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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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攻略はどのように

後日、康太たちは支部長のもとに集められていた。


理由はローラローの逃走先が判明したからである。


「あの人どこに逃げたんでしょうね」


「さぁ・・・でも協会の捜査網から逃げるのは相当難しいと思いますよ?少なくとも海底とか地底にでもいない限りは」


「そんなところに逃げられたら確かにどうしようもないわね」


「海底なら何とかなるんだけどな・・・地底はどうしようもない」


支部長室に向かっているのは康太、真理、文、倉敷の四人だ。アリスも誘ったのだが今回は遠慮されてしまった。


最近精力的に動いているためにアリスも疲れがたまっていたのかもしれない。


支部長室に集められた時に康太たちを待っていたのは支部長と、その横に立っているマウ・フォウだった。


「やぁブライトビー、久しぶりだね」


「マウ・フォウさん!お久しぶりです。お元気そうで」


「おかげさまでね。君の方の噂はいろいろと聞いているよ。なかなか派手に動き回っているようじゃないか」


久しぶりに会ったマウ・フォウに康太は少しだけ驚いてしまう。最近はずっと調べ物に出ていて支部にやってくることも少なかったはずだ。


そしてこの場にやってきたということがどのような意味を持っているのかも康太は何となく理解していた。


「マウ・フォウさんがこの場にいるってことは、支部長、逃亡先は・・・」


どうやら文もある程度考えが及んでいたらしい。


最近までマウ・フォウが調べていたのは海外にあるとある宗教団体だ。かつてマフィアの金の出どころなどを追っていた時にたどり着いた場所でもある。


ローラローの逃亡先がわかったという報告とマウ・フォウが一緒にいるというこの事実、無関係ととるのは難しかった。


「話が早くて助かるよ。前に金の流れの先にある宗教団体の話をしたのを覚えているね?ローラローの逃亡先はそこだ」


「よくこれだけ早く見つかりましたね」


「これに関しては運がよかったとしか言いようがないよ。マウ・フォウが調べているところに偶然転がり込んだ情報だからね」


「ってことはまだ本部は」


「このことは知らない。副本部長の子飼いの魔術師も知らないだろう。君にとっては大きくリードできたってことになる」


副本部長もまたローラローの身柄を確保しようとしているということもあって、康太は可能な限り早く彼女の身柄を押さえなければならない。


封印指定になるかどうかの瀬戸際だ。かなり重要な局面に立たされているだけに支部長も急いで情報を集めてくれたらしい。机の上にはいくつもの書類が置かれている。


それらがほとんど件の宗教団体のものであるらしかった。


「これらの資料は全部マウ・フォウが調べてくれたものだ。情報量が多すぎてまだまとまりきっていないんだけどね」


「へぇ・・・って・・・うわぁ・・・」


試しに適当な書類を手に取ってそれらを読み始めた文は何とも情けない声を出してしまう。


そこに書かれていたのは金の流れだった。事細かに何日何時にどれほどの金が使用されたのか、どれほどの金が入って来たのかが詳細に記されている。


また別の書類には信者たちの出入りの記録、会話の内容、そして信者の個人情報に至るまで事細かにまとめられていた。


長期にわたって調査していたとはいえ、ここまでの調査をしていたというのはさすがに恐ろしささえ覚えてしまう。


「すごいですね・・・支部長、これちょっとやそっとの調査量じゃないですよ?」


「そうなんだよね・・・出来高払いで考えると恐ろしい金額を支払わなきゃいけなくなるよ・・・軽く背筋が凍ったね」


「いやいや、そこまで大したことはありませんよ。あの団体の八割は一般人でしたから、そこまで情報を抜くのに苦労はしませんでした」


マウ・フォウの言葉に、康太と真理がわずかに眉を顰める。


八割は一般人ということは、残りの二割は魔術師ということになる。


具体的にどの位置の人間が魔術師なのか非常に気になるところではあるが、まずは話を先に進めるべきだろう。


「マウ・フォウ、建物の見取り図や人員の構成をお願いできるかい?」


「了解しました。これがローラローの逃げ込んだ宗教団体の建物の見取り図になります。こちらが人員構成。名前に赤い点の付けられているものが魔術師です」


康太たちはそれを見て眉をひそめてしまっていた。


上層部のほとんどが赤い印がつけられていたのだ。逆に幹部以下の信者で魔術師はほとんどいない。


とはいえゼロではなかった。おそらく信者を扇動したり洗脳したりする役割で一般の信者の中にも魔術師をまぎれさせているのだろう。


建物自体は比較的大きな四階建ての建物。地下は二階まであるらしい。これもかなり緻密に図面が書かれていた。


「通常の信者がいる場所はこの一階から二階です。三階は幹部クラスのスペースになっていて、四階は幹部の中でもごく一部のものしか使えません。地下の方は魔術師しか出入りはしていないようでした」


マウ・フォウの説明を全員が聞いている中、彼はもう一枚紙を取り出す。そこには建物の周辺地図が記されていた。


「立地としては街中、田舎というわけでもなくかといって都会というわけでもない一般的な街の中にある。住宅街と商業区のちょうど境といったところかな?」


「派手に暴れるのは難しそうですね」


建物の攻略ということでまず破壊することを考えた康太だったが、人の多いところにある建物ではそう易々と壊すわけにもいかない。


周囲の人間に不審がられるし、何より魔術の存在がばれる可能性がある。


康太が得意とする破壊中心の攻略方法は取れそうになかった。


「一般人も多く出入りしているから、それに紛れて中に入るのがいいと思うけど・・・相手も即気付くから奇襲は難しそうね・・・」


「夜はどうだ?夜なら信者も少ないんじゃないのか?」


文と倉敷の意見にマウ・フォウは首を横に振る。


「夜も夜でそれなりに人がいるんだ。日によっては泊まり込みでミサ?集会?みたいなのをやってるみたいでずっといることもある」


「昼も夜もそこにいるのか・・・働けよ」


「まぁ、それが宗教ってものなんでしょ・・・人数も多ければ大概誰かはいるってことなのね」


その人の職業によって休みというのは変わってくる。土日が休みの人もいれば平日が休みの人もいる。

一概に働いていないというわけでもないだけにそのあたりは口にできない。


「となると・・・あとはローラローがどこにいるか・・・一番怪しいのは上層階・・・あるいは地下ってところか」


「鍵開けができるなら侵入自体は難しくはないけれど・・・私なら地下には逃げないわね。他に逃げ場がないもの」


「とすると地上部分、上層階・・・でもさ、門が繋がってない確証はないだろ?」


「そこが問題ね・・・もし門を作るなら地下階層・・・その場所って龍脈は確認できましたか?」


「現段階では確認できないね。僕もその方面は専門じゃないから大したことは言えないけど、協会にあった資料と見比べてもあのあたりに龍脈は確認できていない」


相変わらずすごい調査能力だなと康太と文、倉敷は驚きながら話を先に進めようとする。


「こういう場所の攻略は初めてだな・・・人が多い場所となると・・・姉さん、姉さんならどうやって攻略しますか?」


「そうですねぇ・・・」


真理は場所の地図と建物の写真、見取り図などを見ながら悩み始める。人気の少ないところであれば派手に暴れても問題はないだろうが、周りは住宅街と商業区の近くときている。人の往来もそれなりにあるだろう。


そんな中で問題なく活動するためにはある程度下準備も必要になってくるだろう。


あえてそのような人の往来が多い場所に相手が拠点を作ったのも、こういう状況の際に攻められにくくしたというのが理由の一つだろうと考えられる。


宗教団体の施設にしたのも昼も夜も人がいても不思議ではなく、一般人を多く配置することで魔術協会が手を出しにくくしたというのがあるのだろう。


「やはり夜襲が基本になりますが、明け方に襲撃を行いますね」


「明け方ですか」


「夜に人がいるといっても、徹夜で集会を行っていれば終盤には集中力も落ちるでしょう。そこに一般人の方々に睡眠の魔術をかけます。一般人の方々を無力化した状態で内部に潜入、殲滅を開始します」


「でも、当然向こうには気づかれますよね?」


「それが向こうの目的ですからね。一般人への対応をさせることでこちらの奇襲と対応の一手を遅らせる。防御としては非常に効果的です。向こうはその気になればこの拠点を捨てるだけでよいのですから。所謂使い捨ての肉の盾を使ってる状態ですね」


真理から見てもこの拠点の防御性能はなかなか高いらしい。ただの建物、ただの人を前に出しているだけなのにそれだけで攻めにくくなる。


協会の魔術師であるならなおのことだろう。


「では、一般人の無力化と攻略を同時に行うというのは?」


「不可能ではないでしょうが現実的ではないですね・・・アリスさんほどの実力者がいればそれも可能だったのでしょうが・・・彼女は今回は?」


「参加してもらうように頼んでありますけど、たぶんいつもの通り翻訳で手一杯ですよ」


「でしょうね。彼女の力をあてにしてはいけません。私たちだけの力で何とかしなくてはならないのですから」


そう言いながら真理は建物の見取り図を見ながら目を細める。


「時に、この建物の防犯設備などはどうなっていますか?」


「防犯設備の類はあまり入っていないね。人が多く入ることもあってそのあたりをオープンにしているようだ」


「なるほど。で、あれば別の方法もとれそうですね。少々準備が必要になりますが・・・支部長、攻略の方法は私に任せていただけるんですね?」


真理の言葉に支部長は顔を引きつらせる。


普段温和な真理だが、彼女は小百合の一番弟子だ。どのような行動をとるのか全く予想できないという点では危険極まりない人物の一人である。


「一応聞いておきたいなぁ・・・何するつもり?」


「そんなにたいしたことはしませんよ。ただ放火するだけです」


放火という言葉に康太以外の全員が身を強張らせた。


何と簡単に犯罪行為宣言をするのだろうかと、小百合の弟子の思考回路の恐ろしさを実感しているところだった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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