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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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欲しい人材

「なるほどね・・・師匠に言われた隠密をやろうとしてたわけだ」


「そうなんだよ。姉さんに手伝ってもらってさ。すごいんだぜ、姉さん目が全く見えてないのにばっちり当ててくるんだよ」


「そうね、たぶんすごいんでしょうね。でもその前に服着てくれないかしら?神加ちゃんも、風邪ひくわよ?」


康太と神加が下着姿なのを見かねて文はため息をつきながら二人に服を着せていく。


服を着たところで文はようやく真理がどのようなことをやっているのかを理解していた。


「なるほど、服を着てるとその分うるさくなるから脱いでたってことね?」


「そういうこと。ほとんど変わらないかもしれないけどやっぱ変わるぜ。多少はましになったと思う」


「外見的には最悪な絵面だったけどね。ほぼ全裸でカバディしてるみたいになってたわよ?」


確かに少々よろしくない構図だったのは否めないが、本気のためにはある程度変な格好をしていても許容してくれないだろうかと思ってしまう。


特に康太の場合は場合によっては鎧だって着こむのだ。その程度のことを気にしていては魔術師などやっていられない。


人としては割と失格の部類になるかもしれないが。


「とはいえ、音を消そうというのはなかなか面白い試みだぞ?いちいち魔術で消すのも面倒くさいからな」


「消せるのか?」


「そこまで難しくはない。音を消す方法としては二通り。一つは音の発生源を中心に、どこかしらに真空の層を作ること。あるいは発生源の音の振動と全く逆の振動をぶつけることで相殺することだな。どちらかというと前者の方が簡単だ」


音というのは基本的に空気の振動だ。そのため振動する空気がなかったり、振動そのものを打ち消してしまえば音自体を聞こえないようにすることはできる。


「俺の場合なら風の魔術使えるし、真空を作ることかな」


「だが真空の膜を作るというのはなかなか難しいぞ?私もできるようになるまで半年近くかかった。しかもそれを動いている状態で行うとなればなおの事難しい」


「アリスで半年か・・・俺だと何年かかるやらだな・・・」


真空を作るというのは言葉にするとそこまで難しくないように感じられるかもしれないが、実際のところは非常に難しい。


物理的に壁などを作ってそこに真空を作るならともかく、なんでもない空間にただ真空を作るというのは通常の物理学では行えない。


密度などは基本的に高いところから低いところへ物体や物質が流れるものだ。風も気圧が高い方から低い方へと流れ込む。空気も同じ理屈だ。


仮に真空を作り出した場合、周囲の空気がその場所に流れ込もうとする。そのため魔術で常に力をかけ続けなければ真空は出来上がらない。


しかもそれを膜状にするとなるとかける力はかなり精密で、なおかつ均一なものでなければならないのだ。


「じゃあ音の相殺は?逆の振動を与えればいいんだろ?」


「そのほうが難易度は高いぞ?発生する音それぞれに逆の振動をぶつけなければならないのだ。しかも音を消すようにするとなると、振動のコントロールも高いレベルで行わなければならないだろう。何せ音は普通全周囲に放たれるものだからな」


全周囲に放たれるものを聞こえないようにするということは、逆に包み込むような形で振動を発生させなければならない。


それがただの球体や、均一の物体ならともかく人体が出す音をすべて消すというのは多大な手間を要する。


少なくとも真空の膜を作るよりは難易度は高いらしい。


「そんな面倒なことをするくらいなら自分の技術で音を消したほうがいいと考えるのは自然な考えだ。真理の提案は何も間違っていないと思うぞ?」


「っていっても、生きてて動いている以上音を全部消すことはできないだろ?」


「確かにできん。だが考えてもみろ、野生動物などは自然とそれを行っている。狩りをする生き物などはその典型だな。ありとあらゆる意味で動物というのは人間とは違う生き方をしている。それに適した動きや技術を身に着けている。まずは動物に倣うというのが一番良い方法だと私は思うぞ?」


動物に倣う。


簡単に言ってくれるが、確かにその通りかもしれないと康太は考える。普通の生き物、動物たちはそれぞれが生きるために何百年何千年と掛けて進化し続けてきた。環境に適応する中で、各種族で得ているそれぞれの技術がある。


蜘蛛が幾何学模様の巣を作り出すように、音もなく忍び寄り一気に襲い掛かるように、周囲の風景に擬態して姿を隠すように。


人間にはできないような行動を動物たちはとることができる。人間が真似をするとすればその動物の動きだ。


知恵と道具を使うことだけが人間の特性ではない。動物の行動だって真似しようと思えば真似できる。

例えば泳ぎなどがそれに該当するだろう。泳ぎ方の一つは魚やイルカなどの動きを取り入れているものもある。


動きの中で音を消すとなれば、それ相応の動きや仕草があるはずなのだ。


「なるほど・・・俺が真似をするとしたら・・・空飛んだりするから猛禽類とかその辺りか?」


「音もなくといえばフクロウなどが該当するかもしれんの」


「フクロウか・・・ホーホー鳴いてるイメージしかないけど・・・」


「まぁそのあたりは調べていくとよいと思いますよ。なにもすぐにそれをできるようになれとは言いません。少しずつ慣れていきましょう」


康太はまだ隠密の訓練を始めたばかりだ。すぐにできるようになるとは康太自身も思っていない。

まずは訓練を重ねること、これが第一歩なのだ。


「そういえば文、どうしてここに?なんか用事か?」


「そりゃ用事はあるわよ。例の襲撃の件、ある程度計画の流れが決まったから教えに来たのよ」


文は春奈たちと一緒に作戦の詳細を詰めていた。はっきり言って康太はそういったことに向いていないのに加え、戦闘能力を少しでも高めたほうがより作戦に貢献できるために訓練を優先したのである。


細かい話し合いや技術の話は完全に文に任せてしまっているあたり、康太の魔術師としての経験の浅さがうかがえる始末である。


「ほうほう、どういう流れになったんだ?」


「今回使う毒は予定通りサルモネラ菌。作戦決行は定期的な水の配送が来る三日後、配送の車の車種やら詳細やらはもう調べがついてるから、その車に乗る水に細工をするの。そして水が届いた段階でもう一つ手を打つことにしたわ」


「どうするんだ?もともと保管してた水を全部だめにするのか?」


「正しくないけど間違ってもいないわね。正確には相手にたくさん水を使ってもらうようにするのよ。一般人に対して魔術を使うわ」


一般人に対して魔術を使う。それがどのような意味を持っているのかくらい康太にだってわかる。


今回はその中に魔術師もいるのだ。ばれてしまうのではないかと少しだけ心配もしたが、文はあまり心配していないようだった。


「どうやって一般人に魔術を使うんだよ。そもそもその建物に入ることだって魔力を抜いてないと難しいだろ?」


「一般人が件の宗教団体の建物に住んでるわけないでしょ。そこに通っているところを狙うのよ」


まるで通り魔のような発言だなと思いながらも、実に理にかなった発言に康太はなるほどと納得してしまう。


宗教団体で一日二日過ごすことがあっても、何週間もその場にとどまっていられるわけではない。

生活もあるし、何よりもその場所にい続けることが物理的に不可能なことだってあるのだ。


通っている一般人、そしてその当日に泊まる予定の一般人の目処もある程度ついているのだという。


そのため、実際に毒を仕込むまでの間に春奈と倉敷で一般人に対して細工を行っていくらしい。


「倉敷も行くのか」


「えぇ、水の扱いならあいつの方がいいしね。師匠のフォローもうまくできるはずよ。あいつなら何とかなるわ。土御門の双子が予知してフォローをしてくれる予定」


春奈のもとで指導を受けた倉敷はもはや一端以上の実力を身に着け、完璧に春奈の助手に近い立場を確立している。


春奈の人心掌握術はさすがというほかないが、春奈の指導によってそこまでの実力を身に着けた倉敷もまたさすがというべきだろうか。


さらに土御門の双子の予知によって成功確率、遭遇確率を上げる。確かに事前準備としてはかなり贅沢な布陣だ。


「んじゃ俺たちは三日後か。最寄りまでは門を使うのか?」


「門を使うけど、一番近い場所に飛んだら警戒されるってことだから、二つくらい遠くの場所に行くわ」


「へぇ・・・それ誰の案だ?」


「マウ・フォウさんよ。さすがそのあたりは心得てるわね。人の動きとかそういうところまで気を付けてくれてるわ。ルートも全部用意してくれてる」


「あの人マジですごいよな。うちの部隊に本当に欲しい人材だよ」


マウ・フォウが康太の部隊に入ることになれば、部隊の調査能力は一気に上昇することになる。


「あ、しまった。マウ・フォウさんにいろいろと提案するの忘れてた・・・」


「提案?何の?」


「いやさ、前に思いついたって言ってただろ?部隊の拠点とかの話で。実はさ、マウ・フォウさんの探偵事務所を作ってそこを拠点にすればいいんじゃないかと思ったんだよ」


「探偵事務所・・・あぁ、そういえばあの人表の職業は探偵だったっけ?」


「そうそう、どういうところなのかは知らないけど、興信所と似たようなもんだろ?それならドカンとでかい建物作ってさ、部隊の人間はあの人の部下ってことで何人か働かせて、ついでに依頼やら受ければ一石二鳥かと思ったんだよ」


表の仕事でも魔術が活用できることは多々ある。そして裏の、魔術師としての活動でも表の人脈が生きることは多々ある。


その両方を活かしつつ、なおかつ魔術師としての活動拠点にもし、周囲に何か建物や町があっても不審がられることがない。そういった建物となり得るのが康太の案だった。


「支部長辺りが話をしてくれてるといいけど・・・でもこういうのはちゃんと本人に面と向かって言いたいからなぁ・・・」


「気持ちはわかるけど今は忙しいからやめなさい。でも随分と変な考えをしたものね。探偵事務所ってことは一般人からも依頼を受けるんでしょ?」


「ん、調査系の技術をあの人にいろいろと教えてほしかったっていうのもあるし、何よりただ戦ってるだけだといつか躓くと思ってさ・・・うちの師匠みたいに徹底的に強いんだったらまだ何とかなるかもしれないけど」


「それは比較対象がおかしいわよ。ちなみにその場所でアリスとかはどういう立ち位置になるわけ?建物の中にいても不思議はない感じにするのよね?」


部隊の中では門外顧問の役職を得たいというアリス。確かに表の方でも何か役職があったほうがいいのではないかと思える。不自然に思われないためには必要なことだろう。


「変な薬を飲んで体が縮んでしまった高校生とか?」


一体どこの名探偵だろうかと思えてしまうが、子供が探偵事務所にいても不思議がないというとその事務所の子供くらいしか役職がないのも事実である。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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