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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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見えないけど見える訳

「殺気を消すのはまず考え方を変えてからですね。訓練の時にあんまり殺気が出ていないように、あくまで練習、ないし相手は人形などと考えていれば、自然と殺気も出てこなくなりますよ」


「そんなに簡単に行きますかね・・・?」


確かに訓練の時にはあまり殺気を出しているという印象はない。特に組手など、相手の命を奪うことがまずないような場ではほとんど殺気など出さないし感じない。


普段の戦闘においてもそれを当たり前のようにすれば問題ないのかもしれないなと康太は考えながらも、実際それは難しいことは理解していた。


「あとは何度も何度も意識して、何回も試行錯誤する以外にはありませんね。一朝一夕でできるようなものではありませんが、その分恩恵は大きいでしょう」


「やっぱ訓練あるのみなんですね・・・」


「あとは・・・普通に動く時でも音を極力出さないように気を付けてみましょうか。歩く、動く、走る、跳ぶ、そういった一つ一つの動作で音が出ていることは結構あります。康太君の場合は師匠と同じで音を隠そうとしていませんからね」


小百合は音を全く隠そうとしない。隠せないのではなく隠そうとしない。


小百合の足音は康太もすでに記憶してしまっている。いつぞやのことを思い出すため康太はあまり意識したくはなかったが、小百合は意図的に音を消さずに行動している。


あえて囮となるつもりなのか、あるいは単純に隠すのが面倒だからか。


どちらにせよあまり参考にはならない。


「やっぱ音って大事ですか」


「大事ですね。人間の知覚情報の六割近くが視覚、残りの二~三割程度が聴覚、それ以外の味覚や触覚、嗅覚はすべて合わせても一~二割程度の処理しか使われていません。音というのは人間にとってかなり重要な知覚情報なんですよ」


康太は聴覚強化をあまり使わないためにそういった印象は薄かったが、人間が意識して感覚を使用し情報を集めた時、一番参考になるのは視覚、その次が聴覚、さらに次が嗅覚となっている。


特に聴覚に関しては物理的な物事も音に直接反映されるために情報としての精度が高い。

視覚の次に優秀かつ的確な判断ができるのが聴覚なのである。


「相手の位置、動き、形・・・たぶんですが、康太君は無意識ではありますがその音の聞き分けなどはすでにできていると思いますよ?」


「そうですか?そんな感じはしませんけど・・・」


今までいろいろな訓練をしてきたが、音の聞き分けの訓練に関してはやってきた記憶はない。


そこまで重要だとも思っていなかったというのもあるし、そもそも音を聞いたところでそういったことが判断できるとも思えなかったのだ。


そんなことを考えていたからか、真理は康太の頭にタオルを巻きつけてその目をふさぐ。


「行きますよ?」


瞬間、康太は即座に体を反らして後方へと回避行動をとる。そして先ほどまで康太の顔があったところに真理の蹴りが勢い良く通り過ぎ、康太の前髪を蹴りの風圧が揺らす。


「び、びっくりするじゃないですか!」


「すいません。でも康太君は今目が見えていなかったにもかかわらず攻撃をかなり正確に回避しましたよね?なぜですか?」


「え?そりゃ・・・何となくとしか・・・前に師匠と似たような訓練ならしましたし・・・」


Ⅾの慟哭が使えるようになった辺りで、康太は見えない状態でも戦えるように小百合と訓練したことがある。


そのおかげで今の蹴りを回避することはできたが、明確になぜそれができるようになったのかといわれると反応に困ってしまう。


本当に何となくでしかないのだ。そのため康太はこれが小百合の持っているそれと同じ勘なのではないかと考えていたほどである。


「いいですか康太君、康太君は今ある知識や情報をすべて感じ取って総合的に判断しているのですよ。私も最初勘違いしていましたが、目を閉じたときに何となく相手の動きがわかるというのは決して勘や第六感の類ではありません」


「そうなんですか?」


「まぁそういった特殊な能力による影響がないとは言いません。ですが肌から感じる風の動き、耳から聞こえるわずかな衣擦れの音など、そういったものを聞いて無意識のうちに頭がイメージを浮かべているのです。だからこそ相手が見えていなくても相手のことがわかるのですよ」


「なんか達人みたいですね」


「ある意味康太君もすでに達人の域に達しているとは思いますが・・・まぁそのあたりは置いておきましょう。現時点で、康太君は目に頼らない手段を知っています。あとはその逆をやればいいだけです」


「逆?」


「例えば私が目を瞑った状態で、私に気付かれないような動きをすればよいのです。音を極力出さないようにしていれば不可能ではありません」


真理の感覚を欺くとなるとかなり難易度が高いのではないかと思えてしまうが、今までだってできないと思うことをやってきたのだ。


とりあえずやるだけやってみて、できないならばできるように努力すればいいだけの話である。


「それでは実際にやってみましょうか。どうせなら神加さんも一緒にやってみましょう。今呼んできますね」


神加に音を出さない訓練ができるのだろうかと思ったが、極論で言ってしまえば全く動かなければ音も出ないのだ。


多少の予習程度にはなるだろうと康太は高をくくっていた。


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