鍛えるからには
「入ります！先輩の部隊！」
「よろしくお願いします！」
船越と佐々木の言葉に、康太は良しと大きくうなずく。同時に文は二人の名前を記入して彼らが部隊に所属することになったということを確定させていた。
「って言っても、俺ら入るってことになったって何か変わるんですか？」
「んー・・・そうだな・・・とりあえず大手を切って俺の部下だっていえるぞ？」
「虎の威を借る何とやらって感じね。でも協会ではブライトビーの部下っていうのはかなり大きな意味を持つと思うわよ」
「もっとも、くだらないことで俺の名前を使ったら潰すけどな」
康太の言葉に寒気を覚えながらも、船越と佐々木はこの事実の意味をよく理解していた。
魔術師ブライトビー。デブリス・クラリスの二番弟子にして、今最も危険と恐れられる魔術師の一人。
その部下であると公言できることは確かに協会内での地位を一変させられるだろう。
正確に言えばその地位というよりは方向性を変えるというべきか。
少なくとも現時点で船越達は一端以下の半人前の魔術師でしかない。依頼などもお使いレベルのものばかりだ。
だが康太の部下という名前があれば多少ランクの高い依頼も受けることができるようになるかもしれない。
だがこれははっきり言って諸刃の剣だ。どのような依頼も受けることができる代わりに、どのようなことが起きてもおかしくないのだから。
康太に恨みを持つような魔術師が徒党を組んでお礼参りにくる可能性だってあるため、下手に名乗るのは危険だろう。
「ちなみに・・・俺ら以外でどんな人が部隊に入るんですか？」
「今のところ候補が数人、チームごと入れちゃおうって考えてるのが一チーム。それ以外はバラバラって感じだな・・・戦闘職の人間が圧倒的に少ないからそのあたりも何とかしたいところだけど・・・」
戦闘職の人間は康太を筆頭に何人か恐ろしい実力のものがいるが、逆に言えばそれ以外はほとんどいないといってもいい。
裏方の人間も多いため、ここで船越達を引き入れたのは将来的な戦闘要員を含めたオールラウンダーを目指してほしかったのが大きな理由である。
「まぁとりあえず、本気で危なくなったら俺の名前を出せ。助けることができるかはともかく相手にちょっとした隙を作ることくらいはできるだろ。重ねて言うけど、くだらないことで俺の名前を使うなよ？」
「わ、わかってます。それはよくわかってます。先輩の名前とかむしろ使いたくないですよ・・・」
「それはそれで傷つくんだけどな・・・俺そんなに怖がられてるわけ？」
康太の名前を使うことはつまり康太の関係者であることを示す。それがどれほど危険であり恐ろしいことなのか船越はすでに理解していた。
船越は佐々木とともに行動するようになって、康太の行動を少しずつ、そして一つずつ確認していたのだ。
その中には拷問に関するものもあったし、戦闘に関するものもあった。康太が戦った後の魔術師がどのような体になったのかを事細かに記している診断書に近いものも残されていた。
かつて康太と戦ったことのある船越からすれば、冷や汗が止まらなくなるような内容ばかりだった。
かつて戦った康太は全く本気ではなく、手加減に手加減を重ねていた状態なのだと思い知らされるほどに。
自分の運の良さと、康太の強さを知らしめられた船越は協会の中でもかなり康太の危険性の高さを知っているだろう。
だからこそ逆らう気など起きない。ましてや迷惑をかける気になどならなかった。
そして、それ故に、一つ康太に頼みたいことがあったのだ。
「あの、先輩。一つお願いがあるんですけど」
「なんだ？」
「先輩の名前を使うか使わないかはさておいて・・・その・・・先輩に稽古をつけてもらうことはできないですか？」
「稽古？鍛えてくれってことか？」
「ちょっと・・・！」
「いいから・・・お願いします。今の俺じゃ、先輩の役には立たないだろうから・・・頼めませんか？」
どちらにせよ鍛えるつもりではあったが、まさか自分から言いだしてくるとは思わなかっただけに康太は少しだけ目を丸くしていた。
康太は文や倉敷の方に視線を向けると、二人は別にいいんじゃないのかと視線で返事をしてくる。
「俺は別に構わないけど・・・きついぞ？」
「・・・わかってます」
「あとはそうだな・・・あぁ、この前お前が戦った土御門の双子いるだろ、あいつらと一緒でもいいか？」
かつて船越と戦った土御門の双子は今も小百合のもとで訓練を重ねている。康太からすればそろそろ及第点を与えてやってもいいと思うのだが、小百合はそういう考えは全くないようだった。
「あいつらですか・・・」
「あいつらはうちの師匠に鍛えられてる。あいつらと何回も何回も戦ってればそのうち強くなれるぞ？あいつらも強くなってるからな」
康太の言葉に船越は対抗心を燃やしているようだった。これはなかなかいい競争相手を見つけたんじゃないだろうかと康太は内心笑いながら土御門の双子に連絡を取っていた。
