない。


「でも音が出せないってなると、本格的に建物への攻撃はできないな・・・前も話してたけど、やっぱり建物は壊しちゃダメか」


「ダメね。一般人への説明とかそういうのが面倒くさくなるから。それと、今日私とアリスがここに来た本命の理由よ」


本命。つまり先ほどまでの話が本命ではなかったということだ。攻略作戦についての話をしに来たというのは嘘ではないと思うが、いったい何があるのだろうかと康太は目を細めた。


「副本部長が部隊を動かし始めたらしいわ。とはいえまだ調査段階らしいけど。行動先はおもにヨーロッパ付近、途中まで足取りは追えていたから、そのあたりの調査をしてるみたいね」


「そっか。副本部長もそれなりに本気ってことか・・・情報元は支部長?」


「そうよ。支部長曰く結構強いらしいわ。どのくらいの強さなのかは明言してくれなかったけどね」


他の部署の部隊の強さを正確に把握しているというのはなかなかない話だ。さすがの支部長もそこまでは把握していないらしい。


「それで、かち合うかもって話か?」


「そうね。向こうが私たちの動向に気を付けているのは間違いないわ。師匠もそのあたりを警戒して少し回りくどい方法をとってるみたい。実際行動するときは注意して」


「さすがに副本部長の私兵を敵に回すのはなぁ・・・面倒くさい。三つ巴になるかもしれないんだろ?厄介だな」


今まで敵対勢力との複数戦をしたことはあるが、別戦力との合同戦はしたことがない。


敵の敵は味方と言えなくもないが、今回は互いに競争しているような状態だ。互いの邪魔をするような状況になる可能性は高い。


「本部のやつ相手じゃ本気でやるわけにもいかないしね。少なくとも相手の手足を斬り落とすようなことはしないでよ?」


「わかってるって。手加減して無力化もして・・・面倒くさいな・・・姉さん、そういう場合はどういう風に立ち回ればいいんですかね?」


康太は今まで多対一で戦ったことはある。多対多の状態で戦ったこともある。だがその勢力が二つ以上の状況は戦ったことがない。


両方が敵であるならば何も気にすることなく殲滅できるのだが、あいにくと片方は一応味方だ。


完全に敵に回すということができない以上、立ち回りは変えていかなければいけない。


「そうですね。基本的には直接戦闘するようなことは避けたほうがいいでしょう。接触することも避けたいところですね。情報などを操作して相手がまず戦場に近づけないようにするというのも大事でしょう」


「なるほど、戦いそのものを起こさせないように事前準備をすると・・・」


戦いに発展しそうであれば、発展しないように準備をする。それが情報操作なのか、あるいは相手への妨害なのかは人によって手段が異なるだろうが、作戦前までにどれだけ準備をできるかが状況をコントロールするうえで重要な点といえるだろう。


「準備は大事ですよ。どのような場合でも、戦う前までにした準備で勝負が決まるといってもいいです。それでもどうしても相手が自分と同じ敵を取り合った場合、取れる手段は大まか三通り。一つは共闘、一つは戦闘、一つは相手を利用することです」


「共闘は難しそうですね。戦闘もあんまりしたくない・・・とすると、相手を利用するですか」


「はい。今回の場合で言えば戦う相手は同じ。ただし互いに一般人へあまりばれたくないと来ている隠密戦。ならば敵の意識を今回の副本部長の部隊の方に誘導すればどうなるでしょうか?」


「敵は副本部長の部隊にだけ気付いて戦闘を始めてくれる?」


「そう、その隙に康太君たちは目標であるローラローを確保、そして脱出。あくまで理想的な動きではありますが、これができれば状況を有利に進められるでしょう。幸い今回の建物などの情報はすべてあるのでしょう?」


「はい、そのあたりは確保しています」


「副本部長の部隊がまだローラローの居場所を把握していないというのであれば、情報戦で先手を打っているこちらが有利です。あとはどれだけ状況を整えられるかにかかっていますね」


伊達に小百合という師匠を持ちながら悪名を与えられていないだけはある。戦うだけではなく戦う前において優位をとることを考える真理の思考に康太は目から鱗が落ちる想いだった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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